第9話
今日は天気の良い日だった。ぼくは天気の良い日というのが実は苦手だったりする。というのは、天気が良いとぼくはずっと自分自身の若かった頃のことを思い出すんだ。ずっと昔、ぼくは酒に溺れて生きていた。毎日呑んだくれていた。酔っ払った頭を抱えたまま仕事をして、帰ってきたら呑んで、寝て、そしてまた仕事に行く。そんなことを繰り返していた。人からそんなことを続けていればいつか死ぬと言われたけれど、それでいいだろうとぼくは思っていた。大好きな酒で死ねるならこんないいことはないと思っていたんだ。
ぼくが自閉症スペクトラム症であることは前に書いた。この障害が原因で、ぼくは車を運転できない。だからこんな田舎町に住んでいると華やかな姫路や神戸といった都会に出ることもできず、ひとりで家に閉じこもっているしかない。他の人がやれアウトドアでバーベキューを楽しんだり海水浴に行ったりしているのを知ると、うらやましいと思ったけれどどうすることもできない。だから結局ぼくは暇な時間を持て余し、家で酒を呑んで過ごすしかなかった。完全断酒して7年が経つけれど、晴れているとそんな日々のことを未だに思い出してしまう。
今よりずっと若かった頃、ぼくは幸せというものはもっとマテリアルというか物質的なものだと思っていた。もっと平たく言えば、お金や女性が幸せのバロメーターだと思っていたんだ。いい会社に入っていい仕事をして、いい女性を抱いて……そんなことが幸せの形だと思っていた。だから今の仕事を始めた時もぼくは「こんな仕事を一生の仕事にしてたまるものか。おれはもっとビッグになる。こんな田舎町では終わらない」と思っていた。でも現実は厳しかった。ぼくはもう47歳になるけれど、未だに独身で貧乏なままだ。
でも、断酒したことや運命の女性とめぐり会ったことがぼくを変えたと思う。ぼくは今ではマテリアルというか物質的な事柄に幸せが付随しているとは考えない。いい仕事やいい女は大事かもしれないけれど、それよりもぼくが本当にぼくらしく思うがままに生きられることの方が大事じゃないかと思うようになった。あせらずに、自分が大事だと信じたものを守る。ルー・リードやトム・ウェイツといったロックスターたちの生き方に憧れながら、ゆっくり自分だけの世界を掘り下げていく。それが多分ぼくにとっての幸せだと思うんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます