第22話 木星へ1
スカイスフィアは金星への中間地点で180度回頭を行い減速を開始した。
船内はいったん無重力状態になるため、全員操縦室に集まり各自の席でシートベルトをして無重力を乗り切ったあと、深夜だったこともあり、各自自室に戻りそのまま就寝した。
2日目、21時30分。スカイスフィアは金星に最接近した。可視光、赤外線などで金星を撮影し、月のときと同様に楕円軌道をとって金星を半周しスカイスフィアは地球への帰途に就いた。
途中の中間地点で180度回頭を行い減速に入ったスカイスフィアは、4日目の9時05分、予定通り組立工場の架台の上に着陸した。
スカイスフィアを降りた一同は、圭一の屋敷で休憩後昼食をとり、午後からスカイスフィア内の清掃と整備を行い、翌日を休日として解散した。
スカイスフィアが帰還して2日目。全員が朝早くからスカイスフィア研究所に出社した。この日の予定は、もちろん次の飛行についてだ。
「おはよう」
「「おはようございます」」
各人、給湯室で淹れたコーヒーを持って会議室兼応接室に集合したところで、会議が始まった。
「前回の金星への飛行も成功裏に終わったわけだが、今日は次の目標を考えようと思う。
前回は丸三日の飛行だったが、これといった問題は起きなかった。
真理亜さんは、次の飛行についてなにかあるかな?」
「順当にいけば次は火星でしょうが、ちょうど、火星と木星の距離がそれほど離れていないうえ、地球から見てほぼ一直線に並んでいるので、ついでに木星まで飛んでもいいかも知れません」
「なるほど」
「他に意見はあるかな?」
「次回は惑星の衛星軌道を何回か回って見ない? そのためには無重力への耐性を付ける必要があるけどね」
「うーん。火星ならかなり低高度を飛べるから、衛星軌道を一周するのにそんなに時間はかからないだろうけど、木星は大きいから一周するのにかなり時間がかかるよな」
「木星の内側の惑星で、数日かかったと思うわ。
ちょっと待ってね」
そう言って真理亜は研究所のワークステーションにつながった携帯端末をとり出して、指先で操作し、
「木星の衛星イオで公転周期は2日弱みたいね。ガニメデだと7日強。
イオの軌道周辺から内側は磁気が強すぎて即死級に危険だから、離れた方がいいわよ」
「うわ」
「そうね、木星の半径はだいたい7万キロだから、中心から100万キロで周回するとなると、1周155時間かかるわ。低く飛べばその分周期は短くなるけど、木星に近づけば磁気の影響を強く受けるから、100万キロは距離をとった方がいいんじゃないかな?」
「1周155時間となると6日半か。長いな。高速で木星から100万キロに突っ込んで、木星との距離を100万キロに保ちつつなおかつ船内加速度を1Gに保って半日程度で周回するか」
「推力は十分だからそういった荒業も可能だろう。船内加速度が1Gはありがたい」
「半日も無重力となると、トイレが大変だものな」
「いちおう、バキューム式のトイレだけど、無重力での試したことはないから不安はあるよな」
「将来的には慣れないといけないんだろうが、将来は将来でいいから。
ISSだと、……」
「なに?」
「いや、何でもない」
「木星からの距離が100万キロの円軌道でスカイスフィアが周回するようプログラムしておくわ。円軌道を維持するために木星の中心に向けて1Gの加速が必要な速度で軌道に突入すればいいでしょう」
「明日香、頼んだ」
「真理亜から必要なデータを貰うから、そんなに時間はかからないと思う」
「明日香、後でデータはわたすわね」
その日の会議の中でタイムスケジュールが大まかに決まっていった。
地球を出発して火星に接近し、火星から木星へコースを変更。木星近傍で4分の1周しそこから衛星軌道をとり1周後、さらに4分の1周して地球を目指す。全所要時間は16.5日。木星での周回に要する時間は17時間となった。
スカイスフィアの船内および外殻の点検を行う傍ら、消耗品を追加するのに1週間を見込み、点検で異常が見つからなければ、10日後の早朝出発と決まった。
各人が忙しく次の出発の準備をしていると、圭一の屋敷から研究所に電話がかかってきた。
地元の新聞社が取材の許可を求めているという内容だった。
「翔太どうする? 取材の内容は『目撃情報多数の銀色の飛行物体』についてだそうだ」
「銀色のスカイスフィアが飛び立つ様子は市内から見えるからな。
いままで、気にしたことはなかったがSNSなんかにもスカイスフィアの映像が流れているかもしれないな」
「明日香、どう思う?」
「わたしも、注意していなかったけど、ちょっと待っててね。『銀色の飛行物体』『球形の飛行物体』で検索してみる。……。
あっ! たくさん出てきた。スカイスフィア、結構有名みたいよ。
これなんか、よく撮れてる」
「まずいな。とはいっても今さらどうにもならないし。公表するわけにもいかないし」
「なにか適当なストーリーがあればいいが、そう都合良いストーリーなどないしな」
「取材を受けなきゃならない義務はないから無視しちゃう?」
「ああいった連中を敵に回すと面倒なんだよな」
「それじゃあ、いっその事、スカイスフィアは硬式気球ということにしちゃうのはどうかな? 見た目は気球だし。検索した所、気球だろうって意見も多いみたいよ。
ちょっと待ってて」
明日香がスマホの電卓をたたきながら、
「えーと、ヘリウムガスは1立方メートルで1キロの浮力があるそうよ。スカイスフィアの体積は900立方メートルだから、900キロの浮力。表面積は450平方メートルだから、1平方メートル当たり2キロのアルミが使えるわ。1平方センチ当たり0.2グラム。アルミの比重は2.7だから、厚さ0.74ミリのアルミ板が使えるわ。薄いと言えば薄いけど、厚いと言えばそれなりよ」
「硬式気球と言っても構造材は必要だぞ」
「細かいところはいいのよ、向こうが勝手に想像するから」
「なるほど。
それなら、明日にでも取材を受けるか?」
「そうね」
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