第25話 桑の里の進捗状況

 政秀さんの嫡男で桑の里の作事奉行である五郎右衛門さんに桑の里の発展の進捗状況を聞きながら里の中を案内してもらうことになった。

 桑の里を造った目的は表向きは絹製品の作製だが、本当の目的は蚕の糞を利用した黒色火薬の原料の硝石造りだ。

 ヨモギと馬の尿で硝石は数量はあまり無いが何とか出来たが、蚕の糞等を利用した硝石は今のところまだ出来ていない。・・・桑の糞等を使えば硝石が大量に出来るのだが、それは来年あたりかな?

 硝石を作る現場を知っている桜子とおかよは帰蝶さんを


「妊婦の胎教にも良くない。」


等と言って必死で止めている。

 硝石から何ができるか知らなければ桑の糞等から変な事をする

「尾張の大うつけ」

でしかないのだ。


 その代わりと言っては何だが桜子とおかよは桑の実で出来る果樹酒工場やジャム工場に帰蝶さんを引っ張っていった。

 果実酒工場よりもジャム工場の方が三人とも喜んだ。・・・う~ん女子は甘いものが好きだ。それに帰蝶さん妊娠している為に酒は控えている。

 桑の里や新桑名港周辺では米だけではなく麦を栽培して、パンやクッキーも造っている。

 出来立てのパンにジャムをのせて美味しそうに食べる帰蝶さんを見ていると嬉しくなってくる。


 桑の里では主に農耕牛も飼っている。

 牛と言えば発酵食品のチーズとクリームだが、今のところ上手くいっているのはチーズだけだ。

 クリームを造り美味しいケーキでも造って帰蝶さんに食べさせたいものだ。・・・甘い物といえば砂糖だが、この時代は高価だ!サトウキビ畑でもつくるか!

 サトウキビは、本州の静岡県あたりが北限だからここでも苗さえあれば生育できるはずだ。

 誰かに任せて琉球(今の沖縄)いや種子島で鉄砲買い付けの時に苗でも買わせればよい。


 さっそく親父殿に手配でも頼むか。・・・思いついたことは腰に下げたメモ紙と俺特性の鉛筆でメモを取る。・・・横にいた帰蝶さんが切れ長の大きな目を更に大きくして驚いている。


「そ、それは何ですか?」


と尋ねてきた。

 し!しまった!!

 昨年鉛筆の高級試供品が出来たので京都の公家達に送ったが、帰蝶さんや義父の斎藤道三に渡すのをすっかり忘れていた!

 それにおかよさんの母親の美濃屋の女主人おしのが雇った薬師の技術者が造ったのに。・・・おかよの奴、外を知らん顔で見ている。

 俺は冷や汗を垂らし顔はニコリと笑って


「鉛筆と言う道具ですよ。」


と言って持っていた高級試供品の鉛筆と最近出来上がった色鉛筆のセットそしてメモ用紙を付けて帰蝶さんに差し出した。・・・ゴメン!本当にごめんなさい。ないがしろにしたつもりは無い。


 直ぐに配下の者に高級試供品の鉛筆10本と色鉛筆のセットを義父斎藤道三に送るように命じた。

 それに天皇家でも皇女松様という方がお生まれになったと言うので同じく高級試供品の鉛筆10本と色鉛筆のセットそして美濃紙を添えて送るように命じた。

 この当時は後奈良天皇の御代で、この方は清廉な人柄で賄賂を嫌がり御宸筆(天子の直筆)を売って収入の足しにしていたそうだ。

 それもあって珍しい鉛筆等を献上しているのだ。

 帰蝶さん嬉しそうに俺からもらった鉛筆や色鉛筆を使ってその辺に咲いていた花を描いているが・・・上手い!


「この時代の絵師が裸足で逃げていくほど上手い!今度、襖絵ふすまえでも描いてもらおう!」


等とべた褒めしたら帰蝶さん真赤になって照れている。

 それを聞いて桜子とおかよも一緒になって花を書いている。・・・二人とも

『人体解剖図』

を描いているので図鑑並みに上手い!褒めてもらおうと真赤になって俺に絵を見せるので


「3人で草花等の図鑑を出そう。」


等と言ったら図鑑って何ですかと何ですか攻撃を受けた。

 この時代、草花に詳しい薬師でさえ口伝で帰蝶さん達の描いた草花の絵を見せたら


「ぜひとも図鑑というものを造って後世に残しましょう。」


等という事になった。

 これには帰蝶さん達も大乗り気だ。

 俺は説明疲れで喉が渇いたので井戸に釣瓶を落とした。

 ズルズルと鶴瓶を引き摺りあげる。・・・本当にこの世界は不便だ。

 釣瓶には滑車を付けたり、これもポンプを使えば簡単にできるのにと思って

『ポンプ』と『滑車』

とメモ用紙に書いたら、またも帰蝶さんポンプに飛びついた。


「ポンプて何か?」


と質問攻めだ。それで釣瓶からたらいに井戸水を移していたので両手を合わせて水鉄砲で帰蝶さんを攻撃した。

 水をかけられて驚いていたので


「このように圧力を利用して井戸水を汲む装置を造る。」


と説明したら、帰蝶さんも両手を盥につけて水鉄砲で俺を撃とうとしたが上手くいかないので怒っていたが、手押しポンプの略図を書いて見せたら不思議そうにしていた。・・・う~んこれでも良く判らないようだ。


 それで以前大工の関地君に言われた


「図面を書いてあっても良く分からない、どんな風になるかを見せてくれ。」


を思い出したのだのだ、近くの竹林の竹を切ってポンプの模型と水鉄砲を造って見せる事にしたのだ。

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