第105話 毛利の居城へ

 来島海峡における来島村上水軍の拠点、来島に熱気球による世界初の爆撃が行われ、さらには四隻のガレオン型戦艦の41センチ主砲等の砲撃により来島の島全体を覆うように建築された城郭は焼き尽くされ、織田家水軍に対抗する為に集められた能島・因島・来島三家の村上水軍、それに応援に駆け付けた毛利家の小早川水軍の大小様々な船の大半が燃え上がり使い物にならなくなってしまった。


 事ここに至れば降伏するしかなく、降伏の使者として三家合同の村上水軍の総帥村上武吉と小早川水軍の総帥小早川隆景が織田家の旗艦にしている浮きドックに向かった。

 織田家の旗艦としている浮きドックに乗艦した。

 村上武吉とは一悶着あった・・・使者を死者にしたら徹底的に戦うことになるので生かしている・・・が、両名とも


「我ら村上水軍・小早川水軍は無条件降伏し、小早川隆景と村上武吉の両名は織田家の人質(捕虜)となるので、これ以上の攻撃はしないで欲しい。」


と懇願してきた。

 俺は両名を武装解除後、浮きドックの一角に洋館風に建てた三階建ての迎賓館(俺や親父殿等の居住区で、艦隊の司令室を兼ねている。実は石造りにしたかったのだが重いので木造建築だ。)の俺の執務室に招き入れた。


 その部屋の壁には、堺の商人から買い上げた地球儀から写し拡大した巨大な世界地図・・・この時代まだされていないので変な地図・・・が下げられ、その前に置かれた応接セットの一人掛けのソファーに西洋の海軍提督風に作った服装を着た俺が腰かけている。

 俺の前に応接セットの背のあまり高くない机が置かれ、その上に先程の地球儀も置かれている。


 両名が俺の前の応接セットの3人掛けのソファーに座る。

 メイド姿になったキャサリンが給仕して、ティーセットを俺や両名の前に置くと、俺と両名の前のティーカップに紅茶を注ぐ。

 俺は紅茶の匂いを嗅いでから優雅に紅茶を飲み干す。


「見ての通り毒は入っていないぞ、これから貴公等との交渉だ。

 喉が渇くぞ飲んでおけ。」


 両名とも俺の洋装のいでたち、壁の世界地図、地球儀、西洋式の机や椅子、そしてメード姿の金髪碧眼の美人からお茶を入れてもらってそれだけで腰が砕けそうになっていた。

 ただ俺の発したとの言葉を聞いて、思わずティーカップの紅茶を飲み干した。

 俺としては


『織田家が持つ商船が瀬戸内海を航行する際の安全確保と織田家にとって毛利家との有利な通商条約の締結、それにほぼ壊滅した村上・小早川水軍の再建に織田家が手を貸す(織田家の傘下にする)ことだ。』


を目指しているのだ。

 この来島の戦いの戦後処理として両名は


「村上家からは村上武吉が毛利家からは毛利元就の孫(天文22年〈1553年〉生まれ)で僅か6歳になる毛利輝元(幼名幸鶴丸)を人質(捕虜)として差し出す。」


と申し述べたが僅か6歳児で、次期毛利家当主になる人物なのでこちらの方が手がかかる。・・・う~ん元服前の小学1年生ぐらいか・・・せめて元服してからにでもしてもらえないか。

 俺の沈黙を見て小早川隆景は


「捕虜の件は当主の毛利隆元と父毛利元就と会見するまで俺がこのまま捕虜となり、その会見で今後の人質(捕虜)について話し合おう。」


と申し述べた。その時俺の唇が綻んだのを見られたか小早川隆景もニヤリとする。

 これから戦後賠償だ。・・・う~ん俺が費やしたのは砲弾や火薬等の消耗品で物的人的被害が無いが

 織田家の商船等の通行安堵の通行証の発行、それに村上水軍が行っている通航料を取ることをやめ、入港した際のみ織田家以外の船から港湾手数料を取ることを許した。

 そして織田家にとっては有利な通商条約の締結だ。

 通商条約の内容としては、織田家が村上水軍や毛利家内での尾張屋、三河屋等の出店許可、出店した尾張屋、三河屋等の店舗の売り上げから税金を取り立てない等が主な内容だ。


 手始めに来島水軍の拠点である来島にある城を廃城・・・焼き墜ちて今は更地だ殊更廃城にする必要は無いが・・・にして、そこに尾張屋、三河屋等の物流拠点の倉庫群を建設することになった。

 確かに来島自体が爆撃や砲撃で城のあった後は更地の状態になっているので、倉庫群の建設は容易い事だ。

 これには随伴する鉱物資源等の運搬に係わっていた何艘かの通常型の関船が担う事になった。・・・それに燃え残った村上水軍や小早川水軍の船にも手伝わせる。

 ここで村上水軍は総帥の村上武吉が捕虜なので通行証の発行などは問題ないが、毛利家の通行手形の発行や通商条約の確約には現当主の毛利隆元の署名が必要だそうだ。・・・それらを送って来てもらうよりも貰いに行った方が速いうえに条約の締結は重要な事だ。

 それに村上・小早川水軍の再建に織田家が手を貸す(織田家の傘下に入る)事については毛利家当主の毛利隆元とその父親の毛利元就との対面が必要になった。


 毛利家当主毛利隆元は大永3年(1523年)生まれで36歳、この年から4年後に酒毒で急死している。・・・それで輝元は10歳になるかならないかで毛利家の当主になったのだ。

 毛利元就は明応6年(1497年)生まれで、この時62歳、この9年後の71歳で亡くなっている。


 毛利元就の居城は郡山城(現在の広島県安芸高田市)にある。・・・広島駅から芸備線に乗って吉田駅口で下車し北東方向で直線距離で約4キロの山の中である。

 ざっくりと言えば広島駅から北西約20キロの地点だ。

 確か今は毛利家は西国の雄、尼子氏と石見銀山を巡って臨戦状態のはずだ。


 史実では織田信長と毛利家とは当初友好関係にあった。

 ところが毛利家が対立する尼子氏を滅亡寸前にまで追い込んだのだが、その尼子を織田信長が庇って仲違いしている。・・・織田信長が将来的に日本統一の際邪魔になる毛利家討伐の戦略的なものか、単に

『窮鳥懐に入れば猟師も殺さず』

という思いで尼子を庇ったかはわからないが、両方の思いがあって他から見ると優柔不断に見えたのではないかと思う。


 それよりも毛利家と尼子氏の争点である石見銀山についてだ。

 この時代の前後から日本は銀の世界一の輸出国になっていくが、これは銀と金の相場がヨーロッパ諸国とは違い大損していたとみるべきだ。・・・例えば幕末には金1に対して銀5の比率(金銀比価)で日本国内では取引されていたが、諸外国では金1に対して銀15で取引されていたので、当然僅かな金で大量の日本の銀が輸出されていったのだ。

 黄金の国ジパングと言う程金が産出?されていたことが日本とヨーロッパ諸国との金銀比価の差となって現れてしまったのだろう。

 勿論、金銀比価は時代によっても変わるが・・・この時代はマッタク!


 先ずは毛利家と尼子氏の争点である石見銀山を毛利家の支配下に置くこと。

 次にこの当時世界一の銀の輸出国になるのだが金銀比価で日本が大損してはいけない、日本が銀の輸出国と言う事は世界的に見て銀が欠乏しているのだ。

 金銀比価をヨーロッパ諸国より金1に対して銀16のようにほんの少し高めにして売る。・・・う~んそれでも世界的に見て銀が欠乏して喉から手が出るほど欲しがっている銀なので多少高くなってもヨーロッパ諸国で売ることが出来るはずだ。この事は死ぬまで毛利家を支えた毛利元就との話し合いが必要であり、銀販売の商売相手になるポルトガルやスペイン等の外国勢力との関係も重要になってくる。


 何はともあれ、毛利隆元と毛利元就との会見だ。

 火縄銃を売る為もあるが浮きドックを旗艦とする艦隊の中から303名の兵を陸戦隊の兵士として選び、根来寺(和歌山県岩出市)や国友村(滋賀県長浜)で国産化している火縄銃を持たせる。

 この火縄銃はごてごてとした装飾はされておらず実用的な火縄銃で事が終われば毛利家に渡すつもりだ。

 ただ友好条約を結ぶとはいえ日本国統一を目指す織田家の傘下に毛利家は未だ入っていないので織田式鉄砲つまり薬莢利用の連発銃の供与は出来ない相談なのだ。


 陸戦隊303名のうち3名は小隊長で各々が100名の部下を指揮する。

 それに青銅砲も売りつけようと思ったが、現在の広島駅から郡山城は直線距離で約20キロの舗装もされていない道路・・・今では舗装された直線道路が普通で想像がつかないと思うが、人が歩かなければ草が生え、雨が降ればぬかるむような人一人がやっと歩けるような曲がりくねった獣道のような道だ。・・・を重い青銅砲を押したり曳いたりしていかなければいけない。


 石見銀山を巡って毛利家と尼子氏とが厳しく対立しているが、この青銅砲を使用するとしても、現在その石見銀山は尼子氏の支配する出雲国(今の島根県側)に存在して、さらに郡山城から北へ30キロも山岳地帯(中国山地)を越えて行かなければ石見銀山には到達しない。

 日本海側からならば5キロも無い。

 織田水軍が日本海側から砲撃をしつつ、毛利家へ派遣した織田家の陸戦隊が中心となって石見銀山を制圧する。・・・う~ん!?これで織田家の株は上がるが誰を陸戦隊の隊長にするかだ。・・・う~ん俺の弟で織田信包16歳を大将にして参謀に猿(木下藤吉郎)23歳を付ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る