第111話 関門海峡・海戦での勝利 

 毛利家支配の門司城と大友家支配の小倉城の間の距離は直線距離にしておよそ12キロ、その中間地点現在の門司駅付近に大友家の旗艦として使っていたイスパニアのガレオン船と僚艦である2隻のジャンク船が絡まるようにして押し流されてくる。

 それを小倉城に詰めてい立花道雪は主である大戸宗麟の乗るガレオン船を救出しようと城から打って出たのだ。

 これに呼応するように門司城にいた毛利元就の次男・吉川元春もまた兵を率いて城から押し出した。


 織田家の艦隊もまた好機とみて浮きドックを押していた蒸気機関を載せた安宅船団5隻が煙突から黒い煙を吐き出して動きだした。

 安宅船1隻あたり織田家の誇る陸戦隊員400名が乗船している。

 先頭を走る安宅船・尾張丸の前部に載せられた15センチ2連装砲塔の砲口がガレオン船と絡まるようにしている大友家の3隻の船に向けられて大砲の砲門を開く。


『ドーン』『ドーン』


と砲弾が発射される重低音が海面を走る。


『ザバーン』『ザバーン』


と大友家の3隻の船の周りに水柱が高く上がる。

 大友家から見れば一つも当たらない砲弾に


「馬鹿な奴等!大砲もろくに扱えないのか。」


と鼻で笑っていたが、織田家の放った砲弾は煙幕ならぬ水の幕で大友家のガレオン船を始めとする3隻に乗る乗員の視覚を奪っていたのだ。

 水柱が治まる頃には大友家のガレオン船に絡みついた左舷側のジャンク船の至近距離に織田家の安宅船・一番艦尾張丸が見えて、その安宅船から盛んに火縄銃が発射される。


『パーン』『パーン』『パーン』『パーン』『パーン』


と大砲の音に比べれば全く迫力の無いものだが、銃口から発射された弾丸は確実にジャンク船の乗員に死を与えて行った。

 ついに左舷側のジャンク船に安宅船・尾張丸が横付けされる。

 決死の覚悟で織田家の陸戦隊が尾張丸からジャンク船に飛び乗る。

 続けられていた火縄銃の攻撃によりジャンク船側からの抵抗はほとんどない。


 大友家・イスパニアのガレオン船も織田家によって絡みついた左舷側のジャンク船が拿捕されるのが見えるのだが、大戸宗麟によってイスパニアの提督を切られてガレオン船内では内輪もめを起こしてしまっていた。

 血眼になってガレオン船内で相争う大友家の家臣とイスパニアの兵は足元に火が着いているのに矛を収めることができない。

 織田家にとっては『漁夫の利』そのものである。

 尾張丸の陸戦隊指揮官は貴公子こと竹中半兵衛で


「ジャンク船の帆柱を倒せ!」


と大声で命令する。

 ガレオン船に絡みついたジャンク船の帆柱を倒してそれを足場にガレオン船への突入を果たすのだ。


 尾張丸から陸戦隊400名全てが左舷側のジャンク船に乗り移ると、ジャンク船から尾張丸が離れていく。

 尾張丸が離れるとすぐさま後続の二番艦・駿河丸がジャンク船に横付けされて、駿河丸からはさらに織田家の陸戦隊の兵400名が今度は新式の織田式鉄砲を持って陸続と乗り込んでくる。

 後続の陸戦隊の兵がすべて乗り移る丁度その時ジャンク船の前後の細い帆柱が


『バキバキ』『ドン』


という音と共にガレオン船に向かって倒れた。

 先を争うようにしてスルスルとその倒れた帆柱を使って織田家の新式の織田式鉄砲を持った陸戦隊の兵がガレオン船へ向かって登っていく。


 ガレオン船において同士討ちしていた大戸宗麟配下の兵とイスパニアの兵は、絡みついているジャンク船の帆柱が


『バキバキ』『ドン』


という音と共に倒れてきたのには驚いた。

 ハッとした大戸宗麟は


「やめろ!やめろ!敵が乗り込んでくるぞ!」


と大声を上げる・・・が時すでに遅し、二番艦・駿河丸の陸戦隊の兵は織田式鉄砲を片手に持って帆柱を登ってきていたのだ。

 火縄銃の操作には色々と準備が多く単発でしか撃てない。

 一番艦・尾張丸の陸戦隊の兵が火縄銃を使っていたことから・・・そう大友家の家臣やイスパニアの兵に織田家は火縄銃を使っていると刷り込み、思いこみをさせられていたのだ。

 尾張家の先頭の陸戦隊の兵を撃ち殺そうとイスパニアの兵が火縄銃を向けた途端、織田家の陸戦隊の兵が持つ織田式鉄砲が火を噴く。


『パーン』


という乾いた音と共にのけぞるイスパニアの兵、倒れたイスパニアの兵の手から火縄銃を奪い取るようにして大友家の家臣の兵が持ってガレオン船から身を乗り出した途端またしても


『パーン』


という音がして額を撃ち抜かれた。


その後も


『パーン』『パーン』


という連続音を響かせながら織田家の陸戦隊の兵が帆柱を駆け上がってくる。

 ついにはガレオン船に織田家の陸戦隊の兵が乗り込む。

 彼等を排除しようと倒れた帆柱に向かって大友家の家臣の兵やイスパニアの兵が押し寄せるが


『パーン』『パーン』『パーン』『パーン』


という連続音がするたびに撃ち倒されていく。

 ガレオン船内で青銅砲が置かれた下層では、肝心の砲門が絡みついた僚艦のジャンク船によって使えない為、上部甲板からの


『パーン』『パーン』『パーン』『パーン』


という銃声音を聞きつけて階段を登り、上部甲板の出入口からおっとり刀でイスパニアの兵が躍り出ようとする。

 しかし、その頃には織田家の陸戦隊の兵400名以上がジャンク船の帆柱を伝ってガレオン船に乗り込み上部甲板を制圧して、今度はあらゆる下層からの出入口に兵を配していた。


 出入口を押さえている織田家の陸戦隊の以外の兵は今度は右舷側に絡みついたジャンク船に向かって織田式鉄砲を発射する。

 

『パーン』『パーン』『パーン』『パーン』


と雨霰と弾丸が発射される。

 右舷側のジャンク船の兵達は船底へと身を隠す。

 その銃弾の嵐のなか安宅丸の三番艦・三河丸が右舷側ジャンク船に横付けすると織田家の陸戦隊の兵400名が乗り込み、この船を拿捕する。

 抵抗する兵は織田家の陸戦隊の兵により次々と打倒されていく。


『パーン』


と最後まで抵抗していた大友家家臣の兵が打倒された。

 これによりイスパニアのガレオン船やそれに絡まっていたジャンク船に織田家の家紋の旗が翩翻とひるがえった。

 大友家の後続艦隊で降伏を表すように帆を降ろして海上を漂う4隻の残りのジャンク船には織田家旗艦の海洋丸を始めとする4隻のガレオン船が横付けされて拿捕された。


 大友家側も黙って見ていたわけでは無い。

 彼等を救おうと関門海峡の小倉側から大友家が保有する最後の艦隊・安宅船を旗艦として関船5隻、小早20艘ほどが向かってきた。

 その艦隊は先ずは帆を降ろしたジャンク船に近付こうとしていた。

 その前にその4隻のジャンク船を拿捕しようと錨を揚げ帆を張って近づいてきていた織田家側の4隻のガレオン船に見つかり、4隻のガレオン船からの正確無比な艦砲射撃が開始された。

 目標として大きな安宅船や関船は着弾率が高く木っ端微塵となり、小早は船の側に織田家側の砲弾が着弾するたびに水柱が上がり海が煮えたぎったように荒れて着弾しなくても転覆水没していずれも海の藻屑と消えていった。

 海が何事もなく元の状態になると大友家側の最後の艦隊は消え失せていた。

 関門海峡における織田家と大友家との海戦は終わった。


 残りは陸上、関門海峡を日本海側に抜けるための最後の障害となる小倉城の攻略と小倉城から躍り出た大友家の重臣立花道雪との対決である。

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