第11話 桑名の戦いの後始末

 天文17年(1548年)正月、桑名港と九鬼水軍の合同水軍を衝角を付けた関船と炮烙玉でほぼ壊滅させ、その間隙を突いて俺は桑名港まで手に入れた。

 この戦いは後年『桑名の戦い』と呼ばれ勝利した結果、織田家が桑名港周辺まで手に入れたのだ。

 この戦いでもう一つついた異名が『血塗られた第六天の魔王』で『尾張の大うつけ』や前世の『血達磨地蔵』だの『地蔵の赤前垂れ』等と呼ばれるよりましか。


 戦いがあれば功労者の褒美と責任者を処罰しなければならない。

 桑名港の広い代官の屋敷で戦後処理が行われた。

 功労者の褒美と戦争責任者の処罰で、織田家側の責任者は親父殿(織田信秀)だが三河国の攻略が忙しいので親父殿の名代として傅役の平手政秀さんが席に着いた。

 上席のそこには俺と功労のあった美濃屋の女主人おしの、その娘のおしん、妹のおかよそして手代の新吉がいた。

 そして桑名新港の赤堀家の二人の幼子と重臣が座っている。

 赤堀家が桑名の戦いで敵方の桑名港側に付くのを防ぐ為に暫く桑名新港に居てもらったのだ。・・・それに別の目的もある。


 下の席には桑名港における北畠晴具きたばたけはるともの代官と九鬼水軍を率いた九鬼浄隆が縄を打たれて座っている。

 九鬼浄隆君、衝角を付けた俺の関船で乗艦を真っ二つにされ海に落ち、救い上げてくれた桑名港側の小早も炮烙玉で炎上したのでさらに海に逃げた。

 濡鼠で桑名港に着いたところで俺の配下に捕まり縄を打たれたのだ。

 九鬼浄隆君、戦にもならないうちに縄目の恥を受けたのだ同席する俺や充分な情報をくれなかった桑名港の会合衆を凄い目で睨んでいる。

 また庭には桑名港の会合衆と僧兵を桑名港側に遣わした住職達が同じように縄を打たれて座っていた。


 まず最初に親父殿から内通者でこの戦いの最高の功労者である美濃屋の女主人おしのに対して織田姓を名乗ることを許し、織田領内で今後無税で商売を許す等々を書いた感状が贈られた。・・・おしのさんはこれで俺の一族で叔母さんだ。

 さっそく美濃屋の店先には


『織田家御用達(織田家御用商人の事)』


の木札が下げられて桑名港において異彩を放った。


 次は戦争には賠償金が付き物だ。

 その前に俺が桑名新港を手に入れる際に桑名港の会合衆と土地取引で煮え湯を飲まされている。

 それは俺が桑名新港の土地を買収する際に桑名港の会合衆はその土地の所有者が赤堀家だと知りながら桑名港がさもその土地の所有者だと偽って二束三文の土地を法外な値段で俺達に売り払い、俺達が現場に行った先に本当の土地所有者の赤堀家が待っており再度土地代を支払わせた詐欺行為があるのだ。


 土地などは武力で切り取りし放題の戦国乱世である土地の登記簿などは無い、それは無いが俺の手元にはその詐欺行為の証明でもある土地の売買契約書があるのだ。

 桑名港側に支払った土地代金の売買契約書と本来の土地の所有者の赤堀家との間で支払った売買契約書である。

 そのの売買契約書を桑名港の会合衆に此れ見よがしに見せる。

 悪い事をしているのが解っているで桑名の会合衆、冷や汗ダラダラである。

 赤堀家にも土地代金を支払っているので、売買契約書の他にその土地取引の証人として赤堀家の重臣である政秀さんが嫌な顔で座っている。


 戦争賠償金の前に詐欺行為によって俺が土地代として支払った金の回収だ。

 当然違法な事をしたのだから制裁金も含めてかなり高額な額を提示した。・・・この地が俺の支配下に入ったのだ権は俺にあるが、題では無いので制裁金はある程度妥当な金額にした。


 次に戦争賠償金は俺が桑名港の会合衆に土地代として支払った分と赤堀家に支払った分を足してその三倍を提示した。


「土地取引の制裁金やや戦争賠償金をそんなに取るのか?」


と言って青い顔をしているが、嫌なら首を刈るだけだ。

 俺が横に置いた大太刀を取ろうとすると


「払います。払えばいいんでしょう。」


と言って泣き顔になった。

 おかげで桑名港の会合衆は貧乏集団になり、直ぐには反旗をひるがえすことが出来なくなるはずだ。・・・この金額は美濃屋の女主人おしのと協議した結果だ。

 かなりな額を桑名港の会合衆から引き出すことが出来た、それで俺は桑名新港購入の際に親父殿には借りていた土地代金に色を付けて返すことが出来たのだ。


 戦争賠償金が終われば、戦争当事者に対する処罰だ。

 桑名港における北畠晴具の代官は放逐、会合衆で俺に敵対する事を選んだ筆頭の越後屋は財産没収のうえ主人も同じく放逐する。


 越後屋については俺の関船と越後屋の持ち船が衝突する海難事故を起こして賠償問題でめていることもありその意味合いも込めて財産の没収だ。


 越後屋は米問屋でかなり財産をため込んでおり、持ち船としては関船1隻と小早3艘と桑名港以外には越後(新潟県)にも出店と米蔵がある。

 桑名港の店や蔵、そして持ち船は取り上げたが越後の店までも取り上げることは出来ないので、越後屋は一族郎党引き連れて越後の店に向かって行った。・・・ただ一人先妻が産んだ10歳になる長吉が後妻との折り合いも悪い事からこれを拒み桑名に残った。


 内通者美濃屋の女主人おしのからは残りの会合衆の個別の戦争責任については減免を申し込まれた。・・・戦争賠償金で青息吐息の店が多い、このままでは夜逃げする店も出るというのだ。

 おしのさんのおかげで桑名港を無血開城できたのだからその条件が話し合われた。

 その結果織田水軍には越後屋の持ち船を含めて新たなに関船2隻、小早10艘が加わった。


 今度は庭で憮然とした顔で座る5人の住職達に


「僧兵を養う荘園を差し出せ。」


と迫る。

 彼等も戦国大名と同様に領地を支配して僧兵を養っている。

 領地を差し出せば守るすべを失う事になる。・・・う~ん当然戦国の世で野盗等が跳梁跋扈ちょうりょうばっこする世の中で自衛力を失えば滅亡に直結するのだ。

 負けたとはいえ受け入れがたいのだが、廃寺にするわけにもいかず戦に加担した寺全てが荘園を手放した。

 荘園を手放すことにより食えなくなった僧兵が暴れて一揆を起こすよりはと織田軍の常設軍に雇い入れた。・・・織田家には金があり奪い取った荘園があるのだ。


 残りは九鬼水軍の敗残兵と九鬼水軍を率いていた九鬼浄隆だ。

 九鬼水軍の敗残兵の中で織田家に残りたいものは雇い入れ、それ以外は九鬼浄隆とともに放逐した。・・・放逐されて桑名の門を出るまで九鬼浄隆は凄い目で俺を睨んでいた。

 放逐する前に九鬼嘉隆や浄隆の父親の九鬼定隆が和睦の使者として自らが赴いてきた。

 史実では九鬼定隆さん、これから3年後の天文20年(1550年)に亡くなっているので、病を押して現れたのだ。

 和睦の条件としては当時は陸の孤島と呼ばれる志摩半島では英虞湾から採れる天然真珠くらいしかない。

 その天然真珠を手土産に浄隆の解放を願い同盟を請うたのだ。

 これで九鬼家と織田家は同盟関係になった。


 今回の責任者処罰についてはあまり傅役の平手政秀さん口を挟まなかった。

 それよりも桑名周辺が織田家の手中に入り後背の驚異が減って喜んでいたが・・・俺の横に居並ぶおしのさんの二人の娘を見て気が気でなかった。

 それと言うのも二人とも今の若が好みそうな器量良しで巨乳だったからだ。


「若!私は美濃国の帰蝶さんとの婚約を進めます。

 くれぐれもご自愛ください。」


と言って戦争賠償金の大金を手にして那古屋へ戻って行った。・・・う~ん本当は体だけを気遣っているのではない下の方の健康か?

 今後は桑名港を中心にした織田家領内の開発に尽力しなければいけないのだ。


 桑名の戦いで勝利した俺は桑名港に入り浸り、美濃屋のおしのさんを叔母さん、叔母さんと言って美濃屋をよく訪ねた。

 ここには優秀な手代の新吉と馬鹿なふりをしているが優秀なおしのの娘おしんとその妹で山窩の村娘桜子と同年代のおかよがいる。・・・娘二人ともおしのによく似てプルンプルンした巨乳の持ち主で・・・眼福!それだけでは無い。


 美濃屋は美濃紙の卸問屋で京都や奈良等に支店まで出している。

 紙といえば筆記用具だな、一夜城の為のパネル工法や関船の改造で図面を筆を使ったが。・・・う~ん墨で図面や字を書くとにじんだりして細かいところがよくわからなくなる。そうだ鉛筆を作ろう!

 鉛筆の芯??・・・墨を細くして布で巻いてみたが上手くいかない。

 美濃屋のおしのさんに相談したら


「面白そうなのでぜひ私どもに鉛筆の研究させてくれ。」


と願い出た。

 おしのさんが雇入れた薬師集団は優秀なのか半年ほどで俺の前世と引けを取らないような鉛筆を作り上げて、そのうえ色鉛筆も研究しているという。

 美濃屋自体が老舗しにせなので知り合いの薬師が沢山いるそうで。・・・う~ん俺の時は全く集まらなかった老舗の底力恐るべし!


 この筆記用具はこの戦国時代では画期的で織田家に多大な資金を集めることになった。・・・この時代の文明人と言えば京都に住む貴族、公家達だ。その公家に新しく出来た鉛筆1本ずつ贈呈した。・・・天皇家には10本贈呈した。

 これが評判になって鉛筆1本で1貫(現在に換算すると12万円)もする物が飛ぶように売れたのだ。・・・鉛筆は消耗品だ。漆で黒光りさせ注文客には家紋まで入れて高級感が漂うようにしてある。・・・俺や家臣の鉛筆は漆など塗っていない。

 美濃屋もこれによって京都に出店して、この年皇女がお生まれになったので鉛筆に美濃和紙を付けて贈呈したのだ。

 そのおかげで「尾張家御用達」の木札よりも大きな「皇室御用達」の木札が店内に飾られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る