第15話 大学!?

 沢彦宗恩たくげんそうおんが始めた寺子屋に子供が集まり、集まった子供達の中には桜子や美濃屋の次女おかよと赤堀家の双子のそして長吉君の姿もあった。

 桜子とおかよは俺について回る腰元のようになり赤堀家の双子や長吉君は俺の小姓のような存在になりつつあった。

 こいつらはとびっきり優秀だ。

 寺子屋と言う初等教育の全ての授業をこの1年で終えている。

 こいつらの為に次はいきなりだが大学、それも医療系の大学と戦国時代である優秀な指揮官を作る将官大学を造る事を考えた。

 桜子とおかよは医療系の大学に赤堀家の双子は将官大学に入れる!・・・残りの長吉君は発明家なので科学技術の大学でも造るか?


 医療系の大学を造るきっかけは桑の里の発展過程で生じるアクシデント、石工や大工から怪我人が出たことからだ。

 桑の里で薬師(漢方医)を鉄砲の火薬造りに雇い入れ、他の地域より一足早く風呂(公衆浴場)を造り衛生管理が充実し、一部の住民は養蚕屋敷に住まわせるなどして今のところは流行り病は出ていないが怪我人は出る。

 草鞋履わらじばきの足の上に石や木材が落下したり、高所から転落者が出たりしたのだ。

 しかしその怪我人も簡単に包帯を巻くだけで基本放置だ!・・・前世ではどこにでもある病院などはこの時代には無いからだ。


 怪我に対する知識が貧弱で、怪我人の治療が行えない・・・戦国時代では外科的治療は金創医という一遍上人の時宗の僧が行い、戦時には従軍僧としても活躍してはいたのだが・・・。

 その金創医の処置方法が荒い。

 例えば矢傷、金床のようなもので矢を引き抜く。・・・引き抜く過程でやじりの返しで無事だった筋繊維だけではない血管や神経線維まで傷付けてしまうではないか。・・・それを我慢比べのように行う!?・・・もっと人体について勉強しろよ!

 そのうえ傷の上に馬糞を塗りたくる・・・治、治療じゃない!感染症で死ぬぞ!

 それに怪我人を黒い僧衣をまとった僧侶に診られ、ついでに

「南無阿弥陀仏。」

と念仏でも唱えながら手でも合わされたら死んだと思うだろうが!


 それで美濃屋の女主人おしの関係で薬師は雇ったが今のところ医者、金創医は桑名周辺では雇ってはいない。


 多少の怪我ならば薬師が傷薬を張って治す。・・・馬糞などはもっての外だ!

 それに俺は前世で中学校からの友人で柔道部の猛者だった奴の実家が外科の大病院であり、クラブ活動中のアキレス腱断裂や脱臼、骨折した友人をその病院に担ぎ込んでは、治療をしてもらっていた。

 その友人は中学入学当初から大人顔負けの体格と筋力を有していた。

 中学校入学して最初の柔道の大会でその友人が骨折して、痛がって暴れて手に負えないので、医師の親父さんが付き添っていた俺に


「押さえてくれ。」


と頼まれた。

 俺が上手く大人でも抑えきれない友人を抑え込んだのを見て、友人の親父殿いたく感心して、それ以後怪我人を抑えるという名目で外科的治療行為を見せてくれるようになった。


 それで今世は見よう見まねで脱臼を元に戻し、骨折患者の骨継をしている。

 薬師集団の中でも数名の者が俺の治療の手伝いをしている。

 それに俺は前世でボディビルもやっていたので骨格や筋繊維については下手な金創医よりも知識がある。

 俺がいるとまとわり付く桜子やおかよが俺の治療方法を不思議そうに見ていた。・・・怪我の治療だけではない人体についても興味があるようだ。


 今のところ風呂を造り衛生管理を徹底しているせいか流行り病は出ていないが、医療が発達していないこの時代では流行はやりやまいが出ると悪鬼のせいにする為に医術ではなく古代シャーマニズムのような呪術師じゅじゅつしが横行する事になる。

 病気になれば呪術師が


「信仰心が薄いためだ。」


と言えば信者が増え、言いなりになっていく。

 そう言えば一向一揆を起こした一向宗の蓮如上人は


「当流の安心はにすがり一心にを信じることにある。」


と説いたのを一部の僧侶が

「極楽往生」

のみを使って


の言う事を聞いて死ねば極楽浄土に行く事間違いなし。」


とのげんを信じ、今の世界のタリバンやアルカイダのようなテロを起こしてしまった。


『人を呪わば穴二つ』


と言うではないか他人にかけた呪い(殺人教唆や殺人)が自分や教団に戻って来て、弾圧と反抗が繰り返されていったのだ。

 一般民衆の無知蒙昧むちもうまいおろかで道理に暗い)を良いことにだ!

 この為に教養の必要性を痛感している。・・・教養の強要なんちゃって。


 その為にも沢彦宗恩たくげんそうおんの始めた寺子屋を基本にして織田家の領内に幾つか寺子屋が出来上がっていったのだ。・・・ただ一向一揆の首謀者となる一向宗の寺には、前記のような理由もあり寺子屋を造る事を禁じた。寺子屋を造っても牛乳等の無償提供は当然しない!


 しかし病気の原因が悪鬼のせいにして呪術師たちが横行するのは問題だ。

 牛乳や乳製品を造る時に雑菌について薬師達に説明が中途半端だったので、病気の原因の病原菌を見てもらう事にした。・・・う~ん本当は風邪のウイルスは電子顕微鏡でもないと見えないのだが、大きめの雑菌なら顕微鏡で見えるはずだ。


 勾玉を作っているガラス職人を見つけたので凹レンズと凸レンズを作らせた。

 彼等には天体望遠鏡も顕微鏡についても説明してもわからない。・・・う~んこの当時の教育水準では理解の範疇はんちゅうを越えているのだ。横にいた長吉君だけうなずいている。

 職人なので俺が命じたように何種類もの凹レンズや凸レンズを作ってくれたのはありがたい。

 ただ作られた凹レンズや凸レンズの焦点が定まっていないので砥石の粉を使って磨いていたら長吉君だけでなく桜子とおかよも手伝ってくれた。


 勾玉造りのガラス職人を見つけてガラスの塊のようなレンズは作らせたが、ビーカーや試験管等と言うガラス製品まで造る技術力は無かった。

 ただ農地の傾きを直すのに水準器(ガラス管に気泡の入った水を入れて水平を出す)のかなり大きなガラス管は造る事が出来た。・・・これで竹の雨樋あまどいで傾きを測らなくてすむようになった。


 何となく望遠鏡や顕微鏡について理解した長吉君や桜子とおかよと一緒に磨き上げて焦点の定まった何種類ものレンズと竹や木で光学顕微鏡を作りあげた。

 その光学顕微鏡で身近にある酒や味噌、醤油を造り出す麹菌こうじきんを薬師集団に見せて見た。俺は


「倍率を上げるともっとよく見えるようになる。」


と説明して見えた麹菌をスケッチさせた。

 その中には桜子とおかよがいて、二人で一心不乱にスケッチしていた。

 風邪に対する細菌学が始まり、医療の考え方が変わっていった。

  

 この優秀な薬師集団を中心に現代風に言えば医科薬科大学及び付属病院を建てることにしたのだ。

 沢彦和尚は医科薬科大学の創立準備の主となってもらい、出来た暁には初代総長になってもら事にした。

 桜子とおかよの二人は寺子屋に行く以外は怪我の治療法の一助になればと薬剤師の手伝いなどを寸暇を惜しんで働いていたので、彼女達が医科薬科大学の初めての学生になった。


 将官大学については桜子やおかよと同じように寺子屋に通う赤堀家の双子の兄弟が、天文12年生まれで俺の弟の信包と秀孝と同年の5歳児で勉強するより遊ぶ方が好きなようで小坊主達に怒られている。

 赤堀家の双子もこの時代の武士の子で文字の読み書き算数よりも刀槍の技術の向上に努めるのが好きで、俺の指導のもと武道関係については真面目にやっおり、赤堀家の双子から俺は剣の師匠とうやまられているのです。


 この当時の剣の稽古はもっぱら刃引きの刀か木刀をもちいた形稽古だったのです。

 史実でも形稽古に死人が出るほどと言うので荒っぽい戦国武者の気質そのままに寸止めの意識も無く打ち合っていたのでしょう。

 竹刀を使い防具を着けて打ち合う現代の剣道の形が出来上がったのが江戸末期頃と言われていますが、俺はそれに先がけて武具屋に竹刀と防具を造らせたのです。


 その試作の防具を赤堀家の双子に着させて、現代の竹刀(袋竹刀の出現もこの時代からもう少し後)を持たせて打ち合っているのです。

 長吉君は年も上ですが何せ商家の子で竹刀を持つより本を読む方が好きなようで剣道では打たれっぱなしですが、弓道の方は集中力がすごいので赤堀家の双子よりもまさっていました。

 双子は勉学において優秀な長吉君や桜子やおかよに比べられるのが嫌だったようでしたが、防具や竹刀の誕生により大人に負けないような剣武の才を身に着けた頃から自信がついたのか二人とも勉学を真面目にし始めたのです。

 彼ら二人を教えて行ったことが後の武家の子弟の為の学校、将官大学へと続いたのです。


 またどうもこの時代は学問と言えば文学であり、理化学の分野は忌避されていたようだ。

 鉄砲の伝来によって火薬の製造技術を薬師にほぼ丸投げの状態である。

 これらももう少し理科学分野の研究者を育てなければならないが・・・先駆者がいない、俺!?無理!元素記号ですらうろ覚えだからだ。


 鉄砲と言えばこの時代には鋳物の技術が無い。

 それは鉄砲自体も日本固有の刀鍛冶が鉄砲鍛冶になって鉄砲を造り上げている事からもわかる。

 鋳物の技術が無いという事は戦国時代で流通している貨幣の『永楽通宝』も明国から輸入している事からも証明されるのだ。


 いきなり鋳造技術といっても、それを支える技術者もいなければ、原料となる鉄鉱山が俺が支配する織田家の領地内には無い。


 それに鋳造する鉄を融解(液体化)する程の高温が木や木炭からでは得られないからだ。

 木や木炭では銅や鉛なら何とか融解出来るのですが、鉄では赤く熱するだけで融解する程の高温は得られません。

 その火力を得るとすれば石炭か、その石炭を蒸し焼きにしたコークスだ。

 石炭の手前で亜炭なる物が現在の愛知県の春日井市等でも採れるが・・・う~んこれも火力の不足だ。

 ガラス職人の育成もそうだが鋳造技術者の育成と織田家の領地内には無い鉄鉱山と炭鉱を手に入れることが課題として残ったのだった。

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