第116話 大友家との戦後処理

 大友家がイスパニアのガレオン船や倭寇のジャンク船を借り受けて、関門海峡の航海権を求めてきた織田家の艦隊との戦いは織田家の圧勝に終わった。

 イスパニアのガレオン船でイスパニアの提督を切り殺したことから内輪もめ状態で捕縛された大友家当主大友宗麟と陸上戦で敗れた立花道雪が苦虫を嚙み潰したような顔で門司城に設けられた戦後処理の席上に臨んでいる。

 二人の横に今回の話合いの結果次第では人質になる予定の高橋紹運・天文17年(1548年)生まれ、永禄2年(1559年)ではわずか11歳が姿勢よく静かに座っていた。・・・俺が高橋紹運がどんな人物か見て見たかったのもあるのだが・・。


 その席には俺の他には織田家の当主親父殿・織田信秀、共同で戦った毛利家からは吉川元春と小早川隆景が毛利家の名代としてその席に臨んでいる。・・・毛利家との戦後交渉もまともに行われていなかった。それは後日だ。


 三者の思惑のなか静かに睨み合いが続く・・・その時ドタバタを織田家の配下の者が急を告げた。


「周防灘に丸に十の字の旗印!薩摩の国は島津家の旗印を掲げた船が見えます。」


と告げた。・・・こんな時に面倒な!蹴散らしてやるか!

 と思っているとまたもやドタバタと織田家配下の者が


「島津家の船から使者殿として、島津貴久殿の3男島津歳久殿と4男島津家久殿が参られました。」


と告げた。

 使者の島津貴久の3男島津歳久は天文6年(1537年)生まれで、永禄2年(1559年)では22歳、一緒に来た島津家久は天文16年(1547年)生まれなのでわずか12歳だ。


 どうやら島津家は九州統一で敵対する大友家の様子をうかがっていたところ関門海峡を巡って毛利家・織田家の艦隊が大友家に挑んだと聞いたのだ。

 これは好機である大友家が敗れれば、九州統一に近づく。

 それに相争う両者の調停役・両者が力を落とせばこれを打ち破れば良いと島津家も艦隊を組んで周防灘へと向かって行った。

 周防灘に着くと島津貴久は、島津歳久と家久の兄弟に


「漁師に身をやつして小舟に乗り込み戦いの様子を見てこいと命じた。」


 二人はこの戦いは毛利家主体で息子の小早川隆景が率いる小早川水軍と共同戦線を張る村上水軍が織田家に変わって大友家に挑むものだとばかり思っていたのが、織田家の家紋・織田木瓜を掲げた艦隊が大友家の艦隊に挑んだのだ。

 対する大友家の艦隊は交易で訪れたイスパニアの当時世界に誇る巨艦で武装したガレオン船を旗艦に倭寇のジャンク船で挑んだが、織田家の艦隊ははるか遠くの場所から砲撃を開始しその砲撃を受けて大友家艦隊は敗れ去ってしまった。


 その戦いの一部始終を島津歳久と家久の兄弟は砲撃のすさまじさに震えながら小舟の上から見ていたのだ。

 二人は


「これはいかん!」


と、すぐさま島津貴久の乗る旗艦に戻った。

 二人は見た現状をありのままに島津貴久に報告して、武士の息子らしい貴人の姿に戻った。

 島津貴久は技術力に置いて遥かに優れるイスパニアのガレオン船を打ち破った事に驚き次は自分の国かと恐れた。・・・それで織田家との同盟を決意した。

 島津貴久の横には貴人の姿に戻った息子二人がいた。

 貴人の姿に戻った二人はイスパニアよりも高い技術力を有する織田家を内側からもっとよく見たいと思い、貴久は同盟の為の人質として二人を織田家へ差し出す事にして今に至ったのだ。


 織田家の技術力を盗もうと目を輝かせている獅子身中の虫となる二人を受け入れるのは問題だが船の上では上手くいくまい。


 乱入してきた島津家の二人が織田家と同名を求めてきたのを見て大友家が慌てた。

 織田家と毛利家が島津家が同盟を組めば地理的にその間に入った大友家が風前の灯火になるのだ。・・・クックッツ・・・悪い笑みが零れる。

 大友宗麟は俺の悪い笑みが零れるのを見ておびえる。


 俺は基本方針の関門海峡の航海権・安全航海の為に小倉城を要求するつもりだった。

 ただ俺の艦隊には蒸気機関を積む安宅船がある。

 蒸気機関の燃料となる炭鉱は九州で有名なところと言えば三池炭鉱や海底炭鉱を掘っていた軍艦島や筑豊炭鉱等がある。

 筑豊炭鉱・・・現在の北九州市から近く遠賀川の上流で海からおよそ20キロの地点にある。

 地理的要因で諦めようと思ったが蒸気機関の燃料はどうしても必要だ、それで筑豊炭鉱の採掘権を要求した。・・・断ると思ったが大友宗麟がそれを受けた!?・・・そうか!今回の戦いでは織田家の大砲ばかりに目がいき蒸気機関を載せた安宅船の有益性に気が付かなかったのだ。


 これで毛利家念願の石見銀山を尼子家から奪い取るのだ。

 ただ石見銀山については日本と世界との間で金銀を取引する際の


『金銀比価』


が大きく違うので、これを大友家や島津家のいる前では戦略上明らかにしたくないので彼等との交渉中に話す事ではない。

 それに石見銀山は毛利家と尼子家との関係で俺・織田家が介入して甘い汁を吸おうと思っているのだ。

 この交渉は毛利家と場所を織田家の旗艦・浮きドックの上でする事にしたのだった。

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