第114話 奴隷

 マハラジャ親子の再会に感激に浸っている間に、大友艦隊の旗艦イスパニアのガレオン船や大友艦隊に加わっていた倭寇のジャンク船を織田家旗艦に戻した浮きドックに繋ぎ止めた。

 先ずは衝突して団子状になっているイスパニアのガレオン船とジャンク船を引き離す作業だ。

 無理にイスパニアのガレオン船と僚艦のジャンク船を引き離すと衝突した際にお互いの舷側に穴が開いているので海水がその穴から流入して水没してしまうかもしれないのだ。


 それで先ずはイスパニアのガレオン船やジャンク船の中からめぼしいお宝や乗員だけでなく連れてきた奴隷や捕虜を救出した。

 以前ポルトガルのガレオン船やイングランドのガレオン船からお宝を見つけたことがあるが思った程のお宝は無い。

 イスパニアのガレオン船の船倉からは百人もの黒人奴隷と十数人の白人の女性奴隷も乗っていた。

 水没したポルトガルのガレオン船を復元した際にも船の船倉から何体もの鎖に繋がれた奴隷の水没死体・土左衛門が出たが。・・・う~ん今回も予想通り奴隷が船倉にいた。


 この黒人奴隷達は帆で帆走できる場合もあるが凪が続いた場合この奴隷を使って櫂で船を動かすのだが・・それでも百人は多いだろう。

 最下層で黒人奴隷の中でも体格の良い3人程が自分の着ている物を脱いで衝突してできた穴を体も使って塞いでいた。


 黒人奴隷!?・・・史実では織田信長に仕えていた黒人奴隷がいたはずだ。・・・う~ん『弥助』と言う名前を付けられて天正9年(1581年)にイタリアの宣教師ヴァリニャーノが連れて来ていたのを織田信長が気に入り名前までつけて信長自身の身辺警護をさせていたのだ。

 現在は永禄2年(1559年)だから弥助との出会いはまだ無い。

 また黒人奴隷と言えば奴隷船ブルックスの画像が有名で、その船の下層部に何百人もの黒人奴隷が押し込められている絵だ。


 今回のイスパニアのガレオン船には奴隷船ブルックス程では無いが百人もの黒人奴隷が乗っていた。・・・やはり劣悪な環境と十分な食事も与えられていなかったために怪我人や病人が多い。

 食事も充分に与えられておらず骨が見える程痩せているとはいえ船底の穴を水圧に耐えながら塞いでいるのは見事というしかない。・・・う~ん得難い人材かな?

 俺も船底に降りて穴を塞ぐのを指揮したが、彼等も俺の言葉が解らないのに共同して船底の穴を何とか塞ぐことができた。


 彼等3人とは俺が仕えるに値する人物かと値踏みの為に戦った。

 俺にとって3連戦だがやはり十分な食事が取れていなかったためにスタミナ不足で俺の相手にならなかった。

 後日改めて食事をとらせて体力・持久力が戻ったところで一人づつ戦った。

 けれんみのない直線的な攻撃であったが虚実の虚も無く単調であったため、やはり俺の相手にならなかった。

 それでもこれにより彼等3人は俺が使えるに値する人物と認めて忠誠を誓ったので良しとするか。


 黒人奴隷にも何人かの女性がいたが、白人奴隷の多くは女性で性的目的での奴隷にされた者が多い。

 黒人奴隷の何人かいた女性のほとんどが頭が良く語学能力が高かったので、彼等黒人奴隷との間の通訳官にした。

 このおかげで命令系統がスムーズにいき百人の黒人だけの軍隊が出来上がり、武田の『赤備え』に対抗して織田の『黒軍団』と呼ばれて恐れられた。


 倭寇のジャンク船の船倉の方からは東南アジア諸国の沿岸部どころか内陸部まで侵略して略奪された人身売買目的の人達が多数乗っていた。

 これらの奴隷の解放を・・したいが俺はリンカーンではない!

 人身売買目的で囚われたいた人達も不安そうにしており通訳を介して俺は彼等から


「俺にどうして欲しいか?」


と尋ねたところ


「異国の地で言葉も分からず、解放されても住むところどころか仕事も無いので俺と奴隷契約を結んで欲しい。」


と懇願された。

 劣悪な環境と十分な食事も与えられていなかったために怪我や病気に苦しんでいる黒人奴隷は浮きドックに新たにくくりつけられたジャンク船3隻を病院船・病室にして収容した。

 マハラジャのランジード・ノボリクスが乗っていた豪華なジャンク船は主に治療に使うことにした。


 白人の性目的で連れられてきた女性達は・・・何かあきらめているように見えるが中には教養の高そうな者・・どうやら没落貴族の婦女子が多いようだ・・達が多くいるのでその時はその時だと思って眺めていた。・・・が病院船にはイングランドの女性医師グランベルや松様を中心とした多数の日本人女性医師が働いているのを見て白人女性達は春を売るよりはと医師や看護師を希望する者が多くあらわれた。

 黒人女性の中にも通訳官よりも白人女性同様に医師や看護師を希望する者が現れた。

 今は黒人奴隷だけでなく大友艦隊の船に乗っていた者の多くが怪我人・・鉄砲による銃創・・が多いのだ。

 その治療に猫の手も借りたいほどなので、その申し出はとてもありがたいものだった。


俺は


『追々その他の者達も能力が解ってくるだろうから、その時はその人に見合った仕事をさせるか。』


とそう思いながら今度は倭寇のジャンク船で連れられてきた者の集団を見に行くと親子で抱き合って泣いている者が何組かいた。

 それらの多くが父親が彫銀細工や陶芸に秀でる人達で妻や娘を人質に取られてここまで来たようだ。・・・明らかに高度な技術を持っているので彼等には直ぐ定住の地を与えられそうだ。

 浮きドックには簡単な反射炉も載せてあり大きな鉄工所のような浮きドックの部分もあるので早速そこで技術を見せてもらう。

 彼等も掘り出し物で明らかに高い技能を持っている。・・・これに刺激されて今までの技術者も切磋琢磨して技能を磨いてほしいものだ。


 中に変わった技能を有する者がいた。

 山師で鉱物の運気が見えるという。・・・実際


『金山には黄金の運気が立ち昇るのが見えて金鉱を掘り当てた。』


という話が残っている。

 ここは福岡県・・・ということは炭鉱・・筑穂炭鉱と三池炭鉱があるが三池炭鉱は有明海側で無理だが、筑穂炭鉱は遠賀川の上流付近で現在の北九州市から20キロ程の地点だ。・・少し遠いか?!

 今回の大友家との戦後交渉では炭鉱は諦めて関門海峡の航海権と織田家の都合の良い通商条約の締結だな。

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