第13話 スカイスフィア建造1

 

 圭一はDORAドーラの試運転成功を受けて本格的に宇宙船の設計に入った。DORAドーラそのものは、試験のあと、業者によって圭一の屋敷のガレージに運ばれている。


 スカイスフィア用の推進器は推力2000トンを予定している。2000トンの推力を生み出す推進器を自由に回転させる機構の強度の目処が立たなかったため、推進器の推進方向は常に天頂方向とし、小型推進器をスラスターとして赤道部に置き、スカイスフィアの天頂と天底を結ぶ軸線を3次元的に回転させることとした。さらに、回頭後、回頭前の不要な慣性をスラスターで打ち消すことで、スカイスフィアがオーバーシュートすることを防ぐ。


 スカイスフィアの外形は圭一の考え通り、直径12メートルの球型とされ、船体の外殻は40ミリの高張力鋼製、内部の構造材も高張力鋼製とすることになった。外殻質量は約145トン。内部構造材を加え200トン。各種機材、消費物資等の合計質量を300トンとすると、スカイスフィアの質量は約500トンとなり、推力2000トンで加速すれば4Gの加速を得ることができる。


 外殻素材については手に入るなら、最新の超高張力鋼を使いたいところだが、スカイスフィアの場合十分な推力が時間制限なく使えるため外殻を薄くして重量を軽減する必要性はほとんどない。そのため超高張力鋼が手に入らなければそれまでということにしている。



 翔太は、ドーラによって推進器、発電機、制御系が確認できた今、実機スカイスフィア用にX金属を切り出し、丹念に研磨して、それを外注していた推進器用水素チャンバーとスラスター用水素チャンバー、それに発電機用水素チャンバーに組み込み、これぞれにキオエスタトロンをセットして推進器、発電機を製作していった。


 さらに翔太は専門外ではあるが圭一と相談しながら有人宇宙船で必要な、人の生存に必要な器材の要件を考え始めた。


1、まずは真空中で空気が漏れない。

 宇宙船の外殻はガスタンクなどと違い外部にセンサー類を多数取り付けるため気密性の確保が難しい。外部との連絡個所には内側からゴムコーティングする。


2、船内温度が適温に保たれる。もちろん湿度も適正に保つ。

 放熱板(ラジエター)を外殻外部に何カ所か設け、外殻内側には不燃性断熱材を張る。


3、船内空気を適正に保つため、窒素、酸素、水蒸気、二酸化炭素の各分圧が適性値の範囲内で収まるよう維持する。

 酸素濃度計、二酸化炭素濃度計、二酸化炭素固定ないし分解装置、加熱・冷却装置、加湿・除湿装置

 2、にも関連して通気装置


4、生活に必要な、飲料水、食料の保存。生活用水。トイレ、シャワー、衣類の洗浄など。

 浄化装置、生活用水再生装置、水循環システム


5、水素発生装置、原理は水の電気分解なので余分な酸素の船外放出。

 当初、水を電気分解した水素と酸素をそのまま使用すればいい程度で考えていたが、推進器や発電機の出力が不安定になるため、純粋な水素を機関に供給することとした。


6、試験的に野菜の水耕栽培装置


7、各種サプリ。各種ビタミン剤。こういったものは適当にそろえておけばいいのだろうが最低限必須アミノ酸と必須ビタミンは押さえておく必要がある。


 5以下について言えば、超長期間の宇宙旅行を想定したものなので優先順位は高くない。


 実際のところ圭一の設計が終わってみなければ正確なことは分からないが、かなりの器材、物資を搭載できるはずだ。




「そう言えば、実機の場合は特に航空法が面倒なんだろ?」と、翔太が圭一に尋ねた。


「それなりにな。スカイスフィアを造船所で作ろうと思っていた時は、登録上は飛行船ということにしようと思ってたんだが、それだと相当ハードルが高い。設計段階から検査が入る。

 スカイスフィアの動力系や電気系は大っぴらにできないから、ロケットということにしてまっすぐ上空に飛び上がるだけで地球上では移動しないということにする。

 それだと、ここの上空は飛行機の航路ではないから上空使用許可だけで済むらしい。上空100キロまで上がってしまえば国の範囲、領空ではないから、どこに移動するのも自由だ」


「宇宙に出てしまえば自由はわかるが、自分の国の上空も飛びたかったな」


「そう言うな。飛行機もたくさん飛んでるご時世だ。俺たちから見れば飛行機は飛行機らしい飛び方をしているから、避けることも簡単だと思えるが、向こうからすれば俺たちのスカイスフィアはどう見てもUFOだ。

 それはそうと、DORAドーラでは4Gの加速度を短時間しかかけなかったので、機器に異常はなかったが、スカイスフィアについては俺たちが乗り込むわけだし、対G対策をした機材を乗せようと思う」


「具体的にどういったことをするんだ?」


「もちろん機器を頑丈に作るだけだが、遠心力発生装置を作ってどの程度加速度に耐えるか試験しようと思うんだ」


「えーと、……」


 翔太がスマホのアプリの電卓をたたき、


「5メーターの半径で毎秒0.5回転すれば5G。回転数が倍になれば力は4倍になるから、毎秒1回転で20Gか。スカイスフィアの設計最大加速度が4Gだから、毎秒0.5回転で5Gに耐えればいいか」


「遠心力発生装置は言ってみればアームを回すだけの装置だから、造るのは簡単だ。組立工場の隣りにでも作ってしまおう」


「そうだな」





 それから2週間。


 山を切り崩し整地が終わった組立工場予定地では、基礎工事が始まっている。工場の基礎だけでなく、作業員の宿舎、それに遠心力発生装置用の建屋の基礎も作られている。あと3週間で組立工場も含め諸々の施設は完成する予定だ。組立工場の作業員は圭一が大株主である造船会社から1カ月を目途に借り受けることになっている。従って、工場内の機器は造船工場のエンジニアらが選定し、工場内部についても彼らが設計している。





[あとがき]

この物語はフィクションなので法令関係についても大目に見てください。



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