第16話 スカイスフィア、試験飛行2。光電力


 スカイスフィアは偏西風などの影響を相殺しつつ地球の自転に合わせて出発地点から高度100キロまで垂直に上昇を続けた。そこで小型推進器からなるスラスターを起動して月方向に推進方向を変更し月に向かって直進していった。


 方向転換用の小型スラスターは、計4基取り付けられている。スカイスフィアの天頂部に1基、天底部に1基。赤道部対角線上になるよう2基。各々のペアで南北方向と東西方向の主推進器の推力方向=軸線を調整する。


 月に接近したスカイスフィアは、月の周りを楕円軌道を描き半周し地球を目指す帰途につく。


 地球の重力の影響を強く受け、船内加速度が1.5を超える地表から3000キロまで3人は椅子に座っていたが、そこからはシートベルトを外して、キャノピーからから宇宙空間を眺めて思い思いの感想をつぶやいていた。


「満天の星とはよく言ったものだ。何だか落っこちそうな気持になるな」


「地球って本当に青かったのね」


「この先、遠い宇宙に出かけて行って、ちゃんと地球を見つけて帰ってこられるかな」


 5分ほど宇宙を眺めていた3人は、リビングダイニングに移動し、ソファー座って寛いでいる。スカイスフィアの航行自体は現在自動モードである。


「今はまだ船内加速度は1.5G近くはあるけど、2Gを経験してるとなんだか身体が軽いよね」


「確かに」


「実際スポーツ選手が高重力環境でトレーニングしたら、スゴイ効果がでそうだな」


「何年か先にそういった目的の施設を作ってもいいかもな。バームクーヘン型回転シリンダー方式だ。外側にいくほど遠心力が強くなるから高重力になる。角速度が同じなら遠心力は半径に比例するから作り易そうだよな」


 雑談しながらもスカイスフィアは月に向かって加速を続け、やがて中間地点に到達した。スカイスフィアはそこで反転し、月までの減速が始まる。


「主推進器停止、10秒前」


 3人がシートベルトを締めて各自の座席に座り推進機の停止に伴う無重力に備えている。


 明日香はマウスを握っている。


「8、7、6、……、2、1、ゼロ」


 主推進器のキオエスタトロンが停止し、推力がなくなると同時に、船内重力はほぼゼロになった。そのかわりスカイスフィアは船体を180度回頭し始めたので、スカイスフィアの中心部に近い操縦室内の3人だが、遠心力で妙な方向に引っ張られた。


「回頭終了。

 主推進器キオエスタトロン起動。推力、対地球加速度-1G、船内加速度1Gまで上昇」


「ふー。腹の中身がこみあげてきて無重力はいやだな」


「数秒だけでもたくさんだ」


「あら、気持ちよかったじゃない。今度はもっと長く無重力にしちゃおっと」


「明日香、やめてくれー」「明日香さん、やめてください、お願いします」


 その後スカイスフィアは、月近傍まで減速し、そのまま加速に転じて月を半周し、地球への帰途についた。



◇◇◇◇◇◇◇◇


 謎の金属について分析を続けた金田光は、翔太同様、その金属はキオエスタトロンの場の影響下で力の発生能力と発電能力を持つことを突き止めた。


「こういった金属が地球上に存在するはずはない。

 ということは隕石として地球に落ちてきたものを児玉研究員が運よく拾得したと考えられる。児玉研究員が研究所を辞める1、2カ月前が怪しい。その辺りの日付で隕石や流れ星の新聞記事がないか当たってみるか」


 幸いなことに、主要紙の新聞記事は本社でデータベース化されており、金田研究員も研究所からリモートでアクセスできた。


 本社のニュースデータベースを検索すると、簡単に記事が見つかった。それによると、研究所のある地方で流れ星と思われる光球が確認されていた。


 ほかにも隕石が地上に落下している可能性がある。


 金田一人でこの地方を隕石を探して歩くわけにいかないので、彼は、謎の金属の技術資料を大手総合商社である黒磯物産の技術部門に持ち込んで援助を求めた。その際、謎の金属のことを謎の金属と呼称するのは面倒だったため、謎の金属の名称を特殊構造プラチナ同位体プラチニウムと名づけている。


 黒磯物産では、金田光の持ち込んだプラチニウムの技術資料を精査した結果、プラチニウムによる発電事業は有望であると判断し、金田の要望通り、研究所一帯の隕石探査を始めることになった。


 金田自身もキオエスタトロンを改造し、半径50メートル内にプラチニウムが100グラム以上存在すれば発見できる探知機を作り上げた。もちろん謎の金属が100グラムより大きければその分探知範囲も増大する。


 結局1カ月ほどの探査で、重量15キロと10キロの二つのプラチニウムからなる隕石を発見することができた。


 十分な量のプラチニウムを手に入れた黒磯物産では、新会社光発電を資本金20億で設立し、金田光を中心として発電設備の製造に取り掛かった。新会社設立に当たり、金田光は研究所を退職し、光発電の51パーセントの株を持つ社長に就任している。プラチニウム発電については特許をとり公表するべきか社内で検討したが、現象は利用できるものの原理が不明であることを理由に時期尚早ということで特許取得は見送られた。また、こういった情報が外部、特に国外に漏れた場合何が起こるか見当もつかないということも理由の一つだった。


 光発電はプラチニウム発電機、直流を交流に変換するインバータ、昇圧トランス、各種計測監視装置程度の設備投資とわずかばかりのランニングコストで売電できる夢の発電所を黒磯物産と関係の深いとある製鉄メーカー内に建設した。製鉄メーカーは電力会社に従来より売電していたが、光発電はその製鉄メーカーに電力を卸す形で売電することで、表面に現れることなく利益を上げていくことになる。



[あとがき]

明日2022年9月24日より、1日1回、12:15分前後の投稿になります。

現代ファンタジー『岩永善次郎、異世界と現代日本を行き来する』

https://kakuyomu.jp/works/16816452221032496115 をよろしくお願いします。

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