第81話 皇女松様の呟きの続き

 織田信長との最初の出会いは京都に織田家が古書店


『京屋』


という店を出店しその古書店の若旦那に扮した織田信長と最初に出会ったのだ。

 私が3歳になり御所近くを出歩くことを許されたので・・・持ち前の好奇心でこの時代の京の町を見ようと日に何度も抜け出そうと試みたところ、その都度見つかりとうとう天皇も根負けする格好で京の町を見物する事が許されたのだ。

 女官頭の他お付きの女官や警護の武士を引き連れての見物で御所近くのみと言われていたのだ。


「もうそろそろ御所に戻りますよ。」


と女官頭に言われたときにその店を見つけたのだ。

 その店の前に空を見上げて立ち尽くす美丈夫がいた。

 流石美女と誉れ高いお市の方の兄である織田信長は美男子でかつ武道で鍛えられた身体から独特の輝きを放っていた。

 彼からはそれに生前、淡い恋心を抱いていた


『地蔵の赤前垂れ』


のか持ち出す風韻気があり私は思わずその店に向かって駆けだした。

 その店が古書店であり、私はその若旦那に接待を受けた。

 何と古書店とは言え生前の喫茶店・・・西洋風の応接間に通されてを食べた!

 最初は女官頭に止められたが若旦那が


「お付きの方もどうぞと。」


と言って女官頭にケーキを勧めて食べさせた途端・・・許可が下りた。


「美味しいものは正義だ!」


美味しくケーキを食べながら、私は御所内の宝物庫内にあった数冊の古書を何時も読むために持ち歩いていることを思い出した。

 口元をナプキンで拭いてからその古書数点を美丈夫の若旦那に手渡したところ


「しばらくこの古書を預かる。」


と言って幾ばくかの貨幣・・・私は曲りなりにも皇女よ貨幣の価値なんてしらないし受け取れない・・・それでお付きの女官頭が若旦那から受け取って驚いていた。

 二月ほどして店に寄ったら古書とその複製品を手渡してきた。・・・う~んその複製品はどう見ても印刷によって出来たものだ!

 この時代にはあってもまだ木版印刷でこの短時間で木版印刷の製版がよく出来たものだ?

 私がパラパラとその複製品を見た後


「複製品は要らない。」


と言うとまた幾ばくかの貨幣を女官頭に手渡していた。

 その後も書物庫や宝物庫から貴重本をその古書店に預ける都度に預かり賃と数か月後に複製品を手渡された。・・・う~ん幾つか複製品を貰ったがそのいずれの複製品の書体や文字の間隔が同じじゃないか?!


「活版印刷?!」


と思わず呟いたら、丁度その時いた若旦那が凄い目で私を見た。

 若旦那が暫く席を外してもう一冊の複製品を私に押し付けるようにして手渡してきた。

 御所でその複製品の書籍を開くとレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた


『ヘリコプター』


の絵が描かれた紙片が挟まっていた。

 私は簡単な飛行機の絵を描いて古書店の若旦那に渡した。・・・う~んこの頃には若旦那が織田信長だと知ったのだ。


 織田家の勢力拡大は続く、いつの間にか京都の町からも近い近江の国を手に入れたというのだ。

 その近江の国には国友村という火縄銃の一大生産地がある。

 私が7歳になったころにその国友村で出来た絢爛豪華な火縄銃が贈られてきたのでその火縄銃のスケッチを描いた。

 その火縄銃のスケッチには照星と照門をしっかり描いている。

 その頃、周りの大人どもが織田家の手に近江の国が落ちた途端


「織田家の第六天の魔王が京の町を焼きに来る。」


と言って騒いでいる。

 それで


「私が織田家に降家して、織田家との橋渡しをする。」


と父親に頼んだら話がトントンと進んで御所内で斎藤道三の娘であり、織田信長の妻の帰蝶さんと面会することになった。

 う~ん帰蝶さん日なにも稀な美人で、さらにはこの時代は豊満な女性が好まれているが・・・前世の記憶にある私にも


『ボンキュッボン』


の肉感的なスタイルで私を圧した。

 その帰蝶さんが将軍足利義輝の凶刃に倒れ、私も右目を切られた。

 庭の雪降る中で身をかがめていた帰蝶さんの小者が部屋の欄干を越えて飛び込み振り上げた将軍足利義輝の左手をすくい上げるようにして切り飛ばした。

 その小者がなんと!


『織田信長』


その人だった。

 私は騒ぎを聞きつけて駆け寄る警護の武士を将軍足利義輝の刀を取り上げて制しながら玄関まで織田信長と帰蝶さんの遺骸を送り届けた。

 私は織田信長に対して


わらわの為に造作を掛けた。

 この様な醜い面になってはその方の嫡男とは婚儀は出来ぬ。

 妾の代わりに凶刃に倒れた帰蝶さんをねんごろに弔ってくれ。」


と言って御所内に駆け戻り自室に入った途端痛みで倒れた。

 私の前世は研究者とは言え医師だった。

 右目が痛い!・・・眼球も傷ついて・・・失明だろう。

 この時代の医療では死ぬかもしれない!自分で治療できたらいいのに!!


 どうやら医者が来たようだが・・・若い見習い医師か!?

 ただオロオロしている。・・・う~ん腕の良い年寄りの医師は将軍足利義輝の所へ行ったか?

 襖が開いた。

 若い女官・・・う~ん見た事がないのだが?・・・が3人室内に入ってきた。

 その女官の一人がうろたえてオロオロしている見習い医師の首筋目がけて手刀を落とした。

 別の若い女官が私の顔を覗き込む。


「どうなってるおかよちゃん?」


別の女官が私の顔を覗き込む女官・・・おかよちゃん・・・に声をかけた。


「眼球の硝子体まで傷ついている。

 桜子さん眼球はもう無理だけど傷口だけでも縫わないと。」


等といっている。・・・う~ん縫う!この人達は医療行為として縫うことが出来るの?

 若い医師を手刀で眠らせた別の女官が


「縫うのなら松様を眠らせないと。」


と言って私に近づいてきたよ・・・


『まさか若い医師のように叩いて眠らせるの?』


と思ったら何か香りを・・・嗅がされた・・・う~ん気が付くと右目に眼帯が施されている。

 その後食事や下の世話までおかよと桜子と呼ばれていた女官にされた。

 その二人が私の右目の治療の確認や消毒をしている。


 ある程度私が歩けるようになったところで、若い医師を昏倒させた女官が入って来ておかよと桜子さんに義眼を手渡した。

 その女官は茜とおかよと桜子は呼ばれており、麻酔を嗅がしたのも彼女だ。

 手渡された義眼は木製の品でなかなかうまく出来ているが・・・余り人前では使って見られたくはない。

 義眼を付けて鏡を見る右目付近をバッサリ切られているのを縫合してある。

 前世の私の医療の知識からしてもおかよと桜子の外科技術はかなり高いようだ。


 落ち窪んだ眼窩に義眼を入れると元の私の顔に少し戻った。・・・嬉しい反面違和感がある。

 すると


「他人の目が気になるならこんな眼帯はどうですか?」


とおかよが刀の鍔の眼帯を付けてくれた。私が


「独眼竜政宗みたい。」


と呟くと


「御屋形様も同じ名前を言っていたけど・・・誰?」


等とおかよが言った。・・・独眼竜政宗こと伊達政宗は永禄10年(1567年)生まれで、今年弘治3年(1557年)では産まれてもいないのだ。

 参考までに弘治3年には甲斐の国の武田晴信(信玄)と越後の虎と呼ばれる長尾景虎(上杉謙信)が川中島で戦闘を行った年でもある。


『それならば私は『独眼竜の松姫』と呼ばれるのもいいわね!』


等と鏡を見ながら思っている皇女松様であった。

 鏡を見ながら自分の姿に悦に入っていると、桜子に紙片を手渡された。その内容は


『腕を切られて面目を失った将軍足利義輝に不審な動き在り、自暴自棄になった将軍足利義輝がまた御所に乱入するかもしれないので織田家で保護する。

 日時等は追って連絡する。』


と言う内容だった。

 それも杞憂きゆうに終わった。

 天皇家が将軍足利義輝を罷免したのだった。

 その後は史実よりも少し早いが足利義昭が将軍職を継いだ。

 ただ将軍の力がさらに低下して三好三人衆や松永久秀が蠢動しゅんどうしているようだ。

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