第23話 木星へ2

[まえがき]

2022年23:30分

前話において、あまり木星に近いと(特にイオの軌道の内側)放射線の影響を受け即死級に危険とのご指摘を受け、木星での周回は木星の中心から100万キロの円軌道をとるよう修正しました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 メディアを敵に回すと後々面倒になるので、スカイスフィア研究所では地元新聞社からの取材を受けることなった。その際、スカイスフィアは飛行船ということで押し切ることにした。かなり高空を飛ぶ事ができるが、どこまで上昇限度などは企業秘密ということにする。


 会社の定款には『科学技術の研究および開発とそれらに関わる一切の業務』としか書いていないのでスカイスフィア研究所の当面の研究課題は気球研究ということにしている。



 打ち合わせを終えた二日後の午後に、地元新聞社の記者を研究所の応接室兼会議室に迎え入れ翔太たちはインタビューを受けた。


「〇△新報の安田です。

 お忙しいところありがとうございます」


 研究所側は、社長の圭一が代表して安田記者と名刺を交換した。会議室には圭一以下全員が顔をそろえている。


「早速ですが、地元の多くの人が、球形のUFOを見たとの情報をわが社に連絡してこられまして、確かにこの近辺の山からUFOが空に昇る映像なども送られてきています。

 実際のところ、スカイスフィア研究所が、そのUFOに関係しているのでしょうか?」


「結論から言えばイエスですが、地元の人たちが目撃したのはわが社が開発した新型飛行船のことだと思いますよ。なにせうちの飛行船は球型ですし、銀色に輝いていますから」


「飛行船というには高速で、なおかつ、はるか上空まで飛翔していったという情報もあるのですが?」


「それこそ、わが社の新型飛行船の能力というわけです。これまでの飛行船のようにチンタラ飛行するのなら何も新型・・飛行船とは言いませんから」


「その飛行船の能力というものを伺ってもよろしいでしょうか?」


「私は◇△&造船の大株主なんですが、◇△&造船はご存じの通り海上自衛隊の潜水艦を建造している企業でもあります」


「ということは?」


「その辺りはご想像にお任せします。そう言うことですので、新型飛行船のスペックなどはお教えできませんが、一言、スゴイとだけ言っておきましょう」


 そのあと簡単な質問が続いたが、圭一が適当に答えその日のインタビューは終わった。


 翌日の夕刊にスカイスフィアのことが載ったが、スポーツ欄の片隅に簡単に新型飛行船の記事と、明日香が渡したスカイスフィアの解像度の低い写真が載っただけだった。


「これで一応、地元の連中も、タダの飛行船だと認識しただろう」


「そうだな。まあ、あと1週間ほどで俺たちは2週間ほど地球を留守にするわけだから何が起ころうと大したことはないがな」



 新聞で取り上げられたことが良かったのか、スカイスフィアは世間で気球として認識されたようで、記事が掲載されて以降、スカイスフィアがらみのSNSの投稿は見当たらなくなった。




 そして、今日は火星-木星への出発日。時刻は午前4時。もちろんまだ夜は明けていない。


 操縦席の明日香が最終発進シークエンスを進めていく。


「センサー類正常。

 スカイスフィア、主電源装置起動。電圧正常。内部電源に切り替え。

 外部電力切断」


 残りの3人は座席に座り明日香の肩越しにモニターを見つめている。



「スカイスフィア計測重量550トン。離床推力551トンをセット。

 主推進器起動。

 推力上昇、10トン、計測重量540トン。

 推力200トン、計測重量350トン。

 推力400トン、計測重量150。

 推力551トン、計測重量0。スカイスフィア離床」


「スカイスフィア、微速上昇」


 屋敷の使用人たちが見守る中、スカイスフィアは今は格納として機能している組立工場から星空に向かってゆっくりと上昇を始めた。周囲の光を反射する銀色の船体が夜空に溶け込んでいる。


「これより、スカイスフィア、対地球加速度1G、船内加速度2Gまで加速し、高度20000キロで火星に向け天頂望遠鏡をセットした後、対地球加速度1G、船内加速度1Gで中間地点まで加速。中間地点で反転後1Gで減速し火星を目指します。

 自動操縦セット。……。

 セット確認」


 主推進器のキオエスタトロンの作動音が大きくなり、スカイスフィアが加速を始め、明日香の操作卓上のモニターに映し出される周囲の情景が数分で星の世界に切り替わり、丸い地球の地平線から太陽あさひがのぞいた。


 30分ほどで船内加速度が1Gに落ち着き、マリアが天頂望遠鏡を操作して火星を捉えた。


 スカイスフィアはゆっくりと火星に向けて回頭した。


「火星までの中間地点まであと42時間。

 さあ、私たちもシートベルトを外して寛ぎましょう」


 3人はシートベルトを外し、操縦室を出て居間に移動した。


「こうしてみると、出発までは忙しいけれど、スカイスフィアに乗って宇宙に出ているときは暇よね」


「そうだな。とはいえ、好きなことをして過ごせばいいんだから、いいことじゃないか。

 真理亜さんなんかもう望遠鏡を覗いているぞ」


「圭一兄さん、これでも給料出てるわけだから、いい会社に就職できたと思ってるわよ」


「そう思っていてくれて俺も嬉しいよ」


「少しは働かなくちゃ悪いから、飲み物でも持ってくるわね。

 少し早いけど、朝食にする?」


「まだいいかな。

 翔太はどうだ?」


「俺もまだいい」


「じゃあ、飲み物だけ持ってくるわね。

 何飲む?」


「俺はコーヒー。ホットな」


「僕はコーラかな」


「了解」


 明日香は台所にいき、まずコーヒーの準備をした。今回の飛行にはちゃんとコーヒーメーカーを用意している。砕いたコーヒーを所定量入れてボタンを押すと、エスプレッソからアメリカンまでコーヒーが作れる。もちろんテーブルに固定されているため、無重力状態でフラフラ漂うこともない。


 明日香がコーヒーメーカーの下部にプラスチック製のコーヒーカップを2つセットし、その後コーヒーが定量入ったビニール袋からコーヒーを入れレギュラー、2人、スタートと順にボタンを押した。すぐにお湯がしたたり落ち、二人分のレギュラーコーヒーができ上った。


 明日香はコーヒーメーカーからコーヒーの出がらしの入った部分を抜き出し、コーヒーを流しのディスポーザーに流し、その部分を軽く洗ってコーヒーメーカーに戻しておいた。


 明日香はコーヒーカップ1つとコーラ1つを持って圭一と翔太に手渡し、再度台所に戻って、コーヒーカップ1つとノンアルコールビールを持って望遠鏡を覗く真理亜のところにいった。


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