第76話 暗殺未遂の主犯捜し

 ある程度攻め滅ぼして奪い取った浅井家の仕置きが終わったところで、今回の戦いの初戦において俺に暗殺を仕掛けた張本人(主犯)である一向宗の坊主探しである。

 実行犯の猟師の権瓶さんは捕らえたもののその犯罪を今風に言えば


教唆きょうさ・・・あることを起こすように教えそそのかす事』


犯を召し取る事だ。  

 この教唆犯で首謀者とも言える人物こそ一向一揆をも仕掛けている一向宗の寺を束ねるこの当時の総本山石山本願寺である。

 何故ならこの総本山石山本願寺は兄の一郎が下間真頼しもつましんらいに成り代わり時々俺の足元や、戦国大名の領地で一向一揆を指揮して勃発ぼっぱつさせているのだ。


 その石山本願寺派でその地の寺に住む坊主が下間真頼の命を受けて火縄銃の名手である猟師の権瓶に俺を暗殺するよにそそのかしたのだ。

 俺はその地に住む石山本願寺派の坊主を探したが何処へ逃げたのか見つけることは出来なかった。

 ならばその張本人の石山本願寺に対して坊主の身柄拘束と差し出すように命じたがなしのつぶてである。・・・う~ん当然か相手は京都の先大阪にいるのだ。俺が手出しができないと思っているのだ。 


 その暗殺未遂の実行犯である猟師の権瓶だが、俺の暗殺を依頼するだけのことはあって鉄砲の腕は確かである。

 今回の戦いでも攻め寄せてきた浅井家の大将首を狙撃して幾つもあげている。

 権瓶が打倒した大将首は額それも眉と眉の間を正確に射貫いているのだ。

 その大将首を拾い首で差し出した者が何人もいたが、権瓶に渡した狙撃用の銃弾でその実力が判明したのだ。・・・俺の方も良い拾い者をした!

 俺は権瓶の鉄砲の腕前を認め当初は鉄砲の組頭(隊長)さらに出世させて将官大学の銃砲教官にもさせている。

 暗殺の際、俺の目の前に引き据えられた父親の権瓶を俺を恐れることなくかばった娘の結もまた父親に勝るとも劣らないその腕前から一方の鉄砲隊の組頭(隊長)にまでなっている。


 話を戻して一向一揆だが、この当時の一向一揆の張本人である寺社仏閣は力を持っていた。

 その力の元は地方の豪族と同様に広い領地(荘園・寺領)を所持し支配していたことである。

 この広い領地を支配しそれを守るために僧兵が生まれたのである。

 俺の最初の対応は暗殺をそそのかしたのが一向宗の坊主なので、織田家における一向宗を禁教とした。・・・史実でも幾つかの国が一向一揆の対応に疲弊して禁教としているのが現実だ。


 俺は織田家領内における一向宗を禁教にしたとは言え、特に穏便な学僧だけの寺は存続を許したが、僧兵を雇い入れて武装している寺は僧兵の解雇を言い渡して、言う事を聞かない寺は廃寺にしようとした。


 学僧の保護の在り方は史実でも信長は天正7年(1579年)に行われた安土宗論のように法論を行ったことがある。

 良く学ぶ学僧を保護したのである。・・・安土宗論では浄土宗に敗れた法華宗に厳しい態度を示した。


 安土宗論の際に信長に嫌われていると思った浄土宗が準備万端に挑んだのに対して法華宗が裁定を行う信長が法華宗よりであったことから準備を十分に取らないでおごってその場に現われ「妙」について答えられなかったことが敗因だった。

 信長が法華宗寄りだったことの表れとしては織田家の旗印の吹き流し

『南無法蓮華経』

の跳ね文字を掲げ、何よりも京都の宿坊として選び明智光秀が攻め寄せて織田信長の終焉の地となった

『本能寺』

も法華宗の寺なのだ。


 また信長自身も浄土宗が今世よりも来世の弥陀にすがる一神教的なあり方に危惧を覚えていたと思うのだ。

 一向一揆が現代で言えばイスラム(唯一絶対神アッラーの帰依)教のアルカーイダが行っているテロ行為と同様な事をこの戦国時代に行っている状態だからだ。

 禁教は現代なら思想信教の自由への干渉だが、これがテロ等と言う行為に出ては捨てては置けない。現代で言えばオウム真理教みたいなものだ。

 当然反発はある、それが


「仏敵、第六天の魔王織田信長を倒せ。」


の大号令である。

 俺が織田信長に成り代わったのと同様に俺憎しで凝り固まっていた兄一郎もまた下間真頼しもつましんらいに成り代わり本願寺の坊官として暗躍し始めたのも原因なのだ。


 石山本願寺だけではない、浅井家を滅ぼして琵琶湖の一角を手に入れたのは良いが、琵琶湖には堅田水軍が幅を広げており、堅田水軍には地理的に言っても史実でも織田信長と争って元亀2年(1571年)比叡山焼き討ちに遭って焼失した比叡山延暦寺が後ろ盾になっていた。

 元亀2年においても比叡山延暦寺は信長包囲網に加担しており、京都にも近く大きな寺領を有していた古刹であった。

 信長は広大な寺領を背景に僧兵を雇い入れている寺社仏閣に脅威を覚え、寺社仏閣からその寺領を取り上げる強硬手段に出たのだ。

 史実でも比叡山の焼き討ちはこの広大な寺領を巡っての戦いであった。・・・う~んこの元亀2年での将軍は足利義昭であり彼が信長包囲網の檄を飛ばした張本人である。


 弘治2年(1556年)での将軍は足利義輝であり彼もまた延暦寺に織田信長包囲網の要請をしたのである。

 当初織田信長包囲網の要請を受けたものの延暦寺側とすれば浅井家と言う防波堤があったので特に織田信長包囲網には消極的であったが、その防波堤の浅井家が一気に織田信長の手によって滅ぼされてしまった。


 比叡山の目の前に織田信長という脅威が現われたのだ。

 琵琶湖の海運権を有する堅田水軍も同様である。

 その堅田水軍を容易に打ち破れるガレオン船を俺は持っているが、そのガレオン船をどうやって琵琶湖に運ぶかが問題なのだ。

 琵琶湖に入流河川は多数あるが入出河川は瀬田川から宇治川そして大阪湾に流れ出る際には淀川へと3度も名称が変わる瀬田川しかないのだ。


 兄一郎が暗躍する一向宗であるが、織田家の支配地では一向宗がいかに騒ぎ立てようが一向一揆は起こっていない。

 ただ俺が支配していない織田家の領地例えば以前信行の謀反に加担した林秀貞等の支配地等では農民が多数加わった一向一揆が起こっているのだ。

 これは明らかに俺の支配地が他の支配地に比べても租税が低く暮らしやすいからに他ならないからだ。


 先ず俺が支配する織田家の年貢は安い他領では7公3民だが、織田領ではそれが逆転して3公7民だ。

 織田家は尾張屋を始めとする商店で潤っている、さらに史実でもあったとおり関所を廃止して楽市楽座を設けて商業を発展させたのだ。

 そのうえ田畑を開墾し、渇水期に備えて(ロックフィル)ダムを建設し田畑に十分に水が行きわたるように用水路を造り、輪作弊害を無くし土地を改良しているに他ならない。

 また作付けについてもそうだ、塩水選を導入して優良な種籾を選別し、適度に稲の間隔を開けて稲の病気が広がらないようにした結果良質で大量の米が収穫されるようになったのだ。


 渇水対策もしない、種籾も選ばず、作付けも単に直播じかまきのような稲が集まるような事をしているので稲の病気が蔓延まんえんしてしまう。

 それに輪作弊害で生り物も良く育っていない。

 他領では地震などの天災はもちろんのこと、自らが招いているような飢饉があっても領主が救いの手を差し伸べることがほとんど無いのも問題だった。

 他領が不作で飢饉に苦しんでいても、俺の支配する織田家の領地ではこれらの施策が功を奏して豊作が続いているのだ。


 同じ織田家の支配地でも俺の支配地と他領では凄まじい程の差が明らかだ。

 不作が続けば他領の農民が逃散して我が領内に逃げ込む者が多くなってきた。

 住民基本台帳等は無い世界だ、逃げ込んだ農民を返せと言っても証拠もないのが現状だ。

 俺の領内に逃げ込んでくる農民は雇い入れた。

 ところで寺社仏閣と言えども織田家の領地内にあるので当然荘園に対する税が掛けられる。


「仏敵織田信長に支払う米は無い!」


と言って、税の支払いを拒んだ。


「寺領(荘園)を手放せば無税とする。」・・・僧兵の解雇を目論んだのだ。


「何を言う、寺領(荘園)が無ければ食っていけない。」


と当然俺の誘いを断った。・・・俺は徳川家康が行った檀家制度を取り入れて寺領(荘園)が無くなっても食っていけるのは実証済みだが、寺で雇われている僧兵が寺側の言う事を聞かないで


「僧兵を辞めれば食っていけない。」


と言って刀を磨き寺側を脅すのだ。

 中には俺の誘いに乗って寺領(荘園)を差し出し僧兵を解雇する寺院がある。

 問題の解雇され行く当ての無くなった僧兵は織田家の「尾張屋」等の直営店で雇い入れた。・・・仕事はいくらでもある。織田家の持つ商船の船乗りや新田開発、苛酷な鉱山労働等である。それに腕が良ければ兵士として雇ってもよいのだ。


 まず尾張領で一向一揆を起こさせた一向宗寺院の掃討である。

 俺の領地以外の尾張領で一向一揆が勃発ぼっぱつしたのはいまだに織田家の中枢に居座っている林兄弟の様な信行一派が俺の指示に逆らい重い課税をかけていたのが失敗である。

 親父殿と俺の失敗でもある、無能な信行一派から権力を取り上げなかったことだ。

 こいつ等の取り扱いには苦慮している。

 下手をすると信行派が一向宗と語らって大規模な謀反に発展するかもしれないのだ。・・・う~ん『獅子身中の虫』とはこの事である。

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