第50話 武器の改良

 波切城の反射炉にも火が入り、これで鋳造された大砲を造り出すことが出来る。

 先ずはポルトガルのガレオン船が積んでいた1キロも飛ばない38門の青銅砲を手に入れている。

 俺が親父殿に長島での大砲の有用性を説いた当主会議で


「鋳鉄製の大砲を最初から造り出す。」


言った事とは反するが、融点の低い青銅で大砲を製造して技術力を高めなければいけないと思ったのだ。

 長島の小型の反射炉で出来た織田銅貨と呼ばれる永楽通宝のような小物は出来上がったが、大砲等と言う大物はまだ造っていない。

 いきなり融点の高い鉄鉱石を融解させるよりも青銅砲を造るといものだ。


 これは所謂いわゆる

『朝令暮改』

という行為だが、前にも言ったが

『朝令暮改も出来ぬ馬鹿、させぬ馬鹿』

である、朝令暮改に対する言葉に

『改めるにはばかることなかれ』

とも言うでは無いか、まずはこの反射炉を使って青銅砲の鋳直しである。


 やはり鋳造技術は融点の低い青銅でつちかわれる。

 鋳物の青銅器時代の幕開けである、この技術を基礎に鋳鉄から鋼の時代へと発展させるのだ。

 ウイリアムズを指導者に青銅の大砲造りだ。


 鋤や鍬等の生活道具の鍛冶は嫌がっていた鉄砲鍛冶も集まってきた。

 青銅は銅とスズの合金だ紀州鉱山からは銅だけではない錫も採れる。

 ポルトガルの青銅砲を基に鋳型が造られて、溶けた青銅が流し込まれる。

 何度も何度も鋳直されポルトガルの青銅砲に近づいた。


 ある程度鋳造技術が高まったところで、今度は後装式の大砲を造り出すことにする。

 この頃には根来寺から移り住んだ鉄砲鍛冶衆も鋳物造りを手伝い始めているので、出来上がった青銅砲は見た目も綺麗だ。

 彫銀や彫刻が出来る人が竜虎の柄や織田家の家紋を入れた。・・・う~ん!?これ売れるかも!・・・ウヒヒ・・・いかん下品に走った。


 前装式の大砲では火種が残っていたりして装薬を入れる際に装薬が爆発する可能性が高い。

 後装式にすればその可能性が低く抑えられ、装弾が早いなどの利点があるが、後装式の諸問題についても次々と挙げられた。

 前装式の場合もそうだが後装式でも装薬に負けて砲身が破裂したり、後装式の後の部分(尾栓)が吹き飛ぶことがある。

 後装式では密閉性の関係から前装式の砲弾よりも砲弾が遠くへ飛ばない。・・・等々だ。

 それに薬莢に使う雷管、薬莢を使わないにしても後装式にすれば雷管が命だ。

 前話でも書いたマッチの原料の研究の成果でマッチもそうだが雷管も上手く出来上がりそうだ。


 試験的に出来上がったマッチと雷管を見て笑いが止まらない。

 早速出来上がったマッチを天皇家や有力公家に贈っておいた。

 薬師集団の関係で美濃屋の女主人おしのさんにマッチのことが漏れて、やはり豊満な胸を擦りつけられて


「マッチてのは民百姓も使えるのだろう?

 その為にも那古屋に美濃屋燐寸工業を立ち上がらせておくれでないかい?

 良いだろう若旦那!」


と言ってマッチ工場と販売を一手に引き受けた。

 マッチや装薬の研究で成果を上げた薬師集団には沢山の織田銅貨と波切城の反射炉から出来た鉄を利用した鉄筋コンクリート造りの研究棟を与えて喜んでもらった。


 時々前世の知識を有するサーシャがヒントを与えて鍛冶集団が改良していく。

 鋳造の技術力を身につけさせる為にはまずは融点の低い青銅を使った大砲からと考えてやらせていたが、ある程度技術力も身に付いてきたので今度は鉄鉱石を溶かして銑鉄を造り出す、鉄器時代の幕開けである。


 それに良質な鋼を造る場合は火力の強い石炭を使用した反射炉で鉄鉱石を溶かし、そこから出来た銑鉄(粗製⦅不純物を含む雑な⦆鉄)を更に製錬させるための転炉が必要になってくる。

 転炉が出来れば良質な鋼が大量に出来る、これは大砲の強度が増すことを意味し、理論的に言えばもっと遠くまで砲弾を飛ばすことが出来るようになるのだが反射炉による製鉄技術もいまのところ出来上がっていない。

 後装式の鋳鉄製大砲を造り上げるにはもう少し鋳造の技術力を高めなければいけない。


 大砲造りもそうだが火縄銃についても大砲と共に問題点が指摘されている。

 それは今までの戦で感じたことでもあるが、火縄銃は雨に弱くて単発だという事と火縄銃も大砲も有効射程距離が短いのでそれを伸ばす事だ。

 雨については薬莢を使うことで解決できる。

 薬莢に使う雷管がマッチ製造の過程で出来上がったのは僥倖ぎょうこう(思いがけない幸運)である。


 次の問題である有効射程距離についてだ。

 特に、これまで2度の戦に大砲を使ったが1キロも飛ばない青銅砲は論外で、ほんの2キロしか飛ばない鋳鉄製大砲ではいずれ戦略上でも戦術上でも今後使えなくなってくる。

 今の大砲は、海戦で船によってお互いが身軽に移動でき、外す事の無い近場で数多くの大砲の弾を発射して敵船を沈ませることから考えられたものだ。

 陸上で、距離が稼げなく、移動が不便な重い大砲を使うのは大勢で攻め込まれると鹵獲ろかく(奪われること)され不利になる恐れがあるからだ。


 それで有効射程距離が出来るだけ長くとれる新型大砲を鋳造したいのだ。

 その距離は例えば地球は丸い、それで身長170センチの人で水平線が見える距離が約4,6キロしかないのだ。

 それはどんなに俺の目が良くてもそれ以上は見えないのだ。

 有効射程距離は、その見える距離の限界を超えた約5キロを目指す。


 確かに旧日本海軍の戦艦大和の主砲の有効射程距離が30キロとも40キロとも言われているが、この大砲が有効に使われなかったのはレーダー技術の開発が遅れたためだと言われている。

 レーダー技術さえ進んでいれば空爆を受ける前に敵の空母や空母から飛び立った航空機を破壊できたかもしれなかったのだ。


 話を戻すが5キロを超えればこちらも相手が見えない・・・それは身長170センチの人を基準にしているからだ。

 一寸した高所を指揮所にして大砲の陣地に敵位置の指令を送れば良いのだよ。

 高所か!?・・・気球船も造ろう!かなりの高度から敵の位置が視認できる。

 旧日本海軍の戦艦大和の主砲なみでなくても良い、戦艦大和が生まれる前までの連合艦隊旗艦だった戦艦長門の41センチ主砲の最大射程距離が38キロ以上で有効射程距離も25キロにも及んだという、気球船で高度50メートルも上がれば26キロを少し超えた位置まで見えるのだ。

 よし5キロ越えの大砲を造る事が出来たら、次は41センチの大砲を造ろう!

 ところがマハラジャのサーシャさんニコニコ笑いながら


「そんな大きな物ばかり作らないでミサイル飛ばそ!」


と言うので俺は


「炮烙火矢程度なら作っても良いぞ。」


と答えるとガックリしていた。

 炮烙火矢自体が実際使われたどうかはわからないが、確かに戦国時代にあったという文献も残っておりミサイルやロケットの走りのようなものだと言える。

 それでもサーシャさんの並外れた知識があっても、それを造り上げる技術力やミサイルを飛ばすだけの燃料が無いのが現状だ。

 駄目な理由をベットの上で説明していると少しがっかりしているが・・・諦めた訳ではなさそうだ。

 彼女の室内には俺にこれ見よがしと見せる為かミサイルの設計図が山のように書き上げられているからだ。


 優秀なサーシャは北畠家を潰して北畠具教の内室(貴人の妻)を帰蝶さん付きにしたのでそのかわりに俺のところに戻ってきているのだ。

 ちなみに今では俺と同衾するのは嫌ではないようで、むしろ積極的に褐色いろの足を絡ませてくるのだった。

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