第9話 試験2、発電
圭太の屋敷から届けられたサンドイッチを研究所にいる3人で食べた。コーヒーは明日香が3人分淹れてくれている。
翔太と圭一は、午後一、バイク便で届けられた電流、電圧モジュールを真空チャンバーに接続して試験を再開した。電流、電圧モジュールには負荷としてニクロム線抵抗器が付属している。
実験準備が整ったところで、翔太がダイヤルを回して試料ケースの角度を変えていく。真空チャンバーは開放されて空気が入っている。
「それでは、角度45度から再開します。
電流、電圧共にゼロ。
60度、電流1アンペア、電圧60ボルト」
「翔太、予想通りとは言え、これも大発見だな」
「だな。
じゃあ、次いくぞ。
75度、電流1.7アンペア、電圧変わらず。
90度、電流2.0アンペア、電圧変わらず。
105度、電流1.7アンペア、電圧変わらず。
120度、電流1.0アンペア、電圧変わらず」
「キオエスタトロン、出力10パーセントアップ」
「120度、電流1.1アンペア、電圧60ボルト。
105度、電流1.9アンペア、電圧変わらず。
90度、電流2.2アンペア、電圧変わらず。
75度、電流1.9アンペア、電圧変わらず。
60度、電流1.1アンペア、電圧変わらず」
……。
「こんなところだな」
「電流は試料の大きさとキオエスタトロンの出力、向きはキオエスタトロンの場の方向。電圧は試料の厚さで決まるんだろうな」
「たぶんそうだろう」
「しかし、この大きさの試料でキオエスタトロンへの入力電力の数十倍の出力がある。これが水素を消費してということだから、まさに核融合ならぬ核消滅発電だな。水素ガス濃度を上げればさらに出力は増しそうだしな。
いずれにせよ、小型低出力のキオエスタトロンは作っていた方が良さそうだな。それと一緒にパワーコンディショナ(直流交流変換器)も買っておこう。パワーコンディショナは太陽光発電システムに組み込まれているから簡単に手に入るだろう。パワーコンディショナはこの研究所にあるバックアップ用の電池に付属しているが、あくまでバックアップ用で常用を考えたものじゃないからな。
それが揃えばX金属
「面白そうだな」
「しかし、X金属は俺たちに宇宙船を建造させるため宇宙からやってきたようなものだな。
「推力についてはまだどの程度のものか分からないから何とも言えないけどな。今あるX金属を全部使っても大して推力が得られなかったら、厳しいぞ」
「俺の勘だが、それはないと思う。青天井とまでは言わないがとんでもない力が発生すると思うぞ。何せ水素原子がそのままエネルギーになるんだからな」
「その辺りはまだ詳しく調べる必要があるから、水素ガスを充填できる試験用チャンバーを作って実験を進めるか」
「それは早いとこやってしまおう。推力がどの程度生み出せるかで宇宙船の大きさが決まってくるからな。根拠はないが俺はX金属1グラムあたり1トンの推力が出せると予想している。X金属が1キロあれば1000トン。推力1000トンということは1000トンの重量が宙に浮くってことだ。500トンの重量なら1Gで上昇する。地球の影響のない宇宙空間なら2Gで加速できる。1Gで常に加速していれば宇宙船の中は地球にいるのと変わらない1Gの世界だ」
「そういえば圭一、どんな宇宙船を考えているんだ?」
「俺が子供の頃夢想していた宇宙船は直径12メートルの球型の宇宙船だ。ソレと同じく直径12メートルの球型宇宙船を考えている。
宇宙船の外殻に40ミリの高張力鋼を使用すると外殻重量が概算145トンになる。内部の構造材と生活に必要な装置や消費物資の重さでは350トンには届かないだろうから宇宙船の重量は500トン以下になると思う。球型の船体の内部にも補強用の構造材を巡らすので、10G程度の加速なら楽に耐えられるはずだ。中の人間は5Gにも耐えられないがな」
圭一が話しながらスマホの電卓をたたき「地球圏から脱出する第2宇宙速度が秒速11.2キロだから、1G、毎秒毎秒9.8メートルで加速すると、1142秒=19分だ。実際問題、水素さえあれば際限なく加速できるわけだから、脱出速度など気にする必要などないがな」
翔太は水素ガスを注入できるステンレス製チャンバーの図面を引いて、真空機材を扱うメーカーに発注した。内部にX金属を入れたケースを固定でき、その固定部分からチャンバー外部に向けて電流が流れるようになっている。もちろん内部のガス圧はモニターでき調整もできる。発電機のモジュールとしても使う予定のものだ。
もう一つ、水素ガスを注入できるチャンバーの図面も翔太は引いており、こちらはX金属の入ったケースの前後を大型の特殊ステンレス鋼材で固定できるようになっている。推進器の本体モジュールとして考えたものだ。
もちろん2つともプロトタイプであるため、ケースの中に封入するX金属は10グラム程度のものである。
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