第43話 北畠具教

 桑名新港に北畠晴具きたばたけはるともが攻めてきた。

 俺はそれに対抗する為、ポルトガルのガレオン船が積んでいた青銅砲というこの時代の日本にはない新兵器を駆使して侵攻を止めた。

 さらにはヘンリー8世号の積載するこの時代の世界中を探しても滅多に見つけることができな鋳鉄製の大砲が放った1弾が北畠晴具を肉塊に変え後年

「桑名新港崩れ」

という敗走に転じさせた。

 逃げる北畠軍を追って配下の明智光秀が現在の三重県の県庁所在地津市まで来た。

 これ以上の追撃は同盟している九鬼家(九鬼水軍)の領地に侵入することになりここで矛を収めた。


 制圧させれば領地運営の中心地である津市に城を築城する。

 今回もプレハブ建築の第一人者になっている若くして大工の棟梁になった関地が津城を築城する事になった。

 俺は津城築城の邪魔が入らないようにヘンリー8世号をその付近の海上で示威行動をとらせた。

 その間俺はヘンリー8世号からボートに乗って津城の築城状況の見学と津城下における尾張屋、三河屋等の支店の開設準備に向かい、光秀や関地とともに城下街の建設に奔走し始めた。


 ところで敵将の北畠晴具が砲撃で肉の塊になったので、北畠家の次期当主は嫡男の北畠具教きたばたけとものりが継ぐことになる。

 北畠具教は享禄元年(1528年)生まれなので俺より6歳上で中納言の位を有する公家大名だ。


 武術にも造詣が深く塚原卜伝さんを招いて手ほどきを受け、奥義「一之太刀」を受けているほどの名手だ。

 会ってみたい。・・・今でも俺は剣道家で強い相手を熱い思いで求めている。

 そう思ったら居ても立っても居られなくなった。

 夜更けに起きだした俺は、用意してあった黒い皮製の袴と陣羽織に身を包み、背には無名だが長さ約4尺、120センチもある大太刀を背負い手には同じ長さの木剣を持って、明智光秀が築城中の津城にある仮の宿所から北畠具教の住む多気御所を目指していた。


 月明かりの元、多気御所への山道を登る。

 俺はこっそりと出たつもりだが、根来の楓他10名以上の忍軍が俺を守りながらついて来ている。

 翌早朝には多気御所が見えてきた。

 多気御所の一角から鋭い気配を感じた。

 気配が発する場所が見える位置まで行くと、早朝にもかかわらず、斎戒沐浴さいかいもくよくして瞑目めいもくしながら木剣を構えている20代前半の男性がいるのが見えた。


 距離は遠い、その男性が

カッ

と目を見開いて俺を見る。

 その男性の唇が動いた

「かかってこい。」

と・・・俺はそれにこたえるように背の大太刀を立ち木に預けると、木剣を片手に駆けた。


 ところが、その男の手前5メートルまで来た時俺の足が自然に止まった。

 男の強さが結界のように俺を止めたのだ。

 背にジワリと汗が出る・・・とんでもない化け物を相手にしたようだ。


 心に

恐懼疑惑きょうくぎわく

が涌くことを最も剣道では嫌う。

 その中の相手に対する恐れが俺の心に膨れ上がった。


 相手の男は俺の心の隙と見てスルスルと歩み寄り、木剣を振り上げて俺の面へと振り下ろす。

 俺は体を裁き、振り下ろされる木剣を手に持つ木剣のしのぎで軌道をらす。

 相手の男は逸らされた木剣を流れるような動作で巻き返して俺の胴に変化して打ってきた。

 全日本剣道形の4本目は突きを巻き返すが、相手の男はすり落された木剣を巻き返しで軌道を変化させて胴に打ち込んできたのだ。


 俺はその胴打ちに対して、左足をわずかに引いて相手の木剣を上から打ち落とし、そのまま突き出すようにして相手の右小手を狙う。

 相手は狙われた右小手を木剣から外すと、後退しながら左手一本で腕を回して俺の右面を狙う。・・・う~ん相手は距離をとり態勢を整えるための技だった。

 ブーン

と風切り音がして俺の頭上を木剣が通過して、相手はピタリと左上段に構えた。


 俺はと言えば対上段の構え、相手の左拳に剣先をつける。

 この間の数合の相手とのやり取りで俺の心が落ち着き澄んでいくのがわかる。

 相手が


「我は鹿島新当流、北畠具教なり、そこもとは。」


と聞く


「我は織田信長なり、まいる。」


 俺思わず本名を名乗ったが北畠具教さんの方が精神的ショックが大きかったようだ。

 それはそうだ実父を砲撃により肉塊にした張本人が目の前にいるのだ。


「親の仇!」


と大声で叫ぶと、正面を思い切り打ってきた。

 これ程の名手が

 恐懼疑惑

と呼ばれる心の乱れによって、俺憎しの思いのまま機会も何もかまわずに正面を打ってきた。

 その正面打ちも、腕に力が入りすぎて僅かに正面への切り込みに乱れが生じた。

 剣道形の5本目の面擦り上げ面の要領で、鎬で相手の振り下ろされる木剣を擦り上げて相手の面に振り下ろす。

『グシャ』

という鈍い音とともに北畠具教の頭部がザクロのようにはじけた。


「グーワッ」


と言う断末魔を上げて脳漿のうしょう血飛沫ちしぶきを散らしながら

『ドーッ』

と仰向けに倒れた。

 倒れた北畠具教の目は見ひらかれていたが何も見ることは出来なかった。


 騒ぎで多気御所から人が出てきたが、いつの間にか俺の周りにも何千人もの具足に身を包んだ兵が俺を守るように現れた。

 その中の甲冑武者が俺の横に立って


「御屋形様、多気御所には攻め込むなと自らが言っていたでしょ。」


と金柑頭の明智光秀が苦笑いしていた。

 北畠の新しい当主の北畠具教も織田信長によって打ち殺された。

 これによって多気御所まで手に入った。

 北畠家の当主北畠具教を打ち殺したので、天文16年(1547年)生まれでわずか3歳になるかならないかの北畠具房きたばたけともふさが嫡男で当主になる。

 多気御所内の奥の部屋には北畠具教の妻「北の方」が白装束に身を包み幼い具房を抱えていた。

 その北の方が


「私の身に変えて、領民を救ってはくれまいか。」


と俺の目をひたと見て問うた。・・・う~ん、一族郎党ではなく領民か面白い!

 俺がその部屋に入ると母親の手から抜け出した北畠具房が俺の前に手を広げて母親を守ろうとした。

 俺はその子を抱えて北の方と話し合うことになった、北の方の実家は六角家であり俺は


「その方らの命は取らぬ、六角家の実家に戻るか、それとも俺には織田家の嫡男奇妙丸が産まれたところだ。乳母となって織田家に使えぬか。この子は乳兄弟とならぬか?」・・・北畠家の滅亡への第一歩である北畠晴具を撃ち殺したヘンリー8世号の一斉発射は我が子が生まれる祝砲でもあった。


と問うと


「夫の敵が何を言う。・・・」


「答えを出すのは早い。どうだ1年とは言わぬ、半年ほど俺の元で働け。」


俺の膝の上には北畠具房がいる。・・・う~ん子供を人質に強要だ。だんだん「尾張の大うつけ」から「第六天の魔王」になってくるようだ。

 北畠家を滅亡させたが、嫡男の北畠具房は俺の手にある人柄を見定めて復興させることも出来るのだ。

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