第7話 始動


 パーティーは午後10時頃お開きになり、翔太はそのまま圭一の屋敷の客間でその日休んだ。



 翌日の9時ごろ引っ越しの荷物が届き、翔太のアパートに運び入れられた。もともと荷物はあまりなかったので、1時間ほどで引っ越し業者の作業は終わった。


 翔太がその後を引き継ぎダンボール箱などから荷物をとり出して片付けていき、作業は昼前に終わった。パソコンなどの機器もセットし終わった12時頃、圭一の屋敷から使用人の一人、多羅尾文子が皿に盛ったサンドイッチとポットに入ったコーヒーをバスケットに入れて持ってきてくれた。


「多羅尾さん、ありがとう」


「どういたしまして。1時間くらいしたら、食器を片付けにまた伺います」


 翔太は手の込んだサンドイッチをいただき、ポットからコーヒーをマグカップに注いでホッと一息入れた。


 それから30分ほどで多羅尾文子さんがやって来たので「すごくおいしかったです」と言って翔太はポットとお皿を返した。


 台所の冷蔵庫の中には今のところ何も入っていないので、翔太は一度食料品の買い出しに出ることにした。スーパーなどの場所については昨日のパーティーの話の中で聞いているのでだいたいの位置は分かると思う。


 ということで、翔太は戸締りをして、部屋の前に止めた愛車の軽に乗り市内に出かけて行った。


 買うものは、水やビールなどの飲料。夜食用にインスタントの食品類、電子レンジで温めればすぐ食べられる冷凍食品などだ。


 市街までは4キロほどなので信号に引っかかろうと10分もかからない。


 昨日話に聞いていた街道沿いのスーパーはすぐに見つかったので、駐車場に車を止めて、さっそく店のカートを押して店内に入り目当ての品物を買っていった。


 食事については圭一が面倒を見てくれるという話だったので、それほど買うものはない。最初に考えたものの他にインスタントコーヒー、ビールの肴用に乾き物や缶詰などを買って買い物は終わってしまった。


 このまま車で市街を流して土地勘を養っても良かったが、冷凍食品を買っていたのですぐに帰ることにした。


 荷物を持って部屋に戻り冷蔵庫の中にしまい終えた翔太は、研究所側に回って玄関のセキュリティレンズに目を近づけてドアを開けて中に入った。


 自分の机の上にはモニターとキーボードとマウスしか置いていない。


 昨夜堀口明日香女史に聞いたところ、ハード本体は地下にあるサーバールームで管理されているそうだ。ファイルなどもバックアップが常時取られているという。一般企業の場合外部のクラウドにバックアップを取る場合が多いし、翔太が勤めていた研究所でもその形式だったが、外部のセキュリティーについては完全であるとは圭一は考えていなかったようで、全てこの研究所地下にある大型金庫並の空間に据え付けられたストアレッジ専用サーバー内にリアルタイムでバックアップをとるのだそうだ。その辺りのメンテは、もちろんシステムエンジニアの堀口明日香女史の受け持ちとのことだった。通常堀口明日香女史はサーバールームで仕事をしているという話だった。


 さらに研究所では緊急用バッテリーとバックアップ用の発電機を備えているため停電に対して2日間は耐えられるそうだ。



 明日からの業務だが、まず明日の朝イチで地元のエンジニアが研究所にやってきて、キオエスタトロンのコピー製作について打ち合わせることになっている。図面等は圭一が翔太のいた研究所の親会社との交渉で取得済みのため、製作はそれほど難しい問題ではないだろう。


 翔太が明日からの予定について自分の椅子に座って考えていたら、研究室の中に堀口明日香が入ってきた。


「あら、翔太さん。こんにちは」


「こんにちは、明日香さん。今日は休みだったんじゃないの?」


「休みといえば休みだけど、特に用事がなかったから少しネットワークの設定でもしておこうかと思って。夕食は圭一兄さんのところでごちそうになるつもりだけどね。

 翔太さん、悪いけど机の上のモニターの電源入れて、適当にユーザー名とパスワード入れてくれる」


「了解。パスワードには8桁以上の英数字大文字ありとかあるの?」


「4桁の数字でOKよ。内部のパスワードは毎日午前4時にその4桁の数字に対応して新しく生成しているから外部に対しては硬いの。翔太さんの個人ファイルはそのパスワードで毎日暗号化し直されているから量子コンピューターでも使わなければまず解読できないわ」


 翔太では理解しかねるほどデータセキュリティーには気を使っているということだけ理解できた。


 モニターの電源を入れるとすぐにユーザー名とパスワードの入力画面が出たのでユーザー名は少し変だがshota、パスワードは銀行の暗証番号を逆読みした数字にしておいた。これくらいのユーザー名とパスワードを忘れるとは思えないが、それでもいったんスマホに書き込んでおいた。アパートに戻ったら紙のノートに、インクが変質して読めなくなるとまずいので鉛筆で・・・記入しておくつもりだ。


「メールなんだけど、翔太さんの研究所ここでの正規のメールアドレスは『Kodama@skysphere.com』だから。

 それと、翔太さんの名刺は脇机の一番上に入っているわ」


 引き出しから名刺の入ったケースを取り出して中身を見ると、


「株式会社 スカイスフィア研究所

 代表取締役副社長、研究所長 児玉翔太」


 とあった。名刺の肩書だけを見ると相当な人物に見える。


 翔太はブラウザーを立ち上げ設定を済ませた後、統合ソフトなども自分用に少しずつカスタマイズしていった。実際にソフトを使う時には不自由な面も出るだろうがその都度対応するしかない。




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