第84話 皇女京都脱出劇
『琵琶湖の堅田の湖賊等の湖賊退治』
を名目に出港した織田家の旗艦海進丸を中心にした船団が堺港で大きな商いをして話題をさらい。
その船団は堺港を出て大阪湾へと向かう。
大阪湾に入り、さらに大阪湾に琵琶湖から流れ出す唯一の流出河川である淀川に次々とマストに帆を張った関船が遡上を開始した。
最後尾を織田家の旗艦海進丸が進む。・・・この巨艦が川底に
この旗艦海進丸が琵琶湖に専属の船団の旗艦になるのだが、志摩半島の波切城の港では海進丸の2番艦海洋丸と3番艦海王丸が造船中であり、手狭になった波切城からヘンリー8世号と鹵獲したポルトガルのガレオン船を基に復元した欧州丸は現在織田家の本拠地名古屋城に近い新桑名港を母港に変更しているのだ。
堺港での大きな取引は如何な裕福な織田家とは言え金が湯水のように沸くわけでは無い・・・鍛造技術で織田通貨を造っているが、その通貨自体の価値が低い為下手に沢山造るとインフレになってしまう・・・ので実は2番艦や3番艦の造船費用に充てられる予定なのだ。
珍妙な不思議な帆をした・・現代風のヨットの帆を張った・・関船20艘と通常型の関船2艘その後方を総帆にした織田家の旗艦海進丸が淀川に入っていく。
淀川に入ると右手(左岸)に史実では織田信長と争った石山本願寺が見えてくる。
兄一郎が下間真頼に成り代わって坊官となった本願寺の総本山で、法主顕如は在所していたが兄一郎は京都での公家衆の対応で不在である。・・・う~んそれゆえ無視して遡上する。・・・手を出してきたら返り討ちにするだけだ!
大阪(摂津国)の守護は代々管領細川家が治めていたが、三好家の台頭でその地位は大きく揺らいでいる。
不思議な帆を張った何艘もの船が淀川を遡上するのだ、それを見ようと子供達が集まってくるが。・・・う~ん、栄養状態が悪い手足が細くお腹が出ている。いわゆる餓鬼腹の子供ばかりだ。
普通なら子供だ、ヨットを追いかけたりするだろうが土手に上ると手足を投げ出すようにして座ってぼんやりと見ているだけだ。
噂を聞きつけてこの付近を領地とする三好家の兵が集まってきた。
兵達はぼんやりと眺める子供達を
「邪魔だどけ!」
と言いながら追い散らす。
中には刀を振り回すような乱暴な奴がいる。
鎧兜に身を包んだ侍大将で、
俺は横に控えている猟師の権瓶に
「彼奴を撃てるか?撃てるなら撃て!」
と手に持つ扇子で刀を振り回す侍大将を指し示す。
淀川の川幅は約600メートル、その川の中央付近から土手に立つ侍大将までの距離約300メートル強、揺れる船上でましては相手の侍大将は幼子達を刀を抜いて追いかけているのだ。
かなり遠いが子供達の
「ギャアギャア」
泣きわめく声が聞こえてくる。
それを見て
銃を撃つときは
『寒夜に霜が降るごとく』
引き金を引くという。
確かに権瓶の周りにはシーンとした寒い様な気が張り詰められていく
『ドーン』
という一発の銃声が川面を響き渡る。
刀を振り上げた侍大将の額にポツリと穴が開いて、そのままドウと後ろ向きに倒れた。
子供を追いまわす侍大将を可笑し気に見ていた兵士達が
「
等と言いながら蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
それはそうだ、この時代では300メートル以上も離れた場所にいる人を火縄銃では撃ち殺せない。・・・火縄銃の有効射程距離がせいぜい100メートル未満で織田家が開発した通常の新式銃でもその倍の200メートル位だ、その改良型である権瓶仕様の狙撃銃だとその倍の400メートルだから出来た芸当だ。
これ以後、我が船団を恐れてか河川敷まで来て見物する子供もいなければ、物見の兵もいなくなった。
淀川を遡上して深夜古都京都の勢力圏に入ると、ここでは宇治川と名前が変わる。
しばらくすると京の都の方角で火の手が数ヶ所から上がるのが見えた。・・・火事場騒ぎを利用すると言う多少強引でもありきたりな方法である。
それでもあまり人様に迷惑をかけるわけにはいかないので火事場騒ぎを起こす場所は織田家と関係のある京屋等に火を付けたのだ。
赤々と燃え上がる京都側の川岸で織田式光信号(モールス信号)が見えてきた。
『無事御所から松様脱出』
と連絡してきたのだ。・・・伊賀の国で創立したスパイ学校の伊賀や甲賀どころか根来の卒業生が暗躍している。
これで火事場騒ぎを起こした織田家と関係がある京屋も近江屋京都支店、尾張屋京都支店、欧州屋も当分の間は閉店だ。
というのも御所から皇女松様が脱出する際に、敵対する石山本願寺の僧兵や三好三人衆それに松永久秀が御所や織田信長と関係している京屋、近江屋京都支店、尾張屋京都支店さらには欧州屋にも見張りの兵が張り付けられているのだ。
それで陽動作戦としてこれら4店舗に次々と火を放ったのだ。・・・この出火騒ぎを利用して皇女松様を脱出させたのだ。
火を放った各店から紅蓮の炎が立ち昇り天を焦がしていく。
これら織田家と関連ある店の動向を監視しのため張り付いていた石山本願寺の僧兵や三好三人衆そして松永久秀の手の者を織田家の忍軍が手刀等で気を失わさせられる。
その気を失わせた状態の見張りの兵達を紅蓮の炎を上げる店内に放り込んでいく、店の者の代わりに焼け死んでもらうのだ。・・・切られて死んでいたり、誰も店内にいないと怪しまれるだろう。
特に京屋は御所にも近い。
皇女松様ご愛用の店だ、皇女松様は三好三人衆や松永久秀から派遣された手先の女官に
「火災の様子を見に行くように。」
と言って、身辺から動向を探る者を遠ざけた。
おかよと桜子、さらに茜が御所を守る北面の武士の装備を付けて御所のそこかしこに火を付けながら皇女のもとに駆け付ける。
皇女松様も端た女(身分の低い女官)の姿に身をやつし、4人は
「火事だ!火事だ!逃げろ!逃げろ!」
等と言いながら火事騒ぎに乗じて御所から外に出たのだ。
外に出ると皇女松様も顔を見知った京屋の女官頭役の柳生早苗が女武芸者の態を装って待っていた。・・・柳生早苗はこちらの方が本業で様になっている。
皇女松様の周りを次々と火事現場から逃げ出してきた京屋や近江屋、尾張屋、欧州屋の武装した店員が固めた。
少し歩くと家紋を取り外した1頭立ての馬車が待っており、その中へ皇女松様と柳生早苗が乗り込むと馬車が走り出した。
その後ろから次々と馬車が続く・・・その数20!丁度不思議な帆・・現代風のヨットの帆・・を張った関船の数と同じだ。
続く馬車に店員たちも乗り込み、その馬車には京屋の貴重本や近江屋の武器、尾張屋の縮緬等が載せられている。
俺達の待つ宇治川の河川敷に馬車がくる。
曳いていた馬が外され、馬車のみが次々と手際よく現代風のヨットの帆を張った関船の後ろ甲板に乗せられていく。
馬車が載せられた関船は次々と錨を巻き上げ、帆が張られて出港していく。
馬車から外された馬には今度は鞍がのせられて、京屋等の店員たちが馬上の人となって散っていく。
彼等は伊賀国や柳生の里を目指すのだ。
最後に俺の乗る旗艦海進丸に皇女松様と柳生早苗の乗った馬車が積み込まれ、海進丸の錨が
『ガラガラ』
と巻き上げられて、マストに真っ白な帆が張られていく。
皇女松様の京都脱出劇の第一幕は京屋などの京都における経済の中心地を火を放って失ったものの、織田家側の人的被害はなく無事に閉幕した。
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