第26話 龍吐水
俺は帰蝶さん達にポンプの模型と水鉄砲を造って見せるために材料となる竹を求めて近くの竹林に入った。
綺麗な丸い竹を切って・・・武道の修練の賜物だ、居合の抜き打ちで切ってやったぜ!工房まで運んで、水鉄砲を造ることにしたのだ。
桑の里で建てた工房で長吉君に手伝わせて竹で出来た水鉄砲を造ることになった。
俺の秘密基地のような工房の管理を長吉君に任せているので室内はきちんと清掃され整頓されており使い勝手が良い状態に保たれている。
この工房については俺が前世の記憶で覚えている物を再現するために建てたものだ。
例えば、この時代の大工道具はノコギリや
直ぐに風呂釜を作った鍛冶師に頼んで鉋を造らせた試作品が何点かあるが。・・・鉋のできは今一だな!?
親父殿に俺の要望に応えられるような優秀な鍛冶職人を集めてもらうようにも頼んである。
どうも優秀で腕のある鍛冶職人は刀鍛冶か今流行りの鉄砲鍛冶になりたがる傾向がある、そのうえ尾張の地には鉄の原料となる優良な鉄鉱石が無いので鍛冶職人の絶対数が少ないようだ、それで俺の要望に応じた物が造れる鍛冶職人は手元にいない。
鉋もそうだが風呂の釜を造ってくれた鍛冶師がいたが、しばらく使うとすぐ底に穴が開き使い物にならなくなり修理に出す。・・・う~んそんな事が続けば
「わざと不良品を造って日銭を稼いでいるのか?」
と問い詰めてもそれ程の頭は無いようだ。・・・本当に鍛冶職人としては、二流を通り越して三流の腕だった。
俺自身も鍛冶職人に興味があって刀鍛冶の工房などに行く事がるが、ほぼ鍛造(ハンマー等で叩いて金属を製造する技術)で鋳造(金属を溶かして、鋳型に流し込み金属を製造する技術)はほとんど見かけない。
何~と!この当時日本で生産された火縄銃までもが鍛造で製造されたのだ。・・・う~ん、この事実を知れば知るほど驚きだ。
鋳造品と言えば通貨だが、信長の旗印にも使われている「永楽通宝」もこの当時の明からの輸入品である。
鋳造技術の開発もしなければいけないが、この当時は金属を溶かせる炉はたたら製鉄と呼ばれる技法が岡山県以南で出来るかどうかの時代である。
そのうえ、尾張地方には優秀な鍛冶職人がいないのでたたら製鉄は等と言う物は無かったようだ。・・・何とかしなければ。優秀な鍛冶職人も集まっていないのだ今直ぐにどうこう出来る問題ではないが・・・!?それでも何とかしなければ!
等と考えながら竹で出来た水鉄砲が出来上がった。
さっそく
「冷たい。」
等と言うものだから、帰蝶さん達三人は水圧などについて質問したことを忘れて俺の作った水鉄砲でキャキャ言いながら遊んでいる。・・・夏だからまあいいか。
竹で出来た水鉄砲の的にされながら長吉君何か
「この時代、火事は怖い。
この水鉄砲を使って消火設備が出来ないかな?」
等と言ってきたので、三人が水鉄砲で遊んでいる間に、長吉君と二人で工房で残った竹等を使って手押しポンプの模型や消火器として江戸時代にも使われた龍吐水の模型を作ってみた。
おかよさんに水鉄砲で遊ばせ、手押しポンプそれに龍吐水の模型を見せたのが悪かった。
おかよさんのおっかさんの美濃屋の女主人おしのが早速、出来上がったケーブルカーに乗って
「若様~。また変わった物を造ったんだってねぇ~。
今回は山が簡単に登れたヨ!
それに面白そうな水鉄砲とか言うものや龍吐水なんてものも造ったとか?
どお、それらを売るのに私にも協力させてもらえないかねぇ~。」
と言って胸を押し付けてきてあっという間に製造販売の会社を造って売り出した。
さすがに商売については鼻が利くんだよこの人!
三人が遊んでいた竹で出来た水鉄砲は翌年の夏の子供の玩具として流行するし、龍吐水については消火器の有用性がすぐさま認められて、瞬く間に織田家各所で使われていったのだ。
当初は史実の通り鉛筆ほどの水が7メートル程しか飛ばない酷いもので、当然改良を加えて現在の消防車と同程度の代物を造った。
現代の消防車は角度を付ければ水を約40メートル飛ばせる、放水ノズルを高い位置に設置すればもっと飛ばすことが出来るのだ。
その改良型を桑名港や桑名新港だけでなく津島港などにも設置したのだ。
ついでに関船よりも小さい小早にも龍吐水を設置して消防艇の走りのような物を造船したのだ。
龍吐水の活躍、実は・・・これはこの後の話だ🤫🤫🤫今はひ・み・つ!
そのうえ俺の工房にあった鉋を見つけて販売するという。😢😢😢残念ながら俺と同様に優秀な鍛冶職人は集められず肩・・・それより胸を落としていた。
女性用の下着を考えなければ・・・また女性陣総出で
「不遜な事を考えて!」
と言って抓られた。
ここ数ヶ月で桑の里もずいぶん発展発達している。
山窩の民だけではない養蚕屋敷を建てるために連れてきた大工や石工がここを気に入って家族ごと住み始めた。
大工や石工は養蚕屋敷を建てる以外にも仕事は山ほどある。
ほとんどの大工や石工達はまだ掘っ立て小屋のままだが、美濃屋の女主人おしのが無理を言って硝石を作る為に集まった薬師達なのだ。
それで薬師達が、蚕の糞等から硝石を作り出す技術を完成させる研究所・・・当然この研究所を支える薬師たちの住宅・・・も優先的に建てているのだ。
大工の関地君に頼んでプレハブ工法で建てているのだが、そのもととなる床や壁等を造るのにやはり時間はかかる。
俺の思い付きで建てさせた俺の為の工房(秘密基地・・・男の子のロマン)も優先的に建ててもらった。・・・領主の特権だな。
人口が急激に増えて不衛生だったことから銭湯も建てたのだ。
この銭湯、最初混浴にしたのが失敗でそれによって、男湯、女湯、家族風呂と三種類の銭湯を建てることになったのだ。
最後に造ったのが家族風呂で、俺はその檜の香る家族風呂の浴槽にのんびりと帰蝶さんと入っている。
俺の配下の為に他の銭湯も独占している。・・・う~ん領主の特権だね!
帰蝶さん俺と風呂に入るのを嫌がったが
『郷に入っては郷に従え』
だ、無理を言って一緒に入った。
湯上りで夕食の時間になった。
帰蝶さんと銭湯の隣に併設された食堂で食事だ。
食堂内には、ちょっとした個室も完備されており、今日はテーブルに椅子のある個室だ。
夕食のメニューは獲っていた野生の鹿のステーキだ。・・・う~ん塩胡椒を振りたいのだが胡椒は馬鹿高い、金と同等の価格だ。
胡椒か?インドが原産地で雪の降る日本では栽培はいくら何でも無理か。
温室でも造ればなんとかなるが・・・板ガラスか!?
ケーブルカーの窓の時にも思ったすぐ作らせようか?
透明度の問題と今俺が雇っているガラス職人の技術は
何とか板ガラスを造る簡単な方法を見つけ出せないかな?
その前に技術力もそうだがガラスを簡単に溶かす温度を上げれる石炭(炭鉱)を探さなければ。
銀製品の皿にステーキが盛り付けられ、銀のナイフとフォークでステーキを切って食べる。
銀製品は毒物と反応して黒く変色するので広くヨーロッパの貴族が愛用していた。
帰蝶さんは俺がナイフとフォークを器用に使って食事するのを驚いて見ている。
『郷に入っては郷に従え』
便利な言葉だ。帰蝶さんもナイフとフォークで食事を始めた。
俺の工房(研究所)の2階は俺が桑の里に来て泊まる時に使っている部屋だ。
8畳ほどの部屋にベットが置かれている。
このベットも試作品でコイルの入ったマットレスに布団を引いている。・・・この時代は寒い布団や掛け布団が無い!
俺が天文16年(1547年)に織田信長君と入れ替わる前に野宿している時に水鳥の羽毛を詰めて布団にして過ごした。
それでこの部屋の掛け布団は羽毛を詰めている。
羽毛の掛け布団は親父殿はもちろんのこといつもは俺を悪く言う土田御前にも贈ったところ
「大うつけ殿も
と言って喜んでいたが、中身が鳥の羽と気が付いた途端
「馬鹿にするにもほどがある。わらわを鳥にするつもりか。こんなもの燃やしておしまい。」
と言って庭で燃やしたそうだ。・・・この時代庶民の感覚もそんなものだ。
ポヨンポヨンと弾むのでそれが気に入ったのか帰蝶さん飛び跳ねて喜んでいる。
桑の里の夜は更けていく。
暗くなれば寝る。・・・う~ん娯楽が少ない時代、夜男女が床を同じくすればやることは一つ!ポヨンポヨン弾みながら久しぶりに帰蝶さんと一体になった。
翌朝、銭湯で俺と帰蝶さんは朝風呂を楽しみ、隣の食堂で朝食だ。
食堂の叔母ちゃんに朝定食を頼む。
白米が御馳走のこの世界で、鶏の卵などは余程の高貴な人の口にしか入らないものだ。・・・鶏は桑の里を造ろうと思った時から養鶏場を開設して、安定的に鶏の卵を採れるようになった。・・・前世の記憶で無精卵にすれば卵のままだ。
お盆の上に熱々の白米が盛り付けられた茶碗と汁物、生卵が器に踊り、岩魚の塩焼きが皿の上に乗せられた。
帰蝶さんも同じものを注文する。
熱々の白米に卵を落としてぶっかけご飯にして食べる。
帰蝶さん毒殺を心配して毒見役の者が口にしたもの以外食べていないので、熱々の白米や汁物に感激していた。
それでも俺何か足りないと思う、そうだ海苔だ!?
織田家は伊勢湾を支配しているので海苔養殖をさせるか。
卵に醤油だが、前世の記憶とは違い垂らさない方がおいしい。・・・う~ん醤油の改善だ。溜まり醬油と言うのがあったが作り方は知らん!もっと美味しくしろと注文するしかないか。
またメモ用紙にメモしていると帰蝶さんが笑って見ている。・・・う~ん俺やっぱり「うつけ」かい?
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