第83話 救出作戦開始
織田家の勢力拡大は史実よりずいぶん早く浅井家を倒したら近江の国を手に入れたことにより京の都に迫ったことになるのだ。
それを危惧したのは京の都に住む公家衆で
「織田信長と言う第六天の魔王が京の都に攻め入り、浅井家の居城小谷城のように京の都も火の海に変えられて皆死んでしまう!」
等と言って怯え震え上がって朝廷に織田信長対策を願った。
丁度その時期に皇女松様が
「織田信長の嫡男信忠(奇妙丸)に降家したい。」
と願い出たことや、震え怯えた公家衆の願いもあって降家する事になった。
その話を進めるために京都御所に赴いた信長の正妻帰蝶が酒に酔って乱入してきた将軍足利義輝の凶刃に倒れ帰らぬ人となり、皇女松様も面を切られて右目を失明するという狂乱事件があった。
これにより哀れ皇女松様と嫡男信忠との縁組は破談となり、このまま皇女松様は尼寺へ行くしかないと思われた時に、皇女松様の実母の実家、五摂家の一つ二条家の当主は関白二条晴良が
「将軍足利義輝の凶刃により織田信長の正妻帰蝶を亡くした。
織田信長はそれを悲しみ京の都に牙を向けるやもしれない。
織田信長の息子奇妙丸との降家話は流れたが、どうやら将軍足利義輝に切られた皇女松様の怪我の治療のために織田信長が医師を派遣しているようだ。
それ程に皇女松様を気にかけているのだ。
正妻帰蝶を亡くした織田信長に皇女松様の降家話を持っていけばどうか。」
等と言う話を朝廷に持ち掛けた。
これにより一度は破談となった皇女松様の織田家への降家話が再度持ち上がったのだ。
これは天皇家と織田家が手を結ぶ事により織田家の力が更に拡大することを意味する。
これはこれで、兄義輝に替わった将軍足利義昭は
「兄義輝は将軍職を織田家と事を構えて罷免された。
これ以上織田家が力をつけて将軍人事まで口を挟むようになれば、我もまたいつかは兄義輝と同様に将軍職を罷免されるかもしれない。」
と危惧した将軍足利義昭は京の都を押さえる三好三人衆や松永久秀と語らい何と織田家と宮家の橋渡しになるであろう皇女松様を害する事を企画したのだ。
皇女松様の切られた面の治療のために織田家が遣わした若き女医のおかよと桜子がいる。
さらにはその手伝いに女忍(くノ一)の根来の茜等が使わされている事から将軍足利義昭等の情報を収集するのは容易かった。
織田家と朝廷との橋渡し役の皇女松様をこのまま亡き者にされては織田家にとってもたまったものではない。
皇女松様の救助であるが、その表立った織田家のとった名目は
『琵琶湖の堅田の湖賊等の湖賊退治』
を掲げたのだ。
織田家の船団が弘治3年(1557年)8月遂に動いた。
名目的には湖賊退治であるが実質は兄一郎が
『琵琶湖の堅田の湖賊等の湖賊退治』
を名目に掲げたその船団が桑名新港に集められる。
織田家の旗艦海進丸が総帆の状態で桑名新港にその威容を見せつける。
現代風のマストに帆を張った・・・この戦国時代では珍妙な形をした帆を張った・・・関船20艘と今までの関船2艘・・・織田の化け物船・・・が旗艦海進丸の周りに集まってくるが船のあまりにも大きさの違いは大人の周りをうろつく子供のようだ。
この時代においてどうしても世界でも最大の大きさを誇るガレオン船を下地に出来上がった織田家の旗艦海進丸に目が行くが、今回の主役は琵琶湖の海賊ならぬ湖賊退治をする為に集められた珍妙な帆を張った関船だ。
その関船の船首と船尾には口径10センチの鋼鉄製の大砲2門が円形の台座に載せられている。・・・回転式砲塔の走りだね。
琵琶湖の湖賊退治用の関船は船先に後から取り付けた長い棒(バウスプリット)を除けば全長23メートル、幅が6メートル程なので前後に回転式砲塔が1基づつで計4門の大砲を載せているがまだ少し余裕がある。
この10センチの鋼鉄製の大砲が開発されたことから織田家傘下の国々では拿捕や捕獲したポルトガルやイングランドのガレオン船に積載してあった青銅砲が姿を消して、鋳鉄製どころか鋼鉄製の大砲が主流になっている。・・・有効射程距離が青銅砲では1キロ未満であったものが鉄製ではおよそその倍の2キロ程、鋼鉄製の大砲では5キロ程と性能が格段に向上している。
ところで織田家では姿を消した青銅砲?・・・武器商人近江屋徳兵衛こと織田信長が他国に10万貫(現在価格12億円)で今回の航海・・・別の意味で俺が後悔しなけれ良いが!?・・・で売り払うことにしている。
この価格でも飛ぶように売れる。・・・はずだ?まあ~売り払う理由は言わずもがな青銅砲では弾があまり遠くには飛ばないからだが・・・後悔しちゃいそう!
それに消耗品の砲弾や火薬の販売で笑いが止まらない・・・はずだ。
設定通り、これらの青銅砲やごてごてと飾り付けた火縄銃を販売するのは武器商人近江屋で徳兵衛ならぬ近江屋悪兵衛だね。
桑名新港に旗艦海進丸が威容を見せつけている。
それに珍妙な帆を張った関船20艘と通常形の関船・・・とは言え桑名の戦いで水面下に衝角を取り付け敵の関船を真っ二つにして戦果を挙げた化け物船が・・・2艘だ。
この化け物船の船倉に国友村で出来た鉄砲・火縄銃70丁が船積される。
この火縄銃は国友村に残った鉄砲鍛冶が製造したごてごてと飾り付けられた火縄銃である。
火縄銃を載せた織田家の船団はドラムの音と軍楽隊が奏でる音楽とともに桑名新港から琵琶湖を目指して出港したのだ。
桑名新港から志摩半島の波切城に立ち寄り今では古くなって売り払う予定の青銅砲5門を化け物船に船積みして、そのまま紀伊半島をめぐって紀ノ川の河口付近(現在の和歌山市)で紀ノ川上流にある根来寺周辺の鉄砲鍛冶が製造したこれもまたごてごてと飾り立てた火縄銃30丁を受け取る。
この後は大阪湾の入り口にある『堺』へこれらの青銅砲やごてごてと飾り立てた火縄銃の販売に向かうのだ。
『堺』はこの当時は日本国における海運業・商業の中心地であり、環濠都市としても有名である。
俺が環濠都市である桑名新港を造る際にもこの『堺』の真似をしたのだ。
この日本国における海運業・商業の中心地『堺』にも近江屋は堺支店を出しているのだ。
『堺』の町も俺の支配下にある根来や国友村と同様に火縄銃の生産地でもあるのだが。・・・堺も火縄銃の生産地であるが根来や国友村に比べるほどでも無い。
根来や国友村からできる火縄銃等の武器の販売を一手に担う俺・近江屋徳兵衛の地位を狙うものも多い。
当然堺の商人にとっては俺は目の上のたん瘤のような存在である。
その堺の港に近江屋が堺支店へ荷・大量の武器を運び入れて、近江屋徳兵衛もその近江屋堺支店で一泊すると言うのだ。
今回の荷は火縄銃100丁、青銅砲5門の堺の町でも驚くほどの大取引だ。
堺の商人達は鵜の目鷹の目で近江屋堺支店の様子を窺っている。
海に巨大な船(織田家の旗艦海進丸)が見えはじめ、その船が境港の沖合で錨を降ろして停泊した。
近江屋堺支店から港の船着き場まではすぐそこである。
近江屋堺支店の法被を着た逞しい体の若い衆が何人も桟橋に集まる。
普通の形の帆を張った関船2艘が帆に風を受けて堺港に向かってきた。
その関船が桟橋に横付けされると、関船から縮緬の着物を着た如何にも若旦那風の男が降りる。
その後ろから金髪の真赤なドレスを着た女性(現在織田家の旗艦海進丸の船長はキャサリンなので、キャサリンは船に残り今回は船医グランベル)が降りると俺と仲良く腕を組んで近江屋堺支店に入っていった。
それだけでも驚きなのに、桟橋に横付けされ重い青銅砲を載せたその関船のマストのブームに滑車が取り付けられて、そこに滑車から出ている金属の鎖が引っ張られると滑車が回り始めた。
ジャラジャラと音をたてて金属の鎖が引っ張られて滑車が回りそこから船倉へと延びる鎖がゆっくりと巻き上げられて積載されていた重いブロンズ色に輝く青銅砲が吊り上げられて姿を現した。
完全に青銅砲が滑車近くまで巻き上げられるとマストのブームが動いて無事に桟橋にのせられる。
すると近江屋の法被を着た若い衆が青銅砲から鎖を取り外して、今度は
『ゴロゴロ』
と音をたててその重い青銅砲を押して近江屋堺支店の倉庫に消えた。
それが5回行われた。
今度は別の関船が桟橋に横付けされると、火縄銃5丁の入った木箱を若い衆が肩に担がれて船倉から桟橋さらには倉庫へと収められていった。
翌日はデモンストレーション(実証実験)である。
真赤に塗られた標的船2隻が堺港の沖に引きづり出される。
およそ1隻は30間(約54メートル)そしてもう1隻は100間(約182メートル)の位置に配置される。
火縄銃の部隊が整列して、重い青銅砲5門がその標的船に向けられる。
その火縄銃の部隊と青銅砲の部隊を指揮をするのが貴公子竹中半兵衛である。・・・う~ん見た目重視である。美男子で如何にも貴公子の竹中半兵衛に堺商人の夫人や娘それに働く若い女の子までもが集まってきた。
貴公子の号令で手前の船に火縄銃の部隊10名が手前の30軒ほどの位置に漂う標的船に目がけて
『バン』『パン』『パン』『パン』
と乾いた音をたてて一斉に火縄銃が火を噴くと10発の弾が見事に標的船に命中して木切れが舞い上がって穴が開くのが見える。
次に奥の100間あまりに漂う標的船であるが手前に水飛沫があがる。
鉄砲部隊が下がり今度は青銅砲部隊である。
弾込めが終わり貴公子の
「放て!」
の号令で
『ドーン』『ドーン』『ドーン』
と腹に響く音がする。
見物していた婦女子は耳を押さえ、腰を抜かしてしてしまう者までいる始末だ。
見事に手前の標的船が粉々になって沈んでいく。
再度
「弾込め!」
の号令で青銅砲に砲弾が込められる。
見物していた婦女子はそれを見て逃げ出して離れた場所から見ている。
「放て!」
の号令のもと撃ち出された砲弾は今度もまた標的船をズタズタに撃ち抜いて沈ませた。
その様子を見た野次馬の噂が噂を呼び堺商人だけでなく近くは近江商人や遠くは中国・四国地方に住む商人たちが近江屋堺支店に押し掛けてきた。
誰もが金になる武器の取引を希望したのだ。
これは大事になってオークション形式で入札する事になった。
今日は倉庫の中で青銅砲や火縄銃の状態を確認して、明日オークションだ。
支払いの関係もあるので、この近江屋堺支店で一週間程宿泊する事になってしまった。
オークションでは青銅砲が1門で通常想定していた価格10万貫の倍20万貫以上で販売された。・・・本当に笑いが止まらない。
どうやら琵琶湖に入る俺を恐れたのか石山本願寺と三好三人衆、松永久秀が1門づつ無理をして購入したために価格が跳ね上がったようだ。
残りの2門のうち1門が北条家が、もう1門は毛利家が購入している。
何はともあれ儲かった。
おかげで何万貫も入っている宝箱で化け物船と呼ばれる関船でも沈みそうだ。
堺にばかり留まっていては
『琵琶湖の堅田の湖賊等の湖賊退治』
どころか皇女松様の救出作戦が進まない。
堺商人の見送りを受けて堺港を出港する。
これからは大阪湾、琵琶湖から大阪湾へと瀬田川・宇治川・淀川と名前を変えながら流れる唯一の流出河川に向かうのだった。
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