鳥
まだ降り止まぬ土砂降りの中、兵たちが慌ただしくしている。
「今夜はあの丘に
移動して幕を張る者、敵兵と魔獣の死体の検知をする者、埋葬をする者などに、
その時だった。
―― ん?
裏手にある木々の深い茂みの奥から何やら芳しい風が吹いた気がした。
なぜか気になって
「
「すぐに戻る。お前たちは後処理をしておれ」
「は。」
何かにひきつけられるように歩き出した
―― 小便でもなさるのだろう。
などと思ってその懸念を拭い去った。
そこに一筋光が差し込み明るくなっている。
―― 土砂降りなのに陽だまりとは?
不思議に思った
すると何やらゆっくりと天から降りてくるではないか。
雨のせいでよく見えないが人のような形をしている。
―― もしかして魔獣か、それとも妖怪か。
―― 人間の女?
少なくとも人間の形をしている。女に見える。
女の体はゆっくりと
ずしりと人間の体の重みを感じる。
「なんと…!」
女の顔を覗き込むと蒼白な顔をして意識を失っている。
「おい、しっかりせい。大丈夫か?」
息はしているようだった。
脈を計ると脈はしっかりしている。
血の気が引いているようだが一時、気を失っているだけで命には別状はなさそうであった。
奇怪なことが続いていて、
妖怪でも異形のものでもないその女は苦しそうに、でもしっかりと息をしている。
「くそ。
ぐったりとした女を横抱きにして歩いてくる。
「と、
「気を失っている女を見つけた。
「さ、さようですか。
「ああ、頼む。それから商人を探させろ。乾いた着物が必要だ。村人から買い取っても良い。」
「承知しました。」
――――
天幕の外では兵たちがまだ慌ただしく働いている。
雨も弱まり、兵たちは勝ち戦を祝う準備を進めていた。
商人たちが酒を運び込んでいるのを兵たちも喜々として手伝っていた。
我が大将は雷神の加護により今回の
ついでに大将が女を拾ったという噂も広まった。
天幕の中で
「
みるみる
戦場でどんな難しい状況に陥ろうとも冷静沈着な
堀はそんな
「ではそなたが着替えさせろ。」
「何をおっしゃいますか。その女は
「こ、この女があの巫女の言った、鳥のようなものを拾うということか。」
だが
「そうとしか考えられません。この女の着物を見ればわかります。」
白地に紺の模様の入った珍しい袖の長い着物に
「
「とにかく、拾い物をなさった張本人が世話をするべきです。私は幕の外に控えております。」
「しかし…」
「人命に関わることにございます。」
「ちょ、待て...。」
「
誰もこの状況に手を貸さないと理解して、
「女、許せ。」
そして女の着ていた着物を脱がせ、豪雨で濡れ、冷え切った体を拭き、部下に調達させた男物の単衣に着替えさせた。
「
天幕の外へ声をかけると、「はい、控えております」と声が聞こえた。
「私の気つけ薬を煎じてここへ。」
「はい。」
「
女の着物は綺麗に着替えさせられている。
――
と、
「おい、薬を飲め。血を回復させる薬だ。」
女の意識は一向に回復しない。
無理矢理煎じ薬の入った茶碗を女の口に押し付けてみるが、薬は唇からこぼれ落ちただけだった。
ここで
「
「な、何?」
さっきにも増して
「む、む、無理だ。そなたがやれ!」
「先程も申し上げましたが、これは
「一国の将軍がこれしきのことでうろたえてどうなさいます。」
「う、うろたえてなどおらぬ!」
「相当に血の気が引いております。このままでは体温が失われ他の病気に
「私もそう思ったのだ。」
「はい、ですから、薬を飲ませるのは必定。私は幕の外に控えております。」
「しかし…」
「人命に関わることにございます。」
「ちょ、待て...。」
同じような問答を繰り返し、またもや
「
「女、許せ。そなたのためだ。」
そう言うと、自分の口に薬湯を含ませ、女の口に押し付けた。
舌で女の唇を広げ薬湯を流し込む。
そして女がゴクリと飲み込むまで唇を塞いだ。
女の唇はとろけるように柔らかかった。
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