第11話 遮蔽と試作機(ドローン)
ホームセンターで購入した60センチの水槽2個が研究所に届けられた。
水槽を買ってきてくれた多羅尾文子に礼を言って翔太と圭一はさっそく検証実験を始めた。
「キオエスタトロンと水素チャンバーの間に水槽を置いてホースで水を入れていこう」
圭一は再度スマホでホースを研究所に持ってくるよう屋敷に電話した。
「まずは発電状態にして、その後水槽に水を入れてどうなるかみよう」
「キオエスタトロン、起動! 出力最小」
「電流2.0アンペア、電圧60ボルト。前回と変わらず」
「ホースが届くまでこのままにしておこう」
2分程でホースが届けられたので、休憩室の蛇口に繋いで、水槽に水を入れていった。
水槽に徐々に水が溜まっていくが、まだ水がキオエスタトロンとX金属の試料ケースを遮ってはいない
「電流2.0アンペア、電圧60ボルト。変わらず」
さらに水が溜まってキオエスタトロンとX金属の試料ケースを遮った。
「電流電圧とも急速に低下。どちらもゼロ」
「キオエスタトロンの出力を上げて水を透過するか確かめてみよう」
「キオエスタトロン、出力アップ!」
キオエスタトロンからの低い振動音が大きくなった。
「電流電圧変化なし、どちらもゼロ」
……。
「キオエスタトロン最大出力!」
「電流電圧ともに変化なし、どちらもゼロ」
予想通りの結果が出た。
「これなら経路を遮る水の厚さは関係なさそうだな。水を封入した金属板を作るだけでキオエスタトロンの相互干渉は防げる」
検証実験結果も予想通りだったことを受け、3人は本格的にドローンの製作に取り掛かった。
翔太は金庫から取り出した隕石からドローン用に所定の大きさのX金属を慎重に切り出し、研磨機で表面を研磨して推進器用X金属プレート、発電機用のX金属バーを作成した。X金属を各々の水素チャンバーにセットし推進器本体、発電機本体を製作したあとは念のため特性試験を行っている。試験結果はこれまでの試験結果の延長線のものだったため、すでに納入済みの小型キオエスタトロンと個別に組み合わせ推進器と発電機は完成した。
翔太はそれとは別に小型水素チャンバーと小型キオエスタトロン、別途購入した大型のパワーコンディショナーとで研究所用発電機も製造し、非常用電源系に組み込みこちらを常用、外部電力を非常用とした。研究所用X金属発電機は地下に設置し、その周囲は、キオエスタトロンの場が外部に漏れないように厚さ1センチほどのステンレス製の水枕で覆った。
一方圭一はドローンの図面を製作し、懇意の造船会社に外殻を発注した。その他機材も各メーカーに発注している。
明日香の方も、ドローンの制御用ソフトの雛形を作った上、受け取った圭一の図面に記載された装置のインターフェースに合わせてソフトを作り込んでいった。さらに制御モジュールの仕様を決定して部品の発注を行っている。ドローン内の各機器は制御モジュールを含め5Gに耐えると圭一が要件定義していたため、明日香は、念のためモジュールの基盤に取り付けたインターフェースと放熱板以外は、基盤を耐熱性樹脂で埋め殺すつもりだ。
さらに圭一は、実機宇宙船の組立工場と作業員宿舎を建設するため、裏山を造成して1ヘクタールの土地を確保した。こちらの工事は大手ゼネコンに発注したもので、費用は割高だったが各種の届け出などはきっちり行われている。また、造成地までの道路も整備され大型トレーラーの通行も可能となった。
圭一が造船会社に設計図を送って5日ほどで、直径2メートルのドローン用外殻がトレーラーで搬入され、研究所前に組まれた架台の上に置かれた。材質は高張力鋼だが鏡面研磨しているため銀色に輝いている。鏡面研磨は圭一の趣味なので、実機建造時にはさすがに鏡面研磨は行わない予定だ。
搬入された外殻には、1カ所人の出入りできるハッチが作られている他、設計書通りセンサーなどの取り付け用の孔が多数空いている。
ドローン用外殻は9ミリの高張力鋼板製で重量は880キロ。内部に機材の取り付け場所を兼ねた構造材が縦横に張られている。機材を積み込んだドローンの重量は約1トン。2本の水素ガスボンベの重量が106キロなので全備重量は約1.1トンとなる。
露天での作業になるが、雨に災いされることもなく、翔太と圭一により機材の搬入と取り付け作業は進んでいき、丸2日ほどで試作機の内部の配線、配管なども完了してしまった。
配線、配管作業を終えた翌日の午前中。
機内発電機は機内のバッテリーを使い外部から起動できるが、ここでは手動で起動し、最終的な調整と確認を明日香が行った。機内発電機の大きさは推進器と比べ格段に小さいため発電機周辺だけステンレス水枕で覆われ、キオエスタトロンの場が機内、特に推進器に漏れないよう処置されている。
推進装置は球面軸受内にセットされている。球面軸受けが組み込まれた軸受ケースは上下方向、前後左右方向に外殻まで延ばされた合計6本の鋼製の支柱で固定されている。
推進装置の起動だけは行っていないが、午前中のチェックで全機材は正常に作動し、ドローンは完成した。チェックの際、外部からの信号に対して、推進器の方向が3次元でクルクル回るところが印象的だった。
昼食を終え、午後に入り3人は試験飛行計画について打ち合わせるため会議室に入った。
「思った以上に簡単だったな」と、翔太。
「俺の設計が良かったからな」と、圭一。
「わたしのプログラムが良かったのよ」と、明日香。
「みんな頑張ったってことだ。
試験飛行だが、
まずは離昇だ。これさえうまくいけば十分だけどな。
それから水平方向の移動と方向転換。そして着陸。
問題がなければ、再度離昇して加速度試験。
他に必要なことは?」
「飛んでからの試験はそんなもんじゃないか。宇宙空間ならどこまでも加速できるんだから最高速度なんて意味ないし」
「着陸してから、一番力のかかる推進器の軸受け部分のチェックか。5Gかけても5.5トンの荷重じゃどうってことないと思うがな」
「水素の消費量のチェックくらいか。水素ガスの流量計があるから読み取るだけだがな」
「これって、ドローンはドローンなんでしょ? 何か規制はないのかな?」
「登録が必要なことと地面とか水面から150メートルより高く飛ばしちゃいけないらしいな」
「150メートルなんてあっという間じゃない」
「実際宇宙まで飛ばすとなると航空局の許可が必要だそうだ。そこらは弁護士に任せておけば間違いないだろ」
「自分の土地の上なら何してもいいってわけじゃないのね。この辺の土地ってほとんど圭一兄さんの土地なんでしょ?」
「まあな。残念だが土地の権利には空の権利は付いてないようだな。将来的に100キロの高さの塔を建てたら、その上は国の法が及ばない宇宙空間だから勝手にできるだろうが、100キロの塔を建てたら建てたで、その時は国の許可が下りないんだろうな」
「今思いついたんだが、俺たちの宇宙船を使えば軌道エレベーターの建設も容易になるんじゃないか?」
「それもそうだな。太陽系を探検し終わったら軌道エレベーターを作ってもいいな」
「夢があっていいわねー」
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