第60話 天文24年海進丸

 天文24年(1555年)3月には将軍足利義輝が一向宗の坊官(寺院の最高指導者)下間真頼しもつましんらいに成り代わった実兄一郎に踊らされて織田家に対して討伐令を出すが、その討伐令を出す少し前の出来事である。

 天文24年正月斎藤道三との恒例になっている会見を終えた俺は今度は親父殿や政秀さんそれに俺の妻達・・・正式な側室は根来の楓とサーシャだけだが、キャサリンやおかよ達も他の家臣から見れば側室認定されているようだ・・・側室認定されて以外の女性陣としては美濃屋の女主人おしのと娘のおしん等もいる・・・を連れて志摩半島の九鬼家の主城波切城に向かう事にした。


 波切城に向かう時に乗り込んだ船は天文18年に鹵獲したポルトガルのガレオン船を解体しながらそれを基に桑名新港で6年もの月日をかけて造船され

『欧州丸』

と名付けた帆船だ。

 この欧州丸の桑名新港での進水式と初航海を兼ねての船旅だ。


 欧州丸に付き従うのがキャサリンが船長を務めるヘンリー8世号である。

 その船には俺の親父殿と傅役の平手政秀さんが乗っている。

 ヘンリー8世号には他船に乗り込むために高い鐘楼が前後に設けられており、その船尾の鐘楼には西欧風の貴賓室・・・イングランド王の御座船の為王の個室・・・が設けられていた。

 そこが親父殿と政秀さんの部屋である。

 親父殿が政秀さんに


「信長が初陣の後から

 鬼神のように強くなったのもあるが、北畠の領地に桑名新港等と言う環濠都市を一夜城のようにして造り出し。

 関船を化け物船に変え、さらにはこのヘンリー8世号が流れ着きこれを手に入れた事から大きく歴史が動いた。

 政秀・・・あの者は本当に我が子の信長か・・・?」


「・・・。」


「答えられぬか政秀・・・。

 いや、このヘンリー8世号のソファーの座り心地の良さ、信長に言って造らせるか。

 我が子であろうがなかろうが、信長の描き出す世を見たいものだ。

 信長の嫁ごのキャサリンやグランベルのいれる紅茶の上手さよ。

 信長は良い嫁後を貰った。」


他等と上機嫌で二人で話し合っている。

 さすがヘンリー8世号はイングランドの国王の御座船を目的に造られた船であり居住性は普段の名古屋城の生活より格段に良いのだ。


 欧州丸は舷側には現在向かう波切城で造られた後装式の10センチ砲を12門づつの計24門が配置され、ポルトガルのガレオン船では前後にあった高い鐘楼は取り外され、代わりに四角い小屋を前後に1棟づつ建てさせた。

 その小屋の中にも10センチ砲が二門づつ並べられ、小屋は人力で回るようになっている。・・・戦艦の砲塔のはしりだ。

 前後にあった高い鐘楼の代わりに船体中央部に鐘楼(艦橋)を設けているのだ。


 向かう波切城は、天文19年(1550年)に北畠家滅亡後に九鬼家が傘下に入り九鬼家の主城だった城だ。

 その城は志摩半島の一角、リアス式海岸の複雑な地形によって無数の湾が形成されその湾の一つ英虞湾あごわんと呼ばれる奥まった湾に面する城だ。

 リアス式海岸による複雑な地形は人の侵入を拒むことから、この時代では考えもつかない後装式の10センチ砲等と言う武器類や工業製品を秘密裏に造り上げることができたのだ。


 この地には韮山の反射炉と同様な大きさの反射炉が建てられている。

 反射炉で鉄鉱石を溶かして銑鉄を造り出すことが出来るのだ。

 韮山の反射炉等は外国の書籍だけで造ったという、欧州丸に付き従うヘンリー8世号の書架の中にも英語で書かれた詳しい反射炉の製造方法や転炉の製造についての書籍があった。

 俺のブレーンのキャサリン達も反射炉や転炉の知識や実際に使った経験があるので小型ではあるが何とか反射炉どころか転炉についてもこの地で建てることが出来たのだ。


 転炉は画期的な産物で、これを使えばさらに良質な鋼が大量に出来るのだ。

 何故良質な鋼が必要かと言うと、例えば大砲の素材は丈夫になる順で言えば青銅よりも鉄、鉄の中に含まれる不純物(炭素等)を無くした鋼の順番である。・・・青銅<鉄<鋼かな。ただそれ程単純なものでもなく鋼もニッケルやクロム等の合金にするとより硬くなるのだ。

 このような硬度実験や強度実験等が鍛冶師の子供達、特に女子が集まって行っている。

 実験により不純物の少ない鋼の誕生はより強力な大砲や鉄砲を造れるという事を示しているのだ。


 それに伊勢国を手に入れたのは僥倖ぎょうこうである。

 今までの領地では手に入らなかった鉄鉱山と炭鉱が伊勢国の近くにあった・・・ので武力で奪い取った・・・からだ。・・・の間は読まないで、この所業はほんと第六天の魔王よね!

 波切城に着いた当日から根来寺を火縄銃製造の地にして火縄銃の父とも言える津田監物が俺の元にやってきて


「ライフリングとレンコン式弾倉を使った火縄銃・・・いや鉄砲が出来ました。

 試射実験をしますので、射撃場に来てみて下さい。」


と言うのだ。

 それでカルガモの親子のようにぞろぞろと射撃場に向かった。

 射撃場は波切城から少し離れた奥まった洞窟で、レンコン式の弾倉が付いた銃を持った二人の兵と九鬼家の城主九鬼定隆が待っていた。・・・九鬼定隆は史実では天文20年には亡くなっているがこの当時の最先端の欧州の医療技術の導入と食事の改善で何とか生き延びている。

 九鬼定隆が指揮官で二人の兵が訓練位置につくと


「まずは最大射程の実験です。最初は右側の兵が黒色火薬、左側の兵はサーシャ様が技術指導した新式火薬を使用します。

 構え!撃て!」


『ドーン』『ドーン』


と発射され、明らかに新式火薬の方がよく飛んだ。

 次々と鉄砲の実験が繰り返され、その都度俺と新式火薬を造ったサーシャ以外はその威力や射撃制度に驚いていた。

 その鉄砲はレンコン式で火縄銃とは違い次々と銃弾を飛ばすことが出来るもので

「織田式ライフル銃」

と命名され織田軍の正式銃に採用された。・・・当面の間は俺の指揮下の部隊のみの使用だが・・・資金は親父殿と美濃屋の女主人おしのも出すと言っていた。本当はヘンリー8世号やポルトガルのガレオン船の御宝だけでも十分に資金があり、その上最近では世に出しても良い綿製品の販売や窓ガラスの販売でも儲けているのだ。


 織田式ライフル銃のお披露目の後は大砲だ。

 口径の同じ前装式の青銅砲、鋳鉄製の大砲、鋼鉄製の大砲そして後装式の10センチ砲と並び


『ズドーン』『ズドーン』『ズドーン』『ズドーン』


と試射が行われ、明らか後装式の10センチ砲がはるか遠くまで飛んだ。

 親父殿は天文18年に一度大砲を目にしてはいるのだが青い顔をしている。

 これは俺に同行した美濃屋の女主人おしのも同じだ。・・・う~んこの大砲でも資金をひねり出させられると思ったか?・・・その通りなのだがそれは無理だ!

 1キロも飛ばない青銅砲ならまだしも5キロも飛ばせる後装式10センチ砲を売りに出したら俺の天下統一が遠のくだろうプンプン😠😠😠まったく!!

 この後装式10センチ砲よりいま海進丸の主砲として製造中の口径41センチ砲を見せたら腰を抜かすかもしれない。


 海進丸に積む予定の41センチ主砲と言えば、旧日本海軍で戦艦大和や武蔵が建造されるまでの間の連合艦隊旗艦の戦艦長門の主砲でもある。

 海進丸の41センチ主砲は、青銅砲や鋳鉄砲では無しえなかった炸薬の高い圧力に耐えて何と戦艦長門の主砲と同じ最大射程距離が30キロに及んだ。・・・この戦国の時代の大砲では1キロを超えれば大変なものだというのにだ。

 砲身を鋼にしただけではない、後装式で砲口よりも直径をやや大きめにした砲弾を装弾して更に高い圧力を得る事によりなしえたのだ。

 後装式にしたことにより砲弾も榴弾(炸裂弾)も発射できるようになった。

 戦艦長門が大正9年(1920年)完成だから、大砲だけを言えば370年も前倒しになることになる。

 この41センチ主砲はキャサリン達が持ち込んだ反射炉と転炉等の当時最高水準の科学技術だけではない、津田監物が率いる鉄砲鍛冶衆の意地と努力の結晶だ。


 今度は港に行き造船中の海進丸を見せる。 

 海進丸は今までのガレオン船を少し大きくした、全長70メートルで幅12メートルで舷側に配備される砲は、後装式10センチ砲を舷側の左右に10門を配備した。

 海進丸は欧州丸と同様にガレオン船のように敵船に乗り込むための前後の高い鐘楼を廃し、その代わりに前後に主砲が設置されるのだ。

 まだ作成中の口径41センチの鋼鉄製の砲が前後に1門づつ配置されて、前後の高い鐘楼の代わりに中央に3階建ての鐘楼(艦橋)が造られていた。


 その艦橋の1階部分は食堂で、2階部分が船長室と艦隊司令長官室、3階部分が操舵室に別れる。

 1階の食堂で歓迎パーティーが行われて、親父殿はポルトガルのガレオン船にあったワインを飲み、洋食を食べて喜んでいる。

 俺の横にはおしのさんがでかい胸を俺に押し付け


「わたしや親父殿からかなりな資金をひねり出させた強欲な若様は、いつの間にか私の娘やそこの胸のデカイ南蛮娘にも手を出して何人も子供までも産ませるとはそちらの方もお盛んで強欲だねぇ。」


等と酒臭い息を吐きつけてくる。

 そこへ帰蝶さん俺を助けに来たと思いきや


「私とあなたの間に世継の嫡男、奇妙丸が産まれ既に5歳になり、楓にも信正が生まれその他にも沢山の子供が出来たからと言って気を許してはいけないわ。

 織田家発展のために何人でも側室をお持ちなって子作りに励まないと。

 それが親方様としての仕事ヨ。」


等と言っているよこの人♡♡♡ハーレム一直線でいいんですね♡ムフッ♡

 その夜俺は海進丸の船長室で・・・艦隊司令長官室は親父殿が使っている・・・鉄砲ならぬ俺の一物を側室を持ちなさいと言ったわりにはまとわりついて離れない帰蝶さんに向かってぶっ放す、ハートマークの一晩が終わった。


 翌朝俺の親父殿の使っていた艦隊司令長官室からそそくさと美濃屋の女主人おしのさんが出てくるのを目撃してしまった。・・・う~んこの一晩で本当の叔母さんになり、俺の義母にもなってしまったようだ。


 その日は皆で真珠や牡蠣の養殖の様子を見に行き、親父殿達には真珠の数珠じゅずをおしのさん達にはネックレスはあげてしまったのでブローチや髪飾りを渡した。

 さすがおしのさん


「真珠はネックレス以外でもブローチとか髪飾りにも出来るのだねぇ!

 若様!鉄砲などよりこっちのほうがよっぽど金になるよ。

 もっと考えなさいよねぇ~。」


と言って発破をかけられたのだった。

 天文24年3月に今度波切城に来るときは皆が度肝を抜くような41センチ主砲が載せられた海進丸の進水式の日である。

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