第86話 瀬田川の戦い・瀬田の唐橋の戦い

 皇女松様を三好三人衆や松永久秀の暗殺と言う魔の手から救出し、その皇女松様を乗せた旗艦海進丸も今度は名称を瀬田川と変えた川の流れに逆らって一路琵琶湖へと風を受けて進む。

 瀬田川と名称を変えて少し進んだ付近から川幅が硬い岩盤となりその為に狭くなっているが、狭いと言っても川幅は180メートル以上もあるので旗艦海進丸でも余裕で進むことができる。

 段々と琵琶湖と瀬田川のさかいにあるあの有名な


『瀬田の唐橋』


に近づいてきた

 この当時橋は無い。・・・史実では初めて擬宝珠ぎぼし(ネギのような飾り)の付いた本格的な橋


『瀬田の唐橋』


を後年実は織田信長が架けているのだ。

 どうやら今見えてきたのは小舟を繋げた浮橋のようだ。


 東の空が赤みを帯び始めたので、そろそろ朝日が昇るようだ。

 俺は朝焼けの美しい景色を見ながら朝のお茶でも飲もうとメインマストに登る事にした。

 マストの網に足を掛けると誰かが俺の背にしがみついた。


 刀の鍔で右目を覆った幼女が小さな手でしがみついている・・・皇女松様・・・と知れた。

 俺は安全の為、背にしがみつく皇女松様をリュックサックで固定してましらのようにするするとマストを登り上部にある見張り台についた。

 安全ベルトでは無いが縄で二人とも体を固定する。

 リュックサックの中からボトルを出して、カップに暖かい紅茶を入れる。


「暖かい?ヘエ~魔法瓶か!?」


と皇女松様が周りに俺以外誰もいないので思わずつぶやいた。

 俺も以前もらった飛行機を描いた絵を思い出して


「零戦に、ジャンボジェット。」


と言うと松姫様が俺の顔をまじまじと見て


「やはり思った通り其方そのほうも転生者か?」


と言われた。

 前世の事でも話し合おうとした時、目の端で小舟を繋げた浮橋付近の琵琶湖寄りにに船の帆が見えた。

 その当時では当たり前の四角い帆で大きさは関船ほどだ・・・国内の和船で最大船だ。・・・俺は双眼鏡で見なくても遠くのものがよく見える程目が特に良い!


『敵船見ゆ』


と伝声管と織田式手旗信号で連絡する。

 眼下の甲板を水兵達が走り回り、戦闘準備のために前部(船首)砲塔の砲口に被せてあった蓋が取り外される。・・・砲口に鳥が巣を造り砲身の爆発事故が起きてはたまったものではないからだ。・・・蓋を外した水兵が砲身内部の確認までしている。


 マストの頂上の見張り台までは海面から20メートルもある。

 そこから敵船を見る俯角によって我が船と敵船とのおよその距離が分かる。・・・いわゆる三角測量である。

 俯角計と俯角による距離計測表で敵船の距離が出た。

 物見台の足元の床には敵船が船首から何度かが分かるように刻みが入っている。


『船首から左に12度、距離およそ10キロ!』


と更に伝声管と織田式手旗信号を送る。

 この織田家の旗艦海進丸の旧日本海軍の戦艦長門と同じ口径の41センチ主砲の有効射程距離は30キロだ。

 後方(船尾側)の主砲は船の進行方向の関係で使えない(ぶっ放したら艦橋がぶっ飛ぶ)が、前方(船首側)の主砲は使える。

 砲術長が砲術要員を指揮して主砲の上下左右の角度をそれぞれ調整する。

 砲術長の


「砲撃戦用意、装甲弾装填!打ち方用意!放て!」


の号令により主砲に装甲弾が装填され


『ドーン』


と鈍い音が船体を揺らす。

 俺も皇女松様もヘッドホンのような形の耳栓をしている。

 残念初弾は敵船の100メートル手前で水柱をあげた。


『角度よし!距離100メートル足りず!』 

 

と俺は伝声管と織田式手旗信号を送る。

 それを受けて砲術長が主砲の上下の角度の微調整を行い


「砲撃戦用意、装甲弾装填、打ち方用意、放て!」


とまた号令をかけると


『ドーン』


と発射音がして、船が揺れる。

 水柱が上がらないが、代わりに敵船の帆柱(マスト)がへし折れる。

 船体の中央部に当たったようだ。


『命中』


と下に連絡したら歓声が上がった。

 船に乗っている皆には無闇矢鱈むやみやたらに大砲をぶっ放しているだけで、水柱も見えず何がどうなっているか分からないのだ。・・・地球は丸い、身長170センチの人で水平線が見える距離が約4,6キロしかないのだ。高いマストの上だからこそその先が見えるのだ。

 実は海面から20メートルの高さのマストの上から見える水平線は約16キロ先までだ。・・・う~ん有効射程距離30キロの主砲は今のところ宝の持ち腐れか?

 それでも高いマストの物見台の上に乗っている俺と皇女松様からは、敵船の関船が船底に穴が開いたのか、ズブズブと沈んでいくのが見える。


 これで一件落着だ、皇女松様と前世について話をしようとしたところで、目の端にまたもや関船より一回りも二回りも小さい何艘もの小早が沈んでいく関船の乗員を救出しようとどこに潜んでいたのか湧き出したように集まるのが見える。

 話は後だ、ただ目標になる小早が沢山見えるが、この船の主砲で狙うには的が小さすぎる。


 我が軍の前方を走る珍妙な帆を張った関船がこの小早を駆逐することになった。

 少し湿った風が吹いて来た、天候が悪化するかもしれない、これ以上マストの上で高貴で幼い皇女松様と戦見物をしているわけにはいかない。

 マストを登って来た時と同様に、リュックサックを利用して皇女松様の体を固定して素早く降りる。


 俺の代わりに合羽を羽織った計測員が駆け登る。

 俺と松様はこれからは、窓ガラスで覆われた暖かい艦橋で戦見物だ。

 皇女松様は旗艦海進丸の船長用のリクライニングの椅子に座って、黙々と大好きなイチゴのショートケーキを食べている。・・・皇女松様は見た目は7歳児、今年は8歳児の女児だが前世の記憶があるので本当の(精神)年齢は幾つだろう。少し不遜な事を考えたのが分かったのか松様の目が『ギロリ』と睨んだ・・・気がする。


 皇女松様から目を逸らして外の状況を見る。

 黒雲が湧き出してまだ雨は降り始めてはいないが空が


『ゴロゴロ』


と雷雲が近づいてきているようだ。


『ドシャン』


と雷がなり先行する織田家の関船がその雷の光に浮かび上がり


『瀬田の唐橋』


に近づくのが見えた。

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