第13話 農業
人材を集めたことや風呂の混浴などで(ベビーラッシュが起きた)桑の里では更に人口が増えた。・・・う~んそうなれば食糧問題だ。
食糧問題はと言えば米だが、この戦国時代では米と経済とは切っても切れない関係にある。
税収、この時代は年貢だからだ。
年貢=年貢米と考えられ、これは年貢米=貨幣とも置き換えられる。
戦国乱世で各地で出来た戦国大名等が勝手に通貨を発行する以上、共通の価値として年貢米が考えられたのだ。・・・解り易く言えば、江戸時代に何万石の殿様とか禄高260石の御家人等と言うように米が収入源であり通貨であった。
貨幣の統一と重要性を知っていた織田信長が「永楽通宝」を旗印にしたのは有名な話である。
永楽通宝はお隣の明の国から輸入している貨幣で、鋳物による製品の均一性などによって長くこの国の通貨として使われていたのだ。
日本刀の刀鍛冶に代表される鍛造の技術は優れているが、鋳物の技術は主に仏像制作などで使われているがこの戦国時代には
鉄砲も伝来して日本国内でも造られているが、欧州諸国は鋳造で造られ日本国内では刀鍛冶の技術を引き継いだ鉄砲鍛冶により鍛造によって造られているのだ。・・・今でもよく言われる日本人の職人の凄さである。鍛造なのに鉄砲の口径が同じなのだよ!
鋳造技術か!明国から輸入される永楽通宝以上の通貨が鋳造できれば、俺は経済力で天下を取れるのだが。
話を元に戻す食糧問題の解決方法で最初に思いつくのは開墾である。
それで俺は、五郎右衛門さんの連れてきた兵に桑畑の作業から田畑の開墾を命じている。
桑の里の田畑の開墾地は山窩の民から場所を決めてもらって行われている。
そうは言っても雇われ兵、元は農民だったので田畑を適当に耕すくらいのことは出来るのだが、田畑は大岩があればそれを避け樹木があればそれを避ける。
結果は
それにこの世界には水準器等と言うものがない為に微妙に傾いているのだ。
俺はその光景を見てため息をつくと両親も越後へ行って、いなくなって俺の食客のようになっている越後屋の長吉君が
「殿様、立派な田畑が出来ているのに何でため息をついているのさ?」
と聞いてきた。
「田畑が歪だと作業効率が悪いだろう、それに傾斜していると土地の栄養などが流れっちまう。」
と言うと頷いていた。
桑名新港の時もそうだが大きな樹木や岩を
大きな木の根を掘り起こしたり、岩を取り除く為の人力ではこの程度か!?
機械が無いこの時代で人力以上のものと言えば農耕馬や農耕牛である。
農耕馬は戦時には軍馬になるのでかなりの頭数が必要である、それに農耕の為の牛も買い集めた。
買い集めた農耕馬は桑の里のような山の中では馬の足を木々に取られるため機動力が失われる、それで農耕馬は桑名港周辺の開墾に使用し、買い求めた農耕牛は桑の里で使うようにした。
買い求めた農耕馬は桑名港周辺で、農耕牛は桑の里で使うとして最初は農耕牛を雌雄10頭づつ購入した。
牛に大きな
それに田起こしが終われば、桑の里では次回開拓する場所を囲って牛を放牧し、雑草を食べてもらい牛糞での土壌改良も目論んだのだ。
桑の里で農耕牛を使って開墾させて出来上がった田畑は広くなっただけで微妙に傾斜しており
後の作業効率を考えていないのだな?
すると横にいた長吉君が
「俺に任せて。」
と言って牛を器用に扱って大岩をどけて樹木の根を掘り起こさせて四角くした。
そして竹を二つに割って
長吉君の開墾地を手本に農耕牛や俺の雇い兵となった僧兵を利用して再度歪で微妙に傾斜した開拓地の傾斜を無くし、大岩をどけさせ樹木の根を掘り起こして開拓し直していく。・・・前世で俺の見ていた田園風景である。傾斜の無い歪な形でなく四角く整地された田畑が整然と並んでいった。
その結果、真直ぐな
田畑における水争いは死活問題だからだ。
この開墾地が出来上がるたびに農民を入れる。・・・彼等は戦時には臨時の兵になる為、五郎右衛門さん紹介による者が主だ。
織田家は金持ちだから軍事専門の雇われ兵を持っているのだ。
今回の桑名の戦いでは僧兵を織田家、俺配下の常備軍に加えた。
史実でもこの時代は専従の兵士は少なく、農民が戦時に駆り出されていたのですが、織田信長がはじめて軍事専門の雇われ兵団、常設軍を編成したと言われています。
開拓地の傾斜を無くし歪な形を四角くし直したのは、新たに手に入れた桑名港周辺の田畑も同様に整地させていったのです。
旧来から桑名港周辺に住む農民には
「何を考えているのか、田畑を耕さなければいけないこの忙しい時期に大岩や樹木を撤去させて田畑を四角くしろとか、田畑の傾斜を無くせ等と無駄な事をさせる!今まで通りで良いじゃないか
『尾張の大うつけ』
殿は!」
と不評であったが、新たな領主の言いつけであり農耕馬や農耕牛も貸し与えられたことから不満の声は小さかった。
広がった領地で稲や作物の種を撒く季節になった為に全ての田畑が四角くなったわけでは無い。
稲を撒く時期になったので、桑名港周辺に住む農民に稲の
実がしっかりとして重いものや、軽いものが混ざっている。・・・これでは稲の発育がまばらになる。
そうだ種籾を塩水につけて沈んだものだけ使えば良いと聞いたことがある。
俺が塩水選で種籾を選ぼうとすると
「殿様、このショッパイ水に種籾を漬けるとどうなるの?」
と聞いてきた
「重く実の入った物はこの水の底に沈み、実の入っていない籾殻だけの物は水に浮く。」
のだと答えると大きく頷いて手伝ってくれる。
さっそく塩水選で選んだ種籾を撒くように指示する。
これは桑名港や桑の里、桑名新港周辺でも同様に指示したのだ。
この時も農民達から
「塩水につける等、塩害を知らないのか
『尾張の大うつけ』
は」
といまでは殿が無くなるほど不評であった。
しかし塩水選により選ばれた種籾から青々と稲が育ちはじめた。
俺を尾張の大うつけと
じかに種を蒔いた事から美しくない風景になってしまった。
またため息をついていると長吉君が
「どうしたの殿様?」
と聞いてくる。俺は
「苗床を作らなかったのは失敗だ。
これでは稲に充分な日が当たらず、害虫被害でも出ればその田圃は全滅してしまう。」
これでは不味いやり直しをさせる。この時も農民達から
「無駄な仕事を押し付ける
『尾張の大うつけ』
これで田に稲が良く実らなかったら一向一揆だ!」
等と不平が溜まった。
稲を等間隔に植えるのに今回は紐を使ったが、木枠を転がして水田に跡をつければ簡単だ。
暇そうにしていた大工の棟梁に木枠を4つばかり作ってもらった。
秋、この年は尾張領では例年以上の豊作で稲穂の実も全て大きく育った。
反面、他国や他領では害虫被害による大凶作で領民は飢えていたが、その土地の領主は例年通りの年貢を治めさせたために飢餓はさらに広がった。
織田家では豊作で、塩水選によって稲の実りも良かったことから、年貢として治める米の量ではなく重量を例年と同じにしたことから実質的には年貢の比率を下げたことになった。
この時は農民達から
「すみません信長様を
『尾張の大うつけ』
等と呼んでしまって、これからは信長様を神様として拝みます。」
等と言われた。・・・そろそろ『尾張の大うつけ』から『第六天の魔王』に昇格か?
稲が刈り取られて天日干しが始まった。
充分乾燥した稲束から籾を外す脱穀作業が始まった。
この当時材木に稲束を叩きつけて籾を落としていたのだ。
長吉もその手伝いをする、大汗を掻いてへたり込み
「殿様この仕事はきつい何か方法は無いかな。」
と聞いてくるので髪を櫛で梳いて見せた。
長吉君、
千歯抜きは元禄年間(1690年頃)に出来た農具だ。
千歯抜きを使って脱穀作業をしていると何処をどうやって聞きつけたのか美濃屋の女主人おしのさんが見に来て
「織田の若様。これは金になるねぇ。
どうだい、木製を金属製にして売りだして見ないかねぇ。」
と言ってその場で農機具の卸売問屋の稲葉屋が創設された。
「織田の若様。脱穀作業も大変だけど
長吉さん一寸やって見せておやりよ。」
と声をかけると、長吉君は木の棒で籾を叩いて籾殻を外す。
確かに大変だ。
俺が手のひらを合わせてするようにすると、長吉君またもや閃いた大きな石に籾を置き石で籾を磨り潰すようにして籾殻を外した。
それを見ておしのさんと長吉が相談する。
長吉君俺に
「紙と鉛筆が欲しい。」
と言うので渡すと土臼の図面を描いて見せた。
おしのさんこの絵図面を参考に土臼も造って販売するが、まだお宝の匂いがすると今度は農機具の物置に入って金属製のスコップや
もう好きにやってくれ。
今度は長吉君が山岳鉄道(ケーブルカー)を見ながら
「殿様、千歯抜きや土臼を造ってずいぶん楽になっただが、この山岳鉄道の動力源に使っているで水車で何とかならないかな。」
等と言いだして、ついには水車小屋を建て水の動力を使って千歯抜きや籾摺りが出来るようにした。・・・さすが長吉君!
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