第10話 桑名の戦い

 天文17年(1548年)桑名の会合衆は九鬼水軍を呼び寄せて織田家の桑名新港を攻め滅ぼそうとした。

 桑名の会合衆は九鬼水軍が味方になる為、桑名港の埠頭に出て歓迎しようとしていた。

 ところが壊滅したのは九鬼・桑名の合同水軍だった。


 敗因の原因が織田家の化け物船が他船を衝突で破壊沈没でき、さらには風上に向かって船を走らせることが出来る事を九鬼水軍に伝えていなかった事。

 更には桑名の会合衆も全く知らなかったとはいえ炮烙玉の存在だ。

 鉄砲の装薬(発射薬)としか考えなかった黒色火薬を手榴弾のようにして使って九鬼・桑名合同水軍を大混乱に陥れたのだ。

 その間に俺は旗艦尾張丸が率いる3隻の織田水軍の化け物船によって桑名港を封鎖して、行き場を失い洋上を漂う桑名港側の艦船を次々と残った織田側の関船で拿捕していった。


 桑名港沖での海戦が始まると、美濃屋の番頭と手代新吉他十数名が武装して桑名港の港とは反対の陸側の大門に向かって走った。

 大門に着くと手代の新吉が大門を守る守備兵を次々に切り倒していく。

 手代の新吉は柳生の里の出身者で剣の腕は一流である。・・・それもあって美濃屋の女主人おしのさんが用心棒として雇入れたが、帳簿にも精通していたので手代にもなっている人物なのだ。

 ついにはその新吉さん達が大門の守備兵を50名全てを倒して、番頭さんと力を合わせて大門の扉を内側から開ける。


 大門の外には平手政秀さんの嫡男五郎右衛門さんがボウガンを持たせた兵500を率いて待っていた。

 五郎右衛門さんは大門が開くと新吉達に


「ご苦労!」


と声をかけながら桑名港に侵入したが、手代新吉恐るべし、大門に集まった桑名港の守兵の大半を葬っているのを見て


「あ、案内を頼む。」


と腰を低くして案内を頼むのであった。


 ところ変わって桑名港を封鎖した俺は、埠頭に詰め寄せた桑名港側の雑兵に向かって手に持つ火縄銃を


『パン』


と撃つ、大柄の兵が額を撃ち抜かれてドーッと後ろに倒れ、どよめいて桑名港側の雑兵が下がる。

 俺は火縄銃をかたわらにいた水主かこ(乗組員)に渡すと愛用の大太刀を背から抜いて尾張丸からその空いた埠頭に飛びあがる。

 雑兵の中には付近の寺の僧兵も集まっており、その僧兵が


「仏敵、織田信長を打ち殺せば極楽浄土へ行けるぞ!」


等とのたまう。・・・人を殺して極楽浄土など行けるものか!行くのは地獄しかないぞ!と心で思って背に背負った大太刀を抜き出す。

 その悪鬼のような顔をした僧兵が


恩敵退散おんてきたいさん!」


と叫んで六尺棒を俺に向かって振り下ろす。

 俺はそれに合わせるように大太刀を振って僧兵の首を浅く切る。


『プシュッ』


と言う音を上げて僧兵の首から噴水のように血が噴き出す。

 首の動脈を切り飛ばしたのだ。

 俺に向かって来る雑兵は同じように次々と首から血の噴水をあげながら崩れ落ちていく。


『尾張の大うつけ』から血塗られた『第六天の魔王』が誕生した瞬間である。


 桑名港の代官さんが


「敵は一人だ槍をそろえて包囲して突き殺せ!」


と命じると北畠家の家紋である笹竜胆ささりんどうが描かれた陣笠をかぶった雑兵20名程が手に槍を持って俺を取り囲もうとする。

 待ってやるほど俺は人は良くない、俺は先頭を走る雑兵の手元に入っていく。

 槍は突くものと思うかもしれないが杖術のように殴りつけるのがこの当時は主流で俺に手元に入られそうになった雑兵は俺を槍で殴ろうと振り上げた。

 槍を振り上げる一瞬をついてさらに踏み込み雑兵の首を浅く切り裂く。


「うわわわ。」


わめきながら首を押さえるが、首の動脈を切られたのだ噴水のように血が流れて断末魔の痙攣けいれんをしながら亡くなった。

 雑兵達がそれを見て


恐懼疑惑きょうくぎわく


という剣道ではもっとも忌み嫌う状態に陥り心の隙を作ってしまった。

 代官は俺を見ながら


「押し包め!押し包め!」


と喚くばかりで後方の警戒を怠った。


『ブワーッ』


と言う音と共に百本以上の弓矢・・・にしては短い矢・・・が俺を取り囲もうとしていた雑兵達に突き刺さる。

 

 五郎右衛門さん率いる石弓(ボーガン)隊500名が手代新吉の案内で埠頭まで辿り着いたのだ。

 五郎右衛門さんが


「埠頭に群れている雑兵達を射るぞ!

 直ちに三列横隊をつくれ! 

 第一列構え発射!」


「第一列は交代して弦を引け!

 第二列構え発射!」


と言うふうに石弓隊から1列、約166本の矢が次々と発射される。

 桑名側の雑兵達は俺に気を取られて最初の五郎右衛門さんの率いる石弓隊の射撃に対応できず、かといって今度は石弓隊に気を取られると第六天の魔王と化した俺の一刀に首筋を切られて倒される。

 桑名側の雑兵達は次々に武器を手放して五郎右衛門さんに降伏する。


 桑名の会合衆の筆頭の越後屋が


「先生!出番ですぜ。」


と越後屋の蔵に向かって声をかける。

 蔵からユラリと細身の剣を下げた痩せ細った幽鬼のような男が現れた。


 幽鬼のような男がユラリユラリと近づいてくるといきなり細身の剣を地面に突き刺し俺へと下からすくい上げるように切り込んでくる。

 細身の剣の切先が地面に突き刺さっていたので切り上げる勢いで小石や砂礫すなつぶて一緒いっしょになって俺を襲う。

 しかしそれは単なる目くらましで、男の唇が笛を吹くようにすぼめられるのを俺は見逃さなかった。・・・う~ん俺は今世目が良く生まれて本当に良かった。

 口に含んだ吹き矢が飛んできたのだ。

 俺はその吹き矢も避けて幽鬼のような男の首筋を切り飛ばした。

 男の首筋から噴水のような血飛沫がまい、男はクタリと膝を着いてからうつ伏せに倒れた。

  

 これで俺に向かって来る者はいなくなった。

 俺は五郎右衛門さんが率いる500名の兵に命じて埠頭で九鬼水軍の増援の雄姿を見ようと集まっていた北畠晴具の桑名代官と桑名の会合衆に襲いかからせてこの全てを捕縛させる。

 海上で負け、陸上でも負けたのだ、気落ちしていた彼等は抵抗することもなく捕縛されていった。

 あまり広くもない桑名港の環濠都市でその支配者ともいうべき代官と会合衆達を捕縛したのだ、他の店舗も抗う事なく降伏した。


 俺は捕縛した雑兵の中に僧兵がいたことから


「お前は何処の寺の者だ?」


と問いただして、縄目の僧兵を案内に、その僧兵が所属する寺を次々に襲い・・・いや僧兵を盾に談判したのだ。

 僧兵を桑名港側に使わしてしまい寺には兵力は無いので談判に応じるしかない、俺が


「僧兵を雇い、国を騒乱に導くのが僧侶のあるべき姿か?」


と問えばこれまたうなずくしかない。


 僧兵を雇えるという事を考えれば寺自体がある程度広い領地をかかえていたのだ。

 史実でも、この当時鉄砲の生産地であるも戦国大名に匹敵するほどの広い領地をかかえていたという。

 その広い領地の中の寺田や荘園等と呼ばれるものを取り上げてしまえば僧兵を養う事が出来ない。・・・以後この小説では「寺田や荘園等」を荘園と呼ぶ。

 寺の住職は直接戦に出てはいないとはいえ僧兵を遣わせたのは事実だ。

 俺は寺の住職他主だった者を縛りあげる。・・・その寺院の数は大小合わせて5寺に及んだのであった。

 

 この戦いは後年『桑名の戦い』と呼ばれこの結果、織田家の領地が木曽川や長良川の大河を越えた桑名港周辺まで手に入れ勢力を拡大したのだった。

 これにより北畠家の寄子の赤堀家の領地が半減したことになる。・・・う~んどうしても赤堀家とは戦わなければならないかな?

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