第23話 リベンジ戦
今は赤堀家の一向一揆騒動と水害対策のダム建設がある程度目処が立った天文18年(1549年)の秋である。
俺も、生きていれば信長も15歳になっていた。・・・前世で15歳の時は高校1年生で、秋になると3年の先輩もいなくなり俺の剣道馬鹿のデビューだった。
この秋に信長の初陣のリベンジ戦を行う、その目標は織田信長が初陣で敗れ、落ちた名声を取り戻すための戦であり、それは信長の供養戦でもあるのだ。
本当の目的は、この戦に勝利して知多半島の根元にある吉良大浜城を手に入れることが出来れば、三河湾の制海権をも手に入れる事ができるのである。・・・う~ん!?そう考えれば親父殿(信秀)が初陣の信長にこの城を指定した意味が分かるというものだ。さすが
『尾張の虎』
と恐れられるだけはある。
初陣で敗れた欠点であった情報収集能力を高めるために雇ったのが、紀州国の国主である
根来忍者20名が俺の配下になった。・・・貧乏人の子沢山というが根来の楓には兄弟姉妹が8人いる。新たに配下になった20名全てが楓の兄弟姉妹や従兄妹達だ。
本当に俺の配下になったのかを見る試金石に選んだのが、彼等に吉良大浜城を奪取する手伝いをさせることだ。・・・ただその前に赤堀家を手に入れる際に根来の楓が手腕を発揮してくれた。期待大だ!
それとは別に黒色火薬の威力の確認だ。
桑の里では黒色火薬の主原料である硝石を、蚕の糞を利用して大量に自前で造ろうとしていたが馬が小便をしている時に思い出した。・・・う~んどんな理屈か知らないがヨモギに馬の小便を掛けると大量ではないが硝石が出来る。
そのヨモギと馬の小便によって出来た硝石がある程度集まったので、早速自前の黒色火薬を造り上げた。・・・流石!美濃屋の女主人おしのさんが集めた薬師達だ、馬の小便まみれのヨモギから確かに硝石を造り出した。
その黒色火薬の威力の実験を吉良大浜城の攻撃で実際に使って見ようというものだ。
吉良大浜城の縄張りの調査などは半年以上も前から潜入した根来の楓の兄、三郎達によって情報が集められ送られてきている。
根来の三郎によって描かれた城の縄張りは勿論のこと三階建ての本丸の絵図面まで送られてきた。・・・う~んもう城の中まで潜入しているということか?
堀の深さや広さまでもが克明に記されている。
何とついには城主、長田重元の日常生活や家族の状況、兵の勤務状況までが克明に送られてきたのだ。
ここまでくれば準備万端、孫子曰く
『敵を知り己を知らば百戦危からず』
だね。
それで俺は今、庶兄の信広が城主を務める
安祥城は松平家(徳川家)の本城岡崎城に近く、現在の愛知県安城市安城町にあり天文9年(1540年)に庶兄の信広が攻め落として城主を務めている。
この安祥城のある場所から吉良大浜城までは近い、直線距離にして15キロ程で馬の速足ならば1時間程度、速足のまま吉良大浜城についた時には使い物にならないが一気呵成に城を落とす予定だ。
俺と一緒にいる帰蝶さん
「
と言っていたが、気丈にも俺と行動を共にしている。・・・う~ん史実では帰蝶さんとは子はなさなかったはずだが!
時は草木も眠る
安祥城の城門前にボーガン(石弓)を持った2千騎の騎馬軍団が並ぶ。
このボーガン、実は俺が弟の信包と秀孝に造ってあげたのを見た親父殿が気に入ったのか大量生産して出来たものだ。
俺の横には根来の楓が帰蝶さんに扮して鎧姿になり、朱色の薙刀を小脇に抱えている。・・・楓さん似せてはいるが帰蝶さん程胸が・・・と思った途端帰蝶さんと楓さんに抓られた。
しかし帰蝶さん戦に俺と一緒に行くと聞かなかったが、もしお腹に子供がいれば大事にしなければならないと帰蝶さんの身代わりとして根来の楓が行く事になった。
帰蝶さんは根来の楓に先陣を許したが、俺が出発すると同時に後詰の歩兵部隊5百名程(歩兵部隊長は俺の乳兄弟の池田恒興)を連れて行く事になっている。
吉良大浜城を攻め落としたあとは池田恒興を城主に、吉良大浜の漁港に出城を建ててその城代に根来の楓の兄三郎を据える予定だ。
雲が厚く月明りさえも無い漆黒の深夜、俺の
「出発!」
と言う号令のもと、2千騎の騎馬軍団が一路吉良大浜城を目指して駆け出していく。
先頭を馬を走らせるのは俺だ、俺は今世特に目が良い!
漆黒の闇の中でも安全に馬を走らせることが出来る。
俺の後続を次々と2千騎の騎馬軍団が続く。
蹄・・・蹄鉄はつけていない、当時の馬は蹄が強く蹄鉄をつける必要が無かった。
蹄鉄を付けたのは外国種と混血して蹄が弱くなったためである。
だからあまり馬の足音はしない。
それでも目的の吉良大浜城の手前1キロの地点にあった林の中の空き地で
「止まれ小休止だ。」
と言って軍列を整える。
小休止中に馬の水やりと馬の足音をさらに消す為、足に布袋をはかせた。
時刻は午前3時半(寅の時)になった。
俺は矢から下がった黒色火薬がたっぷりと詰まった筒の導火線に火を付ける。
この導火線の長さでは10分後には
『ドカーン』
と爆発する。・・・流石、尾張の大うつけと言う目で味方も見ている。
俺も吹き飛ぶ気はないので、馬に拍車をかける。
流石に信長の愛馬、他の者を置き去りにして一気に一度は惨敗した吉良大浜城が眼前に見えてきた。
俺は馬上で爆弾が下がった矢を弓に番えると弓を引き絞り目測でのこり50メートルをきったところからヒョウと射た。
吉良大浜城の城門に火矢が
『トン』
と言う軽い音と共に突き刺さる。・・・それでも深夜音が響き渡る。
城門を守る兵士が城門の楼閣から顔を出して門に矢が刺さっているのを見て笑っている・・・馬鹿め!爆弾に気付いていない。
その時
『ドーカン』
と火矢に括り付けた爆薬が爆発して、頑丈な城門が一部ではあるが粉々に砕けて、
その城門に向かって6騎の馬が間に先を尖らせた大木を破城槌として吊るして俺の横を駆けて行く。
『ドスーン』
と言う音と共に破壊槌が城門にぶつかると
『ギリギリギリ』
と最後の足掻きのような音がして城門が完全に開かれる。
まるでその音が合図であったかのように、本丸に火の手が上がる。
開かれた城門に向かって次々と騎馬軍団が入っていく。
俺は火矢を城門の楼閣に向かって射る。
楼閣で弓を引き絞っていた敵兵が、またしても爆薬を付けた火矢だと思い弓を捨てて慌てて逃げ出した。
俺の騎馬軍団は手には手綱とクロスボウ(石弓)を持っている。
休息中にクロスボウ(石弓)の矢はセット済みである。
これで弓を引き絞る必要も無いので片手で操作できる。・・・ただ矢は単発だ。
この吉良大浜城の敵兵は2千名なので2千名の騎兵が1名ずつ確実に倒せば問題は無い・・・が戦場何があるか分からない。
俺も
騎馬軍団の素早い攻撃で城側の兵はほとんど抵抗できず死者になるか武器を捨てて降伏し城内の広場に集められている。
俺の騎馬軍団には死者は出なかったが、負傷者が百人規模で出た。
戦なのでそれは詮無い事だ。
吉良大浜城側の降伏した者の数およそ千二百名なので、8百名余りが亡くなったわけだ。
広場からさらに先に進むと燃える本丸の前に後ろ手に縛られた領主とその家族がいる。
それを囲むように黒装束の忍者5名が黒く塗られた太刀を手に立っている。
「吉良大浜城落城!」
そのニュースは解き放った吉良大浜城城主長田重元とその家族によって松平家(徳川家)と今川家にもたらされた。
歴史上の織田信長なら城主とその家族、一族郎党まで撫で切りにしたかもしれないが、俺の負け戦の時に亡くなった兵士の13塚を城主長田重元が造って埋葬してくれたお礼だ。
帰蝶さんを守りながら池田恒興が着いたので、彼を吉良大浜城の城主に任命した。
さっそく彼には捕虜千二百名を使って吉良大浜城の本丸と城門の再建を命じ、吉良大浜漁港の改修と出城の建城工事には根来の三郎に命じた。
これで吉良大浜漁港が拡充されれば松平家(徳川家)の喉首に匕首を突き付けた形になるのだ。
吉良大浜漁港の改修工事等の作事奉行は根来の三郎でこの地に出城が出来れば城代になるのだ。
忍者でも手柄をあげればそれ相応の地位に就ける。
能力主義のあらわれだ。
その吉良大浜漁港に衝角を付けた尾張の化け物船が入港する。
積んでいるのは桑名新港でも使ったプレハブ工法の資材で、乗っているのは大工の関地だ。
これで吉良大浜城の焼け落ちた天守閣や吉良大浜漁港に建てる出城がをあっという間に再建や建城が出来るのだ。
その後も工事中の吉良大浜漁港に尾張の化け物船が立ち寄り松平家や今川家の船を時には追い払い、時にはぶつけて積み荷を強奪して、目的であった三河湾の制海権を手に入れたのだった。
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