第107話 関門海峡

 後年「来島の戦い」と呼ばれる戦いを制した俺は村上水軍だけでなく毛利家の一角小早川隆景が率いる小早川水軍をも打ち破った事から毛利家とも戦後処理をする事が必要になった。

 毛利家との条約の締結文の作製の為に、小早川隆景の実兄で毛利家当主の毛利隆元と父親の毛利元就に面会することになった。

 それで二人の住む居城である郡山城に赴くことになったのだが。

 条約を有利に毛利家と締結するとすれば何を提示するのが得策なのか?


 毛利家の現状は大内家の当主大内義長を倒して安芸の国(現在の広島県)を手に入れて勢いに乗っている。

 中国地方で毛利家と対抗できる勢力として残ったのは尼子家で、ここは家臣団の団結も強くそのうえ石見銀山という経済的な基盤を支える鉱山を有する。

 また毛利家としても自分の目の前に石見銀山という美味しい得物があれば、喉から手が出る程に欲しいはずだ!


 それで俺はその面会の場で


「毛利家が喉から手が出るほどに欲しがっている、尼子氏が支配下に置く石見銀山を手に入れるのを手助けをしてやる。」


と毛利家にとっては飛びつきたくなるような有利な話から始めたのだった。

 石見銀山を攻略する事は毛利家としても有利であり、俺としても石見銀山を攻略する手助けとして織田家の艦隊を率いて石見銀山付近を艦砲砲撃する。

 これにより瀬戸内海の制海権を手に入れることができる。

 問題は瀬戸内海から日本海側に出る為には関門海峡を通過しなければならない。

 この関門海峡とは長門国(現山口県)の下関と豊前国(現福岡県北九州市付近)の門司港の間にある海峡で、全長約50キロにも及び最狭部では500メートルから600メートル程しかない。

 その関門海峡には平安時代末期・寿永2年(1185年)に平家が滅亡に追いやられた壇ノ浦の戦いで有名な壇ノ浦や、宮本武蔵が佐々木小次郎と戦った巌流島などがある。


 本州側の長門国は大内家と毛利家が厳島の戦いの結果大内家を破り毛利家の支配下に入ったもので、対岸の九州側の豊前国は大内義長の実兄大友宗麟(義鎮)が治めているのだ・・・う~んどいう事? 

 大友宗麟の実弟大内義長が大内家の当主になれたのは、天文20年(1551年)大内義隆が家臣の陶隆房の謀反により敗走自害したことから大友宗麟が陶隆房の願いを受けて実弟を大内家の当主の座に送り込んだのだ。・・・閑話休題。


 つまり弘治元年(1555年)厳島の戦いで毛利元就が大内義長を破り弘治3年(1557年)にはついに大内義長を毛利家は敗死させている。

 大友宗麟が実弟の大内義長を敗死させた毛利家に対して悪感情を抱いているのは当然の事と言える。

 大友宗麟と言えば切支丹キリシタン大名としても有名である。

 切支丹大名になったきっかけがフランシスコ・ザビエルにキリスト教の布教を許した事に始まるが・・・アレアレ?

 彼の乗ってきたポルトガルのガレオン船はキャサリンが指揮していたヘンリー8世号の砲弾で転覆して生存者はマハラジャのサーシャさんだけだった。

 という事はこの小説では大友宗麟は切支丹大名になっていない事になるのでは?


 フランシスコ・ザビエルの関係でポルトガルから支援を受けて前装式だが青銅砲を手に入れていれば最大射程距離が1キロ程あるので関門海峡の最狭部にこの砲を設置すれば対岸まで十分に届くというものだ。


 不確定要素だがまずい・・・非常にまずい!

 関門海峡を織田家艦隊が毛利家が治めている長門国(現山口県)の下関側を通過すると言っても織田家の艦隊自体が旗艦とする浮きドックの他に現時点で世界的に見ても類を見ない巨艦のガレオン船さらには日本最大の和船・安宅船を多数引き連れて通過するのだ。

 とてもじゃないが毛利家と通商条約を結び自由に瀬戸内海を動き回れる織田家の艦隊を大友宗麟が面子に掛けても自分の庭先と言える関門海峡の通過を許すとは思えないのだ。


 ただ織田家艦隊が保有する鋼鉄製の大砲は側面の砲がでも有効射程距離が5キロもあるのだ。

 これだけの強力な大砲を幾門も備えた艦隊と戦うには最大の和船である安宅船を何艘集めても敵うわけがないのだが、大友宗麟側に前装式でも青銅砲を持っていればどうなる。・・・「驕れる者久しからず」と言うではないか敵を矮小に侮ってはいけない!「窮鼠猫を嚙む」桑原桑原!!

 

 結論から言えば石見銀山攻略の第一歩として大友宗麟と敵対してでも関門海峡を安全に航海する為さらには九州の足掛かり・橋頭堡として大友宗麟が支配する九州側の門司港も押さえてることになったのだった。

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