第70話 攻め寄せる浅井・朝倉・六角家合同軍

 弘治2年(1556年)秋、浅井・朝倉・六角家合同軍が織田家傘下の美濃国の主城である岐阜城に向かって攻めてきた。・・・将軍足利義輝の発した討伐令もそうだが、浅井家が誇る国友鍛冶に量産を命じて造らせた火縄銃が百数十丁になったことも攻め込むきっかけとなった。

 攻め込まれる織田家は武力及び経済力によってその織田家傘下国を増して今では本国の尾張を筆頭に伊勢・三河・遠江とうとうみ・伊賀国の周辺、そして現在侵攻を受けている美濃国である。・・・う~んこれだけ織田家の領地が拡大したらそりゃあ領地が接してきた浅井・朝倉・六角家も圧迫されて反発するわなぁ~。

 その美濃の国には現在斎藤道三の娘である帰蝶との間に出来た奇妙丸(信忠)6歳が岐阜城の城主として睨みを聞かせている。


 帰蝶さんと奇妙丸の住む岐阜城救援に向かった俺は、岐阜城手前で銃撃による暗殺未遂事件があった。・・・う~んその暗殺未遂を逆手に取って敵側の浅井・朝倉・六角家合同軍に潜入している間者を使って


『織田信長が鉄砲によって暗殺された。』


と噓の情報を流したところ


「織田信長が暗殺された!

 織田家は混乱している!

 これで美濃の国は我らのものぞ!

 手柄は切り取り放題ぞ!」


等と言って狂喜乱舞しながら進軍の速度を速めた。

 この情報は岐阜城にいた帰蝶さんにも伝えられて、その情報に接した帰蝶さん取る物も取りあえず青い顔をして長良川沿いに布陣している俺の陣営に飛び込んできた。

 帰蝶さんは何事もなく新型野砲の陣を敷いている俺の顔を見て・・・青い顔から一転鬼の形相で


「馬鹿!

 変な情報を流すものじゃないよ!

 心配したじゃない!」


と俺の頭をポカリと一つ殴って、周りも気にせず俺の袖にすがって


『エンエン』


と泣き出した。


『敵を欺くにはまず味方から』


とも言うがこれには参った。・・・う~ん帰蝶さん兄の義龍に次いで俺の頭もポカリか!


 その帰蝶さんも敵を欺くためにと俺が死んだことにするならばと、いつもは緋色の甲冑姿なのに今回は真白な鎧に身を固め、わずか6歳になった息子の奇妙丸にも紙製の白い甲冑姿にして、陣の中央に空の俺の棺を安置して、その空の棺を背に床几しょうぎを置いて二人どっかと座った。

 元服も済んでいないのに奇妙丸のこれでは初陣である。・・・ところで俺?俺は一武将の姿で猿や軍師などの将官学校の生徒を引き連れて新型野砲陣の設営に走り回っている。

 ついでに信憑性しんぴょうせいを増すために


『帰蝶さんが亡くなった俺にすがって泣いた。』


と言う偽情報も浅井・朝倉・六角家合同軍に流してある。

 これによりすっかり信用した浅井・朝倉・六角家合同軍は進軍の速度を更にはやめたのだった。


 この様な一幕もあったが無事、俺が指揮した事もあって長良川を渡り岐阜城の手前の河川敷で口径10センチの後装式新型野砲50門の陣を敷くことが出来た。

 その大砲の陣であるが、麻袋を用いた土嚢どのう袋によって土塁が造られていく。

 織田家では今までの戦で堅牢と思われた敵の城の城壁等を大砲の一撃で粉々にしたことから、それに代わって砲撃に耐える有効な手段として土嚢袋による土塁が考案された。 

 見た目は不格好でも実用に耐え、その辺にある土を土嚢に詰めれば良いのだからとても安価で経済的でもある。

 また土嚢を作る為のシャベルや鶴嘴も大量に生産されている。


 後装式で鋳鉄で出来た口径10センチの新型野砲が岐阜(旧稲葉山)城を中心として四方八方を睨むようにして配置されている。

 同じ口径の今までの青銅砲では有効射程距離1キロ未満であったものが、鋼鉄で出来たこの新型野砲では5キロを超えている。

 距離の違いが何処に出たかと言うと、砲自体の強度の差だ。

 同じ量の発射薬でも青銅砲では砲身自体が破裂して使い物にならなくなるのに対して鋳鉄製ではそれに耐える。

 また同じ鉄でも製錬の程度を上げた鋼鉄製ではさらに強度が上がり更に強力な発射薬を使えこれによって有効射程距離が伸びたのだ。


 強度と言えば旧日本海軍の戦艦大和の主砲の有効射程距離が30キロとも40キロとも言われるのは製鉄技術がそれだけ向上していた表れだ。・・・ただ地球は丸い、身長170センチの人が水平線の見える距離が約4,6キロしかないのだ。どんなに俺の目が良くてもそれ以上は見えないのだ。

 それをカバーするために帆船に乗る人が高いマストの上や高い鐘楼に立って索敵していたのがわかる。・・・う~んそのために小高い場所に射撃指揮所を造ったのだ。


 それ程レーダー技術が進んでいなかった旧日本軍では戦艦大和の主砲は宝の持ち腐れだったと思う。・・・もっとレーダー技術が進んでいたら戦いの趨勢すうせいも変わったかもしれない。

 信長の時代ではレーダーの様な目に見えないものは魑魅魍魎ちみもうりょうであり、今の科学力や技術力の段階では望むべきも無いか。

 何はともあれ世界的に使用されている青銅砲が1キロ未満に対して、長良川沿いに布陣したこの新型野砲の有効射程距離5キロは凄いという事がわかると思う。

 岐阜(稲葉山)城周辺に配置された新型野砲の配置位置が敵合同軍の進軍の情報に基づいて微妙に変更が加えられていく。


 また織田家にあっては世界的に見ても主流である青銅砲は姿を消して後装式新型大砲が主流を占めたように、火縄銃のような旧式鉄砲も姿を消して、俺の前世にいた頃に近い銃砲に姿を変えている。

 例えば銃は薬莢が使えるようになったことから、連発がきくようになったのだ。

 いわゆる西部劇時代の拳銃(ピストル)のようにレンコン式の弾倉に弾丸を入れて弾倉を回転させて撃つ方式だ。

 レンコン式の弾倉を開く方式も何とかなったが弾丸をその弾倉に入れたり打ち終わった薬莢を排出させるのは面倒だと弾倉自体を取り換えることにしている。

 レンコン式弾倉については俺が鉄砲鍛冶の父とも言える津田監物に


『串に刺した蓮根』


を与えた事からレンコン式銃が出来上がる。・・・う~ん津田監物さんいまだに萎びた蓮根を神棚に飾ってあるそうだ。

 技術革新の為に男女を問わず若い刀鍛冶を集めた科学技術学校・・・親父殿(信秀)との当主会議の後、木曽川と揖斐川の間の長島で建てた・・・によって弾倉自体の取り換えが出来るようにした。

 これは布陣している新型野砲と同様に科学技術学校の苦心作の一つだ。

 これによって着実に若い技術者達も育っている。


 その若い技術者達の手で造られた新型鉄砲を織田式鉄砲と呼んでいる。

 その数500丁・・・う~ん反射炉の導入や鍛造から鋳造への技術革新で浅井家の誇る国友鍛冶ですら同じような期間で百数十丁しか作れないものを性能の遥かに優る織田式鉄砲が500丁である。・・・で、この全てを機動力に勝る騎馬隊に持たせている。

 旧式の火縄銃では騎馬武者が騎乗したまま操作することが難しいが、織田式鉄砲では騎乗したままで射撃することが出来る。

 これからの戦の在り方が変わる戦いになるのだ。


 浅井・朝倉・六角家合同軍はまるで津波のように岐阜城に押し寄せてくる。

 その先には長良川沿いに展開した織田家の誇る新型野砲の配備等が終わり浅井・朝倉・六角家の合同軍を今や遅しと待ち構える。

 少し高いところに射撃指揮所を造り、そこから織田式手旗信号で敵の距離や位置を長良川沿いに展開している新型野砲の砲術士に連絡する。


 射撃指揮所に立つ見張りが浅井・朝倉・六角家合同軍の先鋒を受けた浅井家の三つ盛亀甲花菱紋の幾つもの旗が岐阜(稲葉山)城に向かって走って来るのが見えた。

 俺の流した


『織田信長が鉄砲によって暗殺された。』


と言う偽情報に踊らされて


「織田信長がいない今、織田家は混乱している!

 織田家を打倒して美濃の国を手に入れるぞ!

 手柄を立てるのは今ぞ!」


 等と大声を上げながら向かってきたのだった。・・・とは言っても見えるのは小高い場所に設置された射撃指揮所か山頂の岐阜城からぐらいなのだが。

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