第44話 伊勢の国の戦後処理

 北畠晴具きたばたけはるともが桑名新港に攻め込み、俺が現在旗艦としているヘンリー8世号による大砲の1弾が彼をひき肉に変えて、指揮官の死をもって起こる崩れ、後年「桑名新港崩れ」と呼ばれる状態を起こした。

 その喪も明けぬなか俺は北畠晴具の嫡男で塚原卜伝の弟子で剣豪大名の北畠具教きたばたけとものりと北畠家の本城である多気御所の空き地で直接対決して打ち殺してしまった。

 俺の後を追ってきた明智光秀と共に多気御所にも攻め込み、北畠家を滅亡させ伊勢国を掌中に収めた。


 戦いがあれば戦後処理がある、これから伊勢国の戦後処理だ。

 戦争賠償金を取ろうとしても多気御所内にも蔵の中にもあまり現金は無い、現金は無いがさすがに公家大名とも言われるだけはある高価そうな茶道具が山ほどあった。

 武器庫はほぼ空だったが今回の戦いで雑兵に持たせるのが嫌だったのか、武器庫には名のある一品物の名刀が数振り隠すように置かれていたのだ。

 刀剣や茶道具を売り払うには堺の商人である今井宗久のような権威が必要だ。

 まあ良さそうな物なので手元においておくことにした。


 問題は領民からこれ以上の物を取り上げると伊勢国自体が疲弊する。

 逆に伊勢国の領民に食糧援助をして助けなければと思い、確認の為北畠家の多気御所の米蔵を見たところ、自分達だけでは食べきれもしない年貢米が山ほど積んであるではないか。・・・今年は不作どころか凶作で民が苦しんでいるのに!呆れを通り越して怒りが涌いてくる。

 この米蔵を開いて施し米を行う。・・・施す前に塩水選(塩水による籾の選別)をして種籾として残しておき、その他は施し米として民に食べてもらうことにした。


 米蔵を開き施し米の為の準備をしていると元北畠家の家臣どもが


「飢えているのは領民だけではない我々も同じだ。

 我々こそ施し米が必要だ。」


等と言って詰めかけてきた。

 重税を課したの北畠家でその尻馬に乗って領民から年貢をしぼり取っていたのは彼等だ。

 騒いでいる主だった家老や次席家老等の重臣宅や寄子の地方の有力豪族の屋敷を俺や明智光秀の手の者が急襲する。


 俺の素早い急襲を受けて、重臣達やその者の主要な配下が捕縛され、彼等の屋敷内にある年貢関係の書類が押さえらえ、米蔵が開けられる。

 その米蔵には年貢の隠匿の証拠物件である米類がぎっしりと積み上げられていた。

 それらの米蔵から集められた米は北畠家の米蔵の米をはるかに超える量であった。


 多気御所内の白州に彼等が引き据えられる。俺は


「この戦いに敗れた貴兄らを捕虜にもしないで、元の地位に就けておいたものを領民を慰撫する目的の施し米に異議をとなえ、あまつさえ貴兄らはこれまでに集めた年貢を隠匿して米蔵に腐らせるほどに集めていたではないか。

 その証拠の書付もある。

 その方らの家禄没収のうえ貴兄らは農奴(作業労働者)に身分を落とす。

 ただし貴兄らの息子や屋敷を次ぐ資格のある者は捨扶持で雇ってやる。

 本人らの器量次第では元の職に就けてやらんでもない。」


と言い渡した。

 農奴にしたのはこの戦いでも


「仏敵織田信長を北畠晴具と共同して倒し、この世を極楽浄土にしようぞ!」


等と騒いで関与していた一向宗の僧兵達も農奴にした。

 これで働き手や守り手である僧兵を失い弱体化した荘園を持つ一向宗の寺からその荘園を取り上げたのだ。


 今俺は農奴になった重臣どもを使って、暴れ川の上流の狭隘な谷で渇水対策や洪水対策用としてロックフィルダムを


「働け!働け!」


と鞭打ちながら造りあげている。・・・う~んそんなわけないだろう劣悪な環境なら反抗して暴動するだろう!

 日曜日の休暇を日を設けた七日制の導入と盆や正月等には休暇も与えていくつもりだ。

 伊勢の国を攻め落とし、正月から3月を過ぎて水がぬるみはじめて雪融けも始まった。

 雪融けさえ終われば、開墾が出来る。

 それで一旦、ロックフィルダムの建設を先送りにして、北畠家の領地内のいびつな形の田畑を農耕馬や農耕牛を使って大きな木の根を掘り起こし岩をどけ、すきを曳かせて四角く開墾し直していく。


 塩水選で選ばれた種籾を使って育稲箱で青く8センチ程育った稲を、稲の間隔を開けて田植えさせていく。

 これで一昨年に起きた害虫被害も少なくなるだろう。

 田畑が四角く整い緑色の小さな苗が規則正しく植え付けられている。

 これで後の仕置きは優秀な明智光秀に任せて多気御所から築城途中の津城に赴く。


 津城についたところで丹羽長秀なる人物が面会を求めてきた。

 史実でも今年、天文19年(1550年)に信長の配下になる人物で、長秀は俺の父親の信秀と争っている尾張の守護斯波氏の家臣丹羽長政の次男で、父長政は前年の天文18年に亡くなっており、長秀の兄長忠との家督争いを避けるために父親の仇敵の嫡男である俺を頼ってきたのだ。

 兄弟が血筋を残すために相争うのは戦国の世の習いである。

 俺と信行もそうだが、とみに有名なのは真田氏で関ヶ原の戦いでは西軍に真田昌幸と次男信繁(幸村)が、東軍に長男信之がついて戦い、信之が真田家を残したのだ。


 丹羽長秀君は俺より1歳年下で宿老にまで成り上がった人物だ。

 俺にいなやは無い。

 また丹羽長秀と面会している最中に、九鬼嘉隆の実父定隆が病を押して桑名の戦い以降二度目であるが俺に面会を求めて来た。

 定隆と面会すると定隆の後ろには嘉隆の兄浄隆が控える。・・・相変わらず桑名の戦いの負け戦から浄隆は俺を凄い目で俺を睨んでいる。それに俺が弟の河童(嘉隆)を重用しているのでいつ廃嫡されるかと思っているのかも?

 定隆は


「嘉隆共々織田の若様の配下に直接組み込んで欲しい。」


と頭を下げた。


 志摩半島は地図で見ればわかる通り入江が不規則に入り組んだリアス式海岸で鉄道等の交通網が発達する以前は陸の孤島とも言われていた。

 また平地があまりなく水利も良くなっいため農業は畑作中心であるために漁業が中心の場所である。

 ただ年貢と言えば年貢米と発想されるように米主体のこの時代では不利益な場所といえる。

 無ければ他者から奪い取るという戦国時代では、必然的に海賊、九鬼水軍が生まれたと言っても過言ではない。


 また九鬼定隆の居城である波切城は英虞湾あごわんと呼ばれる志摩半島の不規則で入り組んだリアス式海岸の内海の一番奥まった場所にあり、そこは海からも陸からも見えにくい場所である。

 昭和に入って交通網が出来上がっているが、それまでは陸の孤島と呼ばれるような場所であり、保秘と言う観点から見ればこれ程好都合な場所は無い。

 ただ定隆の後ろに控える浄隆の目が気になるが、ヘンリー8世号の母港を桑名新港と波切城の港の2港にする事にした。


『思いっ立ったが吉日』


というではないか、新たに加わった九鬼親子と丹羽長秀をヘンリー8世号に乗せて波切城に向かう事にした。

 波切城は風光明媚な場所で、港の沖合にヘンリー8世号を停泊させて、ボートでの上陸になった。

 先ずはガレオン船の船着き場と造船場等の港湾施設の建設だ。


 作業をすると出るのが怪我人、病院の建設も行った。・・・一番最初に入院させたのが面会した時から青い顔をして今にも死にそうな定隆さんだ。

 本当の目的は定隆の健康状態によっては九鬼家が真っ二つに割れる可能性を秘めているので、これを少しでも先送りにしようと思ったからだ。

 桑名にある医科薬科大学と附属病院と同様なものを建てて、そこに入院してもらった。

 柔らかいベットも綿花の栽培がまだ緒に就いたばかりで硬い板張りのままだ。

 それに冬寒い風が通らないように窓ガラスを使いたいが、窓ガラスの工場は那古屋城近郊で建てたところでまだ流通できる程の生産がされていない。

 それで定隆の入院した個室だけは障子を2重にした部屋を建ててあげたが、定隆の健康状態があまり良くならない。


 英虞湾は現代では牡蠣かきの養殖や真珠の養殖でも有名な場所だ。

 真珠養殖に必要なアコヤ貝は房総半島以南に生息している。

 俺は定隆から天然真珠をわずかだが頂いている。

 それに天然真珠は魏志倭人伝に邪馬台国の朝貢品にあったと記述があるほどだ。

 ただ養殖真珠については交通網が発達してきた昭和の時代になってからで、かなり歴史よりも前倒しになるかもしれないが、牡蠣と真珠の養殖をやってみるか。


 定隆の呼び掛けによって何人かの海女が俺達を出迎えた。

 海女の歴史は古い何と縄文・弥生時代の遺跡からアワビオコシと呼ばれる海女の使っていた道具が見つかったというのだ。


 それだけにこの地域では女性の地位は高い。

 俺の後ろに如何にも西洋人の美少女二人もそして船医見習いとして乗り込んでいた桜子やおかよまでもついてきていた。

 四人とも

「真珠(パール)」

と聞いただけで興味津津きょうみしんしんである。

 特に西洋人の美少女二人にとって真珠は欧州の王侯貴族の間では地位と富の象徴ともいえるからだ。俺が


「今後この地方を治める事になった織田信長である。

 真珠があると聞いた、見せてはもらえないか。」


「白くてきれいに輝く球だからとめておいた。」


と言って木箱に山盛りに詰めた真珠を持ってきた。・・・う~ん定隆さんも知らなかったようで目を丸くしている。

 それも3箱もである。・・・西洋人の美少女二人が大量の真珠を見て流石に引いている。

 俺は海女の言い値で買い上げた。・・・それも二束三文でだ!ただ俺も今のところ適正価格は知らない・・・そう思った途端、美濃屋の女主人おしのの顔を思い出してしまった。

 美濃屋の女主人おしのなら真珠の適正価格を知っているだろう?


 おかよに命じておしのを引っ張ってくるようにお願いした。

 後日おしのと共同経営で海女の海から採ってきた天然真珠を買い取る為の店と養殖の為の店を開設することになった。

 大量の真珠が手に入ったのでネックレスを造って帰蝶さんを始めとする女性陣にプレゼントをした。・・・その夜のサービスはすごかった♡♡♡ムフッ。

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