「リサ~?どうしたの~?」

「……かんない、」

「え?……なに?」

「……わかんないのっ、」


 と、結局浦川が何やら一義の視線から逃げ続ける午前中を終えた、昼休み。


『ごめ~ん、ちょっと貸して?』と言って占領した一義の隣の席で、刈谷と木島がそんな寸劇を繰り広げていた。

 浦川役なのだろう木島が机に突っ伏し、そんな木島に刈谷が声を掛けている。


 そして、その凄くどうでも良くて情報量0の寸劇を終えた後、木島と刈谷は黙って見ていた一義へと同時に視線を向けると、言った。


「「……だって」」

「だってって言われてもな……」


 わかんないって言ってた事しかわかんないんだけど。何がわかんないんだかわかんないし。

 と、言葉を濁した一義の前で、刈谷が言う。


「言われてもな、じゃなくてさキモT。キモTどうにかしなよ。リサ係もうキモTでしょ?」

「リサ係ってなんだ?」


 と、呟いた一義の前で、ふと木島が苛立たし気に眉を顰め、言う。


「……私はまだ認めた訳じゃないから。キモTにリサ係渡すなんて……」

「お前の役職だったのか?」

「別に役職じゃないから。……こう、魂の在り方?」

「ああ、」


 薄々と言うか八割方わかっていた事だが流石浦川の友達。やっぱりこの子もなんかめんどくさい子だったらしい。

 とか呆れたように思った一義を前に、木島は尚イラついたように眉を顰め、言う。


「ああ……じゃないから。とにかく、私まだ認めてないし……」

「認めるも何もお前の許可必要なのか?」


 そう言った一義を木島はかなり苛立たし気に睨み付け……と、思えば次の瞬間、だ。

 木島はパタンと机に突っ伏し、喚く様に言った。


「許可とか出せる立場じゃないってわかってるもん……でも、でも……やっぱりキモTなんて、違うじゃん。そうじゃないじゃん……もっと良い男狙えるじゃん……リサ頑張ったんじゃん……頑張った結果キモTはなんか違うじゃん……」

「……なんかすまん、」

「許さない、絶対に……」


 と、机に突っ伏したまま木島は呻いていた。


 うん。やっぱりなんかこの子アレだな。浦川の友達だけあって残念さがにじみ出て来てるな。

 とか思った一義の前で、刈谷が言う。


「まあ別に気にしないで良いよキモT。合コン主催して呼びつけた上で男威嚇する子だし、ルリのお眼鏡に叶う男って多分実在しないし。この子は一端無視ね、無視」

「……お前はやっぱり結構ドライだな」

「てかアタシらじゃなくてリサの話だって、リサ。ほら、なんか悩んでんじゃん。どうにかしたげてよアレ」


 そう言いながら、刈谷は浦川の席を指さす。それを追いかけ、視線を向けてみると、


「……っ!?」


 こっちの様子を伺っていた浦川がヤベ!?と言わんばかりに、また机に突っ伏した。

 それを眺めた末、刈谷は言う。


「……いやアレ悩んでなくね?何してんのアンタら。どう言うプレイ?」

「プレイ!?リサと?……リサが……たった3日で?キモTにけが、けがされ……」

「ルリちょっと黙ってようね~、」


 と、何かに過剰に反応した木島を刈谷が雑に宥めていた。

 それを目の前に、一義は向こうで寝たふりを続ける浦川を眺め、言う。


「別に、そう言う事もしてないが……」

「じゃあなんなのアレ?」


 と、眉を顰めた刈谷の横で、突如木島は立ち上がり、言った。


「倦怠期だ!?そうだよね、リサ……もう三日も経ったもんね?三日経ってもうキモTに飽きたんでしょ!?」

「いや、早くない?」


 とか刈谷が言った所で、向こうで突っ伏していた浦川が身を起こし、フルフルと首を横に振った。

 そして、浦川はまた机に突っ伏して行く。


 ……何を意図しているのかはよくわからないが、とにかく倦怠期ではなかったらしい。


「……倦怠期、じゃない……?そんな……」


 と、何やら信じられないとばかりに呟いている木島を横に、宣言通りもう無視する事にしたのか、刈谷は言う。


「ねえキモT。マジで何やったの?喧嘩?……じゃないよね、多分」

「ああ。違うと思うんだが……俺も良くわからないんだ。昨日メッセでは普通だったんだが、今朝急におかしくなってな。記号しか送って来なくなったし、顔を合わせたら逃げるし、今もああだ」

「で、わかんない、ね。……何が?」

「なんなんだろうな……」


 一義と刈谷はそう首を傾げ……と、そこで、だ。


「ふん、……その程度の理解でリサ係とか、あり得ないし」


 そう、何やら勝ち誇った様な呟きと共に、木島はふと席を立つと、一義を見下ろしてきた。


「ルリ?」

「……浦川の意図がわかったのか?」


 そう問いかけた一義と刈谷を前に、木島はフン、と鼻を鳴らし、


「……そうやって一生わからないまま悩んで、フラれろ!リサ~!私はわかってるよリサ~!」


 と、勝ち誇った様子のまま浦川の方へと駆けて行っていた。

 それを、一義と刈谷は眺め、言う。


「なんなんだアイツ」

「ルリ、リサの事崇拝してるから。……てか結局マジでなんなんだと思う?」


 その問いを前に、一義は腕を組み考え込み、言った。


「……俺と接触したくないらしいしな。ああ、あれか。学校でオタバレしたくないとか、俺と付き合ってると知られたくないみたいな……」

「ああ。……でもそれをキモTには言い辛いみたいな?ありそう……」


 とか刈谷と言っている所で、ふと、コホン、コホン、と、……関わりたくないとずっとソシャゲに興じていた鉄平が、耐えられなくなったのか咳払いし、背を向けたまま言う。


「……クラス横断してそのやり取りしてる時点で今更だろ?」


 その鉄平の言葉に、そこら中でクラスメイト達が何やら頷いていた。

 ……とにかく、それはもう今更らしい。


「じゃあ、なんなんだ?」

「さあ?」


 と、一義と刈谷は首を傾げ……と、そこで、だ。

 ついさっき勝ち誇ったように意気揚々と浦川の元へと駆けて行った木島が、今度は何やら意気消沈した様子で戻って来て、一義の隣の席に腰かける。


「……ルリ?どしたの?」

「うん。リサがね。……キモTとミキが二人でいるのなんかヤダから向こう行けって。向こう行けって、リサが……」

「え?なんで?……アタシまだ疑われてんの?だから言ったじゃん!なんもないよリサ~!」


 と、声を上げた刈谷を、浦川は向こうでじ~っと睨んでいた。

 それから、そのじ~っという視線は一義に向かい、そうして一義と視線が合った次の瞬間、浦川はふと頬を赤らめ困ったように視線をさ迷わせると、また机に突っ伏する。


 と、それを眺めた一義の横で、何やら悔し気に木島が言う。


「あと、リサがね……キモTの事キモTって呼ぶなって……」


 それは本当にそうな。……別に構わないが。

 とか思った一義の前で、刈谷は言った。


「ああ……だってなんか呼びやすいんだって。じゃあ、なんて呼ぶ?平泉くん?」


 と、刈谷が言った瞬間である。向こうで突っ伏していた浦川がまた身を起こし、何やら刈谷を睨み出した。


「なんか睨まれてるぞ?」

「え?なんでよ……リサ~、何~?だから疑われるような事ないからね~」


 と、肩を落とし、弁明しに行くのだろうか?刈谷が浦川の元へと歩んで行った。

 それを一義は見送り……それから、横でつまらなそうにしている木島へと問いかける。


「で、浦川はどうしたんだ?どうしてああなってる?」

「知らないし……」


 と、寄る瀬なく言い捨てそっぽを向いた木島を横に、一義は言った。


「……ただただ照れてるだけとか?」


 そう一義が言った途端、木島はふと動きを止め、それから真剣な顔で考え込み……やがて、言う。


「………………惜しい、」

「近いが正解じゃないのか……」


 浦川が難解すぎる。照れて、はいるのだろう。だが、それだけじゃない……?

 とか考え込んだ一義の前の席で、またコホンコホンとソシャゲに向かう手の止まっている誰かが咳払いし、「だからもう聞きに行けよ直接、」とか言っていた。

 そしてその誰かの言葉にクラス中で級友たちが頷いていた。


(……まったくもってその通りだな、)


 どうしても奥手になる……訳ではなくこの遠回しなやり取りに慣れ過ぎてしまっているのだろう。


 そんな事を思って席を立ちかけた一義の横で、ふと、ふん、と勝ち誇った様な声と共に、木島が言う。


「諦めるんだ。……そうやってあっさり、リサを理解する事を」

「なんだと……?」


 と、眉を顰めた一義の横で、木島は勝ち誇った様な視線を向け、言う。


「その程度の覚悟なら、……そもそも気にしないで良かった。そんな調子じゃどうせすぐリサに見捨てられるし……妨害なんてする必要なかったかも」


 そうどこか見下すように見上げてくる口の悪いマスクを眺め、一義は言った。


「木島。お前……ホント小悪党似合うな」

「うっさい!」


 そんな風に言い捨てて、「リサ~、キモTが小悪党って言う~!」とか言いながら木島は浦川の元へと戻って行く。


 と、それと入れ替わる様に、刈谷はこちらへと歩み寄って来て、言った。


「……小悪党ってどう言う事ですか、ヒライズミさん」

「お前はなんで人格魔改造されてるんだ?」

「イヤだって……リサが、なんかヤダからヒライズミさんには他人行儀で居てって言うから……でもこれ正直めんどくさいからキモTで良い?あ、リサが見てないところで」

「それまた誤解が発生して拗れる奴ですね、刈谷さん」

「ああ、そうでしたか……」


 と、刈谷が頭を掻いている所で、ふと、だ。

 また不機嫌そうな様子で、また木島が戻って来て、刈谷を睨み上げると、言う。


「……ねえ、ミキ。リサがね……なんか仲良さそうでムカつくからキモTに話しかけんなって」

「どんだけ疑われてんのアタシ……。リサ~?違うからね?なんも思ってないからね?キモT全然タイプじゃないからね~!?」


 と、そう言った途端、向こうで浦川が刈谷を睨み、木島は言う。


「それはそれでなんかムカつく。……ってリサが思ってる」

「エスパー!?なんで?……どうしろと……?」


 と、刈谷が肩を落としたところで、貰い事故を食らった一義は言った。


「……タイプじゃない俺に話し掛けなければ良いんじゃないですかね、刈谷さん」

「全方位敵に回した!?違うじゃ、……こほん。違うじゃないですかヒライズミさん……。別にけなしたかったわけじゃなくてですね、リサの彼氏となら仲良くしときたいなって、ね?だってあの子ちょっと不器用なとこあるから、ね?そういう事じゃないじゃないスか~」


 と、誤魔化すように言う刈谷を前に、ふと木島が言う。


「ミキはさ……違うんだよ」

「ルリ?何が?」

「本物なんだよ……本物の子なんだよ……なんかこう距離感が本物なの」

「だから何が?」

「……わかるよね、キモT」


 そう、深刻そうな表情で言って来た木島を横に、一義は頷いた。


「ああ、」

「何の話?」


 とか刈谷は首を傾げているが……一義にも何となくわかる。


 浦川は見た目だけである。そして木島は、そんな浦川と同じグループに居るだけで本質的にこちら側、と言うのがもう方々からにじみ出ている。


 だが、刈谷ミキは違う。諸々の振舞いを見れば理解できる。こいつだけは……。


「刈谷。お前……さては、ただの陽キャだな?」

「どういう事?」


 とか声を上げた刈谷を前に、木島が言う。


「ミキにはわかんないよ……。諸々を持って生まれたんだよ……溢れ出る何かがあるんだよ、」

「何が!?」


 とか喚く刈谷の向こうで、浦川が何やらうんうんと頷いていた。

 と、思えば次の瞬間だ。浦川はふと優し気な視線を刈谷に向け、同時に、木島が言う。


「でも、ミキは大切な友達だよ?……ってリサは思ってるよ?」

「リサはってどう言う事!?ルリは!?思ってないの!?」

「……素でスタイル良い奴は全員敵だから」

「嘘じゃん!?……違うってルリ……してるよ?ダイエット。カロリーカットとか……ほらあの、こないだのお弁当とかさ……」


 とか何やら慌てた様子で言っている刈谷を横目に、一義は言った。


「アレ色恋云々じゃなくてダイエットだったんですね、刈谷さん」

「なんでそっちから刺すの!?」


 さっき突然刺されたから……と思った一義の横で、ふと優しい視線を向け、木島が言った。


「ミキ。……ごめんね、疑って。仲直りしよ?」

「このタイミングはなんか仲直りしたくない!?ルリの事嫌いになりそう」


 とか刈谷は言って、それから次の瞬間、刈谷は肩を落とし溜め息をつき、言った。


「ハァ……もう良いけどなんか。ていうか、違うじゃん?今あたしの話じゃなかったじゃん?リサの話でしょ?」


 とか言った刈谷を前に、木島は言う。


「キモTわかる?この感じ……」

「ああ。こいつ全部流してやがる……やはりうわべだけで心のない存在だったなハートレス刈谷。いや……サイコパス刈谷」

「ええ……?もうどうしろと……、」


 とか、刈谷は頭を抱え……と、そこで、だ。一義は気付いた。

 なんか浦川がこっち見てる、と。なんかちょっとつまらなそうな表情で。


 それに気付いた一義の横で、木島が言う。


「リサは今思ってる……」

「ああ。……あのやり取りなんか楽しそうだし混ざりたいけどなんか今更入り辛いな、だろ?」


 そう一義が言った途端、木島はふと笑みを零し、言った。


「特別にリサ係検定12級を上げます」


 段位までめちゃめちゃ先長いな。ていうかそれリサ係じゃなくて陰キャ検定じゃない?

 と思った一義の前で、刈谷は不思議そうに首を傾げ、言った。


「混ざりたいならもう来れば良くない?」


 と、そう刈谷が言ったその瞬間、一つ前の席でソシャゲのホーム画面で美少女キャラにタッチしていた鉄平がボソッと言った。


「……そう言うところがもう……敵なんだよ」

「なんで!?黒田は違くない?こっちじゃないの?サッカー部じゃん!」


 とか口走った刈谷を前に、木島と一義は言う。


「今言ったね、ミキ。……こっちって」

「つまり本当はわかってるって事だな……ここにある明確な線引きを」

「なんであんたらは結託してんの!?さっきまで喧嘩してたじゃん!?」

「「それはソレ」」

「息合ってるよリサ!キモTとルリが仲良さそうだよ!ここは怪しまないの!?」


 その刈谷の問いにリサは向こうで思い悩み、それから木島と目を合わせ……それから、二人頷き合う。

 それから勝ち誇ったように、木島は言った。


「リサは思ってるよ?……ルリなら別に、どうでも良いかなって」

「ルリ?それ自分で言ってて悲しくならない?」

「陰な部分で通じ合ってるからならない。……陰キャが全員アニメ好きだと思うなよ?」

「どう言う喧嘩の売り方それ?陰な部分って何?なんでアタシだけ仲間外れみたいになってんの……?」


 と、刈谷は頭を抱え……それからため息一つ。


「ハァ。……良いよ、なんかもう。仲間外れで」


 そんな事を呟いて、軽く頭を抱えたまま自分の席へと引いて行ってしまった。

 それを前に、木島は慌てたように席を立ち、刈谷へと歩み寄りながら言う。


「あ、……ミキ?違うじゃん?ノリじゃん?わかるでしょ?」

「なんかもう色々わかんない……」

「……その感じはちょっとこっちっぽいかも」

「マジ?仲間に入れてくれる?」

「イヤでも違ったかもしんない。…………ごめん、ミキ。なんでだかホントに、ミキがサイコパスに見えて来た。なんか明るいだけで心なさそう」

「なんで~?」


 とか言い合いながら、ヴィランとハートレスは一義の傍を離れていく。

 それを一義は見送り……それから、あの二人にお前は混ざらなくて良いのかと浦川へと視線を向けた。


 同じタイミングで、浦川もこちらに視線を向けていたらしい。目が合い……そして次の瞬間。


 パタン、と、浦川は机に突っ伏する。

 それを眺め、それから一義は言った。


「……で、鉄平。結局浦川はなんでああなってるんだ?」

「だからなんで俺に聞くんだよ。もう直接聞けって」


 あっさりそう出来るならそうしてる。と、一義は鉄平の背に視線を向け、言った。


「鉄平。……所詮お前もサッカー部だったか、」


 そう言った一義に背を向けたまま、鉄平は言った。


「ソシャゲやってるって言ったらさ。……許される気がするよな?」


 そう言いながら、鉄平はソシャゲのホーム画面。そこにいる美少女キャラをタップしている。


 美少女キャラの、胸を。

 音は出ていない。だが、字幕は出ている。


『あん!?もう~、やめてくださいっ!』


 的な字幕。

 それを眺めた一義に背を向けたまま、鉄平は言う。


「だとしても俺は言うぜ?……だって、他人事だしな。言うのとやるのは、違うだろ……?」

「……鉄平。悪かった、」

「気にすんなよ。……モテたくてサッカー部入っただけだしな、」


 だが現実は非情である。少年はソシャゲの美少女キャラの胸をタッチし続けていた。

 それを眺め、それから、向こうでまたぺたんと机に突っ伏し始めた浦川を眺め、一義は言った。


「……で、俺はマジでどうしたら良い?」

「だからマジで直接本人に聞けとしか言えねえって。一生やってろ、」


 そんなことを言った鉄平を前に、一義は向こうで突っ伏している浦川を眺める。

 もろもろ脱線したが、悩みの本質は変わらない。浦川がなんか逃げてる、だ。


 それは変わらないが……わかる事もある。とりあえず嫌われている訳ではない。刈谷と話してるのがなんかイヤ、らしいし、正解ではないが照れて逃げている部分もある。


 だから、もう、……多分だが、一義が話し掛けてどうしたと問いかければ、今の些細なちぐはぐは一端終わるだろう。


 だが一端、だ。ずっと、ではない。まあ、ずっと齟齬を出さないと言うのも無理な話かもしれないが……。

 そんなことを考え、一義は言う。


「鉄平。……俺は、どっちだ。俺がどうとかじゃなくて、客観的に」

「今度はなんの話だよ……」

「陰か陽か」

「いや、悩む余地なく陰だろキャラT……」


 と、鉄平は呆れたように呟き……と、思えば、だ。

 スタミナでも回復したのか。鉄平は美少女キャラを弄るのをやめて真っ当にゲームを始めながら、言う。


「……て思ってたけど、そうでもないか、意外と。めんどくさくなる前は堂々としまくってたし、物怖じとかしてなかったしなお前。アニメ好きを公言してるだけで行動自体は陽?陽寄りの陰?いや、陰寄りの陽?……いや、なんかもう訳わかんなくなって来たわ。つうかどっちでも良くね?お前はお前だろ」


 そんな事を言った鉄平を前に、「まあな」とだけ呟いて、一義は頬杖を付き考え込む。


 趣味と人格は別だろう。陰キャ陽キャと、定義のない線引きだが自己主張や他人、異性と仲良くなれるハードルの低さで言ったら、ナマモノのBL同人誌を書いているリバカプ丸先生ですらどちらかというと陽キャだろう。


 好きだからという理由でキャラTを堂々と着れてしまえていた一義も、人格的にはどちらかと言うと陽キャに近かったのかもしれない。


 もろもろ思い悩んだくせに、好きだと思ったらそのまま勢いで一義は全部直接言えてしまったのだ。


 それに対して、浦川は告白された後でさえ言えなかった。

 そんなことを考えて、……それから一義は呟いた。


「急かす気はないんだ。急かして言わせるより、言いたくなって言ってくれた方が嬉しい」

「……それ、俺に言ってるんじゃねえよな?鳥肌立つんだけど。……言う相手違くね?」

「直接言うとその場で頑張ろうとする奴だ。……多分な。いつもいつも、今目の前にいる相手の望むように振舞おうとしてる。だから、……一端放置だな」


 そう言った一義へと、鉄平はチラリと振り向き、


「お前やっぱさ……、」


 と、何か言い掛け……だが結局、直接は言わない事にしたんだろう。

 代わりとばかりに、こう言った。


「正直って紙一重だよな」

「何の話だ?」

「逃げ道なくなるって言うかさ。……振り回される方が大変って話。双葉ちゃんにも今度、他人の顔色伺えって言っといてくれる?」

「……アイツは絶対怒らない相手にしか甘えないぞ?」

「ああ。あの子ホント器用だよな……、」


 そんな事を呟いて、鉄平はソシャゲへと戻って行った。

 それを前に、一義はまた、浦川へと視線を向ける。


 浦川はまた、こちらの様子を探っていたらしい。一義と目が合うと、すぐさまぺたんと、逃げるように机に突っ伏した。


 それを眺めて……今日も結局堂々とキャラTを着ている少年。

 結局、何があろうと本質的に、好きになったら一直線に動けてしまえる少年は、……決めた。


 少なくとも今は、待つこと。

 ……相手のペースに合わせる事に。


『裏リサ:放課後、時間をください』


 そんなメッセージが届いたのは、その日の授業をすべて終えた、終業のホームルームの最中だった。

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