第98話 日本一周旅の開始

 元将軍足利義輝を今川館(駿府城)で師塚原卜伝に引き渡した。


「義輝を義輝の剣の師匠・塚原卜伝の住む常陸(茨城県)の鹿島神宮に送れ。」


と天皇家より命じられたが、直接常陸の国の鹿島神社に行ったところで領主の佐竹義昭や途中の小田原の北条・下総(千葉県)の国の千葉氏・安房の国の里見氏が砲艦外交を行っている俺の存在に対して黙っていないはずだ。

 また直接常陸の国の鹿島神社に送ればその地方の領主である佐竹義昭と友諠を結ぶ事になる。

 ただ実際に常陸の国を掌握するのは佐竹義昭の息子で後年『鬼義重』と恐れられた佐竹義重・・・天文16年(1547年)生まれなので今年10歳・・・である。

 それで佐竹義昭と友諠を結ぶ必要性を感じていなかったところ


「塚原卜伝に身柄を直接引き渡しても良い。」


と追加で言われたのでこのような仕儀に至った。

 その際俺と義輝は雌雄を決すべく木刀で闘った。

 その際渾身の一撃を加えようと振った木刀が空中でお互いがぶつかりあって柄を残して粉砕した。

 お互いの禍根も木刀が粉砕されたように雲散霧消・・・う~んするわけがない!

 俺も義輝も禍根は残ったが木刀が粉砕されたので戦えなくなっただけだ。

 審判役の塚原卜伝も試合の終了を宣言している。


 ところで後日鹿島神宮に戻った塚原卜伝からなんと印可状が俺宛に届けられ、その印可状の他に


『5年後再戦を願う。』


との義輝からの書状も添えられていた。


 塚原卜伝と義輝が去った今川館では俺と今川義元は弟秀孝暗殺事件により切れかかった縁を結び直す話し合いがもたれた。

 秀孝が亡くなったと聞いて義元の孫娘は泣き暮らしていたが、新たな縁を結ぶべく現れた俺の兄弟の仲では腹心ともいえる織田信興との顔合わせである。・・・織田家は美男子が多い秀孝はその中でも優れていたが信興もなかなかの男前である。・・・う~ん義元の孫娘落ちたな!


 これで再度同盟がなった。・・と喜んでいたら凶報が届いた!


『瀬戸内海の海賊・・村上水軍・・が大阪湾にて織田家の関船を攻撃した。

 それに村上水軍から


「許可なく織田家の艦船が大阪湾に侵入するな!」


との通報も受けている。』


との内容であった。

 俺は直ちに反転して村上水軍討伐に向かう事にした。


 そこで今度は吉報が波切城から届いた。


 志摩半島の波切城には前世の記憶を有するサーシャがいるのだ。

 そのサーシャから


『大型の安宅船を動かせるピストン運動の蒸気機関の試作機が出来上がり、安宅船5隻に蒸気機関を載せた。』


というものだ。

 安宅船は天正元年(1573年)に信長が琵琶湖に長さ30間(約55メートル)を建造したそうだ。

 

 サーシャは波切城で以前から産業革命の花形


『蒸気機関』


を開発中であった。・・・と言っても特にサーシャの前世は隣国K国のロケット工学の権威だった・・と言う記憶があるので蒸気機関どころかガソリンエンジン・・ジェットどころかロケットエンジン・・までも作成することが出来るのだ。・・・う~んところがどっこい現実の技術力が伴わないのだ!


 実際に天文19年(1550年)にヘロンの蒸気機関を俺とサーシャで俺の親族や鍛冶師達に造って見せたが・・・単なる玩具としてしか見てもらえなかった。

 ヘロンの蒸気機関をどうやって使ったら良いのかと言う発展が考えられなかったのだ。

 問題は無知で無教養であり、さらに事の重大さが判らない技術者・・鉄砲鍛冶などの鍛冶集団・・によって仕事が遅々として進まなかったことだ。

 蒸気機関のボイラー一つとっても、いまだにこの時代の鍛冶師は強度よりも見た目を気にしてボイラーの爆発事故が頻発する。

 サーシャが設計してピストン式蒸気機関を造りだしたが、より圧力の高いボイラーを造ろうとしても見た目だけで粗悪なボイラーで圧力を高めると爆発事故を起こしたりしても改良が加えられなかった。・・・そのために低い圧力しかでないためにとてもガレオン船の様な大型船どころか地上を走る機関車としても使えなかった。


 しかし京都芸術大学を建てたことで俊英が集まってきた。

 その中でも若き刀鍛冶師で京都芸術大学の助教となった大隅益光を蒸気機関開発チームに招き入れたところ、今までの努力とさらに彼の熱意と尽力によって高い強度を持つボイラーとスムーズにピストン運動を行う蒸気機関を何とか完成する事ができた。・・・大隅益光も何やら前世の記憶があるようだが本人もよく分かっていないようだ。

 ピストン式蒸気機関の次に狙うは蒸気タービンの開発だ・・・う~ん気が早かった。


 出来上がったピストン式の蒸気機関を鉄道や船の動力にすることにした。

 ピストン式の蒸気機関は鉄道では有効であったが、船の様な巨体を動かすにはエネルギー効率の面で悪いのでやはり蒸気タービンの開発に取り掛かったのだ。

 船の心臓部の蒸気タービンが出来れば熱効率が格段に向上する。

 それに史実では帆船から蒸気機関を使った外輪船へ、さらにはスクリューへと変わっていくのだが、俺は最初からスクリューを装備するように指示を出していた。


 開発に成功したピストン運動による蒸気機関を関船よりも一回り大きい安宅船5隻に積載し、調整と水兵の訓練航海を待っているところである。

 また造船中であり竣工すれば世界でも最大、全長120メートル幅15メートルにも及ぶ海王丸に蒸気機関によって動くスクリューを装備するように設計図に改良が加えられていった。

 マストの無い船が安全な蒸気機関によって海上を滑るように進み、それだけでなく蒸気機関によって主砲の砲塔が回り、砲身が上下するような時代が間も無く来るようだ。


 実はこの場所でもう一つ秘密裏に造っているのが、気球船・・・熱気球だ。

 これが出来れば上空からの偵察任務や場合によっては爆撃も出来るようになり、戦略的にも戦術的にも織田家が優位に立てるようになる。


 波切城で蒸気機関積載の安宅船5隻を受け取り大阪湾に向かい村上水軍を討伐する。

 これは


『織田家が日本の海運業を独占する。』


第一歩になるはずだ。

 海洋丸は波を蹴立て波切城についた。


 そこには改装なった織田家旗艦海進丸、ヘンリー8世号そして欧州丸の3隻さらに蒸気機関を載せた安宅船5隻さらには、サルベージ船を改良した浮きドックの中には建造中の海王丸までもがつき従って大阪湾に向かう事になった。

 大阪湾を掌中に納めたら瀬戸内海を経て、日本海を北上し北海道に至り今度は太平洋に出て波切城に至るという永禄2年(1559年)に日本を1周し


『織田家が日本の海運業を独占する。』


という砲艦外交の旅に出ることにしたのだ。

 実は他にも目的があるそれはこの時期では上杉家がいまだ領有していない佐渡の金山や銀山、それにできれば日本国内で産出される油田の確保をするのが目的だ。

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