第69話 暗殺未遂

 浅井・朝倉・六角家の三家が将軍足利義輝の発した討伐令によって合同軍を岐阜城に向けて動かしたと言う報告が入った。

 俺はその報告を受けて岐阜城に向けて新品で朝日に黒光りする新型野砲50門と常備軍1万名を引き連れて岐阜城に向かう。

 岐阜城は斎藤道三を打ち破った斎藤義龍の居城だったが、その斎藤義龍を俺が奪い取り、今は帰蝶さんとその息子奇妙丸(後の信忠)が居住している。

 妻と息子の危機である・・・う~んいかざぁ~なるまい。


 俺が斎藤義龍を破って美濃の国を支配下に置いてからまず実践したのが、史実でも俺の配下の猿が、本能寺の変での俺の死後権力を手に入れて太閤豊臣秀吉となってからやった太閤検地と兵農分離と刀狩りである。

 検地・・・田畑の測量と収穫量の調査であるがこれは家臣や寺社仏閣それに有力な一族からの抵抗が大きい。

 その牙を抜くのが兵農分離と刀狩りである。

 家臣や寺社仏閣、有力な一族の下には農民がいる。

 その農民が兵士としてかり出される現状では刀等の武器が農家にはゴロゴロあるのだ。

 牙を抜き検地をおこない、生産性を上げる為農地を四角形にする作業を行っているが美濃の国内では不満も多い。・・・う~ん尾張の国では農地改良と塩水選(塩水で種籾の選別)を行って生産性の向上の実績を上げているが、まだ統治が始まって間の無い美濃の国では実際利益が上がるまでは不満が残るのは当然だ。


 田畑が四角形と整った風景を見ながら、ついに岐阜城の手前を流れる長良川にかかる大橋手前に出来た宿場町に差し掛かったのだ。

 この宿場町は攻め込んでくる浅井・朝倉・六角家合同軍に焼き打ちに遭う可能性があり、さらには長良川の攻防戦の際に我が方の鉄砲の狙撃に対して敵兵が宿場町の建造物を利用して身を隠す等、邪魔になるので廃棄して岐阜城下に移築する作業が急ピッチで行われているところだ。

 

 何処でもそうだが反対派はいる。

 それに検地や兵農分離による刀狩りなどで不満を抱いている人も多いい。

 また自分だけは大丈夫だからと動かない頑固な人たちもいる。

 その反対派の中心が検地等で力を落とし下間真頼に成り代わった兄一郎が坊官となって率いている浄土真宗本願寺教団で、この宿場町に建てられた一向宗派の寺の和尚だ。

 

 当時の浄土真宗本願寺教団の一向宗派は一向一揆の仕掛人であり、史実でも織田信長や各地の戦国武将を苦しめていた。

 特に長享2年(1488年)加賀の守護富樫正親を攻め滅ぼして

『百姓の持ちたる国』

として一向宗の国を打ち立てた。

 一向宗の蓮如上人は


「当流の安心は弥陀如来の本願にすがり

 一心に極楽往生を信じる事にある。」


と説いている。

 真の意味を曲解させて


「阿弥陀と言う一神教を信じて、和尚の言う仏敵を倒せば阿弥陀の住む極楽に行けるのだ。」


等と言う、現代で言えばイスラム教のアルカイダのような考え方を広めたのが一向一揆の首謀者である一部僧侶だ。・・・蓮如上人本人は一向一揆を止めようとした節があるが一部僧侶に押し流されてそれが主流となっていった。

 「信じる者は救われる。」とは言え・・・それによって生命を取ったり取られたりするような被害がでれば宗教としての本末転倒している。

 それに俺が行った検地と刀狩りなどで不満が残っていた。

 宿場町にあった真言宗の寺の和尚がその不満をあおりながら


「住むところを壊す悪の権化、阿弥陀仏様の仏敵織田信長を撃ち殺せば、阿弥陀様の住む極楽浄土に行けるぞ。」


そそのかされたのが、鉄砲猟師の権瓶だ。

 彼は取り壊された建物の残骸に隠れ・・・時を待った。

 俺は馬に乗るのも疲れたのもあるが、岐阜城における野砲50門の配置を確認するために8頭立ての馬車に乗り込んでいる。

 この馬車は鉄板張りでその上を漆で黒塗りされ、扉には金細工の織田木瓜紋が描かれている。

 この馬車には将官学校に通っている猿(後の豊臣秀吉)と軍師(竹中重治・竹中半兵衛)が乗り込んでいる。

 猿も軍師も軍師としての才能のきらめきを見せ始めている。

 しばらく岐阜城や長良川の地図を眺めていた軍師が


「ここを中心に引き連れてきた野砲を配置すれば。」


手にもつ扇で位置を示した。

 俺は地図確認の為に頭を下げた・・・その時


『パーン』


と言う銃声音が響いた。


『パリン』


と馬車の窓ガラスが割れる。

 俺は咄嗟の事ではあるが、猿と軍師を馬車の床に引き摺り倒し、窓枠に取り付ける鉄板を盾のように銃撃された方向に構える。

 引き摺り倒された軍師も反対側の窓用の鉄板を盾にして構えた。

 銃撃を受けて馬周り役の甲賀の夜霧と柳生早苗が青い顔で馬車の周りに壁を作る。

 銃撃された方向に俺の後方の銃隊を指揮していた柳生宗次郎が一斉射撃を命じる。


『ドーン』『ドーン』『ドーン』『ドーン』


と百丁以上の新式銃が火を噴き。


「撃ちかた止め!」


の号令を掛けて柳生宗次郎が太刀を抜いて狙撃者に走って向かう。

 なんと狙撃者である猟師の権瓶は雨霰と襲いかかった銃弾の嵐の中、破壊した建物の陰に隠れていたために足に一発銃弾を受けただけ(それもかすり傷)でほぼ無傷であった。

 ただ猟師権瓶の持っていた鉄砲が旧式の火縄銃で次弾を装填するためには筒先から装薬や弾を入れてカルカで押し付ける作業をしなければいけないが、雨霰と襲い来る弾幕の前にその余裕が無かったのだ。


 柳生宗次郎が猟師の権瓶の手から火縄銃を取り上げ、高小手に縛りあげて俺の前に引き倒した。

 その男を見て俺は思った。・・・『殉教者にしてはならない!』と、史実での織田信長は敵対した一向宗の寺を焼き、信徒を撫で切りにしている。実際一向宗の国となった加賀の国の住民のほとんどを撫で切りにして尾張から人を入れたと言う言い伝えも残っている。・・・その証が氏名では「オダ」姓が多い。同じオダでも織田・小田・尾田等と漢字をかえているのだが。


 俺が『殉教者にしてはならない!』とそう思った時


「お父ちゃん!お父ちゃんを許して!」


と10歳位の可愛い女の子が倒壊している別の建物の蔭から泣きながら駆けてきて猟師の権瓶の首にすがりついた。

 その建物の陰から母親と思しき女性が赤子を抱きながら身を表し、駆けて行った10歳くらいの女の子に向かって


「結!結、行っては駄目。」


と叫んでいる。・・・う~ん!これで猟師の権瓶の首を刈ったら俺の後世の別名である


『第六天の魔王』


に一直線に行くのだな。


「猟師の権瓶と言ったな、怪我を治して我が配下に入れ。

 これは治療代と支度金だ。

 結と言ったな父親の代わりに受け取れ。」


と娘結に手渡した。

 猟師の権瓶、子供が金を受け取ってしまってはいかんともしがたく俺の配下になって銃隊に配備された。・・・ついでと言っては何だが権瓶の娘の結は人質替わりに俺と一緒に馬車に乗っている。

 猟師の権瓶新式銃を手渡して的を撃たせてみたら百発百中凄いものだった!・・・う~ん流石俺の命を狙う程の者だ・・・本当に良い拾い者だ!


 俺に対する暗殺を目論んだ一向宗の和尚に対する後始末は岐阜城に攻め込んできた浅井・朝倉・六角家の合同軍を打ち破ってからだ。

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