第53話 機織り機
英国では18世紀半ばから19世紀にかけて綿製品の作成上の技術革新と製鉄業の成長そして蒸気機関が取り入れられて産業革命が起こったとういう・・・ゴウゴウと動く蒸気機関を使って巨大旋盤が回り大砲の砲身内部が抉り取られていくのを見学していた尾張屋の女中頭である根来の楓が
「若様若様この蒸気機関、絹織物・・・麻織物にも使えないかな?
ほら手織りで作るよりも大量に速く出来るでしょう。・・・どうかな?」
と発言するので思わず顔を見つめてしまった。
そうここで綿製品の作成上の技術革新が起これば300年も早く産業革命がこの極東の島日本で起きる事になるのだ。
そう言えばヘンリー8世号の積み荷に綿の種子が積載されており、この種子を赤堀家の爺様に手渡して栽培するように命じているのだ。
俺に見つめられている根来の楓さん何か不味い事でも言ったのかと思ってもじもじしていたら今度は何か思い当たったのか
「そうよね・・・絹織物は高級感を出すためにも手織りでも良いと思うけど・・・麻織物のように一般大衆向けに安い着物を作る為にも利用出来ないかな?」
と呟いたのだ。
本当に良いところに気が付いた人が生活するうえで「衣食住」ほど重要な事項は無い。
その衣については桑名地方は現在俺のおかげで絹織物生産地として名を馳せているが今度は綿製品を広めていくのだ。
今ある機織り機はカタンカタンと縦糸を足踏みで上下に別け、その縦糸の間に横糸を通して反物を織り上げていくのだ。
機織り機か・・・実は以前マッチ業の父として「清水誠」の碑が金沢市の卯辰山の中腹にあると書いたことがあるが、ちょうどその碑の下に位置するところに
津田米次郎
なる人物の像が金沢市内を睥睨するように鬱蒼とした木立の中に建てられている。
その人物こそ明治33年(1900年)に、日本で初めて絹織物の動力織機、津田式力織機の発明者である。
ついでと言っては何だが津田駒工業株式会社という繊維機器や工作機械の作製販売をしている会社が石川県内にあるがその創業者津田駒次郎は津田米次郎の従弟の子に当たる。
今は天文19年(1550年)で350年も先に動力織機を開発する事になる。
しかしながら、根来の茜が織物全般の動力織機の開発について思いが行くとは。
この動力機織り機の開発については発明家の長吉君は銃器の改造の中心的人物なので使えない。
暇そうに俺の脇で小姓をしている赤堀家の双子がいる。
一般大衆向けの織物とすれば今までは麻だったが、ヘンリー8世号の積み荷から見つかった綿の種から綿の栽培を赤堀家の爺様にお願いしている。
俺は根来の楓から天啓を受けたようだ。
言いだしっぺの根来の楓を機織り機作成のチームリーダーにして赤堀家の双子を付けることにする。
それに実際に絹織物を織っている職人がいるので、改良改善の手助けが出来るはずだ。
また綿栽培は赤堀家の領地で行われているので、赤堀家の双子が加われば綿栽培だけでなく機織り機の作製にも力が入ると言うものだ!
さっそく根来の楓と赤堀家の双子を赤堀家の爺様のところへ送り出した・・・う~ん!思ったよりも上手くいかなかった。
次期領主様の息子を機織り機改良のために送り込んだが・・・絹織物の機を織る職人は女性ばかり。
逆玉の輿を狙ってあの手この手と赤堀家の双子に言い寄った。
これに憤慨したのが赤堀家の双子の妹銀杏だ。
「このまま領地にいると双子の兄が色ボケになる。」
と言う手紙を添えて俺の元に二人とも送り返してきた。
おいおい!主である俺の命令に逆らっておかっぱ娘が双子の兄を追い出すとは。
俺は取る物も取りあえず赤堀家の領地に向かった。
馬で走る道路はほぼ直線で石畳により舗装され、その両側には綿花の畑が広がり赤堀家の爺様の努力が見える。
赤堀家の領主の館が見えてきた。
領主の館も建て替えろと命じて金を渡しているのだが以前の館のままだった。
門前で俺が馬から降りると、門番が
「御館様よくぞお越しくださいました。」
と平伏する。
すると手拭いを姐さん被りした村娘が俺の方に小走りで駆けてくる。
その娘が手拭いを頭からとり膝を着くと
「御館様、銀杏でございます。
二人の兄を送り返した事はお詫びします。
御館様、兄二人の話を聞いて私なりに工夫した機織り機がありますのでどうか見て下さい。
そこには祖父もおりますから。」
と言って案内を始めた。・・・う~ん!村娘が手拭いを取ると美少女が現れた。
『男子、三日合わざれば刮目して見よ。』
と言う言葉があるが銀杏も、ほんの少しの間に才媛の片鱗のきらめきを見せているようだ。
糞!振り上げたこぶしが・・・う~ん黙ってついていくか。
銀杏さん館の門に入るとそのまま館の横を通り抜けて館の裏に向かう
「御館様、今まで館の裏手には広場で兵士の練兵場があったのです。
その練兵場に御館様から頂いた領主の館の改築費を使って雨天でも練兵する為の建物を建てたのですが、親方様から綿花栽培を頼まれたのでそこに綿花用の機織り機を置いて職人を雇い入れたのです。」
確かに館の裏には小学校の体育館の様な建物が建っていた。
「よいしょ。」
と掛け声をかけて体育館のような建物の扉を銀杏さんがあけると
『ゴトン』『ゴトン』
と大きな音をたてて機織り機が動いている。
「うん!?動力は!?」
してやったりと言う笑顔で銀杏が俺を見る。
俺が来たことに気が付いたのか根来の楓と赤堀家の爺様が俺に向かって歩いてくる。
「どうです。馬之助や左馬之助が蒸気機関を使った機織り機の開発を命じられたと言って来たのですが、久しぶりの我が家で気が緩み女の尻ばかり追いかけまわして機織り機の改良に身が入らなかったのです。
それを見かねて銀杏が
『蒸気機関なるものはわからないが、以前御屋形様が水車の力でケーブルカーなる乗り物を造ったと言う。
水車の力を使って機織り機の改良をしては?』
と言って二人に代わって改良を始めたのです。」
と言って体育館内を銀杏に代わって今度は爺様が案内を始めた。
「まだ御館様から戴いた綿花の収穫が出来ていませんので、絹糸を使って実際に機織り機を水力で動かして織っているのです。」
と説明した。
まだまだ機織り機は木造製で強度に問題があるが水力を利用して機織り機は軽快に動いていた。
・・・ところで馬と左馬が追っかけまわした女工は何処にとキョロキョロすると、赤堀家の爺様が実はと奥の方で働く年嵩の色黒の女工を見つめて
「二人がまだ女も知らないと言うので、夫を亡くしたあの女工に因果を含めて二人の相手をさせたのですが、二人とも初めてのことで、その後もあの女工を二人で取り合って刃傷沙汰にまで発展しそうだったことから御屋形様のもとに戻したのです。
銀杏が損な役回りをしてしまいました。」
🕊🕊🕊なんとまあ🕊🕊🕊それでもこれで機織り機の改良は根来の楓と爺様、才媛のきらめきを見せ始めた銀杏の三人で軌道に乗りそうだ。
これで伊勢の国の仕置きが終わり、さらには銃器の改良や蒸気機関と機織り機等の開発の目処が立った。
これからの事について父親とも相談しなければ。
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