第24話 木星へ3


 スカイスフィアは順調に飛行を続け、2日目の22時、180度回頭を行った。その際いつも通り10秒ほど無重力状態になったが、翔太も圭一もだいぶ慣れてきたようだ。


「なあ、明日香、ホラーはやめないか?」


「何言ってるの。これはホラーじゃないわよ。スプラッター」


「どこが違うんだよ?」


「見ればわかるわ」


「分かんなくていいから。なら俺は自分の部屋で漫画でも読んでる。

 翔太いこうぜ」


「じゃあ、俺も」


「なに? 翔太さんもいっちゃうの?」


「ホラーもスプラッターもどっちも苦手だからね」


「二人とも男のくせに情けない」


「明日香、それはジェンダー差別だぞ」


「あら、気に障ったの?」


「いや、全然。

 とにかく、見たければ一人で見ろよ。

 翔太いこうぜ」


「ああ。それじゃあ漫画用にコーラを持っていくか。ポテトチップスも持っていこう。

 それじゃあ、明日香さん」


「台所にいくなら、わたしにもコーラとポテトチップスを頼むわ」


「了解」


 漫画や書籍もスカイスフィア内のサーバーに蓄えられているため、各自の部屋のモニターで読むことは可能だ。もちろん、購入した映画やアニメも自室で視聴できる。


 翔太は頼まれたコーラとポテトチップスを明日香に届けて、自分のポテトチップスとコーラを持って第1デッキにある自室に引っ込んだ。


 圭一は気を利かせて、真理亜にノンアルコールビールを届けて、その後自室に入った。


 2時間ほどして、翔太と圭一の部屋に明日香から、


『見終わったわよ』と、連絡がきたので、二人は居間に下りていった。真理亜はいつも通り望遠鏡にへばりついている。



 4日目。


 火星が近づいてきた。予定では15時から衛星軌道に進入し、2時間ほどで4分の3周後衛星軌道を離脱し木星へ向けて加速していく。その間1度トイレ休憩のため船内加速度を1Gまで上げる。船内の可動物の固定を含め点検は終えているのでいつ船内が無重力となっても問題はない。


「今日は無重力状態が続くから心配だな」


「そうだな。途中の1Gの時はちゃんとトイレにいかないとな」


「俺もだ」


「二人ともなに気弱なこと言ってんの。無重力だとその気になればかなり面白い遊びができるじゃない。今回の無重力状態は短いからシートから立ち上がらないけど、無重力の中で水玉を作ったりして遊べば楽しいわよ」


「余裕があっていいことだな」


「ねえ、明日香、そのうち無重力の時間を長くして、無重力の中でしかできないことをして何かして遊ばない?」


「どんな遊びがあるかな?」


「そうねー。やっぱり宇宙遊泳ごっこじゃない。無重力の空中で体の向きを変えるのは難しいそうよ」


「運動になりそうね。もう何日もちゃんと体を動かしていないから、お腹が出てきた感じがするの」


「わたしも」


「フィットネス的なものを何か用意しとけばよかったわね」


「そう言えば、そうね。まだ地球を発って三日でしょ。それでこれだとあと2週間でどうなってるか。きっと恐ろしいことになってると思うわ」


「真理亜、いやなこと言わないでよ」


「翔太さんたちは、お腹の周りはどう?」


「特に意識はしていないけど、変わりはないかな」


「圭一兄さんはどう?」


「俺も全然」


「なに!? 二人ともいいなー」


「俺たちは、この歳になってもまだそれなりに筋肉が残っているからじゃないか? 基礎代謝が明日香たちとは違うということだろう」


「わたしも学生時代スポーツしてればよかった」


「俺たちみたいに筋力を付けちゃうと、女性としてはどうなの?」


「別にいいんじゃない、筋肉なら」


「今回は飛行計画をきっちり立てているからこのままでいいけど、次回はトレーニング用に船内Gを定期的に2Gとか3Gに上げてみるか。そしたら何も特別なことをしなくても簡単にダイエットできると思うぞ」


「分かった。いきなり3Gはきつそうだから、トレーニング加速度は2Gくらいにして、次回はソレを組み込んでプログラムするわ」


「俺たち用にはローイングエルゴメーターを用意してやろう」


「圭一、そうなってくるとスカイスフィアも直径12メートルじゃ足りなくなりそうだな」


「確かに。そろそろ、スカイスフィア2号について真面目に考えてもいいかもな。

 X金属の量に制限があるから極端なものは作れないだろうが、直径を18から24メートルくらい、外殻の表面積は半径の2乗に比例して、2倍から4倍。外殻の厚さを1.5倍から2倍とすると質量で3倍から6倍ってところか」


「今の重量トン当たりの推力を維持するとなると、今の主推進器を6個束ねた形かな」


「荷重のかかる垂直梁の強度を考えるとその形が良さそうだな。コントロールは若干複雑になるが、同期させるだけだから大したことはないだろう。

 なあ、明日香?」


「その程度なら全然問題ないわ。

 望遠鏡ばかり覗いている真理亜も運動できていいんじゃない」


「時間があればね」


「二人ともトイレを済ませていた方がいいわよ。あと10分ほどで周回軌道に入って船内は0Gよ」


「じゃあ、いってこよう」


「俺も」


「真理亜はいいの?」


「わたしは我慢できそう」


「ほんとかな」



 その後、スカイスフィアは予定通り火星を4分の3周して、火星の衛星軌道を離脱し木星に向けて飛行を続けた。その間、天体観測室大型望遠鏡は自動で火星を撮影している。


 火星から木星まで6億キロ。222時間の旅となる。




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