第75話 国友村

 弘治2年(1556年)に起きた浅井・朝倉・六角家合同軍が織田家の支配地の一つである美濃の国の主城岐阜城を襲ったが、織田家の有する新型兵器によって逆襲を受けて敗退して浅井家の堅城と誇っていた主城である小谷城まで落とされた。

 この織田家の有する新型兵器の発した音は国友村等で造られた鉄砲(火縄銃)の


『パン』『パン』『パン』『パン』


と言う乾いたような音ではなく腹に響くこの世のものとも思われない


『ドーン』『ドーン』『ドーン』『ドーン』


と言う音や破裂する


『ドカーン』『ドカーン』『ドカーン』『ドカーン』


と言う音が小谷城から南に直線距離にして約5キロも離れている国友村でも聞こえ、小谷城の方向から火の手が上がるのが見えたのだ。


 この世のものとも思われない大きな音と小谷城から火の手が上がるのを見て浅井家が敗れて織田家がこの国友村の支配者になったと村の全ての者が思った。

 織田家の支配者織田信長については国友村でも


『大うつけ』


あなどる者もいたが、この世のものとは思われない大きな音と火の手をあげて、あれほど堅城を誇っていた浅井家の主城小谷城を落城させた現実を突き付けたのだ・・・これは最近織田信長を指して


『第六天の魔王』


と呼ぶのもあながち間違いではないと言い募る者もいる。

 その新しい支配者の織田信長が来ると言うので国友村の鉄砲鍛冶衆が緊張の面持ちで村長の家に集まっている。

 彼等も間近で起きた小谷城に対する攻撃を見て、織田信長の魔法のような火力に驚き、集まった一部の鍛冶職人は織田家の新技術を学びたいと思っていたのだ。


 ただ俺とすればこの時代からは想像も出来ない超近代的な武器技術の流出は不味まずいと思っている。

 俺は織田家の新型兵器の製造拠点である志摩半島の一角、波切城下に木曽川の下流に出来た中島で武器開発技術の拠点として建てた科学技術学校も移転するつもりなのだ。

 これにより織田家の新型銃器等の開発・製造拠点を志摩半島の一角、波切城下に集約して、新型兵器を波切城下の鍛冶村以外では許す気はない。


 志摩半島の波切城付近は最近では交通の便が良くなっているが、戦国の世では陸の孤島であった・・・う~んこれは秘密を有する武器開発・製造の拠点とすれば申し分のない場所であった。


 これは武器技術の流出を防ぐばかりではなく、新型銃器などを造り上げる為の新技術の流出をも防ぐ為である。

 新型武器製造を支えるには鋼が必要である。

 これは鉄を製錬してさらに強度が増す良質な鋼を造り上げる技術だ。

 波切城下の一角には旧来から日本にあった「たたら製鉄」どころか幕末に出来た「反射炉」をさらに改造して大量に銑鉄が出来上がり、出来上がった銑鉄をさらに「転炉」を使ってより良質な鋼を手に入れているのだ。

 それで国友村の鉄砲鍛冶はこの新型銃器などの新技術習得には志摩半島の一角、波切城下に行く事が条件になった。


 俺が集まった鉄砲鍛冶師達を説得したところ、国友鉄砲鍛冶師達の20軒中16軒、約8割の者が


「波切城下に出来た鍛冶村に向かう。」


と言うではないか・・・う~ん問題は国友村に残る4軒の鉄砲鍛冶である。

 ここで俺は「尾張屋」に引き続き織田家と美濃屋の女主人おしのが出資している武器専門の卸問屋「近江屋」を根来寺の時と同様に、手に入れた国友村にも建てる事にした。

 近江屋の目的は根来寺と国友村で製造される全ての火縄銃の製造、販売の一括管理だ。


 まず製造だが技術流出を防ぐ為に俺が天下を取るまでは、新技術の薬莢を使い、ライフリングが入った銃砲は波切城下以外では作らせないし、織田家以外には販売もさせない。

 しかし火縄銃はこの時代での超新型武器であり、これはもうすでに世に知られており販売もされている。

 火縄銃は天文12年(1543年)には種子島に流れ着いた船から伝来され、翌年の天文13年には当時の将軍足利義晴の肝いりでこの国友村で製造が始まっているのだ。

 それに史実では天文18年(1549年)に織田信長が500丁もの火縄銃を発注しているという記録も残っているのだ。

 それでは、この火縄銃が製造される根来寺と国友村を織田家が支配して製造数を調整し、その販売も織田家が管理すれば俺が天下をとるのが容易になるはずだ。


 それに火縄銃とは言ってもこの時代1丁でも15貫、現在の価格で180万円以上で売れる高価な商品なのだ。・・・う~ん信長君が500丁もの銃を発注しているので7500貫現在の価格で9億円の支払いだ。

 火縄銃の銃身に彫銀、銃把に蒔絵なども施して付加価値を付けて販売するのも良いと思う。・・・う~ん思い立ったが吉日!早速根来寺や国友村で造らせてみた。

 これは大当たりで、大名や富豪が個人の武器として銃身に彫銀で家紋や竜の彫り物を入れる等して、床の間にでも飾れるような鉄砲が100貫、現在の価格で1200万円以上で売られるようになった。・・・ハハハ・・・笑いが止まらない!?


 尾張屋は誠実な商売を表す為に尾張屋清兵衛と名乗ったが、武器商人の近江屋の若主人としての偽名はあくどく儲けると言う意味合いからも

「近江屋徳兵衛」

だな。

 尾張屋の女中頭は根来の楓で、近江屋の女中頭は新たに配下に加わった甲賀の夜霧が務める事になった。

 ただ、尾張屋の女中頭の根来の楓さんは妊娠中なので代理として根来の茜さんとこれもまた新たに加わった柳生早苗さんが務める事になった。

 近江屋の女中頭になった甲賀の夜霧さんはあくどく儲けると言う意味合いから花魁風にして胸を出して色っぽく着崩している。・・・甲賀の夜霧さん自身もとても喜んでこの役をしている。根来の茜はそれを見て羨ましそうだ。


 これで、織田家が火縄銃の供給元である根来や国友を抑えたとはいえ、他の大名にも織田家御用達の近江屋が今後も火縄銃を供給すると聞いて安堵している。・・・う~ん、馬鹿め旧式の火縄銃で遊んでいろ、他の大名も俺の事を


「矢張り尾張の大うつけ殿だ。」


と言って軽んじているが痛い目を見るのはお前達だ。

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