第37話 当主会議(大砲の有用性)

 台風でこの時代で最大最強のガレオン船、それも二隻もほぼ同時期に手に入れた。

 ガレオン船、船の長さが60メートル以上に及び大砲が片舷で25門以上・・・俺が今回手に入れたヘンリー8世号では片舷15門、ポルトガルのガレオン船は片舷25門を・・備え付けた戦列艦バトルシップだ。

 この当時の最大和船の関船でも30メートル以下なのだからその威容は推して知るべしである。


 最初に手に入れたガレオン船はイギリス船で「ヘンリー8世号」と言う船だ。

 ヘンリー8世が牧師ウイリアム・レベットに命じて鋳鉄製の大砲を造り上げ・・・う~んここまでは史実通り・・・その20ポンド(約9,1キロ)の大砲がこの船には載せられていた。

 またポルトガル船は海猫のおかげで沈没寸前の状態で見つけた。

 ポルトガル船は旧来からの15ポンド(約6,8キロ)青銅砲を載せた船だった。


 手に入れたのはそれどころでは無い貴重な資料や人材だ。

 ヘンリー8世号に乗っていたイギリス人のキャサリンは鋳鉄製の大砲を造り上げた牧師ウイリアム・レベットの姪であり、鋳鉄製の大砲の製造方法についての知識を有していた。

 同様に航海士のウイリアムズもまた鋳鉄製の大砲に携わり航海術にたけていた。

 また、キャサリンの従妹のグランベルは西洋医学を身に着けた外科医であった。

 

 そして極めつけは沈没寸前のポルトガル船の唯一の生存者で俺と同じ前世の記憶があるマハラジャのサーシャさんだ。

 語学用にと渡した美濃紙にレシプロだがの絵を描いていたのだ。


 ただマハラジャのサーシャとはまだ意志疎通が上手くいっていない。

 彼女は今世で生まれ育ったインド語と片言のポルトガル語、前世の知識のK国語が話せるようだ。

 K国語はお隣の国で漢字を使ってある程度意思疎通ができるのだが・・・今のところ拒んでいる。・・・う~ん信頼関係の構築が必要だ。

 後で判明したが、彼女は前世は天才ロケット工学の博士で、俺の前世で迷惑なミサイルをボンボン飛ばした元凶見たいな人だった。


 俺は2隻のガレオン船に積まれた大砲の有用性を親父殿や帰蝶さん達に見せるために桑名港と那古屋城の間で揖斐川いびがわと木曾川の間の中州(長島)で試射実験をする事にした。

 またその試射実験の後は今後の方向性を示す当主会議を開くことにしていた。

 親父殿は


「2隻の西洋の船を手に入れているなら見せろ。」


としつこく言っていた。

 今回は鉄砲より凄いものが見られると告げているので、親父殿は俺の傅役の平手政秀さんを連れてきており、帰蝶さんの後ろには根来の楓がきつい目を光らせていた。

 音が漏れるのは仕方が無いが不審者の侵入阻止は根来衆等の忍者の役割で、その総指揮官が根来の楓だ目もきつくなるよな。


 そして俺の後ろに控えるキャサリン達はイギリスの海軍士官のような服装で、ポルトガル船に乗っていたサーシャはポルトガル船の船長室にあったインドの民族衣装サリーをまとって当主会議の場に現われた。

 何か帰蝶さんとキャサリン達女性陣がバチバチして火花が飛んで見える。・・・幻視かな?

 親父殿いかにも西洋人の4名と黄色人種にしては掘りの深い少女を目にして驚き、

その会議の場にはポルトガル船の青銅砲とヘンリー8世号の鋳鉄製の大砲それに小型の青銅製の大砲の砲口が海に向かって置かれているのを見て驚いた。


 砲口を海に向かって置かれた3門の大砲は明智光秀に命じてこの場まで引っ張ってきてもらった。

 当然光秀は貴公子(竹中半兵衛)の御側付きなのでこの事が知られて、貴公子の友人になった猿(木下藤吉郎)、河童(九鬼嘉隆)も貴公子と一緒にこの地についてきたのだ。

 3人は置かれた大砲をワクワクした目で見つめている。

 俺の小姓になっている赤堀家の双子と長吉君もそわそわしているので


「大砲、見に行って良いぞ。」


と言った途端、凄い勢いで大砲に向かって走って行った。

 3門の砲がヘンリー8世号の航海士で砲術長のウイリアムズとボーズンのジョンが兵を指揮して砲術の準備を始める。


「何やってる砲口をのぞくな!」


とボーズンのジョンに猿や河童どころか貴公子達まで怒られている。

 離れた場所に猿達6人を下がらせ安全を確認したところでウイリアムズが


「ファイアー」


と命じると


『ズドーン』『ズドーン』『ズドーン』


と轟音が辺りを震わせ海面に水柱が3本上がる。

 青銅製の大砲と鋳鉄製の大砲では明らかに到達距離が違った。

 青銅製の大砲の砲弾は小型の青銅製大砲の砲弾の2倍は飛び、鋳鉄製の大砲の砲弾は青銅製の大砲の砲弾よりもおよそ2倍強も飛んだのだ。

 ちなみに火縄銃を同じ位置から


『ドーン』


と撃って見ると小型の青銅製大砲の砲弾でも火縄銃の弾丸のおよそ5倍もの距離を飛んだことが分かった。

 俺や結果を知っている外国人以外は、やっと火縄銃の時代が到来したとおもっていたところで、それよりももっとすさまじい兵器を目の当たりにしたので驚愕で固まっている。


 ここで親父殿を交えて御前会議だ。・・・出席者は俺と親父殿以外はイギリス人の4人とマハラジャのサーシャさんの7人だけだ。

 帰蝶さんを始め他の者は青銅砲や鋳鉄砲に群がっている。

 いまだにほうけている信秀に


「親父殿!

 まずはこの者達は・・・。」


「いや、名前など良い。

 それよりこの大砲なる物を見せるだけではなかろう?」


「俺は、室町幕府(足利幕府)を打倒してこの日の本の国を統治する。

 その為にはいま目にした大砲を造ろうと思う、先ずは青銅砲と思うだろうが最初から砲弾のよく飛んだ鋳鉄製の大砲を造る。

 その為にも、この長島の地で研究都市国家を造っていく。」


 俺は口には出せないが実は


『技術や技術力は手に入れたが、問題の材料(鉄鉱山)や火力の元(炭鉱)が手に入っていないんだなこれが。』


・・・と思っていた。それに応えるように


「ふん、息子よ桑の里を造ったのも実は硝石造りだろう?

 硝石は後4、5年先か、今度の研究都市国家も同じくらいかかるか・・・面白いやってみろ!金は出してやる。」


と言ってウインクしたよこの親父!・・・硝石造りまで知っているとは、流石に尾張の虎と呼ばれるだけあって隠し事は出来ないか。

 詳しい事業、研究計画を説明しようとすると


「細かい事はいらん!

 鋳鉄製の大砲を造ると言うなら結果を出せ。」


と言って大砲を子供のように見に行ってしまった。

 ここで放った大砲が俺の天下統一の号砲となった。


 親父殿卓上の前には見てもらいたかった布が掛けられた研究都市国家の模型と事業計画書だけだ。

 その研究都市国家の模型には反射炉や転炉の模型まである。・・・う~んこれを見てもこの時代の日本人の知識ではまだ良く分からないか?ヘンリー8世号の書架にそれらの知識を説明した書籍が並んでいるが英語なので翻訳しないと分からない。それにこの時代の日本人で読めるのは今のところ俺だけだ。

 キャサリン達でさえやっと鋳鉄製の大砲を製造できるようになったところだ。


 研究都市国家そこでは鋼鉄を造り出す反射炉や転炉の技術も重要だが。

 造り出された鋼鉄製の工作物をさらに造り(削り)出す技術の研究も必要だ。

 工作物を削ったり磨いたりする「旋盤」は特出する技術だ。・・・高性能な大砲を造るのには欠かせないものだ。


 旋盤か・・・初期の物を削る旋盤の技術は回転させた工作物に手に持った刃物を当てて削るだけだ。・・・陶芸家の轆轤ろくろを思い浮かべると良い。

 1780年代になってイギリスのモーズリーと言う人物が現代風な旋盤を造り上げている。


 この現代的な旋盤の技術がさらに高度で精密な工作物を造り出すことが出来るのだが・・・問題は動力だ。

 蒸気機関の技術か少し早すぎるかな?・・・何はともあれこの場所長島で科学技術学校を造る事の許可を得た。

 俺の横でマハラジャのサーシャが研究都市国家の模型の模型を見てウキウキしている。

 この後から時々技術的な事について助言してくれるようになった。

 朱書きの訂正で何か学校の先生に添削されているような気分だ。


 今回の大砲の有用性を知らせる試射実験は大成功で、これにより研究都市国家を造り上げる事の許可も取った。

 しかしながら、猿や貴公子達を押しのけて子供のように大砲に触って喜んでいる親父殿を見るとその効果は確実にあったようだ。

 残る問題点は鉄鉱山と炭鉱の入手、蒸気機関と旋盤という高度な技術の開発だ。


 親父殿と傅役の平手政秀さんが那古屋城に戻ると直ぐに政秀さんから俺宛に急使が来た。


『今川が庶兄織田信広が守る安祥城を攻めてくる。』


と言う急使だった。

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