第51話 出来上がる新型銃と新型大砲

 北畠家を滅亡させて伊勢国(現在の三重県)を手に入れた俺は今まで渇望していた鉄鉱山を名張鉱山を手に入れることも出来た。・・・俺ってなんて強運!

 問題は鉄鉱石を融解させるほどの火力がある石炭やコークスを何処で手に入れる事が出来るかであった。

 その場所は意外と近くにあった現代の地図では三重県であるが戦国時代は紀伊の国に薬師炭鉱という石炭の産地があったのだ。

 この薬師炭鉱を花の窟神社の神主の爺様を虐めると言う武力で手に入れた。

 薬師炭鉱の付近には金や銀それに銅を産出する紀州鉱山もあった。


 桑名近くの長島に反射炉を建設して、明から輸入していた永楽通宝を基に紀州鉱山から産出される銅やすずを使って織田銅貨を鋳物で造り出すことに成功した。

 これにより長島は現代風に言えば織田家の造幣局になった。


 次は念願の大砲を鋳物によって造り出す事だ。

 大砲は鉄砲以上の秘密兵器で戦国時代の戦いを鉄砲が史実でも変えたが、大砲が広まればこれ以上の変化が訪れるのだ。

 保秘が必須の条件である。

 九鬼家が俺の傘下に入った事から条件に合う場所を手に入れることが出来た。

 それがリアス式海岸、複雑な湾で構成された英虞湾あごわんの深部にある九鬼家の居城、波切城である。

 その波切城下に反射炉・・・韮山の反射炉と同程度な物・・・を造らせたのだ。


 そこでも最初は青銅砲を造り出して鋳物の技術力を磨いた。

 そこには大砲を造りたい一心で根来寺から移り住んだ鉄砲の父ともいえる津田監物が率いる鉄砲鍛冶集団がいる。

 またキャサリンとウイリアムズは鉄製の大砲を鋳物で造り出した事がある。

 それに超絶した知識を有するサーシャもいるのだ。


 それに、当初は女性は刀鍛冶や鉄砲鍛冶にはなれなかったが、鋳物造りを火見達も学んだことから様相が変わってきていた。

 波切城では刀鍛冶師が男だけで鎚打つ作業小屋から、男女が共に働く現代的な工場になっているのだ。

 それに今までは大砲の鋳物を造るのに基からあった大砲を金型にして複製していただけだった。


 新たな大砲・・・前世の超近代的な大砲を造り出すのだ。

 ヘンリー8世号の英語で書かれた鋳物に関する書籍が読み漁られ、日本語の翻訳本が出来上がる。・・・翻訳は主に俺だ!忙しくて翻訳以外の仕事をほとんどしていない!

 ヘンリー8世号の書籍を基に精密な図面が引かれて、鋳物工場では新たな精密な木型が造られる。

 ところがこの木型造りが難航した。

 肝心なところが割れたりひびが入ったりする。


 木工と言えば関地君だが彼も忙しい。それで関地君の弟の朽木君を紹介された。

 最初の木型は彼のおかげで上手く出来たが


「この木型のように丸い細くて長いものなら、陶器の轆轤ろくろのように回しながら造れば簡単に出来るのでは?」


と大砲の砲身の木型を触りながら朽木君がつぶやいた。

 どうやら旋盤に思いが至ったようだ。


「水車の力を利用して、旋盤を造ってみるか?」


と俺が声をかけると、俺が横にいたのに気が付かなかったのか吃驚びっくりしていたが


「若様それはどんなもので?」


という事から長吉君を交えて先ずは木工旋盤の製作が始まった。 

 この木工旋盤の有用性には津田監物も直ぐに気が付いて鉄砲鍛冶衆に手伝わせようとしたが、男性の鉄砲鍛冶師は旧態然とした考え方で手伝おうとしなかったが、火見達女性陣は違った 


「刀鍛冶を辞めてまで鉄砲と言う新しいものを造ろうとしていたのに、何か目新しいものを造るのに何をためらう。」


と言って木工旋盤造りを手伝った。

 これによってより精密な木型が容易に作り出され、何門もの大砲の試作品が造り出されていった。

 鉄砲鍛冶達はそれ以外は研究熱心でもあり4人のイングランド人の知識を貪欲に吸収し、サーシャの前世の特化した知識により俺から出された課題である、大砲の有効射程距離を伸ばす事や火縄銃の欠点である雨に弱い事から薬師達と共同で薬莢の開発や命中精度向上の為ライフリングを入れる技術等も盛んに研究されていった。

 長島の小型の反射炉から生み出される織田銅貨による潤沢な資金と旺盛な技術改良によって、火薬や弾丸を銃口からの前装式の装填方法から後装式への変換を迎えたのである。


 先ずは火縄銃の改造である。

 念願だった薬莢が出来たことから最初は中折れの散弾銃のような方式にして1発装填で造ってみた。

 雨の中でも鉄砲が使えると喜んでいたが一発しか撃てないというので不満が出た。

 それで横や縦に銃身を並べて2発装填へと変化した。

 人間それでも不満が出る。俺のところへ津田監物が


「若様、一丁の銃で鉄砲の弾をもっとたくさん撃つにはどうしたらいいのでしょうかね?

 何か知恵を授かりたい。」


等と言ってきた。俺は


「蓮根と串を持ってこい。」


と俺の横にいた桜子に頼む。・・・最近ではキャサリンやグランベルやおかよまで俺の側にはべっている。これだけ見るとハーレム一直線なのだが・・・。

 津田監物だけでなく横に侍るキャサリン達の頭にもマークが浮かぶが、サーシャさんだけは輪切りにされた蓮根を見てニヤリと笑っている。

 他の人は食べ物と鉄砲に連想ができないのだろう。

 持ってきた蓮根の真中に串を通して


「この周りの穴に弾丸を入れて回転させるとどうなる?」


それを聞いた途端、挨拶もそこそこに津田監物さん串に刺した蓮根を持って鍛冶職人達の元に駆け付けた。・・・これにより


「織田の大うつけが監物殿へ与えた褒美が蓮根の串刺しよ。」


等と笑われた。よせばいいのに監物この蓮根を神棚に飾ってあると言う。

 それでも蓮根の串刺しによってレンコン式の織田式ライフル銃が造られたことにかわりはない。・・・本当に『必要は発明の母』である。・・・蓮根はレンコン式銃の母であるか?


 鉄の方は名張鉱山の鉄鉱石や薬師炭鉱の石炭により波切城に設置した反射炉で大量生産がされている。

 ただその鉄も粗鉄と呼ばれるもので鋼程の硬度も粘りも無い(もろいのだ)。

 その粗鉄も元々刀鍛冶の手にかかれば鍛造による鋼を造り替えることが出来る。

 しかしそれは口径が小さく鋼の使用量が少ない鉄砲ぐらいなら造り出すことが出来るが、鋼の使用量の多い大砲では無理だ。


 それに青銅砲では弾丸を飛ばす爆薬による内部圧力に負けて砲身自体が破裂する事態が研究中に起きた。

 やはり大量の鋼を造り出す為に製鉄技術を向上させて鉄から鋼鉄への変化の為、転炉の研究も始められた。


 それ以外でも問題が無かった訳ではない、火縄銃に使われている黒色火薬は瞬間的に爆発する。

 この黒色火薬を使用してライフリングの入った銃を使用するとした場合、ライフリングの溝と弾丸の隙間から火薬の爆発の圧力の抜けが生じる。・・・圧力の抜けが生じると弾は思ったほど飛ばない。

 その圧力の抜けを塞ぐためもあって砲口よりも直径をやや大きめにした砲弾を使えば黒色火薬では砲身に砲弾が詰まる(玉詰まり)を起こすことがある。・・・テレビドラマで科学捜査の関係で弾丸についた傷、施条痕(ライフリングマーク)を見ている場面を思い出してもらえれば・・・。


 玉詰まりを防ぐには、今使っている黒色火薬では

『ドカーン』

と一回の圧力があるだけで、できればそれを改良して

『ドドドカーン』

という感じに圧力をかけ続けれるような火薬が欲しいのだが・・・・無理かな。


 これはもう一人のこの時代への転移者マハラジャのサーシャさんが俺にこっそりと教えてくれた。


 サーシャは正妻の帰蝶さん付きにして語学を学ばせていた。

 伊勢国の元当主の北畠具教を打ち殺したことから北畠家が滅びて、行く当てが無くなった北畠具教の妻「北の方」を俺と帰蝶さんとの間に産まれたばかりの奇妙丸(後の織田信忠)の乳母としたのだ。

 それでサーシャさんは俺の元に戻されてきているのだ。

 ちなみに新しく乳母になった北の方と北畠具教との間に出来た天文16年(1547年)生まれの北畠具房きたばたけともふさは奇妙丸の乳兄弟となっているのだ。


 マハラジャのサーシャさんは前世でも時代の最先端のロケット工学等についての権威であった。

 その豊富な彼女の知識の一つ、1800年代後半にやっと発明される無煙火薬の開示だった。 

 爆薬の歴史で黒色火薬に次いで有名なのがダイナマイトの発明者ノーベルだ。

 ダイナマイトの発明から色々な爆薬が出来上がっていった。

 この無煙火薬の発明もダイナマイトの発明に勝るとも劣らないものだ。

 

 玉詰まりを起こした大砲の状態を見に行った。

 俺の後ろには玉詰まりを起こした同型大砲を載せた船を指揮する予定のキャサリンやサーシャも同行した。

 サーシャが俺の腕を引っ張り、何やら紙に書いた化学式を見せる。

 この時代の人、高い教養を誇るキャサリンでもその化学式を見ても


「この大事な時に何の落書き。」


と言って理解できない。・・・俺は化学式と言えば水のH₂Oか二酸化炭素のCO₂ぐらいしか覚えていないが確かに化学式だとわかった。

 それで俺は


「やってみろ。」


と許可を与えるぐらいしかできなかった。・・・出来上がれば本当にノーベル賞ものの快挙だ。

 そのおかげで・・・現代の無煙火薬が出来上がった。

 銃砲や大砲の研究と開発で波切城周辺はほんの半年で一大工業地帯へと変貌を遂げていったのだった。


 名張鉱山の鉄鉱石だけではない、ヘンリー8世号に載せていた鋳鉄製の大砲を鋳直して後装式の大砲に改良する。

 上手くいかなければ何度でも鋳直す。

 ある程度形が出来上がったところで発射実験を行う、砲弾も徹甲弾の他には焼夷弾も造る。

 何せ日本国内は木の文化が主体なのだから焼夷弾の開発は当然と言えば当然だ。

 出来上がった新型大砲は口径10センチで有効射程距離が目標にしていた5キロを超えたこれでヘンリー8世号の大砲の倍以上も飛ばすことが出来たのだ。


 問題はやはりライフリングだ鋳物で砲身は出来るのだが砲身の内部を削り出すライフリングは旋盤を使ったとしても動力が無いのが問題だ。

 砲身の短い鉄砲なら何とか・・・何とも出来ない!

 新型大砲も今のところライフリングは入っていない。

 ライフリングが入っていないと真直ぐには飛ばない。・・・砲弾の到達距離が長ければ長い程誤差も大きくなってくるのだ。


 新型大砲を基にさらに巨大な大砲41センチ砲の鋳型が出来上がった。

 これを造り出すほどの鉄も集まっているが、ただこの鋳物を加工しライフリングを入れる為の巨大旋盤が出来上っていない。

 巨大旋盤を造ったとしても、この時代の動力が牛か馬、それとも水車程度で、これでは削ることもできない。

 その動力の為にとうとう蒸気機関まで造る事になるか?・・・う~ん戦国時代に産業革命か!?

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