第11話
ぼくはずっと、男であることはある意味男性至上主義の世界において不幸なことではないかと思っている。いや、男性として生まれたということ、ペニスを持って生まれたということそれだけで一応は支配者というか強者であることが約束されるのだから何ら不幸なことではないという考え方も成り立つと思うのだけれど、ただぼくの率直な実感として男に生まれてきてウハウハだったかというとそんなこともなかったのだ。ぼくは男たちのホモソーシャルな階層の中ではどうしたって下の方に存在してしまうし、そんな下の男は女性たちからも必然的に見下される。
ぼくはこんな風にいつも偉そうに物事を主張しているけれど、その実ぜんぜんぼくはマッチョな人間ではない。筋肉もないし、女の子と腕相撲をしても負けてしまうかもしれない。つまり、いざという時女の子を守ることができない情けない男であるということを意味する。そして、女の子を守ることができないということは男として生まれた意味がない、ということを意味する……と言って言い過ぎなら、少なくともその情けなさにおいて他の男にガールフレンドを奪われても仕方がない状況にある、とは言えるのではないかと思う。
それでも男社会の中で、男として生きなければならない。一度ぼくは中学生の時の先生から、いじめられて泣いてしまった時に「泣くのはいいが人前では泣くな」と言われたことがある。でも人前で泣いて何が悪いのだろう。そこまでは教えてもらえなかった。何にせよ、その言葉を守って(先生がそんなつもりで言ったわけではなかったかもしれないにせよ)「男らしく」「しっかり」と思って生きるあまり、ぼくは感情をうまく出せない人間になってしまった。ああ、今でもぼくは自分の感情を表に出すのが怖くて戸惑うことがある。
そんなわけで、ぼくは今でもひとりエッチをする時は女の子に侵されるシチュエーションを組み立てて行っている。もし女の子に「まわされた」としたら、と考える。そういうアダルトビデオを見ることもある。あるいは、女の子に赤ちゃん言葉で甘えたいと思うこともある。これらはみんな、ぼくが素直に感情を出せなかったり男社会の中で強く生きたいと思いすぎたりするあまり出てしまう「歪み」なのだと思っている。そんな「歪み」をぼくは生きている。だから多分ぼくはもうまともな恋愛をすることはできないだろうな、とも思っている……。
ドラウナーズ 踊る猫 @throbbingdiscocat
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