第103話 爆撃

 永禄2年(1559年)俺は24歳になった。

 この年、大阪湾の制海権を一寸した隙に村上水軍に奪われてしまった。

 これを奪回すべく造船中の海王丸を造っていた巨大な浮きドックを旗艦にしてその不埒な村上水軍を討伐する事にした。

 巨大な浮きドックを押したり曳いたりするのはなんと蒸気機関を搭載した安宅船で全長55メートルに及ぶ『尾張丸』と同型の『駿河丸』『三河丸』『遠江丸』『桑名丸』と命名した5隻である。

 またガレオン型の戦艦海進丸、海洋丸、ヘンリー8世号、欧州丸も続き、現代風なヨットの帆を張った関船5隻やその他食料等の運搬船用の関船が多数続く。

 運搬用の関船はほとんど武装しておらず、食料や交易品等の運搬に使うので数字は変動的なのだ。


 大阪湾での制海権を巡っての村上水軍との戦いは、俺の率いる艦隊の大砲に対して村上水軍は命中精度から当て難いと踏んで小舟300艘を使って決死の覚悟で接近戦を仕掛けたが、これをいままでの火縄銃よりも有効射程距離が長く、命中精度も高いうえに連発も可能な織田式鉄砲を使って撃退した。

 今度は反撃とばかりに村上水軍が制海権を有する瀬戸内海へと分け入った。


 日本における交易の為の航海権を握る為の弊害となって立ち塞がるのが瀬戸内海の制海権を持つ海賊、村上水軍の存在だ。

 彼等がいる限り、織田家の商船等が瀬戸内海を安全に航行することが出来ない。

 織田家の商船等が瀬戸内海を安全に航行するために村上水軍を壊滅か懐柔する事が必要だ。・・・う~ん懐柔か!?そうは言っても大阪湾での航海権の取り合いで村上水軍とは厳しく対立している。これでは村上水軍を懐柔する事ができるかな?


 村上水軍特に能島村上水軍については天文22年(1555年)の厳島の合戦の際に毛利方に味方し、毛利家と結びつきが強くなっているので、俺が瀬戸内海に進出すると毛利(小早川水軍)が出てくる可能性が高いのだ。


 村上水軍の拠点は今で言う広島県尾道市から愛媛県今治市を結ぶ橋で出来た瀬戸内海を縦断する『瀬戸内しまなみ海道』の間に点在する島々の中にあり、これにより村上水軍は他船の航行を阻止できる。

 その村上水軍は拠点とする島の名称を冠した能島村上・因島村上・来島村上の3家に分かれている。

 俺は村上水軍に味方するであろう毛利(小早川水軍)の領地から出来るだけ離れた場所でかつ村上水軍の3家のうち能島村上と因島村上を避ける形である残りの来島村上が活動の拠点としている来島海峡を航行することにしたのだ。


 来島海峡は四国愛媛県今治市と瀬戸内海に浮かぶ大島の間にある海峡である。

 その四国愛媛県は伊予国と呼ばれ今治市周辺は河野家が統治している。・・・ちなみに四国は群雄割拠しており伊予国は河野家の他には宇都宮、西国寺の3名もの大名がいた。

 その来島海峡には来島と言う小島があり、その島全体が来島村上水軍の本拠地となっており島全体が城で要塞のようになっているのだ。

 確かに来島海峡を巡って伊予の国内の三つの大名・・・今のところは河野家との結びつきが強いが・・・それに来島村上水軍が争うような場所であり、戦略上においても微妙な場所にあるのが来島海峡なのだ。

 それでもまずはこの来島海峡さえ抑えれば織田家の商船等が瀬戸内海を安全に航行できる航路を確保することになるはずだ。


 やっと前回の話の続きに入るが・・・来島村上水軍の本拠地である来島の様子を空から観測するために、信長と同母(土田御前)で12歳になる市と犬の姉妹が俺と松様、マハラジャのサーシャそして大隅益光が加わって作成した新兵器の熱気球を使ってのために乗り組んだ。

 その熱気球がふわりと旗艦にしている浮きドックの甲板から飛び立った。

 ほんとよく考えれば熱気球による世界最初の有人飛行の成功者が俺の二人の妹達だ!戻ってきたら一緒に美味いものでも食べるか!


 浮きドックの上にある熱気球を降ろす為の巻き取り装置が逆回転してロープ・・・細い凧紐・・・を送り出して、さらに熱気球の高度が増していく。

 二人の乗る熱気球が高度100メートル程になった。・・・う~んこれで織田家が売り払った火縄銃の有効射程距離を越えた。この高度なら安全だが不測の事態、青銅砲を無理やり角度を上げて撃たれたり、熱気球のロープが切れたり・・・不吉な事を考えるのは止そう。それに村上水軍や毛利家には青銅砲を持っていないはずだ。


 熱気球は順調に高度を保ちながら来島に向かって進む。・・・う~ん実は人力飛行機の応用で自転車を漕ぐように足でプロペラを回しているのだ。

 その来島上空に来た熱気球から


『チカチカ』


と織田式光信号(モールス信号)が送られてきた。

 内容は


『我の足元に敵艦隊見ゆ。敵艦船多数。』


と言うものだ。・・・多数とは他の村上水軍も集結してるという事か?今治市側の河野家とは話が付いているのか?さらに


『チカチカ』


と織田式光信号が送られる、内容は


『我敵艦隊を爆撃する。』


と言うものだ。

 この世界で初めての爆撃が行われた事になる。・・・1930年後半になってやっと航空機による爆撃が行われた事を考えると・・・少しやり過ぎか?

 最初の爆撃手は市で犬が足踏みペダルでプロペラを回し、方向舵を動かして位置の調整をする。


「チョイ右、あと30メートル前進!」


「わかったは姉様。・・・ウンショ、ウンショ。」


とペダルを踏んでじりじりと前進する。


「位置よおーし、投下!」


籠の爆弾投下穴から焙烙玉を改良した焼夷弾が落下された。

 闇夜の中を黒い小さな焼夷弾が


『ヒュルヒュルヒュル』


と音をたてながら落ちていく。


 史実では焙烙玉は天正6年(1576年)の第一次木津川口の戦いで織田家(九鬼水軍)が村上水軍と戦いで、村上水軍が焙烙玉を使って散々に織田家(九鬼水軍)を打ち破った代物だ。


 俺はこの焙烙玉は桑名の戦いで九鬼水軍等を相手に使った事もある代物で、今回は燃焼材をたっぷり仕込んである。

 炮烙玉は焼夷弾の初めみたいなものだ。・・・今世で村上水軍に対してその仕返しだ?・・・歴史を知っててやる俺て小さい男かな?


 その焼夷弾は織田家の水軍に対抗する為に集まっている村上水軍の中でも一際大きな船・・・安宅船か?・・・に命中して炎上させる。

 この炎のおかげで明るく照らされた島の様子も見えてくる。

 来島村上水軍の本拠地である来島はそれほど大きな島ではなく小島自体が城と呼べるような状態で要塞化している。・・・その小島を中心として大小様々な船が見事に集まっているのだ。


 今度は熱気球を更に動かして島の中央にある城の天守閣目がけて焼夷弾を落としたところで


「姉様、疲れた交代して!」


と言って、市と犬の姉妹が場所と役割を交代した。


「島の真中が燃え上がったのでよく見える。よし燃えている船の反対側に係留されているさっきよりも一番大きな船を発見。

 左に少し舵を切って、投下!」


 その結果を確認しよとしたところで、熱気球が『グイ』と係留ロープが巻き取られたのか織田家の旗艦にしている浮きドックに引っ張られる。

 砂時計を見ると30分を超えている。・・・松様や大隅益光の言うガス(燃料)切れの時間になった。

 そのまま巻き取り装置が働いて無事に旗艦の甲板に降り立った。


 これから織田家が保有するガレオン型戦艦、海進丸や海洋丸、ヘンリー8世号、欧州丸による炎を上げる来島村上水軍の船や城に向かって艦砲射撃を開始する。

 熱気球から落とされた焼夷弾は、来島村上水軍の本拠地の城が燃え上がらせ、来島村上水軍の関船と後で戦果の確認で判明したが応援として駆けつけた毛利家(小早川水軍)の安宅船2隻を燃え上がらせたのだ。

 その炎を上げる城や安宅船は良い目標となり、また燃え盛る安宅船の周辺には大小様々な船が集まっていた。

 その炎の目印に向かって織田家の誇る4隻のガレオン船が積んでいる主砲から


『ズードン』『ズードン』『ズードン』『ズードン』


と焼夷弾が次々と発射される。

 この主砲は旧日本海軍が大和や武蔵が造船される前に誇った戦艦長門の口径41センチ主砲と同等の有効射程距離が30キロにも及ぶ、俺が10万貫(現在価格12億円)で堺の有力商人に売り払った青銅砲等は1キロも飛ばないのだから反則だね。

 それに地球は丸い、身長170センチの人で水平線が見える距離が約4,6キロしかないから、全く見えない所から攻撃できるのだ。


 主砲から発射された焼夷弾は炎の範囲をさらに広げる。

 来島の城に逃げ込もうとしても、天守閣の炎目がけて焼夷弾が降り注ぎ他の建物までもが延焼して燃え上がり火の粉をまき散らしているので、城から逃げ出す人によって押し戻される。

 炎に逃げ惑う、何とか燃える僚船から船を切り離して沖に逃げようとしても巨大な4隻のガレオン船と現代風のヨットの帆を張った関船5隻が行く手を阻む。


 来島村上水軍の本拠地である来島が紅蓮の炎を上げ、来島に取り付くようにしていた多数の艦船も炎を上げる。

 もはやこの状況に至っては来島村上水軍も降伏するしか手は無かった。

 燃え上がる来島村上水軍の船の間から若い武将が戦国武将の使者の装い(竹竿の先に笠を刺して)で小舟に乗って現れたのだ。

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