十一番目にエルフと出会う。
マップを眺める。
おいらの目でも地平線の先を見通すことはできない。透過している分際で何をって言うかもしれないけれど、三キロ先の物が例え見えたとしても細かいことまですべて見通せるかと言われれば否で、マップを拡大して、大まかな動きを見る事しかできない。
層も上五層、下五層ぐらいしか見渡せないし、三層を越えて見ようとすると、透過している物体が重なり見えづらくなる。
中層はホロの生活圏。
ホロの主な生活圏は五十層から七十五層辺りだと睨んでいる。
今二十六層ぐらいだから、全然まだまだだ。
ヴァーモットがいる。
ヴァーモットはミノタウロス級が毛深くなったもの。
以外とゴブリン級が少ない。前日、前々日の調査の時、ゴブリン級などはあらかた殲滅されたのかもしれない。
ホロやるのも楽じゃないしね。露出した箇所からホロウが侵入してくるし、それらを押しとどめ拠点を作りつつ、上まで来る。やっぱり中心が逆の世界の入り口なんじゃないかな。
中層までは冒険者も降りてこないみたい。単純に危ないしね。ここから村まで歩いて丸一日はかかる。まずは遺跡の近くに安置を築いて拠点を作らないと遺跡の攻略なんて夢のまた夢。こうして新たな村ができる。そしてあの村は物資搬入の要として栄え街になるのだろう。
こうしてヴェーダラの目とサーチアイを使って眺めていると、ホロとホロウの位置が良くわかる。ホロウよりもホロが多い。
五十層辺りにホロの大規模な拠点があるのが伺える。
拠点になると簡単な防壁が建設されていて面倒だ。ホロが這い出してこないように入り口を封鎖すればいいけれど、奴らも必死になる。
「うぁー」
なんか色々考えすぎて面倒になってきた。
外装からエルフリーデが出て来て、肩に手を置き、足を持ちあげてお姫様抱っこしてきた。
横にある胸に頬を当て、左手でエルフリーデの左胸を掴む。服の匂い。
ちなみに銃の重さは約4㎏。パウンドスートは約2㎏。おいらの体重は190㎏ぐらいある。それをエルフリーデが軽々と持ち上げるあたり、マジぱないっす。
なんで体重がそんなにあるのってヴェーダラの血液が異常に重いから。通常時190kgで増減できる。最低は40、最大は470あたり。
服の上からエルフリーデの胸を口に含む。あむあむ。あむあむあむ。
口から離してブラの無い胸の先端を頬に押し当てる。また口に含んで、唇で胸を圧迫し、反発と柔らかさを楽しむ。気持ちいい。裸の胸よりも、服の上からあむあむするほうが汚れないし、なんか背徳的。右胸に顔を埋める。
気持ちいい。尖端の弾力が良い。
全裸より半裸、人より獣人。おいら変態なんだ。しょうがないね。だって獣人てめちゃくちゃ柔らかいし毛がふわふわで癒される。
獣人は人間にとって最良のパートナーだけれど、残念ながら人は獣人に過酷な対応をする。でもそうしなければ獣人を自分の思う通りにできないのも事実で、欲望を満たすなら奴隷にしないとダメだ。
それはおいらにも言える。
おいらは自分の欲しいものは絶対に手に入れる方だ。絶対にだ。
婚約者がいようが恋人がいようが構わない。相手の意思をねじ伏せようと自分のものにする。奴隷にすることも厭わないし、相手を殺すことも厭わない。
これはおいらの性分。だから故郷では欲しい物はゲームの中だけで済ませた。
この世界でどうしても欲しいものや相手が出来た時、我慢できるかどうか不安だ。
この世界にはおいらがゲームをしていて絶対に欲しいと思ったものが幾つかある。
その幾つかには生き物も含まれる。それが目の前に現れた時、おいらは途轍もない憤りを覚えるだろう。今から不安……。
……覚悟、なんにでも覚悟が必要。
生き物を殺すのだって覚悟が必要。
例え相手がこちらを攻撃してきたとしても、最後の最後で迷うことはある。
躊躇わないという覚悟。後悔するかもしれないけれど、相手の屍の上を歩く覚悟。
それはエルフリーデをしている時に腹に決めたものだ。
マルグリーデと名も知らぬ暗殺者たち。
彼女達がぼくを殺しに来た時、彼女達の顔に迷いはなかった。
普通は人を殺すのに罪悪感や痛み、命をやり取りするという行為に表情は歪むものだ。おいらだって多少は顔に出る。人間だもの。でも彼女たちにそれがなかった。
ファムファタールって闇の組織と対自したことがある。感情のない道具だった。
同時に彼らを倒した時、ぼくはこんなにも強いんだぞって高揚感も沸いた。
それも堪らなく嫌だけれど、それもぼくだ。
貴族ではない人間を、人間としてカウントしていなかった事にも気がついた。そんな当たり前のことを……。ぼくはぼくが思ったより間抜けで脳なしで、そして残酷だ。
エルフリーデから降りて鎮静剤に口を付ける。息を吸いその香りを十分に堪能した。
エルフリーデを外装の中へ戻らせブラックドックを身に纏う。後は駆けるだけ。
二十七層――ヴァーモットを殺害。手にガーディアンの残骸を持っていた。武器として使用用途が見られる。ヴァーモットの毛は針金状で硬く、ごわごわしている。突進されると押しつぶされると共に、この針金状の毛が体中に刺さって逃げ辛くなる。こちらの動きを阻害し、また斬撃が肌に届くのを防ぎ衝撃も和らげる。ヴァーモットは手ごわい。
接近戦でまともに戦うのは骨が折れる。おいらのコインガンでも毛により威力を落とされるので、それなりの出力が無ければいけない。ただ術が軒並みに効く。炎で燃やしてもいいし、水で包んで窒息させてもいい。雷で穿ってもいい。
おいらはそういうの使えないけれど。
ゴキブリモドキもいた。ホロウに含まれるゴキブリで、名称ゴルディオンエルコルディアに似たゴキブリモドキだ。犬並みの大きさを持ったゴキブリで、ちなみに本物のゴルディオンエルコルディアは象ぐらいでかい。
足に棘があり羽がブレード状。素早く地を這う。ブレード羽での攻撃と、足の棘で対象の体を拘束抱擁し噛みつき攻撃を仕掛けてくる。外殻が硬いので斬るなら節を狙う。
頭部と胸部の境目、胸部と腹部の境目、羽の裏にある柔らかいお腹部分を狙うのがセオリー。
銃なら顔面狙い一択。
顔はコオロギに似ているんだよなー。コオロギとゴキブリって近い気がする。
二十八層に入るとグラシャセラス。通称岩イカがいた。
石の中を泳ぐホロウのイカだ。遺跡内の壁の中を泳いでいる時は影のシルエットとなり、襲ってくる時だけ実体化する。
それに加えてゴブリン級が少しとオーク級が巣を作っていた。二十八階層から数階はグラシャセラスの縄張りなのかな。アンテ族が縄張りに侵入したのが伺える。
たびたび交戦しているのか、玉とホロの死体がそこかしこにあった。ただホロは共食いもするし、ホロウも肉を食べるのでほとんど骨になっている。ホロウは肉を食べると体が大きくなり、玉を取り込むと強くなる。
ホロは肉を食べて成長すると強くなる設定だったはず。
ホロの成長には二種類あって、原初にあるのがゴブリン級だ。ゴブリン級が成長するとオーク級に進化し、オーク級が成長するとオーガ級になる。オーガ級からミノタウロス級、サイクロエディプスと巨大化していくものだけれど、亜種などに変化することもある。
ミノタウロス級が所謂ネームドに変化するとバーバリアンと呼ばれたりする。
バーバリアンはミノタウロスの顔がそのままライオンになったような姿のホロだ。
亜種とネームドは異なり、ヴァーモットもミノタウロス級ではあるけれど、ネームドではない。
ちなみにヴァーモットのネームドはホワイトラムと呼ばれる白い毛むくじゃらの大男で、ヴァーモットより腕が太く、足が短い。毛むくじゃらでチキンレッグだ。
ネームドは同じホロの中の異質という感じで数も多くない。
亜種は種族として確立しているので数は多い。
注意しなければならないのは同じ種類の見た目であるにも関わらず、ネームドである場合があること。そう言ったホロはジャック(名無し)と呼ばれて恐れられている。
うーん。上にいたミノタウロスとさっき倒したヴァーモットはおそらく順路確保要因。元はオーガか何かで、戦闘経験と仲間を食べたことで成長したのかもしれない。
それを考えると、数日前に倒したあのホロ二体は、おそらく地上の偵察および拠点の構築をするための斥候だともとれる。ギリギリセーフ、ギリギリセーフじゃないか。
グラシャセラスが押されている証拠だ。でもグラシャセラスだけじゃないはずなのに、もっと潜ってみない事には何とも言えないな。
この遺跡をホロから維持するのに、グラシャセラスはいいかもしれない。こいつらは岩の中に潜っている間無敵だ。何をしても傷一つ付かない。でも攻撃もできない。岩から実体をもって攻撃して来た時のみ攻撃可能になる。裏技で殺すこともできるけれど。
普通に頭使わないと勝てない敵はホロウはホロの天敵だ。
一際でかいグラシャセラスが視界の端に映ったので焦点を合わせる。ホルダーかなぁ。
グラシャセラスは尖った貝を背負ったイカで、団体で刺突攻撃を仕掛けてくる。対処は難しい。鈍器で殻ごとたたき割るのもいいし、殻と身の間を切り落とすのもあり。どちらも相応の技術が必要で、やみくもに剣を振るってもダメ。野球のバッターみたいなもの。
岩の中を泳ぐけれど岩以外は泳げないので何か変わりのものに刺さらせ、もがいているところを倒すのが楽。おいらならサイコオーラにわざと刺さらせ、対処する。
今この均衡を崩してグラシャセラスを倒せば、ホロがこの階を占領し、拠点を作って表層に抜けてきてしまう。
グラシャセラスはなるべく無視で、ゴブリン級とオーガ級の数を減らすのがベストなのかもしれない。両方殲滅してもいいけれど、ホロはまた上がって来るだろうし、その時グラシャセラスがいなければ、もっとスムーズに拠点を築くだろう。それはダメ。おいらもこの迷宮にずっといるわけじゃない。
二十九階層――グラシャセラスの群れが飛びかかって来てブラックドックを纏い召喚し駆ける。グラシャセラスの攻撃は一方通行で反転するのに時間がかかる。飛び交う無数の矢のようなグラシャセラスの群れの中、その姿がヴェーダラの目の中にしっかりと映り込んでいた。体を横に傾け、天井を走り、三十階層へ向けて駆け抜ける。通り抜ける音が、耳の中で線のように張り詰めて少し痛い。
避けきれないものに触れた手、尖っているのは尖端で、先端よりやや側面に手を滑らせる。
手袋越しの感触は硬く、スパイラル状になった殻が甲に当たると引っ張られて手袋が少し歪む。思ったよりも痛くはなかった。
三十階層――引き連れて来てしまった、反転してきたグラシャセラスと共に、オーク級の拠点に突撃する。気づいたゴブリン級が鈍器を地面に叩きつけて音を出そうとしたので、銃を構えて頭を撃ち抜く。
マップを表示、ヴェーダラの目、マップに表示された敵を指でロック。ホルダーよりコインを出して、一発込め、構え、発砲。衝撃で僅かに上ずり、脇に銃を納めて、ハンドトゥハンドで初弾を回収。
突撃する――二射撃目で壊した瓦礫や骨などで形成された歪な壁を飛び越えて抜ける。
壁、天井を走り、二回目に撃った弾の成果を見る。七割というところで弾は失速し、地面の上で回っていた。
一緒に突っ込んで来たグラシャセラスにオークを押し付ける。
三十から三十三階層はオークの巣になっているらしく、天井を駆け上を通り過ぎ振り返ってから発砲、手前のものは殺さぬようブラックドッグの噛みつきで足を奪う。
適度に間引きながら、弾の回収も忘れないよう心掛ける。ついでにホロが持ち込んだ枝などのゴミを回収する。
三十四階層、
リナリクス種の巣を発見。
残念ながらボルテクスリオの巣じゃない。アクレイター。アリの巣だ。
アクレイターは中型犬ほどの大きさを持つアリによく似たリナリクス族(種)で尾より糸を出し、顎が発達した蜘蛛のような顔をしている。アリグモ、と言えばいいのだろうか。
アリグモはアリに擬態したクモの名前だ。アリモドキっていうのかな。
顔にある二つの触覚で空気の振動を読み、また目も六つある。こちらの行動を予測して対応してくるという厄介な敵だけれど、こういう狭い場所ではその二つが仇となる。
恐ろしいのはアクレイターが二足歩行だというところ。
駆けながら残った霊銀を取り出し残呪の霊銀を銃に込め発砲。
銃の振動を感知しこちらへ視線を向けて来たアクレイター達。巣の本体、糸に覆われた繭状の巣に残呪の霊銀が炸裂し糸が裂き乱れる。
炸裂の衝撃で鋭敏な触覚が麻痺して動けなくなったところをブラックドッグで触覚をかみ砕き進む。アクレイターは衝撃に弱い。
アクレイターの一部を弱らせて、追って来ているだろうオーク級やゴブリン級と衝突させる。ホロ同士では戦闘を忌諱する傾向もあるけれど、興奮しているのなら話は別。アクレイターの巣の一部を回収する。着火剤として使える。火持ちもいい。
下った先三十五層に制御室があるのを確認した。制御室は遺跡を管理するための部屋だ。遺跡全体に張り巡らされた回路を制御している。回路とは言っているけれど、遺跡がどんな技術で動いているのかはまだ解明されていない。
ヴェーダラの目で透かした壁を見ていると、水の流れがあり冷却室が隣接しているのが伺える。もしかしらお風呂に入れるかもしれない。久しぶりにお風呂を想像して脳が高ぶる。手で撫でる壁の質感と向こうにある甘美なお湯の誘惑。制御室は通常、エインシェント(古代人)しか入れないけれど裏技はある。
制御室の一部の崩落を確認。床に穴が開いている。制御室の左斜めの床が抜け、透かして見ると結構深い。これは辿って行けば次の制御室まで垂直に降りられるかもしれない。もしかしたら誰かが降りた跡なのかもしれない。
じっと見ていると、底の方に人影が見える。そこまで深くない。三層分ぐらい下。エルフ……エルフが見える。目をごしごしと擦ってもう一度見ると、どう見てもエルフにしか見えないエルフがいた。なんでこんな所にエルフが。遺跡エルフか。その割に一人……。
残呪の霊銀を銃に装填する。
この世界のエルフは特殊だ。大まかに二種類に分かれる。
通常エルフ。白い肌に宝石のような色の瞳を持つエルフ。
砂漠エルフ。肌が黒くて髪も黒い。青い目か緑の目を持っているエルフ。
エルフでもっとも特徴的なのは神と契約しなくとも魔術が使えるというところ。人間とのハーフは可能だけれど、共存はほとんどしていない。
エルフのほとんどが長身で手足もほっそりしている。寿命も長い。
この世界において、エルフがもっとも嫌うのはドワーフではなく人間だ。
ドワーフとも仲は悪いけれど、それはライバルのようなもので、本当に仲が悪いわけじゃない。人間を忌諱するのは人間がエルフを奴隷にするから。
しかしエルフも人間を奴隷にしていた時期がありその禍根も深い。どっちもどっち。
エンシェントエルフ(古代のエルフ)とこの世界にいる一般的なエルフは系統が違う。
この世界にいるエルフは獣人だから。
長い耳の裏側に柔らかい産毛が生えている。エルフは人間と祖が違う同一進化系統種。人間が猿に近い種から進化したとするならば、エルフはウサギに近い種から進化した種族。ドワーフもそう。それでも人間と交配ができるのは彼らがまた人と同じ神に作られた種であることを暗示している。いや、違うのかもしれない。神様ってこういうところで示し合わせる。
難しい話だけどハイエルフはまた違う種族になって、こっちはエンシェントエルフの系統になる。そんなに数がいないから滅多に会えない。
ハイエルフとエルフは同一種ではない。
ハイエルフは何処から来たのだろう。神が器を持った姿とも神が落とされた姿とも言われている。神から力を奪うとハイエルフになるという伝承はある。
現在エルフとして生活している者には一つ秘密がある。それはあまり良いものじゃない。
おいらがエルフで知っているのはこれぐらいだ。
こんなところに一人でいるなんて本当に珍しい。
背後に銃を向け発砲。アクレイターを処理する。コインホルダーを開け、残呪を掴み、数を視認しながら銃に装填、振り返り五連射。追って来たら殺すと意思表示。
裏での設定でもエルフは獣人として扱うとしか書いてない。獣人であるエルフの秘密は容量や納期の問題で没になった。そのエピソードをぼくは知っている。
ハンドトゥハンドを使用してコインを回収。少し欠けている。新品のコインも良いけれど、こうして歴戦のコインになっていくのも中々に素敵。
一度コインホルダーに戻し、別のコインを掴む。
なかなか諦めてくれないアクレイターに銃を発砲する。オークの相手をしないと大変だよ。
けれどエンシェントエルフについてはおそらく母の脳内にしか設定は存在していないはず。売れ行き次第で追加エピソードの販売はあったかも。エンシェントエルフを主体とした攻略対象の絵を見たことがある。でも母は有象無象の絵をフォルダに保管していてネタに詰まった時掘り起こして使うから確証はない。
ヴェーダラの目で見ている限り、遺跡地下にいるエルフの見目は麗しい。一般的なエルフよりやや低身長。若いのかもしれない。遺跡調査か何かで来ているのかな。
この遺跡はおいらの知らない遺跡だ。おいらが知らないとなると設定はあるけれど未実装の遺跡である可能性は高い。
話してみるのもいいかもしれない。避けられたら大人しく素通り。
動かなくなったアクレイターがバリケードになりつつある。近すぎるとスコープの意味が無い。マップを確認しながら狙撃モードへ。
アクレイターとオークとグラシャセラスの三つ巴に移行したのを確認、銃を構えるのをやめた。
移動しヴェーダラの目で制御室前の壁を見る。遺跡の扉には正規ルートと裏ルートがあり、裏ルートは所謂設計者用のルートで、正規ルートは一般人用のルートになる。
正規ルート用の開錠パネルより、下の壁に制御パネルが備えられて壁を弄る。いざという時に扉が開かないと困るので、このように制御パネルなんかを用いて保険にしている。普通に見ただけじゃわからない。
開いて見ると……うっ……うーん。模様……とか、なんか丸い玉がはめ込まれていたり、とりあえず、玉に手をかざしてみたり、魔力を流してみたり、魔力を流したら火花が散って、なんか、バチバチ、やべっ、殴っちゃった。回路がむき出し、これ、やばいよね、やばい……あっ、動いた。開いた。開いたわ。この手に限る。
最悪扉をぶち破って無理やり入るか、壁を壊して無理やり入るかの二択だったから良かった。
中に入ると制御室の扉が閉まり、制御パネル壊しちゃったけれど遺跡自体が自分で直すと思うから放置。ホロとかホロウは制御パネルを弄れないから入ってこられない。制御室は入れさえすれば安置。ガーディアンがいないのはそもそも職員しか入れない場所だから。
制御室とは言ったものの、画面やパネルなどが乱立しているわけではなく、大きな柱のようなものが立っており、パイプやら何やらが接続されて可動しているのが見えるだけ。
時折壁中を金色の線が光ながら通る。技術が高いよね。おいらには解読不可能。おいらの頭では何百年かかることやら。
お目当ての冷却室、隣の部屋を覗くと、隣から伸びて来たパイプや配管が天井を伝い、水の中に接続させているのが見えた。湯気と、換気扇、底は青く光っていて、水の透明度が伺える。地下水を引いているようだ。小型鑑定ルーペをかざして水質を見る。汚染水ではない。
飲料もできるほど綺麗な水のようだ。フィルターでの濾過と熱を使った雑菌処理がしっかりなされている様子。もしかたらオゾンなんかも使っているかもしれない。
水は四つの区切りがあり、奥は煮立っていて手前に行くほどお湯が冷めている状態なのかな。奥から四番目、手前の水に手を付けると少し冷たく、三番目に手を付けると程よい温度だった。
マップを見てヴェーダラの目で辺りを見回す。階下にいるエルフが壁を削って舐めているのが見えた。随分、細い、というか、やつれている、というか……遭難者、かもしれない。
お湯を見て、お風呂に入ろうかと悩んだけれど、先にエルフと接触しておくことにした。
まさかエンシェントエルフ……のわけないよね。
万が一遭難だった場合、こんなところで人知れず餓死するなんて嫌だろうし、少なくともおいらは嫌だ。
エルフで悪事を働く者がいないとは言えないけれど、エルフの掟破りって、大体人間からすると大したことじゃない。森から出たとか人と接触したとかその程度。エルフの決まり事はおいらが知る限り人間よりだいぶ多いし重い。だからエルフって大体真面目。
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