第119話 石見銀山攻略戦

 当初この旅の目的は瀬戸内海から大阪湾を牛耳る村上水軍を打ち破り大阪湾の航海権を確立する事を目指していたが、村上水軍を打ち破ったことから旅の目的が織田家による日本国内の航海権及び海運業独占の旅へと大きく目的が変わっていった。・・・当初から実はそのつもりがあったので長期航海に備えて、色々なものが造れる巨大な浮きドックを旗艦にしているのだ。

 大阪湾から瀬戸内海と村上水軍を次々と打ち破った際に毛利元就の三男小早川隆景が率いる小早川水軍をも打ち破ったことから毛利家との戦後処理の為に毛利家の主城である郡山城に赴いた。

 その席上、毛利家と対立する尼子氏が今のところ保有している石見銀山攻略の話になったのだ。


 銀は重要な戦略物質であり、歴史的にみても日本が世界に輸出する重要な鉱物の一つに今後なっていく事になるのだが、問題は

『金銀比価』

の割合が世界各国に比べて不利に働き将来的に見て日本が大損してしまったのだ。・・・とは言っても石見銀山を手に入れなければ話は始まらない。


 石見銀山攻略に向けて織田家の艦隊は大友家を打ち破って手に入れた関門海峡を抜けて日本海側に出ようとしていた。

 その織田家艦隊だが旗艦の浮きドックを守るように蒸気機関を載せた安宅船5隻が周りを固めて推し進めていくように見せている。

 実際は浮きドック自体にも蒸気機関を載せて自力航行が可能なのだが、安宅船に載せた蒸気機関も浮きドックに載せた蒸気機関も試作機で性能を航海中に調べているような状態なのだ。

 先陣を切るのは巨大ガレオン戦型戦艦海進丸を始めとして海洋丸、ヘンリー8世号、欧州丸の4隻で、蒸気機関が搭載されていないために白い帆に風を受けて波を蹴立てて軽快に進む。

 その巨大ガレオン船型戦艦の甲板には滅多に使うことは無い旧日本帝国海軍の連合艦隊の旗艦として活躍した戦艦長門が搭載していた41センチ主砲と同型のものが帆布キャンバスに包まれている。


 これだけの艦隊を止め立てできる船舶等はいない。

 それでも関門海峡を抜けて日本海側、響灘に出ると幾つかの島が見え、その島影から幾艘もの小型の漁船が現れた。

 その漁船には武装した数人の兵が乗り込んでおり、それらが皆一斉に織田家艦隊に向かって来るのだ。

 武装した兵の胴丸や陣笠にはご丁寧に尼子家の家紋・平四つ目結が描かれているのだ。

 これで敵対するのが尼子家と知れた。

 しかしながら本当に向こう見ずなやからがいたものだが、織田艦隊の巨大ガレオン船に近付くにつれて漁船を漕ぐ手が衰えたのか見る見るうちに速度が落ち、たちまち方向を変えるとすごすごと島影へと戻って行った。


 さらに夕闇が迫る頃、日本海を突き進む内に、逃げ帰ったはずのそれらの小型の漁船は更に数を増やしてその数100艘以上が海を覆うように現れた。

 それらの漁船軍は燃え上がる巻き藁を積み込み決死の覚悟で織田艦隊に火を放とうと向かってきたのだ。

 小型の漁船には火を放ち赤々と燃え上がる小舟を引っ張る船もいる。

 これらの船をまともに対応する必要などは無い。


 俺は巨大ガレオン船を側面の砲が活用できるように展開するように命じた。

 そうそれは何度も織田艦隊が使用している明治37年(1904年)に起こった日露戦争の戦局を大きく変えた東郷平八郎元帥がバルチック艦隊に対して取ったT字型戦法である。

 赤々と燃え上がる船は格好の標的である。

 巨大ガレオン船の側面の砲が火を噴くとその砲弾により轟沈する漁船もあるが、向かって来る漁船軍の周りに上がる砲撃の水柱によって海面がゆで上がるように荒れる。

 それにより大きくバランスを崩した漁船は転覆して次々と海の藻屑へと変えていった。


 これらの漁船軍を退けたことから後の航海は至って順調で、帆に偏西風を受けさらには対馬海流に乗って瞬く間に目的地とする邇摩郡馬路村にまぐんうまじむら・・・現在の山陰本線の馬路駅・・・付近の沖合い、馬路琴ヶ浜に錨を降ろしたのだった。

 旗艦浮きドックの広い甲板に熱気球が膨らみ今回は俺と松様が空のデートと洒落込む。

 今回の熱気球は着弾の確認だけで、爆撃の予定はない。


 俺も松様も旧帝国海軍の零戦乗りの格好だ。

 砲撃予定時間の3分前にスルスルと熱気球船が上昇する。

 この熱気球は燃料となるガスの関係で空に浮かんでいられる制限時間は30分間で日本海側の偏西風で北へ北へと熱気球船が押し流されていく。

 牽引ロープである一定以上は流されないが高度を保つのは大変だ。

 石見銀山付近からチカチカと織田式光信号が送られた。


『石見銀山攻撃部隊の主将吉川元春が攻撃位置に着いた。』


と言う連絡だ。

 制限時間は30分間、その間に艦砲射撃を行う。

 この織田式光信号を受けて海進丸以下4隻の舷側の砲門の扉が開き、鋼鉄製20センチ砲10門がゴロゴロと砲口が扉の外へと押し出される。

 それぞれの船の一番砲に色つきの煙幕弾が装填され、砲術長の

「煙幕弾発射!」

の号令により


『ズーン』『ズーン』『ズーン』


と火を噴く、石見銀山山頂に着弾して着弾地点に青・赤・白・緑の煙が上がる。

 その上がる煙を見て石見銀山を守る数か所の出城や砦のどの地点に砲撃すればよいかを俺が見届け織田式光信号で松様が

『青の一番近い砦は左5度に修正距離同じ。』

等と色分けで各船に連絡する。・・・空のデートどころの騒ぎではない。

 その連絡を受けて今度は


『ズーン』『ズーン』『ズーン』『ズーン』『ズーン』『ズーン』


と4隻は修正指示された場所に向かって砲門が向けられて一斉発射された。

 片側舷側のみの砲撃で船が反対方向に大きく傾く。

 押し出されていた大砲が砲撃の反動で後方に下がる。

 次々に後装式大砲の尾栓が開き薬莢が排出され、次弾が装填される。

 再度一番砲に色つきの煙幕弾が装填されて着弾位置を変えて発射される。

 同じ手順で一番近い出城や砦に向かって一斉発射が行われる。

 さすがに三度目の一斉発射が行われると石見銀山が禿山のようになり山の形が変わった。

 出城や砦も粉微塵でガラクタの山になり動く人影はない。

 俺は今度は石見銀山付近で信号を送ってきた伝令や各船の砲術長に対して


『砲撃を終了する。』


とチカチカと織田式光信号を送る。・・・これで暫くの間は本当に空の散歩、キャサリンとの空のデートを楽しむことになる。


 信号を送ると禿山になった石見銀山に兵が蟻のように現れた。

 その兵の中には毛利家の「一文字に三つ星」と織田家の「織田木瓜」の旗印を持った兵が進む。

 出城や砦に籠っていた尼子軍は砲撃でほぼ壊滅し抵抗はほとんど無かったが、砲撃を避けて石見銀山の坑道に逃れた兵は無事で抵抗の意思を示した。


 その兵が逃げ込んだ坑道に発煙弾が撃ち込まれる。

 発煙弾を取り除こうと坑道から出れば毛利家の火縄銃や織田家の織田式鉄砲の餌食になる。

 その煙が送り込まれ咳をし涙を流しながら降伏してきた。

 最後の兵も煙には抗うことが出来ずに投降して石見銀山が毛利家の支配地になった。

 熱気球の30分の制限時間が終わると同時だった。

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