第5話 金田光の気づき

[まえがき]

フォロー、☆、♡、感想、それにレビューまでいただきありがとうございます。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 研究所での残務も片付き、晴れて翔太は悠々自適の年休消化期間に入った。


 年休消化の前日、最終出社日に挨拶を済ませ、社員証などを人事に返還しているし、その前に会社からも必要な書類などは受け取っているので、退社日に出勤するつもりはない。翔太は検査ケースが孔をあけた翔太の研究室の窓ガラスについては修理を頼んでいたがまだ修理されておらず、翔太が年休消化期間に入った時にはガムテープで応急処理されていた。


 圭一はキオエスタトロンのコピー製造の権利を5億で取得している。第3者への譲渡不可、同等品の販売不可の条件は付いているが、もとよりその意志はないので問題ない。


 残務を片付けているあいだ、翔太は自分の研究室で慣れ親しんでいる研究機材を吟味し、同じものでいいならそのまま、取り扱いや精度の高まった製品が出ているものはその品番を圭一にメールで知らせている。


 圭一は翔太から知らされた、機材の品番を新研究所の機材として発注しており、機材は研究所の建屋が完成次第運び込まれる段どりとなっている。新研究所の建屋の裏側は翔太の住居として2LDKのアパートが用意されることになっており、それらが完成しだい翔太はそちらに引っ越しする予定だ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 自身の研究室でキオエスタトロンの調整と実験を重ねていた金田光研究員は、隣の研究室で仕事をしていた翔太の退職に対してはなにも感じなかった。もちろん金田光は自分のキオエスタトロンと翔太の退職を結びつけて考えることもなかった。


 それより、宣伝など何もしていなかったはずの自分の研究がいきなり売れてしまったことに戸惑っていた。


 たしかにキオエスタトロンは商品化されればその分野では有力な商品になりうる可能性を秘めているが、競合商品も多々あり、分野自体もそれほど裾野は広くない。会社から見て商品という意味ではそれほど魅力ある商品とは思えなかったからだ。


 上司の話によると、会社に収益貢献したということでわずかばかりの報奨金も出るようだし人事評価もワンランクアップするということだったので納得していた。


 その日、金田光はたまには陽の光に当たろうと、キオエスタトロンの電源を落とし、研究所の玄関を出て、敷地の中を少し歩いてみた。研究所の敷地内には道路が走りその両側には芝生が植えられ、花壇やつつじなどの低木の植栽が整備されている。


 ぶらぶら歩いていたら、ちょうど自分の研究室の前だった。ふと気づくと、隣の研究室の窓ガラスにガムテープが2カ所貼ってあった。隣りの研究室は研究所を辞めた児玉研究員の研究室だ。


 ガムテープを不審に思ったわけではないが、なんとなくそちらを見ていたら、目の前の芝生の上に何か光るものが落ちていた。


 拾い上げてみると、自分も良く使うステンレス製の試験ケースだった。その場でケースを開けてみると中から銀色の光沢をもった小粒の金属が入っていた。


「見た目はプラチナだが?」


 他にはないかと思って周囲を見渡すと、道を挟んだ反対側の芝生の上にもそれらしいものが見つかった。拾ってみると、これも今手に持っている試験ケースと同じものだった。その場で開けてみると、先程と同じ金属と思われる小さな棒が入っていた。


 二つの試験ケースの落ちていた場所の先には児玉研究員の研究室の窓。さらに言えば、窓に張られたガムテープがあった。


 こうなると、ガムテープをはがしたくなる。幸い研究室の持ち主はいない。


 芝生を踏んで窓際までいった金田光は1枚目のガムテープを半分だけ剥がしてみた。


 中から現れたのは、10ミリちょっとの孔だった。孔の空き方は、室内から外に向けて銃弾を発射したかのようだった。


 ガムテープを貼り直し、2つ目のガムテープを半分剥がしたところ、全く同じ孔が開いていた。


『部屋から外に向けた二つの弾痕? 銃弾が敷地に落ちている?』


 そこで金田光は先ほどポケットに入れた2つの試験ケースを取り出した。


 よく見るとどちらの試験ケースも片側がわずかに潰れている。その試験ケースを窓にできた孔に当ててみるとちょうどの大きさだ。


『なんだ? この試験ケースが銃弾のように窓ガラスを貫通したのか? さすがに研究室に試料ケースを撃ちだすような試験機はないだろう。キオエスタトロンの方も一段落したところだし、息抜きにちょっと調べてみるか。試料ケースの中の金属はプラチナだと思ったが、何か別の金属なのか? まずはそこからだな』



 金田光は足早に自分の研究室に帰り、さっそく試料ケースの中の謎の金属の試験を始めた。


 まずはキオエスタトロンによる成分分析だ。


 それによると、謎の金属はどちらもプラチナだったが、タダのプラチナではなくその同位体だった。それも自然界には存在しない同位体だった。それから先の試験は翔太とほぼ同じ過程をたどりほぼ同じ結論に至った。ただ、キオエスタトロンの場の方向が壁に向かっていたのか、最初の試料ケースは何かの拍子に壁に向かって飛んでいき、貫通することなく研究室の壁に穴をあけその中に埋まってしまった。


 試料ケースがキオエスタトロンの場に反応した時、試料ケースの位置がキオエスタトロンにかなり近かったため場の力が強く、試料ケースは穴の中で割れて砕けており、プラチナは試料ケースの中で潰れていた。


「児玉研究員がこの研究所を辞めたのはこの金属が原因に違いない! 児玉研究員はこの金属をどうやって手に入れたのだ!?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る