十番目のわんわん

 中層に入ると壁の色が変わる。表層は緑、中層は赤。

 初手からミノタウロス級がいる。

 作戦わんわんパニックで行くか。

 自分で説明しよう。わんわんパニックとは犬になって犬を召喚し、敵を倒しながら進む作戦なーのだ。へっへっへっへっ。

 人に見つかりたくない時はおすすめ度☆☆☆☆☆。☆五つ。

 だって見つかっても犬だからね。攻撃はされるけどね。

 マップを確認。コインガンに残呪の霊銀を込める。

 いくぞお。

 ブラックドッグになったままブラックドッグを召喚して駆ける。


 でトラップルインズについて説明するけど、トラップルインズは古代人が玉を集めるために作った遺跡だ。

 中は罠多め、露出した岩盤と掘削するガーディアン、それに遺跡を徘徊するガーディアンがいて、ホロウを沸かせてはガーディアンが処理することで玉を集めている。

 取りに来るものがいない遺跡の中には魔玉(まがたま)がどっさり。

 定期的に訪れるだけで運が良ければトップスターもどっさり。その代わりライバルもどっさり。

 徘徊するガーディアンは基本的に人間を襲わないけれど、玉を守るガーディアンは認証が無いと人も攻撃してくる。厄介なのは仮に玉を守るガーディアンを守護ガーディアンだとした場合、守護ガーディアンを攻撃すると遺跡の中で警報が鳴り、すべてのガーディアンが敵となる。マジやばくね。やばい。

 一部の遺跡ではアイテム製造ガーディアンもいて、トップスターを使用して制作された武具なんかを手にいれられる可能性もある。

 さらにスカイシップのうち、蝙蝠型の小型スカイシップなどが製造されている可能性がある。蝙蝠型の小型スカイシップは移動に便利だけれど、実力が無ければ妬まれて殺されたり盗まれたりもする。貴族の使いが金を提示して交渉しに来たら大人しく譲るのがおすすめ。川を流れたくないのなら。

 奴ら。

「交渉決裂? じゃあ死ね」

 を普通にしてくる。暗殺者を普通に雇うし権力も振りかざしてくる。牢屋に入れられるし歯向かえば国家反逆罪。どうするって別の貴族に保護を求めるか国と戦争するか逃げるかの三択。一番穏便なのは金で譲る事。

 一番目のスカイシップは譲り貴族との梯子を得て、その貴族の保護を持って次のスカイシップを自分の物とし認めてもらうのが一番良い。

 使用人の質が悪いと普通に殺される。なぜってその方が渡された金を着服できるから。

 貴族は基本的に下々に興味が無い。経過ではなく結果が全てだ。猫被りは誰だってする。その度合いの問題。

 教会に駆け込むのもあり。ただ教会への貢献度を求められる。それにやっぱりスカイシップを手放すことになると思う。貴族との仲介はしてくれる。後は交渉、示談でなんとかしてねって話。四択だった。


 古代人にもクレームはあるのか、ガーディアンは基本的にホロもホロウも絶対に遺跡の外に出そうとせず排除しようとする。安全神話を気づこうとするのなぜ。それは永遠の謎。

 ただ、その、なんていうか、ガーディアンのほとんどはもう壊れている。

 遺跡が制作されたのが何百年とか何千年前とかになるので、自己修復機能があったとしても材料が無ければどうにもならず、直らなくなった素体を再利用して修復するのを繰り返していくうちに動かなくなってしまう。エネルギーも無限じゃないしね。

 遺跡は迷路状でホロ(魔獣人)は出入口を見つけたら、アリのように印をつける。そのまま斥候となり後方の部隊が印を見つけてはい出てくる。

 ホロウ(魔獣)は永遠と沸いては罠に殺されたり、ホロと戦うのを繰り返したり、玉だけが放置される。トップスター持つホルダー(保持者)は遺跡生まれが多い。

 ホルダーは普通のホロウとは違って知能が高い。

 遺跡と言っても色々複雑だ。

 他には神々の試練とされるダンジョンもあるし、古代人の試練と言われるダンジョンもある。ダンジョンの役割は迷宮と違う。


 アンテ種、ミノタウロス級を目視。こちらに気づいて咆哮を上げようとするので、犬の体から顔と銃だけ出して、標準を覗き、発砲、喉を潰す。ミノタウロス級はでかい反面、狭い場所での団体行動に向かずソロ移動している場合が多い。ただ通路一杯の突進を食らったらミンチになる。斧は無いけど岩を掴んで突進してくることはある。突進が始まったら止めないと死ぬ。突進が始まる前に倒すのがおぬぬめ。

 いや、斧もって攻撃してくることはあるよ。斧がその辺に落ちていたらそれは使うよ。

 筋肉の体躯。五メートルはありそう。足に比べて腕の筋肉が異常に肥大している。犬をけしかけ、筋肉を噛み削る。オーガと違って毛に覆われていない。顔は牛と言うより……怒れる豚という感じ。

 躊躇わずに群れで飲み込み、体のあちこち、筋肉を噛み削り流れる血液も噛み削る。骨だろうが噛み削る。あっという間に跡形もない。


 ブラックドッグは生物じゃないので、口の形も変幻自在。上あごと下あごが閉じられたら切断される形になっている。形状は色々だけれど上下ともギザギザの歯で圧力重視にすると大抵の物は噛み切れる。ピラニアが獲物を襲っているみたいに削れていく。

 肉を食いちぎる噛みちぎる感覚がブラックドッグに隣接した部分から振動となって伝わってくる。ミノタウロスの肉は良質な筋肉というよりもゴムを連想させた。

 彼らの筋繊維は人と似て人と異なる。

 こうして戦ってみて思うのはやっぱり剣で戦うような相手じゃないという事。

 ミノタウロスを両刃の剣で叩き切るには握力がいる。

 両刃の剣って叩き切るためにあるから、両断するにはかなりの握力がいる。片手200は超えないとまず無理。神々の恩恵が無ければまず無しえない。


 噛み切った肉はブラックドッグの栄養源になり、ブラックドッグの強度を上げる。消すと差分が地面に落ちる。黒より赤味を帯びていく。

 ミノタウロスの残骸。

 のたのたとその場で辺りを見回し、アイテムが無いのを確認、ハンドトゥハンドでコインを回収、次に移動。

 コインホルダーにコイン回収機能はあるけれど、転がってきて納まるだけで異次元を越えてくるわけじゃない。少しでも手間を減らすためにつけたおまけみたいなものだ。

 獲物を倒して解体中にコインも勝手に鞄に納まる。みたいな使い方が正しい。

 普通に回収するならハンドトゥハンドで回収したほうが早い。

 あと、あまり遠くに離れすぎると途中で引っかかってそのまま帰って来ない。数年ぶりに訪れた街でコインホルダーが重くなると、おかえりって気持ちになる。


 マップを確認。次の標的はハウンド系……ホロウかな。ヴェーダラの目で見る限り、一体だけ明らかに十倍は大きい。ヴェーダラの目とサーチアイで遺跡を透過する場合、移動しながらだと壁がガラス状になりブロックの曲線だけが見えるので、壁にぶつからないように注意しないと激突する。

 遺跡は自己修復機能が付いているので破壊してもある程度は自分で元に戻る。壁も元に戻るけれど、崩れて下敷きになったらやっぱり死ぬ。

 自己修復機能があってもその機能に問題があると修復不可。回路の一部が欠損したり、直せなかったりするのはある。おいらが修復してもいいけれど、さすがにムズいのは無理。

 この建築技術はお城に使われている。そのため技術法は基本的に秘匿。


 先手が取れるはやっぱり有利。

 中層は二十五層辺りから七十五層辺りまで、七十五層辺りから下層になる。一層辺り縦横目算五キロほどの二十五㎢の空間(天井? 高さ? うるせぇ知らねぇ‼)から出来ている。各階層の何処かに階段がある。地獄から這い上がって来るものを防ぐためならば、いくつかの階層にガーディアンがいるはず。ガーディアンは人を襲わない。むしろ守る。けれど攻撃すれば攻撃される。表層入り口すぐ内側にいるガーディアンがクソ強マックスエンド(ゲーム時の話)。お前達を絶対に地上へ出さないという鋼の意思を感じる。感じるだけ。でも現在ではほとんど壊れており、現存数はやっぱり少ない。一体だけなら見たことがある。

 いくら強靭なガーディアンであろうと、例え自己修復機能があろうと回路自体の素材が時の流れに勝てないし、劣化や摩耗は避けられない。アダマンタイトでガーディアンを作ったとしても内部に使用される回路の素材はアダマンタイトじゃない。自己修復にも終わりがある。つまり自己修復回路が壊れた時、人と同じように緩やかな死を迎える。


 五十層以上階層のある迷宮には特殊な仕掛けもあるんだよね。迷宮って一つ一つにちゃんと物語を作ってある。でもこの迷宮には……。

 今は犬が犬を食べるだけの簡単なお仕事をする。こちらはおいらが攻撃を受けなければダメージのないチート犬。向こうは魔獣だけれどダメージが普通にある犬。どっちが勝つかって、ダメージの無い方。

 こちらに気づいて威嚇をする犬たち――駆けて混ざる。群れと群れが混ざり合う。噛み、噛みつかれ、殺し、殺す。開いたアギトが双方をかみ砕き、ダメージのある方が削られ倒れる。

 巨大なホロウ――狼の姿をしている巨大なホロウ。大きく開いた口、口の中へ飛び込み、そして、口の中からかみ砕く。口端を噛み消し牙をかみ砕く。歯茎も舌も喉も腹の中も、食道も、そして詰め込んだものも全部全部。

 さよならわんちゃん。

 ブラックドッグの中に魔玉が蓄積される。一番大きな塊をハンドトゥハンドで引き寄せて眺める。

 透かして回路があればトップスター。ヴェーダラの目で眺めると、いびつだけれど、複数の面からなる石の中には琥珀色の光が透けて見えていた。こまかな回路、魔力を通すと回路の中を走る無数の魔力。

 握って前に出すと、石から激しい咆哮が上がった。

 咆哮石、雷鳴石、呼び方は色々ある。

 トップスターだ。効果は大きな音と振動で相手を威嚇しひるませる。己、又味方を鼓舞、恐怖を打ち消す。

 結構いいトップスター。こういうの好きなんだよね。

 鈍器と相性が良い。咆哮打ちと言って、咆哮させたまま殴ると相手は死ぬ。

 咆哮させなくても頭を殴打すれば死ぬけどね。これは鈍器を作れという暗喩なのだろうか。導きなのか。おいらは鈍器スキーの一族なのだ。

 外装の中へ――エルフリーデに手渡して駆ける。


 外装を見ると空間拡張が何時もついてまわる。

 空間拡張だとミスティックポット辺りだけれど、ミスティックポットって結構レアなホロウなんだよね。出会えたらいいな。

 見回した後マップを確認。

 ホロって何処から来るのだろうと疑問に思うことがある。ホロウと違ってその辺から無機的に生まれてくるわけじゃない。

 遺跡の一部に生産装置があるか、遺跡の一部が内部世界の何処かへと繋がっているのか。

 惑星に層があるのかもしれない。この星の中心がもしかしたら裏返った別の世界なのかもしれない。

 中空を浮く魚の形をしたホロウの群れが視界に入って珍しいと……。

 浮遊系のトップスターを落とすことがあるこのホロウ自体がレアだ。

 トップスターを持つ個体がいるのも稀だから期待はできないけれど、個体の大きさから保有者はいないだろうな。

 駆ける――。


 魚型のホロウ。

 マグロみたいな大型からイワシみたいな小型まで種類は色々。魚類では無いけれどクジラみたいな超大型までいる。後はイカみたいな尖った殻を背負った軟体状のホロウもいる。なんだろう、絶滅した生き物を模しているような気がする。

 ホロウはどれも獰猛だけれど。

 魚の群れに突っ込む。ホロウの体を削り取っていく。

 ヒレなどが鋭利な刃物状で気を付けないと肌が切れる。ホロウとしての魚は強いので、むやみやたらに突っ込むと知らぬ間に切り傷が出来ていたなんてことはざらにある。

 実際今、通り過ぎると頬に違和感を覚え、触れると赤黒い液体が指に着いていた。頬が切れている。


 レベル9でも怪我をするのかという話。結論から言って、どれだけの補正、補整があっても人間を構成する物質が人間から逸脱していない限り、強度は普通の人と変わらない。

 おいらの体はまだ一応人間として構成されているし、おいらの体が人から逸脱した場合、その元になっている食物を摂取して補わなければいけなくなる。普通のご飯で賄えなくなるのなら構成は人であるべき。

 ただおいらの血液はヴェーダラの血液で、肌は傷ついても血液で食い止められる。肌は切れてもそこから先が傷つくのは稀。

 おいらの体を補強しているのはこの血液で、運動能力や強度を上げているのもこの血液だ。

 まだ人としての構成から免れていないけれど、ヴェーダラの血液によって人の強度や運動性能からは逸脱している。

 でもレベルが上がり頑強さは増して岩を殴って割ることができるようになったとしても、肌は傷つき皮は剥ける。あくまで血液が特別だ。

 母の設定では魔力とかそういう奇跡とか、設定だからと曖昧に濁されていた部分も、現実になるとしっかりと理由や要因が存在する。

 それでもおそらく人間が解明できない部分はあるのだろうけれど。


 自分の乗っているブラックドックが咥えていた玉を手に取り眺める。魚の元になった玉は真っ黒で、まるで黒曜石のよう。

 玉の大半は真っ黒で黒曜石状。

 大まかには魔玉(まぎょく)と呼ばれているけれど、黒玉(くろだま)とか魔玉(まがたま)と呼ぶのが一般的。おいらは魔玉(まがたま)派。トップスターじゃない魔玉(まぎょく)は黒玉(くろだま)と呼ぶのが世間一般的。マガタマは少数派。

 この真っ黒な魔玉(まがたま)から魔を分離すると回路用のインクができる。

 黒玉の値段は一律重量売り。精錬して魔を分離した宝石は石の種類によって値段が変わる。魔と玉を分離するのは教会の仕事。手数料を支払えば分離してくれるけれど、手間と手数料を考えたら普通の黒玉はそのまま売った方がいい。やり方さえわかれば個人でも分離はできる。おいらできるよ。

 ただこう黒いと宝石の種類を見分けるは割と難しい。だから売った後、精錬されてその宝玉の価値に気づくことも屡々ある。

 ソルトゴーレムとかも黒玉の状態でドロップするけれど、これは硬度の問題で分かりやすい。

 インクから回路を形成するのは難しい。やり方は塗布式と流動式。

 道具に溝を掘って溝にそって塗るようにインクを塗布するのが塗布式。

 管というのか密閉できる通り道を作りインクを注ぎこみ流動させるのが流動式。塗布式は摩耗が早いけれど修理が楽。流動式はものによってはかなり便利だし威力や速度も高い。でも一度壊れると修理するのが面倒。

 両方メリットデメリットがある。

 塗布は鍛造式と相性がいいし、流動は鋳造と相性が良い。


 回路は複雑で面倒。付与は勉強し知識として持っていて、神と契約しているのなら、個人でも十分にできる。

 まずは命令となる文字、模様があり、それを溝として掘る。掘り終えたらインクを塗布、流動させ、そこに魔力を通せば発動する。

 ルールはいくつかある。文字、模様は必ず循環させなければならない。三角形だったら、三角形の形に魔力がしっかり流動する形でなければならない。注入した魔力が三角形を描かなければ発動しない。魔力をインクの流れにそって流動させるよう設計しなければならない。

 一つの命令を線で繋いで発動させる。個別で発動させるのは難しく面倒で手間、よって回路は綴り文字……筆記体のように連立させる。一つの命令の形に魔力が浸透し、さらに回路続きで命令と命令を繋げなければならない。これが非常に面倒で、難解。

 そして最後に、回路が一周し、手元に魔力が戻ってくるようにもしなければならない。

 小さな複数の循環と大きな一つの循環で構築され、その流れがスムーズでなければならない。だから複雑な回路であるなら回路の途中で循環スピードを上げる回路や、流れが速すぎれば循環スピードを緩める回路も構築しないといけない。そこにさらにトップスターを通したり、魔力を手から回路に伝える魔玉をはめ込んだりする。

 流す魔力の量を調節し、一定の魔力を流し続けることで効果を持続させなければならない。


 おいらのコインガンは流動式。複数の部品からなり、その一つ一つに溝が彫ってある。組み立てたら透明で頑丈な特殊物質で回路を保護し、インクを注ぎ込み密閉することでコインガンとしての性能が確立されている。空気が入っているとまずまずまーずなので、かなり苦労はした。コインは塗布式だけど、コインを二つ製造し、表と裏に分け、両方に溝を掘ってインクを塗布し、溶接した。片方には必ず頑強になる、正確には頑強になるわけじゃないんだけど、頑強になる回路を敷いてインクを塗布してある。

 それでも衝撃が強ければ当然壊れる。直しやすい塗布式にしたのはそのため。

 打ち出して敵にぶつけるのが目的だし壊れるのは前提。なんで溶接したのかって、だって溶接しないと普通に回路が欠ける。流動式だとインクが漏れ出してコインがベトベトになるしね。

 薬学も錬金も付与も神の力を借りればそこまで考えなくていいけれど、人の手でやろうとすると労力とお金と時間をふんだんに搾り取られる。おいらは天才ってわけじゃないしね。


 薬学と錬金はチートを与えてくれる神様が決まっているけれど、付与だけは決まっていない。

 どの神様と契約しても付与だけは補助してくれる。

 ただやっぱり回路の形成の下地となる加工は錬金の分野になるし、インクの精製には薬学も関わって来る。マルズの恩恵は大きいし、マーレーンの恩恵も大きい。

 下地が整っていれば魔力の流れはスムーズになるし、インクの精度が高ければ、魔力の浸透率だって高くなる。

 おいらもヴェーダラの恩恵があるので作った付与物に関しては軒並み出来が良い。素人にしてはだけれど。あとは自分で時間をかけ、錬金と薬学で熟練させていくしかない。


 ちなみに付与はエリシュの女神と共に生まれた。

 エリシュの女神は神様で間違えない。

 エリシュの女神が魔獣を作った時、付与も生まれた。魔獣をどうしようかと悩んでいる人間を見かねた他の神様が、では魔獣を利用して魔獣を効率よく倒しましょうと付与術を人間に与えた。

 エリシュの女神は大地の女神、でもすべての人間が大地に害をなしていたわけじゃない。

 ただ玉を得て愛でるだけであったならば女神は怒らなかっただろう。

 玉の価値は金の価値じゃない。玉の価値は大地と歴史の価値だ。

 と言えればかっこいいけれど、やっぱお金だよね。


 付与は回路文字に書かれた神様との約束。

 この回路を組んだ時、この現象を私達が起こしますよと人間に与えられた約束だ。約束というよりは律なのかもしれない。神様達が世界の仕組みとして作り上げた律だ。

 だから同じ三角形を書いたとしても契約している神様によって効果は異なってしまう。

 同じ付与師でも契約している神様が違えば付与の形は違うということ。

 だから付与はほっといても名が付く。

 おいらの付与もヴェーダラ様との約束で成り立っている。

 付与は魔力を通せるのであれば、つまり契約しているのであれば、誰にでも発動させることができる。だから通常はロックをかけて、所有者以外に発動できなくしたり、上位のものなら機能に制限をかけたりもする。

 物によってはトップスターや魔玉を入れて、高位の付与を低位の魔力で発動できるようにしたものもある。

 どっちもメリットデメリットはある。

 大抵の場合、所有の付与がかけられていて、持ち主以外には使えないようになっている。

 でもこれも高位の付与師が弄れば解除できるし、つまるところ絶対はない。

 付与は作り手による。使用者の契約している神様が、作り手の神様と異なっていても作り手の効果が発動する。これは最大のメリットだ。

 回路は複雑になればなるほど循環させる魔力量も多くなり、レベルによっては扱えない。

 おいらのコインガンはレベル7相当、コインはレベル5相当。

 回路を循環させる魔力量で制限をかけている。

 正直言ってコインガンは趣味の領域だ。

 マルズやマーレーンと契約した者が作った杖の方が遥かに扱いやすくて威力もある。

 ていうかそっちが主流だしね。

 本来なら扱えない契約外の魔術を付与は道具として可能にしてくれる。これはガチで便利。

 でも国としては付与の扱いに困りもの。強力な兵器だから。だからと言って簡単に取り締まれる物でもなく、管理できるものでもない。教会と連携し、神様にも街中での使用制限を設けるようお願いもした。しかし銃は用意してあげるけれど、引き金は引くのか、引かないのかは自分たちで決めなさいと突っ返されてしまった。

 国は仕方なく付与物を許可なく使用した者を厳しく罰する法律を作った。

 電気や化学、科学の発展は著しく遅い……。

 冷蔵庫なども無く、アイスバイソンなどの生物が利用されている。

 だからおいらは付与に利便性を見出している。

 所謂火をおこしたり、お湯を沸かしたりするのを付与物で代用できないだろうかと考えている。

 魔力は真っ当に生きる者なら誰でも神様より与えられる。つまり限られた力じゃない、万民のものだ。お金稼ぎの方法として念頭に入れてはいたけれど、如何せんおいらはヴェーダラ様の信奉者。残念ながら火を起こす付与式すら書き込めないのが現状だ。あとマルズ嫌いだしね。マルズ嫌い。嫌い嫌い。


 おいらができないのならば変わりの者を探せばいいと思ったこともある。

 エルフリーデとして孤児の面倒なども見ていたけれど……でもおいらには彼らの未来を勝手に変えることはできなかった。

 自分が何の神に信奉するかは自分たちで決めてほしいし決めるものだ。

 運命の相手なんかいない。いないよ。

 自分でいい人を見つけて、愛されるよう努力するしかない。

 ゲームだってそうでしょう。自分の気に入った姿、性格の人を見つけてアプローチする。現実はゲームではないからゲームほどうまくは行かないけれど、現実でだって自分の気になった人に必死にアピールするしか愛される方法などない。

 マーレーンはいいけどおいらマルズは嫌いだ。

 なんと言われようとマルズは嫌いなのだ。

 すごい妬んでいる。すごい妬んでいるのだ。妬ましいものは妬ましいのだ。


 せっかく地獄の入り口を見つけたのだから、地獄の釜で腕輪とか首輪をつくって、それに魅了とか制御とか誓約とかつけようかな。

 なんか楽しくなってきた。

 他の国に行こうかとも思ったけれど、国を離れたら女神のテコ入れが入りそうで嫌だなー。

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