第48話 反射炉

 名張鉱山と言う鉄鉱山に引き続き、金や銀、銅まで取れる紀州鉱山と薬師炭鉱という石炭の産地までもを俺は手に入れたのだが、それらの鉱山から鉱石の採取が上手くいかない。

 とわ言っても鉄鉱石が大量に集まる前に、たたら製鉄以上に鉄鉱石から鉄を大量に造り出すことが出来る本格的な反射炉の建設もしなければいけない。

 反射炉を造っている間も鉱石は少しずつではあるが集まっているので先ずは反射炉造りだ。

 反射炉については、何方どちらかと言うと融点の低い青銅を溶かすためにかなり古くからヨーロッパ諸国では造られて使っていたらしい。


 反射炉が出来ればこれで鋳物が出来る!それに紀州鉱山からは銅が取れる事から先ずは明から輸入している銅貨

『永楽通宝』

以上の通貨、織田銅貨の製造も考えているのだ。

 

 史実では江戸末期にならなければ本格的な鋳造技術が日本には導入されていない。

 鋳造技術を外国の書籍だけで造り上げられたのが静岡県伊豆の国市にある世界遺産にもなった韮山の反射炉だ・・・う~ん反射炉は鹿児島県等他にもある。


 時代を先取りした鋳鉄製の大砲を造り上げた牧師のウイリアム・レベットを叔父に持つキャサリンやヘンリー8世号の砲術長のウイリアムズの二人が反射炉どころか転炉についてもを知っているのだ。

 それにヘンリー8世号には反射炉や転炉に関する書籍があった。

 さらに幸いなことにヘンリー8世号の反射炉や転炉に関する書籍には図面付きだ。


 織田銅貨の鋳造もそうだが大砲の鋳造もしなければならない。

 まずは織田銅貨を鋳造する反射炉の建設だ場所は織田家の拠点那古屋城に近く保秘出来る場所が良い。

 そうだ大砲の有用性を証明した桑名港と那古屋城の間で揖斐川いびがわと木曾川の間の中州(長島)において造られつつある研究都市国家を織田銅貨の鋳造場所にする。

 大砲の鋳造とその研究の為の研究都市国家は、やはり保秘の観点から最近手に入った志摩半島の英虞湾あごわんの一角にある波切城にした。・・・最近時々思うのだ


『朝令暮改も出来ぬ馬鹿、させぬ馬鹿。』


と、基本は大切だが不適切なら改めなければ上手くいかない事もある。

 俺は波切城を手に入れた時に


「長島での研究都市国家をやめる。」


と言ったら提案者のサーシャがさみしそうな顔をしたので


「長島では明から輸入している銅貨

『永楽通宝』

以上の通貨、織田銅貨の製造場所として小型の反射炉を造り、大砲も出来る大型の反射炉を波切城で造る。

 研究都市国家の場所を波切城に変える。」


と言い換えたら目も顔も輝かせていた。


 大砲製造用の反射炉を造る為に俺が波切城にいたところ、根来寺の津田監物と言う人物が俺の配下になっている根来の楓を通して尋ねてきた。

 史実ではこの津田監物とい人物は、種子島に伝来した鉄砲の1丁を現在の1兆円の金額で購入して、それに基づいて根来寺周辺を一大鉄砲の生産地にしたのだ。

 ある意味、鉄砲鍛冶師の生みの親「鉄砲の父」と言っても良いのだ。その彼が


「今回の戦いで使われた大砲なるものを見せて欲しい。」


と言うのだ、俺は津田監物に青銅砲を見せながら


「こいつは駄目だ!もっと射程距離を伸ばして命中精度を上げなければ使い物にならない。

 俺には秘策がある。

 どうだこんな大砲よりもっとすごい物を造り出してみないか?」


津田監物が俺の顔をジッと見る。・・・尾張の大うつけの吐く言葉を信じるかどうかだ。


「面白い!配下に加えさせて下さい。

 根来寺から出来るだけ多数の鉄砲造りの職人も連れてきます。」


と言って飛び出していった。

 根来寺周辺ではその当時でも10軒余りの鉄砲鍛冶が住んでいたが、そのうちの7軒が波切城周辺に移り住んだ。

 残った人は俺の事を「尾張の大うつけ」とあなど


「尾張の大うつけにつくくらいなら死んだほうがましだ。」


と言って取り合わなかったそうだ。

 津田監物が鉄砲鍛冶師を引き連れて波切城に来たころ、俺が出来上がろうとしている反射炉となまくら刀や槍が山のように集められた前で

『ハア~』

と大きくため息をついていると、反射炉を見ようと丁度立ち寄った津田監物が


「尾張の若様このヘンテコな塔は何ですか?」


「反射炉と言うもので、これが出来ればたたら製鉄以上に鉄を作ることが出来る。

 ただ鉄鉱石が集まらない。

 鉄鉱石を掘り出す為の工具が貧弱な為だ。」


「工具が出来れば、鉄が・・・解りました。

 どのような工具がお望みで?」


と言うので懐の美濃紙に鉛筆でサラサラと鉄製の鋤や鍬、鶴嘴やシャベル、大きなたがねとハンマーを描いて見せた。

 すると津田監物俺の描いた絵よりも鉛筆の方が気に入ったようで


「若様、その筆下さい!その筆を貰えれば何でもします。」


と言って、鉛筆と美濃紙類を俺から奪うように持って仲間の鉄砲鍛冶の所へすっ飛んで行った。

 根来寺から移り住んだ7軒の鉄砲鍛冶衆も


「新型の鉄砲や大砲なるものを造らせてくれるというのでここまで来たのだ。

 こんな訳の分からないものを造る為ではない。」


と言ってやはり良い顔をしない。

 鍛冶衆の中には、神聖な武器である刀等を造くろうと思っても造れない若い女性達がいる。その女性達を代表して少し大柄で引き締まった火見と名乗る女性が


「若様、私達に造らせてもらえないか?」


と言うのだ。

 やる気のある者にはやらせてみるべきだ。

 集められた鈍ら刀や槍が見事に鋤や鍬、シャベルや鶴嘴等に生まれ変わった。


 俺は彼女達の造った工具を持って各鉱山に行って、時には工具の使い方を実演して配っていった。

 翌月からの鉱石の採取量は倍増どころの騒ぎではなくなった。

 鉱石運びが背負子から馬車の時代へと変わっていったのだ。


 また俺は彼女達の腕を見込んで今まで不平の不満の声が多く上がった風呂のお湯焚き用の釜の修理をお願いしたところ見事な風呂釜を造ってくれた。

 これで今までの腕の悪い鍛冶師もお役御免である。

 俺がその鍛冶師に首を告げようとしたところで、刀や槍を工具に変えた女性鉄砲鍛冶衆の代表をした火見が俺に


「若様、お願いですから三治郎兄さんを辞めさせないで下さい。」


と声をかけてきた


「三治郎兄さんも鉄砲鍛冶の修業が嫌で家を出て、なにをしているかと思ったら鍛冶仕事をしているじゃないの、三治郎兄さん若様に辞めさせないようにお願いして。」


ここで俺の隣にいた長吉君が


「人を大事にする若様のする事じゃないね。

 鍛冶仕事が無理なら鋳造仕事をさせて見れば良いではないのか?」


と言われてしまった。

 様子を見ていた鉄砲鍛冶集団の中から


「俺も鋳造と言うのをやってみたい。」


と愚図の仙太郎と呼ばれる一際大きな子供も名乗りを上げた。

 そう言えば長島の反射炉の方は小型で優秀な将官大学の学生達が手伝ってくれたのでもう出来上がっているという。


「よし、三治郎と仙太郎はキャサ・・・いやウイリアムズから長島の反射炉で鋳造技術を学ぶと良い。

 火見お前達も鋳物の技術を学ぶと良い。」


 という事で波切城から織田の化け物関船に鋳造技術を学ぶ三治郎と仙太郎や火見達それに津田監物を始めとする鉄砲鍛冶師を乗せて長島の小型の反射炉の火入れ式を行う事にした。


 長島の小型の反射炉には紀州鉱山から銅の鉱石が薬師炭鉱から石炭が運ばれた。

 俺は反射炉の熱を利用して石炭を蒸し焼きにしてコークスを造り出してさらに火力をあげることを忘れなかった。・・・コークス自体が1700年代になって初めて出来た技術であり説明を受けた欧州の進んだ技術を知るキャサリン達でも目を丸くして見ていた。


 津田監物の言を受けて根来から波切城に移り住んだ鉄砲鍛冶達も煙を上げる反射炉を見上げている。

 銅の鉱石から銅がどろりと溶けだして流れ出てくる。

 その流れ出る銅を力持ちの愚図の仙太郎が柄杓ひしゃくで受けて、ウイリアムズから指導を受けながら三治郎と仙太郎が

『永楽通宝』

を鋳型にして造り上げた砂型に流し込んでいく。

 銅を流し込んだ砂型から煙が上がる。


 失敗だった!

 鋳物に用いる砂の粒が川砂で大きかった為か表面がざらざらしていて流通には耐えられる品物では無かった。

 砂粒の大きさを変え何度も鋳直したりしているうちに明国から輸入していた永楽通宝と同等またはそれ以上の品質の鋳物が出来上がった。

 これ以降、織田銅貨として流通を見るようになった。


 しかし、永楽通宝がこの当時現代の金に換算して約50円程の価値だから2400枚も鋳型で造れば、銀1貫(1貫は当時3,75キログラムで約12万円)になるのだ。

 凄まじい儲けである。・・・それに紀州鉱山からは金も銀も産出している。前世では弟秀孝を殺した叔父の織田信次だが良い仕事をしている。

 これを新型武器開発の資金に充てる。


 長島の小型の反射炉は大成功であった。

 今度は波切城の大型の反射炉の火入れである。

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