第36話 復元されたポルトガル船
ヘンリー8世号に続いて、乾燥も終わったポルトガルのガレオン船内の見分だ。
起こしたポルトガルのガレオン船を桑名新港の乾ドックに引き入れて船内を船内の水抜きは終わったが溜まったヘドロでとても船内に入れないので乾燥させている。
ポルトガルのガレオン船もヘンリー8世号と同じ、3本マストで全長60メートルにも及び乗員600名で運航する大型帆船だ。
ただこの船に積まれている大砲は15ポンド(約6,8キロ)の青銅砲で左右25門づつ計50門を持つ
水抜きも終わって船内のに残された商品、お宝を探す。・・・いつの間に!美濃屋の女主人おしのさんに腕を掴まれて、ニヤニヤと顔を
「ヘエー!若様上手い事したねぇ!
外国船をこの船を含めて2隻も手に入れたんだねぇ~。
最初の船同様に売れそうなお宝があったら私に
上手く売れたら利益の半々で
等と言いながら大きな胸を腕に摺り寄せて迫る。
そうだおしのさんにはヘンリー8世号の筆記用具を渡した時に
「ポルトガルのガレオン船の積み荷の見分もあるので1月後に来るように。」
と伝えていたのだが、娘のおしんと手代の新吉を連れて俺が船内に入ろうとした日に来るとは鼻が良すぎる!俺は
「載せてある武器は駄目だが、その他の商品なら良いだろう。」
と答えると目を輝かせて俺の腕を絡ませながら一緒に船内に入ろうと・・・止めた。
物凄い死臭で呼吸も困難なほどだ!
おしのさん俺から腕を放して
「新吉!新吉!若様と一緒に船内に入って商品の帳簿を付けてきな。」
と手代の新吉を俺に押し付けておしのさんは娘のおしんさんと一緒に何も言わずに逃げ出した。
船内に入って分かったのだが、このガレオン船は右舷側を下にして横倒しで沈んでいた為に右舷側の青銅砲25門中の12門が抜け落ちて海底に沈んでしまった。
それでも13門が海に抜け落ちないで奇跡的に残っていたのだ、これでこのガレオン船の舷側に設置された青銅砲38門が手に入ったわけだ。
乾いたヘドロから立ち昇る悪臭が込められた船内の臭気を抜くために、船倉に荷物を出し入れする上部の蓋を取り外し、舷側配備の砲塔の砲門の扉等を全て開けて換気しながらの船内の備品の確認作業だ。
いつの間にかヘンリー8世号ではお呼びのかからなかった長吉君や
「この船を自分のものにする。」
と言ってまだ欲望を捨てていない河童の九鬼嘉隆や猿や半兵衛それに赤堀家の双子の兄弟や明智光秀もがついて来ている。
そのなかでも長吉君は船内に入って変わった物が無いか目を皿のようにして走り回っている。・・・はて?臭くないのか?ありゃ!
慌てて長吉君を船外に引き摺り出した。
布を二重三重にして匂いを押さえるが臭いものは臭い!
途中からどうせ壊すのだ
「船大工に換気を兼ねて穴を開けさせよう。」
そう思ってふと埠頭を見渡すと船大工に混じって見知った顔がある。
プレハブ工法の時に疑問を投げかけた若い大工の関地だ。彼は
「欧州の船を見ることで俺の建築技術の向上に役立つかと思い、船大工の源さんに頼んでこの場に来た。」
と言うのだ。
俺は名前の出た船大工の源さんと関地を呼んで
「棺桶のようになったこの船に乗りたがる者はいない。
それで、この船を解体して欧州の船の秘密を知り、新たにこの
協力してくれ!」
と頼んだら感激して、換気の為の空気穴を開けて解体作業を行う事になった。
解体作業も船から取り外したその部品の写しを造り、部品の長さや大きさを測りながら作業するのでそれなりに時間がかかる。
関地と源さんは考えたどうせ解体作業をするのにも時間がかかるのだ、その
新たな船を造ることで大工や船大工の意気込みに火が着いて作業効率があがった。
美濃屋の手代新吉の他に10人程の小僧さん、さらには元気を取り戻した長吉君などが帳簿付けの手伝いに入り、帳簿が付けられた物から次々と兵士が手伝って船外に持ち出して明智光秀と貴公子が分類しながら乾かしていく。
俺はこのポルトガルのガレオン船も前後に高い鐘楼が設けられており、少し嫌がっているが最後の生き残りのサーシャを連れてその鐘楼内に入ることにした。
キャサリンやグランベルはギー・ド・ショーリアックの大外科書を桜子やおかよと翻訳ついでに日本語の勉強中だ。
サーシャが
「この後方のガラス張りの鐘楼はヘンリー8世号と同様に2階建てで1階部分は食堂で下卑た士官が集まって食事をとっていた。」
という、横倒しになった衝撃で士官の座っていた椅子がほとんど無くなっていたが船体に直接取り付けられた中央の長いテーブルがその名残りとして残っていた。
食堂内にはテーブルと
食堂内の残った椅子を美濃屋の小僧さんが運び出す。・・・その姿を見て家具類も複製させるか!
船大工の源さんと関地君を呼んで
「船内の家具類についても複製できる物は複製して欲しい。」
と言うと
「船の複製も忙しいので腕の良い指物師を知っているそいつに頼む事にする。」
という事で欧州家具造りが始まった。
これが戦国大名や京都の公家衆に受けてかなり儲かった。
2階は船長室である。
サーシャは嫌な思いが蘇ったのか、少しためらいながら室内を案内する。
船長室には備え付けの執務机とベットそれに鍵の掛けられた大きな宝箱が置かれていた。
執務机の椅子も流されて無くなり、ベットは骨組みしか残っていなかった。
残された執務机の引き出しの中には航海日誌と無造作に宝箱の鍵が入っていた。
航海日誌は水に濡れてボロボロだった。
執務机の中の鍵を使って船長室の大きな宝箱を開けるとその中にはお宝が詰まっていた。
そのお宝の中は西欧諸国の金貨が多い。・・・サーシャの監禁されていた部屋のものは小さな宝箱ではあるがサーシャの身代金として金銀その他宝石が詰まっており、船長室に置かれた宝箱は普通のタンス程の大きさで頑丈なものだ。
いずれの宝箱も木で出来ており密閉性が高くいざという時は浮き輪代わりになるのだが・・・この船長室にあるものは固定されていた。
船長室の宝箱の蓋の裏に紙が貼ってある、機密性に優れていたのかこの紙は濡れていないではないか。・・・う~ん書いてある文字はポルトガル語で良く分からないが金と銀の交換比率(金銀比価)が書いてあるようで、これでは日本国が丸損だ。
金貨1枚に対して西欧では銀貨10枚だとすると、日本では金貨1枚に対して銀貨15枚程だ。これでは西欧諸国が金貨1枚で銀貨5枚も
それで金貨を大量に持ってきたのだ。
この船長室でも人一人がやっと持てる小型の青銅砲2門と飾り棚に飾られた火縄式の拳銃2丁を見つけた。
飾り棚に飾られた皿類は船が横倒しになった衝撃で割れてしまったのか、あまり残ってい無い。
それでもガラス製品や陶製品について知ることが出来ると長吉君が破片を分類しながら船外に持って出た。
飾り棚内の書籍類も数えるほどしかなく水に濡れたためか羊皮紙のインクは消え、紙はお互いが引っ付いていて剝がれない。・・・う~んこれは航海日誌と同様にかなり復元は難しい。
それ以外にも戦う為や諸外国(日本)に輸出するつもりか船長室の隣の武器庫には火縄銃300丁以上と大砲の砲弾や火縄銃の銃弾、それに火薬の入った樽などを見つけた。
火薬は樽詰めされ濡れていない状態であった。
船底にあった火薬庫は機密性が高かったのか浸水も無く乾いた火薬庫の樽100樽以上と多数の砲弾が発見された。
この船も前の鐘楼は2階部分は海兵隊の詰所で1階部分は副長と士官室それに手術室のようだがあまり見るべき物は無かった。
ただここでも無事なランタンが3個ほど手に入った。
船底の輸出用品が入った倉庫の中には、美濃屋の女主人おしのが
輸出用の為に厳重に箱詰めされたことが幸いして割れている物は少なかった。
欧州に中国、明時代の陶器を持っていき販売する予定だったのか多数積まれており、逆に中国や我が国に売る為の西洋の陶器も積まれていた。
茶葉や香辛料の胡椒等それに色々な種子の種や苗木等もあったが海水に濡れていた。・・・う~ん乾かしても上手く育つかどうかはわからない。
船内にあった大砲や火縄銃等全て搬送された。
俺が空になった船から船の外に出して乾かしたりして使える物が無いか調べようとしたところで美濃屋の女主人おしのさんが戻って来て
「かなり売れそうな商品があるねぇ。
売れそうな商品すべて譲っておくれヨ。
良いだろう?」
と言ってから俺の耳に顔を寄せて小声で
「それにこの船に乗っていた女の子に手をつけたと言うじゃないかぇ?
うちの娘のおかよやら先の船の外人娘に手を出さないで・・・かわいそうと思わないのかぇ?
その子達が嫌なら私が相手してあげようかぇ?」
等と迫って結局おしのの思い通り、商品を売れた利益の半額、おかよさん達を側室にする事を約束させられた。
それを猿や貴公子、河童や赤堀家の双子が見て腹を抱えて笑った。
「これ笑ってないでお仕事をするんだよ。」
とおしのさんが一睨みすると猿たちが震えあがった。・・・本当に手強くて怖いんだよ、おしの叔母さんは。
その他には見たくもない水死体それも鎖に縛られた奴隷達だった。
河童(九鬼嘉隆)のいう通り、やはり呪われているのかもしれない。
この船は解体してその横に同じ大きさの船が魔法のように造り上げられていっているのだった。
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