第104話 村上・小早川水軍降伏
村上水軍には拠点の島を冠して能島・因島・来島村上水軍と三家に分かれていた。
特に能島・因島は地理的にも近く以前、巌島の戦いで共同戦線を張った毛利家とも繋がりが強いためにこの二つの島を避けて来島・来島海峡を抜けていく航路を取った。
来島に対する威力偵察を何と俺の実の妹達である市と犬の二人が熱気球に乗り込んで行いその際この世界で初の爆撃を行った。
これにより来島村上水軍の本拠地である来島が紅蓮の炎を上げ、来島に取り付くように係留していた多数の艦船も炎を上がっている。
もはやこの状況に至っては来島に集まった村上水軍も降伏するしか手は無かった。
燃え上がる来島に集まった村上水軍の艦船の間から若い武将が白装束に身を包み戦国武将の使者の装い(竹竿の先に笠を刺して)で小舟に乗って現れたのだ。
小舟の艪を漕ぐのは俺と同年配の半裸の若い男で日焼けして逞しい。
その男の力強く漕ぐ艪によって確実に織田家の旗艦にしている浮きドックに向かって進ませてきた。
使者の若い武将は笠を刺した竹竿を立てて小舟の中央に胡坐をかいて座っていた。
使者が現れた段階で主砲は沈黙して、夜の
使者が旗艦の浮きドックの側にきて
「我は小早川水軍の総帥、小早川隆景である。
同行している者は村上水軍の総帥である村上武吉である。
小早川水軍も村上水軍も降伏する。」
と大声を上げる。
どうやら俺が九鬼嘉隆や斎藤義龍を許した状況が喧伝されて、俺の懐に飛び込めば許されると思われているようだ。・・・『窮鳥入懐』か・・・つまり
『窮鳥懐に入れば猟師も殺さず』
という事か思惑通りにしてやるか。
縄梯子を降ろしてやると半裸の男が、腰に巻いた着物に腕を通してその縄梯子をスルスルと登ってきた。
そのまま旗艦にしている浮きドックの甲板にドカリと
この胡坐をかいた男は村上水軍の村上武吉であり
『南蛮船や変わった船を織田家が造船したと聞いた。・・・う~んこの変わった船は何と巨大でその船の中に造りかけと思われる見たことも無い大きな船があるではないか?
それにこの船の周りにいる南蛮船や安宅船の前と後ろの火縄銃を大きくしたものが来島の城やその周りに係留していた船を燃やした焙烙火矢を飛ばすやつだな?・・・何とかよく見れない物か?
しかしどいつが織田信長だ?・・・場合によっては腰の短剣で切る!』
等と考えていた。
村上武吉の後から小早川隆景と名乗った青年武将が甲板に登り武吉の横に品良く正座で座ると
「我ら小早川隆景と村上武吉の両名は降伏し捕虜となるので、これ以上の攻撃はしないで欲しい。」
と懇願した。
まずは瀬戸内海の覇者である村上水軍と中国地方の雄、毛利家で三本の矢の一人である小早川水軍の総帥・小早川隆景を降伏させた。
これで当初の目的である瀬戸内海の航海権を手に入れることができた。
一つ目的を達成すると欲は出るものだ。
織田家が日本国の航海権を手に入れ、それによって海運業を独占し、点在する他の戦国大名や有力豪族との間に織田家にとっては有利ないわゆる通商条約の締結をしていこうというものだ。
それにもう一つが優秀な人材・・・目の前に小早川隆景という後世の教科書にも名前の出る逸材がいる。・・・の発掘と織田家への確保だ。
そしてもう一人村上水軍の総帥・村上武吉で彼は本来、能島水軍の大将で先にも書いた毛利元就と陶晴賢の巌島の戦いの際に毛利方につき武名を高めた。
今回は俺という共通の敵を前にして、能島・因島・来島村上水軍が各々の地理的要因などで各大名との繋がりや思惑があったが一丸となって戦う為に村上水軍合同軍の総帥に祭り上げられたのだ。
二人の前に俺が樫の木でできた木刀を両手に杖のように正面に立てて立ち塞がり
「よが織田信長じゃ。
降伏の具体的な内容は?」
と声をかけると、小早川隆景が答えようと面を上げた。
俺が小早川を見ると、それが隙と思ったのか武吉は腰に隠し持った短刀を抜き、腰だめに構えるや俺に体当たりをするように突いてきた。
俺は
「ふん!」
という気合と共に杖のように突いていた木刀の柄頭を突き出すようにして武吉の腰だめにした短刀を打ち落とす。・・・全剣連居合の十本目『四方切り』の際の相手の柄を持つ手を打ち落とす要領で打った。
武吉の短刀を持つ手にはっしと俺の木刀の柄頭が当たる。
あまりの痛さに武吉の手から短刀が打ち落とされ、その勢いで武吉の体が前のめりになる。
前のめりになり態勢が崩れた武吉の顔面に向かって俺は短刀を打ち落とした勢いそのままに木刀の柄頭を炸裂させる。
武吉は前のめり姿勢から俺の柄頭が顔面に当たる勢いで後方へと吹き飛ばされていく。
鼻血を盛大にばら撒きながら武吉が
『ドン』
と仰向けに倒れる。
それを見て
「あらあら!?」
と言いながらおかよさんと桜子が武吉を助け起こそうとするのを
「よせ!」
と言っておかよさんと桜子を木刀で制した。
手応えが無さ過ぎた。
打ち落としも顔面当ても当たる寸前に、短刀を落としたり後ろにのけぞったりして逃げていたのだ。
俺は倒れた武吉に対して
「効いていないだろう?」
と声をかけると頭を掻きながら武吉が起き上がり
「一人でも捕まえれば交渉が上手くいくと思ったのだが、参りました。
俺のことはどうなっても構わないが配下の水軍は織田家が使ってやってください。
俺達村上水軍は無条件降伏ですわ。」
と言って正座して腕を後ろで組んだ。
「ふん。
ところで小早川水軍はどうするのだ。」
と俺が小早川隆景に問うと
「我々小早川水軍も無条件降伏ですが・・・。
降伏文書作成の為、父毛利元就と毛利家当主である兄毛利隆元会見していただきたい。」
と申し出てきた。
という事は毛利家の拠点まで行く事になる。
毛利家の拠点はほぼ瀬戸内海の終点、そこまで行けるという事は実質的にも瀬戸内海を掌中に収めたことになるのだ。・・・断る手はない!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます