第71話 浅井・朝倉・六角家合同軍の末路
浅井・朝倉・六角家合同軍が俺が鉄砲によって暗殺されたという偽情報に踊らされて何の統制も取らずに美濃の国の主城岐阜城に向かって駆けてきた。
長良川の岐阜城寄りに俺が設営した新型野砲陣に向かって浅井・朝倉・六角家合同軍が津波のように押し寄せてくる。
ついには新型野砲50門の有効射程距離内に敵兵がうじゃうじゃと押し寄せてきたのだ。
高所に立つ射撃指揮所からでは、揺れるように押し寄せる浅井家の家紋である
『三つ盛亀甲花菱紋』
を染め抜いた幾つもの旗が見える事によって、敵兵の位置が的確に割り出されていき、新型野砲50門に詰める砲術士に個々の目標が伝えられていく。
野砲の砲術士から敵は見えないが、連絡を受けた個々の目標地点に向かって砲撃をするだけだ。
俺の
「放て」
の号令のもと、その位置情報に基づき狙い定めた新型野砲50門の大砲発射の紐(りゅう縄)が砲術士によって引かれると
『ドーン』『ドーン』『ドーン』『ドーン』
と連続した砲撃音とともに砲口から火花と白い煙がモクモクとあがる。
撃ち出された砲弾は
『シュル』『シュル』『シュル』『シュル』
と大空を飛ぶ滑空音が聞こえ、次の瞬間
『ドカーン』『ドカーン』『ドカーン』『ドカーン』
と遠くで爆発音が聞こえ、着弾地点では榴弾によるキノコ雲がそこかしこに幾つか上がるのが見える。
こちら側から見れば音とキノコ雲だけの世界だが、着弾地点、キノコ雲の起きた周辺では、阿鼻叫喚の生き地獄が再現されている。・・・俺やはり一向宗の坊主が言う
「第六天の魔王」
なのかもしれない。
先鋒を何の統制も無く進む浅井軍約7千名の中軍に浅井家当主浅井久政がいた。
浅井久政の嫡男浅井長政は天文14年(1545年)生まれだから今は11歳になるかならないかで元服前だった。
それで浅井長政は今回の戦では浅井家の主城小谷城に城を守るわずかな兵と共にいる。
6歳になった奇妙丸(信忠)をこの戦場に連れ出し・・・う~ん奇妙丸の住む岐阜城に浅井・朝倉・六角家合同軍が攻め寄せた事が原因なのだが・・・それに将官学校にいる弟の信包と秀孝等らも浅井長政とはよく似た年齢なのに色々な戦場に連れまわしている俺ってやはり「第六天の魔王」か・・・「尾張の大うつけ」より良いかな。
射程距離2キロもある新型野砲50門の脅威は計り知れないものがある。
弓や鉄砲が60メートルも飛べば良い方でお互いが相手が見える所で戦をしていたのだ。
それが全く見えない所から50門の野砲から砲弾が発射されるのだ。
その発射された榴弾砲による弾幕で浅井・朝倉・六角家合同軍の進撃が止まり、着弾するたびにけたたましく鳴り響く爆発音で進撃する勇気を奪い去っていった。
さらにこの50門の野砲が放った1弾が先鋒の中軍に落下して浅井・朝倉・六角家合同軍にとっては不幸なことに先鋒の大将浅井久政をも傷付けてしまったのだ。
『浅井家当主浅井久政様、負傷』
との報は浅井・朝倉・六角家合同軍に枯れ野に放った火のごとく瞬く間に全軍に伝わり、浅井・朝倉・六角家合同軍は混乱し始めた。
更に50門の野砲が再射され、またもや着弾地点に阿鼻叫喚の地獄絵図が描かれていった。
先方の浅井家の兵はこれによって士気はさらに下がり先鋒の大将浅井久政を負傷させたことから浅井家が逃走を始めた。・・・
その崩れは後方の朝倉家や六角家をも巻き込んだ。
追撃戦!
こうなれば追撃戦である!
今度は織田式鉄砲を持った騎馬軍団500名のお披露目である。
騎馬軍団に持たせている織田式鉄砲の特徴は騎乗で操作しやすいように銃身を少し短くしたこととレンコン式弾倉を自動式けん銃のように
騎乗した兵の腰から吊るした袋の中には弾が詰まった予備のレンコン式弾倉を幾つか入れているのだ。
レンコン式弾倉に銃弾を装填する方法としては弾倉を開いて銃弾を一発づつ装填する方法があるが、この方法は前世でも主流であった。
走る馬の上で弾倉を開いてチマチマと弾倉に銃弾を入れるくらいなら、弾倉をどうせ開くのだから前世の記憶にある自動式けん銃や機関銃の
彼等の持つ騎兵隊用鉄砲の有効射程距離は200メートルに及び、火縄銃の有効射程距離がほんの50~100メートルを考えると約2倍の距離が伸びたのだ。
命中精度も馬の上での取り回しの関係で銃身が短くなったがライフリングを施したことから火縄銃より格段に向上している。
この騎馬軍団を率いるのが
史実では織田信長の嫡男奇妙丸の乳母慈徳院との親戚関係にある伊賀の国の住人だ。・・・今の奇妙丸の乳母は攻め寄せる六角家の娘で亡き北畠具教の妻北の方が勤め、その息子の北畠具房は乳兄弟だ。
伊賀の国には情報の重大性を鑑みて旧陸軍中野(スパイ)学校のような情報学校を建てたりしているがその伝手として頼ったのが伊賀の国の住人、滝川家だ。
情報部隊の一隊の長としての地位を確立し、新機軸の騎兵隊の長を任せて見たのだ。
その滝川一益がよくとおる野太い声で
「銃砲の弾倉及び安全装置の確認!騎乗!」
と号令をかけると彼も愛馬に飛び乗り駆け出した。
疾駆する騎馬軍団は彼を中心に両翼を広げるよう陣を展開していく。
よく言われる「鶴翼の陣」と言うやつだ。・・・何故にと問うか・・・答えは簡単、強力な銃器の射線上に味方を置かないためだ。
浅井・朝倉・六角家合同軍の
浅井家の銃隊は名にし負う国友鉄砲鍛冶集団が造った火縄銃百数十丁を持って駆け寄せてくる織田騎馬軍団を迎え撃つために膝を着いて構える。
殿になった浅井家の銃隊には誤算があった。・・・おのれの持つ火縄銃と織田家の織田式鉄砲との有効射程距離が2倍以上違うと言う誤算だ。
騎馬軍団の長である滝川一益が
「安全装置外せ!目標火縄銃隊!放て」
と命令する声が聞こえる。
『バーン』『バーン』『バーン』『バーン』
と言う発砲音と銃口から火花が見える
火縄銃では決して届かない距離からの発砲であり、揺れる馬上からの射撃だからだ。
その思惑が外れた。
5百丁から発射された銃弾は百数十名の浅井家の誇る火縄銃隊の兵士の体をズタズタに撃ち抜き一瞬のうちに壊滅させたのだ。
浅井家の誇る火縄銃隊が敗れたが、その後方で逃走しようとしていた槍を持つ浅井家の兵は槍尻を地面に刺して駆け寄せる織田家の騎兵隊を迎え撃つ体制に入った。
浅井家の兵から見れば攻め寄せてくる織田家の騎兵隊の手に持っているのが銃だけだったからだ。
ここでも彼等には誤算があった。・・・火縄銃では弾丸の装填には、銃口から火薬や弾丸をカルカで押し詰める等の一連の作業があり、手間とそれに時間がかかることから相手が矢継ぎ早に発砲できないだろうと言う思い込みの誤算だ。
勇敢にも槍尻を地面に突き刺して騎兵隊を迎え撃とうとした槍隊千数百名も
『バーン』『バーン』『バーン』『バーン』
と言う連続する発砲音とともに次々と血煙を上げて撃ち倒されてしまった。
これによって浅井・朝倉・六角家合同軍はさらに算を乱して逃走を始めた。
これから本当の意味での織田家の追撃戦である。
攻め寄せられたが無傷の岐阜城には城代家老の竹中半兵衛(軍師・重治)の父竹中重元を城主に据え、補佐役に美濃三人衆(安藤守就・稲葉良通・氏家直元)がついた。
追撃戦の先鋒は滝川一益が指揮する騎兵隊用の織田式鉄砲を持った騎馬軍団5百騎で、その後ろには森可成が長槍を持った騎馬軍団2千騎、その後ろには将官学校の弟の信包と秀孝、猿や軍師等が各々指揮する野砲10門が馬に牽引されて進んで行く。
残った野砲40門は竹中重元に任せている。
この野砲40門を岐阜城の城代家老竹中重元が名古屋城まで移送して、その間に城代家老としては不安があるが謀反を起こした弟信行を
さらにその後ろには輜重車隊に混じって俺の乗る8頭立ての馬車が続く、この8頭立ての馬車は指揮所であり、ポルトガル船の人一人がやっと持てる小型大砲を積んだ戦車の前身のようなものだ。
その馬車の中にキリリと緋色の鎧に着替えた帰蝶さんと五月人形のような鎧武者姿になった奇妙丸(信忠)が当然のように乗り込んできたのだ。
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