第17話 阿木真理亜


 月と地球との中間点で再び180度回頭を終えて船内加速度1Gで減速に入ったスカイスフィアは地球に向かって進んでいった。操縦等は自動モードに設定しており、翔太たちはリビングに移動して各自が持参したペットボトルから飲み物を飲んでいた。


 リビングに置かれたソファーの向かいには大型のモニターが掛けられており、今のところ後方カメラがとらえている宇宙が映し出されている。当然モニターの中心には青く輝く地球が映し出されている。


「圭一、まだ試験飛行は終わったわけじゃないが、次はどうする?」


「フル装備で太陽系の惑星を巡る旅の前に、火星か金星にいってみるか?」


「おもしろそう。火星か金星くらいだとそんなに時間はかからないんでしょうけど、フル装備だとどれくらい宇宙に出ていられるのかな?」


「フル装備なら、3人でも6カ月は余裕で宇宙に出ていられるはずだ」


「天文学者たちからすればよだれの出そうな話だな」


「ねえ、わたしの友達で大学の天文台で助手している子がいるんだけど、誘っちゃだめかな」


「ある程度身元を調べることになるが、それはいいんだな?」


「それは仕方ないと思う。口は堅いしいい子だからきっと二人も気に入ると思うわ。それにわたしなんかよりよっぽど美人だし」


「なるほど、帰ったら会ってみよう。

 翔太いいよな」


「もちろんだ。これから先、太陽系の惑星に飛んでいくならなおさらそういった人物が必要になると思うぞ」


「今後天体観測用の機器も必要になるな、とは思っていたんだがちょうどいい。専門家の意見も聞いたほうがいいからな。そうなると、相手の都合次第だがなるべく早く会いたいな」


「わかった、すぐに連絡しておく」




 スカイスフィアはその後も順調に飛行を続け、帰還予定時刻に組立工場の架台に正確に着陸した。


「スカイスフィア、架台に着陸。誤差無し。

 主推進器停止」


 明日香がキーボードを操作すると、ガイドに沿って外部電源用プラグが移動してスカイスフィアの外殻にある差込口に嵌った。


「スカイスフィア、外部電源に切り替え。内部発電機停止」


「「ご苦労さま」」「ご苦労さまでした」


 こうして、スカイスフィアの試験飛行は無事終了した。



 迎えに出ていた圭一の家の者たちと屋敷に帰った3人は、試験飛行成功の祝賀会を行った。



 明日香はその日のうちに、天文台で助手として働き博士論文に取り組んでいる友人の阿木真理亜あぎまりあに連絡を取った。


 阿木真理亜あぎまりあは翌週の土曜日、研究所に訪れることになった。


 圭一はその間に阿木真理亜の身辺について興信所を使って調査している。1週間ほどの調査だったが、もちろん問題はなかった。



 そして約束の日。


 翔太たち3人は阿木真理亜の到着を待ちながら研究所の応接室兼会議室でスカイスフィアの改善点や阿木真理亜のことなどを話し合っていると、約束の時間5分前に研究所の玄関に阿木真理亜が到着した。明日香が研究所の玄関の扉を開けて阿木真理亜を招き入れ、彼女を応接室兼会議室に案内した。


「国立○△□天文台で助手を勤めている阿木真理亜です。よろしくお願いします」


「ここ、スカイスフィア研究所の社長の山田圭一です。よろしく」


「ここの研究所長の児玉翔太です。よろしく」


「わたしは、一応、ここの、えーと、何だっけ?」


「明日香は副所長でいいだろ」と圭一。


「そうなんだって。わたしはここのシステム全般を見てる。

 ちょっと、コーヒーを作ってくるから。

 みんなはアイスとホットどっちにする?」


「俺はアイス」


「僕はホットで」


「わたしも手伝う」


「お客さまの真理亜がなに言ってんのよ、それで真理亜はどうするの?」


「じゃあアイスで」



 明日香が席を外したところで、


「われわれのところはたったの3人でやってる会社だけど、それなりにすごいことをやってるんですよ」と、圭一。


「ここからは、守秘義務が発生すると思って聞いてください」と、圭一が続けた。


 阿木真理亜がゴクリとつばを飲み込み頷いた。


「あとで本物をお見せしますが、先週われわれが月を往復したときのビデオを編集したものがあるのでお見せします。正面のスクリーンに出します」


 阿木真理亜も明日香から簡単に話を聞いてはいたが、研究所で天文にかかわる仕事をしてみないかと言われた程度で、研究所の業務内容など具体的なことは聞いていなかった。したがって先程の圭一の「月を往復した」との発言はなにかの聞き間違いだとスルーした。


 圭一の合図で翔太がリモコンを操作すると、部屋の照明がやや落ち、正面の壁の大型モニターに組立工場内のスカイスフィアが映しだされた。外殻組み立て工事からコマ送りで艤装工事、そして完成までが約5分間映し出された。


 ちょうど明日香もコーヒーのカップやアイスコーヒーのグラスを乗せたお盆を持って戻り、皆のテーブルの上に置いて回った。


「コーヒー、ありがとう。

 これがわれわれの宇宙船『スカイスフィア』です。CGっぽく見えますが実物です。

 どうです?」


「宇宙船?」


「はい。この宇宙船『スカイスフィア』で月まで往復しました。着陸はしてませんけどね」


「正直なところ、にわかには信じられません。ニュースにもなっていないし、民間で月にいってきたなんて」


「それじゃあ、コーヒーを飲みながらその時のダイジェストを見てみましょう」


 翔太がリモコンを操作すると、今度は前回月に飛んだ時の映像がモニターに映し出された。


 最初、屋敷の使用人が写した離陸の映像が映し出され、その後スカイスフィアの外部カメラがとらえた周囲の映像が映し出された。映像はCGとしても良くできている。


「百聞は一見にしかず。コーヒーを飲んだら、実物を見に行きましょう」


「はい」


「真理亜、信じられないかもしれないけれど、実物を見ればあなたも納得するわよ」


「うん」



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